[訪韓報告]
靖国参拝糾弾! 小泉はアジアの戦争犠牲者の声を聞け!
第721回 水曜デモに参加して

(2006年8月31日 S.I/N.)

 報告に先立って、まず、8月15日の小泉首相による靖国神社参拝を糾弾する。
 日本による侵略戦争によってもっとも深い傷を受けた被害者たちに対し、心からの謝罪をすることもなく、放置したままの61年間。繰り返された参拝強行は、彼女ら、彼らの心を再び踏みにじった。小泉首相当人はもちろん、政府も、靖国問題を連日取り上げたマスコミも、韓国・中国からの批判は単なる外交カードであるとして問題をすりかえ、民衆の怒りの声に真剣に耳を傾けてはいない。
 韓国の、中国の、日本の侵略戦争と植民地支配によって回復することのできない傷を受けたすべての人々の怒りを、真摯に受け止めなければならない。私たちの韓国への訪問は、そのためのささやかな一歩にしたい。私たちはここ数年8月のソウルでの水曜デモに参加するために訪韓してきた。今年も8月9日の水曜デモに参加するために8日から11日まで訪韓した。ソウルでの水曜デモの他にナヌムの家等にも出かけたが、ここでは小泉の靖国参拝を前に怒りに包まれた水曜デモの様子を報告する。

<721回目を迎えた水曜デモ>


靖国神社への無断合祀取り下げを求める
 8月9日、韓国・ソウルでの水曜デモは721回目を迎えた。1992年の開始から15年間、毎週水曜日にソウルの日本大使館前で積み重ねられ続け、今年3月15日には700回を数え、さらに続けられている水曜デモ。この世界でも類を見ないねばり強く苦しい取り組みに対し、なお問題の解決を拒み続ける日本政府。
 その取り組みに連帯し、この日は東京、大阪、名古屋、神戸、広島など日本各地でも連帯集会がもたれた。特に、首相の靖国参拝が焦点化していた東京では、この日の集会を皮切りに、連日集会やキャンドルデモが行われた。14日には、日本軍性奴隷制の被害者として証言を続けてこられた3人のハルモニも来日し、抗議運動に参加された。


<一刻も早い解決を! ハルモニたちの叫び>

ハルモニの写真を胸に参加したハルモニたち
 30℃を超える炎天下。お年を重ねたハルモニたちの健康状態が気にかかる。心なしか、今年は参加されているハルモニの数が少ない。いつもデモの先頭に陣取り、私たち日本人に「どうして日本政府は謝罪しない。早く解決させなさい!」と、厳しい声をぶつけてこられたファンクンジュ(黄錦周)ハルモニは、前日体調を崩され、緊急入院されたとのことで、お顔が見えない。ナヌムの家から参加されたハルモニの胸には、今年2月に亡くなったパクトゥリ(朴頭里)ハルモニの写真。翌日訪ねたナヌムの家では、ペチュンヒハルモニが、暑さのため体調が悪く今年は参加を控えたとおっしゃっていた。デモの前日には、北朝鮮在住のハルモニの死が伝えられたという。
 被害者であるハルモニたちの多くが、日本政府の謝罪を待ち続け、かなえられることなく亡くなっている。「日本政府は私たちが死ぬのを待っているのか?!」繰り返されてきた怒りの声が頭の中に響く。
 一刻も早い解決を!そのためにも、何より日本での取り組みを広めなければ・・・ハルモニたちにお会いして、その思いを強くした。

<若い世代に力強く引き継がれる水曜デモ>

参加者は圧倒的に若い世代が多い
 毎年、光復節(日本の植民支配から解放された8月15日)を控えたこの8月の水曜デモは、若い世代が数多く参加しひときわにぎやかだ。中学生や高校生が、手に手にプラカードを持ち、シュプレヒコールに声を合わせている。韓国挺身隊問題対策協議会(以下挺対協)のボランティアスタッフとして、韓国政府への行動要請はがきを書くよう参加者に呼びかけている女性も高校生だという。集会開始の正午には、参加者の数は200人近くに膨れあがった。
 集まった人々の横では、若者たちが蝶をかたどったプラカードをもち、ずらっと並んでいる。プラカードには「ハルモニに正義を!」の言葉とともにハルモニたちの写真が飾られている。舞台の上には、大きな蝶のモニュメントが舞い上がった。その羽には、参加者たちが書いたメッセージが無数に貼り付けられている。蝶のように自由に、軽やかに飛び立ち、運動を世界に広げていこうという願いが込められているのだろうか。

ハルモニたちに正義を!蝶の形をしたプラカード
 集会はハルモニたちへの連帯表明に始まり、ピースロードの学生たちのメッセージや日本からの戦後補償裁判の報告、靖国神社への無断合祀の撤回を求める遺族たちの訴えが行われた。集会の随所で、歌が歌われ、「靖国神社参拝反対」などシュプレヒコールが繰り返され、参加者の気持ちが一つにまとまっていく。

