“Cuban Five”:「対テロ戦争」の欺瞞を暴く――逆にテロ防止活動をしたキューバ人を8年も不当に投獄――
カストロ首相とキューバに対する亡命キューバ人組織によるテロを利用してきた米政権、その首謀者をかくまう
「キューバン・ファイブ」「ルイス・ポサダ」という言葉をご存じだろうか。欧米の反戦平和運動の中ではほとんど周知になっているこの言葉が、日本ではほとんど皆無と言っていいほど知られていない。私たちはこれまで、ブッシュによる対イラク戦争の無法性と犯罪性を批判してきたが、今回は、この知られていない事件について、簡単に紹介することとしたい。
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1976年10月6日、キューバ航空の旅客機が爆破され、73人の乗客・乗員が死亡した。その首謀者であり、数多くの反キューバ・テロ犯罪に関わったルイス・ポサダ・カリレスが、フロリダ州マイアミに安住の地を手に入れようとしている。
その一方で、テロ活動を防止しようと情報収集を行なったことで、米国の国家安全保障を脅かすスパイ活動を行なっていたという「罪」に問われ、8年以上にわたって投獄され続けている5人のキューバ人がいる。
ルイス・ポサダ・カリレスは、キューバ航空機爆破事件の容疑者の一人として逮捕されたが、そのときは証拠不十分として釈放された。彼は、米国フロリダ州マイアミに本拠を置く反キューバ組織と深いつながりがあり、そこから資金援助を受けて活動していた。70年代にはベネズエラ諜報局の高官であり、このキューバ航空機爆破もベネズエラから指揮していたとされる。機密指定が解除されたCIAとFBIの公文書では、ポサダが実行犯の一員であるとはっきり述べられている。キューバ航空機爆破事件の少し前に起きた事件、チリ・アジェンデ政権の下で活躍した外交官の爆殺事件にもかかわった疑いがある。1997年のハバナでの連続爆破事件は、フロリダの反キューバ組織から資金援助を受けて行なったと、ニューヨーク・タイムズのインタビューで自ら語った。
ポサダは、2000年にパナマ訪問中のカストロ・キューバ首相暗殺計画が発覚して逮捕され、8年の刑でパナマで服役していたが、2004年9月、米国に支持されたマイアミの亡命キューバ人組織などの圧力で恩赦によって釈放された。中米での逃亡生活の末、2005年3月に米国に亡命しようと不法入国し、5月にマイアミで拘束された。キューバ政府とベネズエラ政府は、ポサダの身柄をベネズエラに引渡すことを米国に対して要求している。ベネズエラは、1976年のキューバ航空機爆破事件の容疑で、キューバは1997年のハバナでの連続ホテル爆破事件の容疑で、ポサダを指名手配しているからである。しかし、彼は、フロリダ州マイアミで大きな顔をしてテレビに登場して「手柄話」をすることができる。米国当局は、彼の政治亡命を認め、あらゆる告発から彼を護ろうとしている。
※(CIA、FBI文書)LUIS POSADA CARRILES/THE DECLASSIFIED RECORD/CIA and FBI Documents Detail Career in International Terrorism; Connection to U.S.
