[書籍紹介]『イラク米軍脱走兵、真実の告発』

(ジョシュア・キー著 合同出版))


 この本は、イラクから一時帰国したときに軍を脱走してカナダに逃れているジョシュア・キーという帰還兵の手記です。派遣期間は2003年4月から2003年11月まで、彼は、イラク戦争初期の勝利宣言から、瞬く間に泥沼化していく過程を目の当たりにすることになります。ラマディ、アル・カイム、ファルージャなど重要な地域に派遣されます。11歳で銃の使い方を知ってぶっ放し、継父による暴力の心的身体的影響で母親はほとんどベッドから起き上がれないというような不幸な家庭環境で少年時代を送り、家族の生活と健康保険のために入隊、リクルーターに軍に戦場にはいかなくてもよいとだまされ、軍に入るや「おまえたちはだまされたのだ」と上官に公然とののしられ、イラクに派遣されるという、おそらく底辺の若者が戦場に駆り立てられる典型的な米兵のストーリーを一人の半生で経験しているものです。彼は、イラク現地では罪もない人たちを家宅捜索で締め上げ、金品を巻き上げ、罪のない人たちが米軍に殺されたり、殺したイラク人の頭で同僚がサッカーをしているのを目撃し、単に破壊と殺戮のために米軍が来ているのだと悟り、「イラク戦争は正義の戦争ではない、イラク人がアメリカを憎むようになるのは当然だ」とついに脱走を決意するのです。

 彼は掃討作戦が、テロ容疑者を拘束するというよりも、人々に恐怖を与え破壊しつくすことが目的であることを理解します。拘束した少年や男たちがどこに連れて行かれるのかが疑問であったが、帰国後にアブグレイブが発覚して納得したこと、ドル札や貴金属を略奪して米本土の妻や恋人に送るのが日常化していたことなど、経験した本人でなければ書けないことが随所にあります。また、パトロールでイラク人を殺害したら、その遺体は作戦を行った部隊が基地に持ち帰る規則になっており、引き取り手(遺族)が来るまで待っていなければならないなど、この本を読むまで知らなかったことも多々ありました。彼にとっては、引き取り手が来たとき「このけだもの」「わたしの愛する人をなぜ殺したの?」などと罵声を浴びせられることがなによりもつらかったのです。

 著者は帰還して、夜になると悪夢にうなされ、少女が殺される場面がよみがえったり、敵に攻撃されるという幻覚に襲われスーパーのレジにさえ並ぶことができないなどのPTSDの症状に悩まされます。また、それほど紙面は割かれませんが、脱走兵という立場がいかに過酷かということも伝わります。特にIDナンバーと社会保障番号による監視システムに対して、これをかいくぐって脱走を実現するのは並大抵のことではないことがわかります。

 映画「アメリカばんざい」の紹介でも書かれていましたが、4000人を超える米兵の死者を出し、それと同数かそれ以上の自殺者を出し、心と体をむしばまれた帰還兵を日々生み出しているイラク戦争が、アメリカ社会に与えている影響は、計り知れないと思います。

 本の帯には、以下の言葉が引用されています。
 「ぼくはアメリカ軍から脱走したことについて、絶対に謝罪しようとは思わない。僕は不正義から脱走したのであり、それは進むべき正しい道だった。謝罪すべきことがあれば、ただひとつ、それはイラクの人々に対する謝罪しかない・・・・」(ジョシュア・キー)

2008年9月1日 N