【ボリビア】8月10日のリコール・レファレンダム
モラレス大統領、67%の高支持で圧勝・信任
反モラレス東部諸州の知事たちも高得票率で信任
せめぎ合いの中で焦点は12月7日の新憲法レファレンダムへ
ボリビアでは、先住民の解放と社会主義を目指すMAS(社会主義運動党)のモラレス政権に対して、白人オリガーキーが依然として支配している東部諸州が事実上の分離独立といえる「自治」を要求して、激しいせめぎ合いが続いている。その中で、8月10日の大統領、副大統領、各州知事のリコール・レファレンダムは、MAS・モラレス派と、オリガーキーを中心とする反モラレス派との対立関係だけでなく、中央と地方との歴史的な経緯も絡んだ複雑な対立関係をも反映したものとなった。だが、そのような複雑な諸事情をこえて、一握りのオリガーキーと大多数の貧困な人民との対立がいっそう鮮明になりながら、新たな段階へと事態が急速に進んでいこうとしている。
以下、「Bolivia Rising (http://boliviarising.blogspot.com/)」の記事・論説を中心にとらえた内容をまとめ紹介する。
※ とりわけ次の2つの論説がよくまとまっている。
「ボリビアのリコール・レファレンダム:最終結果とその分析」
(http://boliviarising.blogspot.com/2008/08/bolivia-recall-referendum-final-numbers.html)
「ボリビア:歴史的投票は変革の意思を打ち固めた」フェデリコ・フエンテス
(http://boliviarising.blogspot.com/2008/08/bolivia-historic-vote-confirms-will-for.html)
※ これまでの経緯については、「ラテンアメリカの加速する反米帝左傾化の中で、米国の妨害と巻き返し策動の焦点となったボリビア東部諸州の分離独立運動」(署名事務局)参照
<ボリビアの9つの州>
パンド州、ベニ州、サンタ・クルス州、タリハ州が「ハーフ・ムーン」と呼ばれる天然資源の豊富な東部4州。
中央部、1:コチャバンバ州、2:チュキサカ州。
西部山岳地帯が先住民の多いラ・パス州、オルロ州、ポトシ州。
(州知事は、2005年までは任命制であった。初めての知事選での結果は、オルロ州、ポトシ州、チュキサカ州の3州がMAS・モラレス派、他の6州が反モラレス派であった。)
8/10までの経緯の概略
2005年末の大統領選で当選したモラレス大統領は、新憲法制定議会を召集して、先住民の諸権利の拡大と平等、大土地所有解体の土地改革、天然資源の国家管理などを明記した新憲法草案を作成した。それは下院で承認されたが、その後、反モラレス派が多数を占める上院で昨年末以来たなざらしにされてきた。
他方でモラレス政権は、新憲法の作成と同時並行的に、大統領選で公約していた諸改革を次々と実施に移そうとしてきた。特に天然ガスを中心とする資源の国有化をめぐっては、熾烈な闘いが行なわれている。国政レベルで権力の座から追われた白人オリガーキーは、天然資源の豊富な東部諸州の「自治」要求に名を借りて、大土地所有と天然資源を死守しようとしているのである。
昨年12月の段階までは、反モラレス派は結束していたが、今年の5月から6月にかけて、東部諸州が米国の強力な後ろ盾のもとに「自治」要求レファレンダムを次々と独自に行なったことから、中央と東部諸州とで反モラレス派内の対立・分裂が鮮明になった。国政レベルでの反モラレス派の最大会派「ポデーモス」は、東部諸州が分離独立の方向へ走ったのに対して、モラレス大統領と全州知事のリコール・レファレンダムを新たに提起する形で反モラレス派内での主導権を取り戻そうとしたのである。
そのような新たな事態に対して、東部諸州のオリガーキーは、5月〜6月に行なった独自の自治要求レファレンダムがかなり住民に支持されたことを背景に、8月10日のリコール・レファレンダムをボイコットせずに受けて立つ決断をした。チュキサカ州でMAS・モラレス派の知事を追い出す運動が高揚したのも、そういう方向での判断を助長した。
しかし、8月10日が近づくにつれて、モラレス大統領への圧倒的な支持が明らかになり、東部諸州では暴力的な反モラレス運動が横行し始めた。人種差別的な右翼の暴力が荒れ狂い、道路や空港の暴力的封鎖が行なわれ、サンタ・クルス市長が軍にモラレス打倒のクーデターを呼びかけるという事態も現出した。