http://www.gwu.edu/~nsarchiv/NSAEBB/NSAEBB153/
※(ニューヨーク・タイムズ記事)Key Cuba Foe Claims Exiles' Backing
http://www.nytimes.com/library/world/americas/071298cuba-plot.html#1
the Cuban Five
1976年の航空機爆破テロの後、数限りなく行われ続けるキューバとキューバ人に対するテロ活動を防止するために、5人のキューバ人がマイアミの亡命キューバ人組織に入り込み、テロ活動に関する情報を収集してキューバ政府に知らせる活動を行なった。マイアミの反キューバ諸組織は、40年以上にわたって数え切れない反キューバ・テロ活動を行い、3,400人以上のキューバ人を殺害してきたのである。
5人のキューバ人――ジェラルド・ヘルナンデス、ラモン・ラバニーノ、アントニオ・ゲレロ、フェルナンド・ゴンサレス、レネ・ゴンサレス――が、1998年9月、FBIによって逮捕され、米国の国家安全保障を脅かすスパイ活動を行なったという罪に問われた。マイアミの拘置所に17ヶ月にわたって不当に孤立監禁された後、2000年11月、反キューバの異常な魔女狩り的な雰囲気をもつマイアミの裁判所で裁判が開始された。弁護団は、正当な裁判が行われる上での裁判地の不適切さを繰り返し主張したが、それはことごとく却下された。2001年12月、陪審員が身体的な脅威を感じるような雰囲気の中で、米国政府に対するスパイ活動その他の罪状で長期刑の判決が下された。
「5人」は、自分たちの活動が、マイアミを拠点とするテロリスト・グループの行動をモニターしていたのであって、米国政府に向けられたものではないこと、自分たちの国キューバへのテロリストの攻撃を防ぐためのものであること、犯罪行為を防止し多くの人命を護ることが目的であること、などを精力的に訴えた。彼らは、いかなる武器も所持せず、誰にも危害を加えてはいなかった。
マイアミのテロリスト・グループは、FBIとCIAの認知と支持の下に、完全な免責特権をもって、米国内からキューバを攻撃するための活動を行なっている。「5人」は、それらのテロ組織に潜入してその行動を監視し、差し迫った攻撃についての情報をキューバ政府に伝えていたのである。
「5人」の解放運動の進展と高揚する反戦運動との結合
2005年になって、「5人」の家族たちによる国連人権委員会への訴えがきっかけとなって、運動が高揚し始めた。05年5月、国連「恣意的勾留に関するワーキング・グループ」が意見と勧告を出した。国連人権委員会は、「5人」の投獄が不法かつ恣意的であると結論付け、米国政府に「5人」を釈放するよう勧告したのである。
この国連人権委員会ワーキング・グループの意見・勧告が出されて、ようやく7年にわたる不当性の訴えが米国内でも取り上げられるようになった。そして2005年8月、アトランタの第11管轄区控訴院(the 11th Circuit Court of Appeals)の3人の判事による陪審団(three-judge panel)が、有罪判決の破棄とマイアミ以外の地での新たな裁判を命じる裁定を下したのである。
ところが、そのすぐ後の10月末に、同じ控訴院が、その裁定を無効にし12人の判事全員による合議のやりなおしを決定した。前の画期的な裁定からきっかり1年後の2006年8月、控訴院は、10対2で新たな裁判を否定する決定を下した。
この決定に対して、即座に抗議行動が行なわれ、9月の逮捕8周年へ向けて国際的なキャンペーンが行なわれた。この運動をはじめとして、2006年は、5人の解放運動が一大高揚をとげた年であった。その最も大きな原動力は、米国内のイラク反戦運動と結びついたことにある。「キューバン・ファイブ解放委員会」が米国各地に250以上つくられ、その活動が「ANSWER連合」の反戦運動と緊密に結びつくようになった。「キューバン・ファイブ解放」のスローガンは、ブッシュの「対テロ戦争」の虚偽と欺瞞を暴く象徴として、イラク反戦運動の中で恒常的な位置を占めるようになったのである。
国際的な運動の広がり
2006年は、米国内においても国際的にも、運動が大きく広がり前進した。「キューバン・ファイブ解放全国委員会」とその支部は、特に報道管制を打ち破る闘いに力を入れた。2月のアトランタ控訴院での口頭弁論では、傍聴席を国内外の司法関係者で満杯にし、春から夏にかけてメディア・キャンペーンを実施し、ジャーナリストの討論集会を行い、法的または政治的な事態の進展がある毎に記者会見を開くなど、メディアへのはたらきかけを精力的に行なった。その結果として、地方の有力紙だけでなく大手メディアの一部もこの問題を取り上げるようになった。
