【映画紹介】
“Little Birds −イラク戦火の家族たち−”


 「Little Birds −イラク戦火の家族たち−」は、ジャーナリストの綿井健陽氏が2003年3月(開戦の10日前)から2004年7月までにイラクで取りためた映像を、1時間42分に編集したものである。ナレーションも音楽も一切なく、現場で撮影された映像と音声の他は、最小限のテロップだけで構成されている。この映画は、日本では実感を持って感じることができないイラクの現実を我々に突きつけるものであり、同時に、それを報道しない日本のマスコミへの痛烈な批判になっている。ぜひ見てほしい映画だ。

 これまでに写真などである程度見ていても、動く映像の力は圧倒的だ。私は少なからずイラク反戦運動に関わってきたが、頭で想像してきただけではつかみきれない映像が次から次へと目に飛び込んでくる。
 例えば、米軍の爆撃によって重傷を負った人々−−ろくに医療器具もなさそうな病院のベッドに寝かされ、泣き叫ぶ。「これが大量破壊兵器に見えるか?!」と怒りに震えるイラク人が見せる多数の遺体の周りには、ハエがぶんぶん飛び回っているのが分かる。
 また、子供たちが屈託のない笑顔で走り回る姿は、本当にかわいい。それだけに、手足を失ったり目を傷つけられたりしてベッドで泣き叫ぶ姿との対照が、いっそう鮮明だ。

 バグダッドを制圧して市内に入ってきた米兵に綿井氏がマイクを向ける。「今、どんな気分?」。「最高だ」と答える米兵の表情には、しかし明らかに戸惑いが浮かぶ。「歓呼した市民による歓迎」が全くないのだ。「戦車なんかに乗って、臆病者! 何人子供を殺したの?!」という「人間の盾」の女性の叫びだけが響く。

 サマワの自衛隊の様子も映される。その中にとても印象的な場面がある。宿営地の食事が日本の報道陣に公開される。それを隊員が食べてみせるパフォーマンス。カメラマンが言う。「カメラ目線で‥‥」−−自らが支援する米英軍が殺戮者、破壊者となって暴れ回っているのに何たる脳天気!! それまで、イラク人の苦しみをさんざん見せられてきただけに、失笑というよりも、激しい憤りを感じる。そして、そんな異常な状況を自衛隊の広報の言われるままに、そのまま「報道」する翼賛化した日本のマスコミの異常な姿勢。堕落したマスコミを雄弁に語るシーンだ。

 ラスト近く、クラスター爆弾によって右目を傷つけられた少女がきっぱりと言う。「私たちを人間として見て欲しい。私たちはアメリカに何も求めていません」という言葉からは、米軍に蹂躙されるイラク人の怒りと誇りが感じられる。

 綿井氏がイラクで撮った映像のうち、TVで紹介されたのはほんの一部にすぎない。そして、この映画すら、イラクの現実のほんの一部でしかない。それでも、イラク戦争を支持し、自衛隊を派遣したこの国に住む者はすべて、少なくともこの映画に映し出される現実を、目に焼き付け、その上で自分の取るべき立場を考える責任がある。

 5月21日、映画上映後、綿井監督とジャーナリストの大谷昭宏氏とのトークショーと質疑応答でも、興味深い話が聞けた。
 イラク人の対日感情について、日本製品やヒロシマ・ナガサキの知識などを通じて、以前は非常に親日的だったが、戦争が始まってからは、「なぜ日本はアメリカの味方をするのか」という疑問になった。さらに自衛隊派兵後は、疑問からあからさまな非難へと変わった。自衛隊を海外派兵することは、世界中に敵を作ることになるということだ。

 現在、イラク入りして取材することは非常に難しくなっているという。理由の1つは昨年8月からイラク入りにビザが義務づけられ、入国が非常に難しくなっていること。もう1つはたとえ入国しても、現地の人の協力を得ることが難しくなっていること。それは、「日本人はアメリカの味方」という見方が強くなり、協力者が危険にさらされるからである。

 綿井氏は、スンニ派とシーア派の「宗派対立」については、元々一般のイラク人の間ではそんな対立はなかった、と断言された。宗派の異なる人同士の結婚も普通にあった。「スンニ派か、シーア派か?」などと聞くと怒られた。「何でそんな区別をするんだ」と。現在の「宗派対立」は、「それをあおって得をする者が、外から持ち込んだものだ」ということを。

 開戦から2年以上が過ぎた。「議会選挙」「移行政府」など、米占領軍の傀儡たちの権力ゲームが、イラク民衆から全く乖離したところで、また実際の民衆の生活とは無関係のところで繰り広げられ、長引く米軍支配の故に、まさに綿井氏が指摘するこれまであり得なかった宗派間の「内戦」の懸念さえ出始めている。

 イラクの民衆、イラクの子どもたちの未来のためには、米英占領軍、並びに自衛隊の撤退しかない。こう、改めて強く感じずにはおれない。



上映の予定は、下記の通り
渋谷・アップリンクファクトリー (5月28日〜) http://www.uplink.co.jp/factory/
大阪・シネ・ヌーヴォ (6月4日〜) http://terra.zone.ne.jp/cinenouveau/
名古屋・シネマテーク (6月4日〜) http://cineaste.jp/
広島・横川シネマ (7月中) http://ww41.tiki.ne.jp/%7Ecinema-st/top.html
ほか、北海道から沖縄まで全国各地の劇場で順次ロードショーの予定。

詳しくは「Little Birds」のサイト(http://www.littlebirds.net/)で。
      
2005/05/23 Y.O