【番組紹介】 NHK・BS2003年4月6日再放送
世紀を刻んだ歌 Where have all the flowers gone
『花はどこへいった〜静かなる祈りの反戦歌』
イラク侵略の真っ只中で再放送される
元々2000年12月5日に放送された「世紀を刻んだ歌」シリーズの中のこの歌が、今年4月6日に再放送されたもの。激しい空爆と地上戦、バグダッド陥落を4月9日に控えたその直前、アメリカがイラクを侵略している真っ最中に放送された。それだけでこの歌の“生命力”を感じることができる。
この歌『花はどこへ行った』はアメリカのフォーク・シンガー、ピート・シーガーの代表作として知られる。
「花はどこへ行った 少女が摘んだ」と歌う1番に始まって、「少女はどこへ行った 男たちのもとへ嫁いでいった」、「男たちはどこへ行った 兵士となって戦場へ行った」、「兵士はどこへ行った 死んで墓に入った」、「墓はどこへ行った 花で覆われた」と続いて1番に戻る、見事な構成の歌詞になっている。この構成自体が、いつまでも戦争を繰り返すことの愚かさを訴え、そして「いつになったら気づくのか?」と問いかける。
この番組は、この歌にまつわるさまざまなエピソードを紹介し、その中にはあまり知られていないこともあり、興味深かった。
元々はベトナム反戦歌ではなかった
『花はどこへ行った』は、ベトナム反戦運動の中で広く歌われ、「世界一有名な反戦歌」とも言われる。しかし、シーガーがこの歌を作ったのは1955年、広く歌われるようになるのはそれから7年も後のことである。では、それ以前にはこの歌はどのように歌われ、なぜベトナム反戦運動と結びついたのだろうか?
この歌を62年に最初に大ヒットさせたキングストン・トリオのジョン・スチュアートは、「ベトナムのことなど考えず、美しい人生の歌として歌っていた」と語る。また、反戦運動の中でこの歌を積極的に歌った、ピーター,ポール&マリーのマリー・トラヴァースでさえ、「戦争に反対するべきとは思っていたが、リアルな戦争の実感はなかった。戦争が始まった時には分からなかった、何が犠牲になるのかを‥‥」と語っている。
「テト攻勢」で一躍ベトナム反戦歌に
転機は、ベトナム戦争における、68年の「テト攻勢」だった。アメリカにとって戦争が泥沼化する中で、戦場がいかに悲惨なものかを伝える報道写真などによって、アメリカの世論は劇的に反戦に転じた。さらに、68年3月、ケサン海軍基地で兵士たちが『花はどこへ行った』を歌う様子が放映され、この歌とベトナム戦争との結びつきは決定的になった。戦争の実相がアメリカ国内に広く知られるようになって初めて、反戦運動が高揚し、『花はどこへ行った』はそのテーマソングとなっていったのだった。
マレーネ・デートリッヒと『花はどこへ行った』
『花はどこへ行った』を初めて外国語で歌ったのは、女優マレーネ・ディートリッヒである。ナチスに反発し、ドイツを捨てアメリカへ移った彼女は、第2次大戦中、ナチス・ドイツと戦う連合軍兵士を慰問し、ドイツでは「裏切り者」呼ばわりされた。戦後ドイツに帰国した際にも、激しい反対デモに迎えられた。彼女は、「最も好きな歌」として『花はどこへ行った』を歌い続けたが、とりわけこの歌をドイツ語で歌ったことが、ドイツ人への挑発と受け取られ、非難の的となった。しかし、彼女にとっては、ドイツ語で歌うことにこそ、重要な意味があったのである。ナチスに支配され、戦後2つに引き裂かれた祖国の運命、そして祖国を失った自分自身の悲しみを、この歌に投影したのだった。マレーネの歌う『花はどこへ行った』は、静かに悲しみをたたえるようでいて、しかし力強い。
民衆の歌を追い求めるピート・シーガー
番組では、2000年夏にワシントンで行われた「イラク経済制裁反対集会」で歌うシーガーの姿が紹介される。この年81歳。さすがに若かかりし頃のような、聴衆を巻き込み、鼓舞するような歌い方ではなかったが、老いてなお、節を曲げずに活動を続ける元気な姿には感銘を受ける。
戦争をはじめ社会の様々な問題をフォークソングに乗せて、数多くのヒットを生みだしたシーガーは、55年、マッカーシズムが吹き荒れる中、「非米活動調査委員会」に喚問される。彼は、「私たちのレコードがヒットしたので、娯楽産業を牛耳っていた人々は驚いた。共産主義者がヒットを飛ばすことを恐れて排除しようとしたんだ」と述懐する。音楽活動ができない状況に追い込まれ、絶望の淵に立たされたまさにその年、『花はどこへ行った』が生み出された。
源流にはあのショーロホフの『静かなるドン』が−−不思議なつながり
その頃、シーガーは、ショーロホフの小説『静かなるドン』を読んだ。その中にコサックの子守歌が引用されていた。
あしの葉はどこへいった?