8/10リコール・レファレンダムの諸結果
8月10日の投票は、有権者数約405万人、投票総数約337万票、投票率83.3%であった。モラレス大統領は、有効投票数約312万票のうち信任約210万票、不信任約102万票で、2005年12月の大統領選での53.7%を大きく上回り、67.4%で信任された。副大統領も同じく信任された。しかし、白人オリガーキーが支配する反モラレス東部4州の知事たちも60%前後の高率で信任され、「自治」(=事実上の分離独立)への動きを強めようとしている。
初めての知事公選であった2005年知事選結果は、9つの州のうち6つの州が反モラレス派、3つの州がMAS・モラレス派という状況であったが、そのうち、MAS・モラレス派知事のチュキサカ州では、自治を要求する住民運動が先行して高揚し、知事が国外脱出して辞任するという事態になり、6月29日に知事選が行なわれて反モラレス派知事が当選した。
8月10日は、このチュキサカ州以外の8州で知事のリコール・レファレンダムが行なわれた。天然資源が豊富で白人オリガーキーの拠点となっている東部4州では、反モラレス派の現職知事が、サンタ・クルス州66%、ベニ州64%、タリハ州58%、パンド州56%で信任された。これらは2005年の知事選のときを上回る高率である。他の4州での結果は、ポトシ州で60%超の信任、オルロ州では僅差で信任、コチャバンバ州とラ・パス州でリコールが成立した。信任された2州はMAS・モラレス派知事で、リコールが成立した2州は反モラレス派知事であった。
※ 註:首都のラパスと、州としてのラパス州とがある。混同をさけるため首都は「ラパス」と表記し、州は「ラ・パス州」と表記する。
国政レベルでのモラレス支持と地方レベルでの自治要求の並存
今回リコールが成立した2つの州で知事選が行なわれることになるが、そこで8月10日から想定されるとおりの結果になったとした場合、州知事についてはMAS・モラレス派が4州、反モラレス派が5州という結果になりそうである。国政レベルでのモラレス大統領に対する圧倒的な信任とはうらはらに、地方レベルではかなり複雑なせめぎあいが行なわれている。
まず、先行して6月29日に知事選が行なわれたチュキサカ州であるが、この州の州都スクレは憲法上の首都である。しかし最高裁判所以外の政府機関はラパスにあり、ラパスが事実上の首都である。モラレス派の知事が国外脱出から辞任に追い込まれた背景には、歴史的な首都争いを含む複雑な事情が介在しているようである。6月29日の知事選では反MAS・反モラレスの知事が当選したが、そのチュキサカ州での8月10日の投票では53%対47%でモラレス支持が上回った。州レベルでMASの知事が追放されるという状況があるにもかかわらず、国政レベルでのモラレス大統領とMASの社会主義指向の方針は支持されているのである。
他の州でも錯綜した結果が見られる。モラレス大統領への支持・不支持と、知事についてのそれとが、かなり違っているのである。モラレス大統領への支持が不支持を上回った州は6州で、反モラレスの牙城とされる東部4州のうち、パンド州でモラレス支持が52%と上回った。さらにタリハ州では、支持49.83%、不支持50.17%の僅差であった。東部4州の他の2州でも、かなりの割合でモラレス支持票があった。サンタ・クルス州では41%、ベニ州では44%の支持があったのである。これらの数値は、おおかたの予想を上回るもので、東部対西部という固定的な対立の図式は、国政レベルでのモラレス大統領への支持という点では、あてはまらなくなっていることを意味する。
先住民の多い西部諸州では、モラレス支持は圧倒的であった。コチャバンバ州でおよそ70%の支持、ラ・パス州、オルロ州、ポトシ州では80%を超す支持であった。このうちオルロ州では、モラレス大統領への支持は圧倒的であるのに、MAS・モラレス派の知事が速報ではリコール成立の様相であった。それがかろうじて僅差で信任という結果になった。ここにも国政レベルと地方とのねじれ現象が見られる。MAS・モラレス派の知事が追い出されて反モラレス派の知事が当選したチュキサカ州でだけ、モラレス大統領への支持が05年を下回ったが、それでも54%の支持があった。
