歌で闘いに希望とエネルギーを与えてくれる2人
寿[kotobuki]



 12月22日、「改悪教育基本法の実働化をとめよう12・22全国集会」のオープニングを、「寿[kotobuki]」の演奏が飾った。
 寿は、広島出身でボーカルのナビィと、沖縄出身でギター/三線のナーグシクヨシミツのユニット。85年結成だから、随分と息の長いバンドである。初期にはメンバーの入れ替わりがあったが、88年からはナビィとヨシミツの2人が中心となった。
 今年2月には辺野古でのピースミュージックフェスタ、8月には「ガテン系連帯」の招きで日野自動車本社前、12月には沖縄戦教科書検定意見の撤回を求める文部科学省前行動、レイバーフェスタ、そして今回の12.22集会と、様々な大衆運動の場で歌う機会が多くなっている。
 彼らがそういう場に招かれ、歌うことが多くなったのは、95年沖縄での少女暴行事件がきっかけだという。「満月祭り」には、99年の第1回から参加している。
 ピースボートにも度々乗船し、中国、ベトナム、フィリピン、モルジブ、ケニア、チリの他、04年にはヨルダンのパレスチナ難民キャンプでも歌っている。

とにかく元気!
 そのステージは、とにかく元気で、明るく、前向きだ。ナビィはものすごいテンションでしゃべり、歌い、踊る。最初から最後まで笑いが絶えない。
 そうした個性を象徴する歌の一つが『前を向いて歩こう』だ。

  前を向いて歩こう 涙がこぼれてもいいじゃないか
  泣きながら歩く ひとりぼっちじゃなかった夜
  幸せは空の上にはないよ
  幸せは胸の中に 肝(チム)の奥に

 ご存じ『上を向いて歩こう』の替え歌だ。だが、単純に歌詞を替えただけではなく、アレンジがすばらしい。「ダ、ダ、ダ、ダダ」というリズムがノリやすく、とても元気が出る。元歌は誰でも知っているから、どこでも会場一体となって盛り上がる。

寿の歌を貫くもの
 寿のレパートリーは、約半分がオリジナル、残り半分が沖縄・八重山の民謡といったところ。ナビィは沖縄出身ではないが、民謡を歌う時は、言葉を覚えるだけでなく、その歌の背景や歴史について学ぶなど、かなりの労力をかけて、自分のものとしているようである。
 彼らの歌う歌詞を読んでみると、一つの貫くテーマが浮かび上がってくる。それは、同じ時代を生きる人と人とのつながり、そして歴史を経て受け継がれていく命のつながりだ。

  五十年が流れたこの島で
  生き抜いた人たちの月日は流れて
  満天の星の下ちっぽけな僕は
  この島の思いをただ継いでゆくだけ……
          (『継いでゆくもの』)

  海と私がつながっているように
  空と私がつながっているように
  あなたと私の道もつながっているように
  心のつながる人と出会えますように
          (『我ったーネット』)

 この「人と命のつながり」というモチーフそれ自体は、特に目新しいものではない。毎回のライブで歌う定番曲である『我ったーネット』に至っては、歌詞もメロディーもいたってシンプル。
 しかし、ナビィの、パワフルでよく伸びる声に乗せられる時、そうした思いは直接聴く者の胸に響く。傷ついたり困難にぶち当たったりしている人でも、この歌を聴けば、その心には光が差すだろう。
 直接的な政治的メッセージはあまりないにもかかわらず、集会などに呼ばれる機会が多くなっているのは、こうしたところに理由があるのだろうと思う。政府や資本を相手とする様々な運動は、勝つことよりも負けることの方が圧倒的に多い。寿の歌は、そうした中でも希望とエネルギーを持ち続けさせてくれる力となる。運動のヨコの広がりと、時間的なタテの継続性を、確信させてくれる。
 「元気」、「明るい」、「楽しい」というのは、実はとても貴重なことなのだ。

寿町フリーコンサート
 寿について語る時、「寿町フリーコンサート」に触れない訳にはいかない。
 寿町は、大阪の釜ヶ崎、東京の山谷と並んで「三大ドヤ街」と呼ばれる、横浜の日雇い労働者の町。寿町フリーコンサートは、この町の祭りとして79年に始まった。出演者は基本的にノーギャラで、地元の労働者とコンサートを見に来た若者たちが肩を組んで盛り上がることで知られる。
 寿は、95年の第17回に初めて出て以来、ほぼ毎年出演し続けている。この濃密な町の祭りでの演奏を繰り返す中で、観客からのエネルギーを受け取り、バンドとしての力をつけていった。まさに、寿町に育てられたと言える。
 筆者は、今年の夏、このコンサートを初めて観ることができた。寿は、普段の2人に、ベース、キーボード、ドラム、コーラスが加わって総勢8人編成のバンドで登場。そのステージは、すばらしかったの一言に尽きる。
 何よりも、寿町で歌うことが大好きというナビィの気持ちが、あふれ出ていた。「寿町のこのステージから見る空が好き」と言って、見上げながら歌った『アメイジング・グレイス』。その他の歌でも、飛び上がったり、しゃがみ込んでステージ下に手を伸ばしたりと、激しく動く全ての所作に、その気持ちが表れていた。そして寿町の人たちもまた、ナビィと寿を愛していた。
 「感動」するライブは多いけれど、「感激」するライブはそう多くない。この日はまさにそれであった。

 来年は、寿の演奏を、ナビィの歌を、もっといろんな場所で聴きたい。そういう機会がもっと増えるだろうと期待している。

お薦めのCD
『継いでゆくもの』(98年)
 沖縄・八重山民謡とオリジナル曲が、ほぼ交互に配置される。後者では、沖縄というよりもアフリカの大地を思わせる雄大な曲想が展開され、ナビィの歌の魅力を存分に引き出している。ライブでは、楽器の制限もありこういう演奏はあまり聴けないので、それが逆に残念に思えてしまうほど。「元気で明るいけれど、単調」という、それまで寿に対して抱いていたイメージを、劇的に覆してくれた一枚。

寿[kotobuki]公式サイト http://www.kotobuki-nn.com/

2007.12.  (O)