「5人」が逮捕・拘束された8周年の9月23日には、司法省からホワイトハウスまでのデモ行進と集会が組織され、その前後の国際的なキャンペーンで、運動の新たな拡大と前進があった。「キューバン・ファイブ解放委員会」は、国際的な広がりをもった組織になり、すべての大陸に広がった。
マイアミと南フロリダに進歩的なキューバ人コミュニティーが形成され、数多くのフォーラムやデモンストレーションが行なわれるようになったのも、画期的なことである。
12月の国際的キャンペーンでは、ロサンゼルス、シアトル、ニューヨーク、シカゴ、サンタバーバラ、ニュープラッツ、ワシントンDC、アトランタ、マイアミなど、全米各地と、マドリードでの5,000人行動をはじめとして、英国、イタリア、ロシア、ウクライナなどでも、さまざまなイベントが行われた。「キューバン・ファイブ解放委員会」は、今年1月には全世界で290を数えるまでになった。
「対テロ戦争」の欺瞞が白日の下に晒されている
2005年春、不法入国でマイアミで拘束されたポサダは、米国への政治亡命を申請した。ポサダの拘束と亡命申請が明らかになったとき、ANSWER連合は「テロリスト、ルイス・ポサダ・カリレスの米国亡命を阻止せよ!」「殺人者ルイス・ポサダをベネズエラに引き渡せとのベネズエラ・キューバの対ブッシュ要求に支持を!」というキャンペーンを行なった。それに対して1ヶ月で2万人以上の賛同が集まった。
米国移民局の拘置の下にあったポサダの勾留期限(今年2月1日)が近づく中で、連邦行政執行官がポサダの釈放を勧告し、ポサダが何の罪にも問われず釈放される可能性が報じられた。それに対して、反戦運動と連帯したキューバン・ファイブ解放運動の精力的な活動によって、「テロリストをかくまい反テロ闘士を投獄するブッシュ政権」という批判が、米国内でも国際的にも高まった。その結果として、米国政府は、ポサダの釈放は外交上その他の有害な結果を招くとして、反対せざるをえなくなった。
その中で、今年に入って1月11日、ポサダが拘置されているテキサス州エルパソの連邦大陪審は、7項目の起訴状を発表した。これは、さまざまなテロ容疑で悪名高いポサダをアメリカ合衆国が初めて罪に問うものであるが、その罪状は、不法入国した際の事情聴取で偽りの供述をしたことについてであった。テロ活動については全く不問に付されたのである。
起訴することで、ブッシュ政権は、政治亡命を認め釈放することによる国内外の批判・非難を回避し、身柄引き渡し要求に応じないで米国がポサダを勾留し続ける口実を確保したのである。
「キューバン・ファイブ」の問題は、このように、ブッシュ政権の「対テロ戦争」という虚偽と欺瞞を白日の下にさらす重要な闘いとして、米国内と全世界で高い関心を呼び起こしつつあるのである。
それが、日本においては全く報じられていない。私たちは、今後もこの運動に注目し連帯していくとともに、日本のマスメディアに対して、今や全世界的な関心事のひとつとなっている「キューバン・ファイヴ」について正しく報道することを要求する。
※(NATIONAL COMMITTEE TO FREE THE CUBAN FIVE)http://www.freethefive.org/
Who are the Cuban Five?
http://www.freethefive.org/whoarethefive.htm
※(NATIONAL COMMITTEE TO FREE THE CUBAN FIVE)Communique from the National Committee to Free the Cuban Five
http://www.freethefive.org/updates/Comuniques/CONatCommUpdate123106.htm
※(NATIONAL COMMITTEE TO FREE THE CUBAN FIVE)Grand jury indicts Cuban exile militant Luis Posada Carriles and two associates
http://www.freethefive.org/usTerrorism/USTerrPosada11207.htm
2007年1月25日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局