熾烈な闘いを通じ、反米帝・社会主義指向の政策方針への支持を拡大
これらの結果から見ると、先住民差別の撤廃、大土地所有制の解体、エネルギー資源の国有化を中心とする国政レベルでの反米帝・社会主義指向の政策方針は、いっそう支持を広げていることがわかる。それは、モラレス政権が成立してからのこの2年半の熾烈な闘いの結果である。とくに東部諸州においては、大土地所有の解体をめざす貧農の運動をはじめとして、ひとにぎりのオリガーキーを孤立させていく方向で闘いが進展し、MASとモラレス大統領への支持が拡大してきている。その中心は、オリガーキーの最大の拠点であるサンタ・クルス州でMASと共同して根本的な社会変革にとりくんでいる「the other Santa Cruz もう一つのサンタ・クルス」の運動である。
さらに、新たな動きとして注目すべきものに、MASを積極的に支持するわけではないが、オリガーキーの支配には明確に反対の立場に立ち、憲法の枠内で国の統一を前提に地方の自治権拡大を主張する運動もある。それは、5月の「自治」レファレンダムのときに国を解体するような「自治」への反対票として明確な形としてあらわれた。
このような運動も含めて、これまでの中央政府による支配抑圧に対する反発はかなり大きなものとしてあって、国政レベルでMASとモラレス大統領の方針を容認または支持しながらも、地方レベルでは自治権拡大を要求するという状況が広範に存在している。オリガーキー・反モラレス派は、そういう自治権拡大要求の機運を最大限に利用してきたのである。しかし、オリガーキーの最大の拠点であるサンタ・クルス州でも、オリガーキー・反モラレス派が主張する「自治」の反人民的な本質が、しだいに明らかになりはじめている。
8/10直後の話し合いが決裂。12月7日へ向けて対決姿勢が前に
投票結果がはっきりした段階で、圧倒的な支持を得たモラレス大統領は勝利宣言し、反対派に対話を呼びかけた。8月13〜14日にモラレス大統領と知事たちとの話し合いの場がもたれ、モラレス大統領は、国民投票に付されるところまできている「新憲法草案」と東部4州が作成した「自治憲章」とのすり合わせを提唱した。
しかし、サンタ・クルス州知事の強硬姿勢によって話し合いは決裂し、反モラレス派は分離独立をめざす強硬姿勢を強め、対話拒否に転じた。それに対して、MASは8月23日に全国会議を開き、反対派と正面から対決して「自治憲章」との妥協を排し、新憲法草案の国民投票を断固実施する方針を決定した。この後は、双方ともに強硬姿勢を前面に押し出し、事態は抜き差しならない方向へと加速し始めた。
サンタ・クルス州知事は、来年1月25日に立法府選挙を実施すると発表した。これは、何の法的根拠もなく、事実上分離独立へと突き進むことをついに公然化させたといえるものである。それに対して、モラレス大統領は、たなざらしになっている新憲法草案の国民投票を12月7日に行うことを布告した。これに対して、サンタ・クルス、ベニ、パンド、タリハ、チュキサカの州知事たちは、自州での新憲法制定レファレンダムの実施を許さないと言明し、双方の対決姿勢はいっそう鮮明になってきている。
双方ともに死活的な利害のために死に物狂いでぶつかり合うという局面へと、次第次第に事態が煮詰まりつつある。
<追記>
上記の報告をまとめてから大きな動きがあったので、とりあえず簡単に指摘だけしておきたい。8月末から東部4州を中心に反モラレス派の破壊活動が活発化している。それは、ベネズエラでの反政府活動の活発化とも連動して、米国の露骨で強力な後押しのもとに行われている。それに対して9月10日、モラレス大統領は駐ボリビア米国大使の国外追放を通告した。ベネズエラでも9月11日、駐ベネズエラ米国大使の国外追放を通告した。ベネズエラでは、クーデター計画が事前に摘発され、その証拠の録音テープの公表とともに、米国大使の関与が明らかにされている。これらの動きは、ボリビアとベネズエラでの革命過程のいっそうの進展に危機感を募らせている現地旧支配層と米国の、共通した危機感と焦りと、後退した位置からの巻き返し策動を反映している。
2008年9月15日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局