少女たちが刈り取った
少女たちはどこへいった?
少女たちは嫁いでいった
どんな男に嫁いでいった?
ドン川のコサックに
そのコサックたちはどこへいった?
戦争へいった
シーガーは、この歌にヒントを得て、『花はどこへ行った』を「飛行機の中で20分ほどで作った」。しかし、この時作られたのは3番までの歌詞だけであった。その後、ジョー・ヒッカーソンが、「短かすぎて盛り上がらないので」4番、5番を付け加えた。こうして、5番から1番に戻るユニークな歌詞が完成した。子守歌が歌われ、それが小説に引用され、そこから歌詞とメロディが作られ、別の人がさらに歌詞を加える。そういう共同作業の末に作られた歌なのだった。シーガーは言う。「将来、こんな風に世界ができていくと思う。多くの人が自分たちにできる何かを、少しずつ加えて形になって行く」。それは、彼が思い描く理想の世界なのだろう。
人間は戦争という愚かな行為を繰り返すのか
ショーロホフがコサックの子守歌を『静かなるドン』に引用した理由について、ショーロホフの娘は「この歌は、あしの葉から少女、少女からコサック、コサックから戦争につながる。戦争は戦場にだけあるのではなく、全ての人に関わるものだということを、父は伝えたかったのではないか」と推測する。シーガーはショーロホフに手紙を書き、『花はどこへ行った』の楽譜を送っていた。シーガーのモスクワ公演の際に、2人は会うことを望んだが、ショーロホフの病のためにかなわなかった。結局、この歌を聴くことなくショーロホフは世を去った。
番組は最後に、戦争を繰り返す愚かさを歌うこの歌が消え去るのはいつか、と問いかける。それに対する人々の答えは様々だ。「なくなる日は来ない」と答える人もいる。が、P.P.M.のマリーは、こう答える。「1つ可能性はあります。みんなが希望を込めて歌えば、いつか過ぎ去った過去の遺物になってゆくでしょう」。
【作詞・作曲】 ピート・シーガー
【訳詞】 阪大ニグロ
Where have all the flowers gone?
Long time passing.
Where have all the flowers gone?
Long time ago.
Where have all the flowers gone?
The girls have picked them ev'ry one.
Oh, when will you ever learn?
Oh, when will you ever learn?
Where have all the young girls gone?
Long time passing.
Where have all the young girls gone?
Long time ago.
Where have all the young girls gone?
They've taken husbands, every one.
Oh, when will you ever learn?
Oh, when will you ever learn?
Where have all the young men gone?
Long time passing.
Where have all the young men gone?
Long time ago.
Where have all the young men gone?
They're all in uniform.
Oh, when will you ever learn?
Oh, when will you ever learn?
Where have all the soldiers gone?
Long time passing.
Where have all the soldiers gone?
Long time ago.
Where have all the soldiers gone?
They've gone to graveyards, every one.
Oh, when will they ever learn?
Oh, when will they ever learn?
Where have all the graveyards gone?
Long time passing.
Where have all the graveyards gone?
Long time ago.
Where have all the graveyards gone?
They're covered with flowers, every one.
Oh, when will they ever learn?
Oh, when will they ever learn?
Where have all the flowers gone?
Long time passing.
Where have all the flowers gone?
Long time ago.
Where have all the flowers gone?
Young girls picked them, every one.
Oh, when will they ever learn?
Oh, when will they ever learn?
どこへ行った 野に咲く花は
どこへ行った あの花は
どこへ行った 娘たちが摘んだ
いつになったら わかるのだろう
どこへ行った あの娘たち
どこへ行った 娘たち
どこへ行った 若者たちのもとへ
いつになったら わかるのだろう
どこへ行った 若者たちは
どこへ行った あの若者
どこへ行った 戦争に行った
いつになったら わかるのだろう
どこへ行った あの兵士たち
どこへ行った 兵士たち
どこへ行った あの墓の下に
いつになったら わかるのだろう
どこへ行った 兵士たちの墓は
どこへ行った あの墓は
どこへ行った 野辺の花になった
いつになったら わかるのだろう
どこへ行った 野に咲く花は
どこへ行った あの花は
どこへ行った 娘たちが摘んだ
いつになったら わかるのだろう
2003年6月3日
大阪 ウナイ