番組紹介
そして音楽が始まる 『風に吹かれて』〜ボブ・ディラン
どれだけ弾丸が飛んだら闘いは終わるのだろう
どれだけ人が死んだらもうたくさんだと分かるのだろう
どれだけ人は見て見ぬ振りをして顔を背けることができるのだろう |
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昨年12月テレビ東京「そして音楽が始まる」シリーズで、ボブ・ディランの有名な作品「風に吹かれて」が紹介された。番組は、30分の短いものながら、この曲の元歌にまでさかのぼる興味深いものだったので、ここに紹介する。アフガン戦争やイラク戦争の中で、この曲の意味はますます大きくなっているのではないだろうか。
時代が生み出した強いメッセージ
当時20歳のボブ・ディランが、1962年4月に作曲し、彼の代表作の1つとなったこの曲は、翌63年、ピーター,ポール&マリー(P.P.M.)が歌い全米2位の大ヒットとなった。そして、今に至る40年間に渡って歌い継がれている。
この曲の第一の魅力は、何といってもその詞にあるだろう。様々な疑問を問いかけながら、答えは歌われない。人々はその詞に、当時のアメリカの社会や体制への怒りを読みとった。世の中を変えたいと願う人々の間で抗議の歌、プロテスト・ソングとして歌われるようになり、ベトナム反戦運動や公民権運動の中で、必ず歌われる歌となった。
P.P.M.のメンバー、ポール・ストゥーキーは言う。「60年代は、ベトナム戦争や公民権運動で社会全体が緊張していた時代だった。この歌の歌詞をかみしめるように、自分のことのように歌っていたよ」。「40年前は皆が一つになって行動すれば、世の中を変えられると思っていたんだ。そんな時、タイミングよく『風に吹かれて』が出てきたんだよ。初めてこの歌を聴いたときは、『平和を望んでいるのか?』『俺についてくるか?』と、問いかけられているような気がした」。
一方ディランは、「何かに対する怒りから歌を生み出すのか?」という問いに、こう答えている。「怒ってはいない。俺は全てを受け入れる。全てが現実に存在するから」。さらに「僕はプロテスト・ソングなど書いてはいない」とも言った。この歌はディランの意図を超えて一人歩きしてしまったようにも見える。
実は本歌があった。黒人奴隷の解放歌「競売はもうたくさんだ」。
この番組では、『風に吹かれて』誕生の裏話を紹介している。この歌には、ベースとなった歌があったのである。
わたしを競売台に立たせないでおくれ
もういい もうたくさんだ
わたしを競売台に立たせないでおくれ
おびただしい数の人が売られていった
親方の鞭はもうたくさんだ
わたしに降り降ろさないでおくれ
親方の鞭はもうたくさんだ
数えきれない人たちが犠牲になった
この『No More Auction Block(競売はたくさんだ)』という歌は、黒人奴隷の悲しみと自由への願いを歌っている。黒人女性ボーカリストが歌うこの歌に、ディランは、強い印象を受けたのだろう。彼自身がこの歌を歌った録音も残されている。そして、『風に吹かれて』の前半部分のメロディは、この曲から採られた。
当時ディランとフォーク・グループ「ニュー・ワールド・シンガーズ」を結成して演奏活動をしていたハッピー・トラウムとボブ・コーエンは言う。「ボブ・ディランはこの曲に凄く影響を受けたんだと思うよ。僕らが演奏した『No
More Auction Block』という歌が出来たのは、1865年。奴隷が解放された年で、かつて奴隷だった人たちが、自由を歌った曲なんだ。彼はこの曲をベースにしたんだ。この曲を歌っていたのは、黒人女性ボーカリストだったから、凄く強い印象とメッセージを観客は受けたんじゃないかな。グリニッチ・ビレッジで毎晩のように歌っていたし、ボブ・ディランも毎晩のようにステージを見に来ていたから、何度もこの曲を聴いていたと思うよ。フォークソングでは、他の曲のメロディーをベースにして、曲を作ることがよくある。曲があって、そこに自分の歌詞をのせていくんだ。」
また、『風に吹かれて』の誕生には、当時の恋人、スーズ・ロトロの存在も大きかったようだ。この歌が納められたアルバム『The
Freewheelin' Bob Dylan』 のジャケット写真でディランに身を寄せている彼女は、イタリア系アメリカ人であり、CORE(人種平等会議)に書記として所属し、黒人の生活の現状などをディランに話して聞かせていた。ディランは、スーズとともに政治集会に参加し、友人たちとも毎日のように政治への憤りを語り合う日々を過ごした。戦争について。有色人種への差別について。しかし、答えは見つからない。『風に吹かれて』は、こうしたディランの日常そのものから生まれたのである。
イラク戦争、アフガニスタン戦争でも同じ問いかけが。
あえて「プロテスト・ソング」と呼ぼうと呼ぶまいと、こうした環境にあったディランによって生み出されたこの歌が、社会運動の中で歌われ続けてきたのは自然なことである。たとえすぐに答えが見つからなくとも、納得できないことには疑問を持ち、不正には憤り、それにぶつかり、苦悩し、しかし希望を失わず、答えを求め続けること。そうした普遍的なメッセージを、この歌からは読みとることができる。40年間歌い継がれてきた、この歌の生命力がそこにある。
『風に吹かれて』をカバーしたスティービー・ワンダーはこう語っている。「60年代のベトナム戦争。70年代のウォーターゲート事件。80年代の反アパルトヘイト。90年代の湾岸戦争。この歌が歌われ続けることの背景にあるものが、僕には悲しい」。
私たちは、これに「2000年代のアフガニスタン戦争とイラク戦争」を付け加えなければならなくなった。
どれだけ弾丸が飛んだら闘いは終わるのだろう
どれだけ人が死んだらもうたくさんだと分かるのだろう
どれだけ人は見て見ぬ振りをして顔を背けることができるのだろう
人類がこの問いに答えられるのは、いつの日のことだろうか?
※この番組は、テレビ東京系(大阪ではテレビ大阪)で2002年12月29日に放送された。下記のサイトをクリックすれば、過去の放送分の一覧が出てくる。「風に吹かれて−ボブ・ディラン」を選べば、番組の簡単な説明を読むことができる。
http://www.tv-tokyo.co.jp/ongaku/back.html
※なお「The Freewheelin' Bob Dylan」は輸入盤だが今も購入することができる。ソニーミュージックエンターテイメント SRCS9240
(大阪 ウナイ)
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