上空に舞い上がった蝶のアドバルーン
 参加者によるアピール終了後、全員で再度「日本政府は謝罪せよ!」「責任者に処罰を!」「歴史歪曲をやめ真実の歴史を!」とシュプレヒコールを繰り返す。そこへ大きな日章旗が繰り出された。参加者たちはそれを頭上に掲げ、引きちぎり、日本政府へ謝罪と解決を要求し続けることを力強く確認した。
 最後に歌われたのは、韓国の集会ではよく歌われる『岩のように』。「大地に深く根を下ろして生きる岩のように、どんな苦しみにもくじけずに、試練の中に立ち向かおう」という歌だ。長年積み重ねられてきた水曜デモ。日本政府の謝罪を勝ち取るまで、闘い抜こうという気持ちを、力強く、そして明るく確認して集会は幕を閉じた。


<日本での運動をこそ!>
 毎週の水曜デモは、本当に細々と地道に取り組まれていて、ハルモニと数人の挺対協スタッフだけのこともあるという。15年間、毎週毎週大使館前に座り続けても、「問題は解決済み」として何ら真摯な回答を行わない日本側の姿勢が、ハルモニをはじめ彼女たちを支える韓国の心ある人々を繰り返し苦しめ、傷つけ続けている。そのことを知る日本人は、あまりにも少ないのが現状ではないか。
 集会で出会った女性(在日韓国人で現在はソウル在住)はこう言った。「日本の参政権のない私たちが何を言っても、日本大使館は気にしないのでしょう。」。問題は、日本人である私たちが、自国の責任を自国政府にどうとらせるかにあるのだ。

<真実を伝え、韓国の人々との連帯を>

水曜デモに参加する子どもたち
 日本では、日本政府でさえとうに政府・軍の関与を認めたにもかかわらず、「『従軍慰安婦』はいなかった」とする居直りが繰り返されている。今年6月には、上田清司埼玉県知事が、県議会で「東西古今、『慰安婦』はいても『従軍慰安婦』はいなかった。兵のいるところに(『慰安婦』が)集まってきたり、兵を追いかけて民間業者が連れて行ったりするのであって、軍そのものが連れていくなんてことは絶対にない。」と言い放った。この発言に対し、バウネットジャパンなど、多くの団体が撤回と謝罪を要求したが、彼はその要求を無視し続けている。
 昨年度、「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書採択は、日本各地のねばり強い取り組みにより、「つくる会」側のもくろみを完全に打ち砕くまでに押さえ込まれた。しかし、他の教科書に対する執拗な攻撃・圧力により、中学校のほとんどの教科書から日本軍「慰安婦」についての記述は抹消されてしまった。

日本政府を批判するプラカード
 今年、私たちは、最初に日本軍「慰安婦」にされたことを名乗り出られた、故金学順ハルモニの証言を読んだ高校1年生の感想文を、つたない韓国語に訳し、韓国へと携えた。ほとんどの生徒は初めて知る事実に衝撃を受け、何より当初、「慰安婦はいない」と否定をした日本政府の態度を批判した。教科書にきちんと加害の事実を載せ、日本人こそがこうした事実を知っていくべきだ。そして被害者たちに謝罪をするべきだと述べていた。何よりまず、日本で真実を伝え広げること。それが日本政府へ問題の解決を迫る大事な一歩だ。
 韓国の人々は、過去の日本の戦争美化に対してだけ怒り危惧しているのではない。水曜デモで繰り返されたシュプレヒコールに「世界平和!」があった。それを脅かす日本の政策・・・憲法改悪、アメリカの侵略戦争への加担、朝鮮半島の緊張を激化させる露骨な北朝鮮挑発・・・こうした現在の日本の軍国主義化を憂慮し、日本の民衆がそうした動きにストップをかけるよう、連帯を求めているのだ。その思いを受け止め、大阪で取り組みを行いたい。


最後に、水曜デモに参加された人々から受け取ったメッセージをいくつか紹介する。

○挺対協 スタッフ
アジアに二度と戦争があってはなりません。
日本の平和憲法改正に反対します。
アジアの平和、世界平和に寄与する日本を願います。
日本政府は、今も解決していない日帝の犯罪に対し、一日も早く解決に乗り出せ!

○60代女性
日本の政治家の靖国神社参拝に絶対反対します。
靖国は日本軍国主義の象徴なので、存在してはいけません。

○20代女性
日本軍「慰安婦」問題も解決しない状態で、神社参拝するのか…!日本は軍国主義を中断せよ!

○挺対協ボランティアの女子高校生
日本政府が、過去の戦争中の犯罪を認めず、今まで神社参拝をしてきたことは、正しくないと思います。神社参拝問題、歴史教科書問題、慰安婦問題など、政府で戦争中の過ちを認め、謝罪したらよいです。

○挺対協ボランティアの20代女性
数多くの人々を殺した戦争犯罪者達を追慕する靖国神社参拝反対!
日本は、第二次世界大戦当時の戦争犯罪を美化するのではなく、心から反省しろ!
歴史歪曲するのではなく、後世に正しい歴史教育を施行せよ。

○30代男性
日本で平和運動をする方々が少なくないことを聞いていたので、直接会えて本当にうれしく思います。韓国と日本の良心が出会い、アジアの平和と発展を成し遂げればと思います。

○男子中学生
靖国神社参拝は、日本人の目には、伝統文化の尊崇であると見えるのかもしれない。でもその後ろに誰かの涙があり、その涙が無視されている。日本人にその涙を見る良心があれば、神社参拝ではない、被害者との真実の出会いができると思う。





[資料8月9日水曜デモ声明書]
解放61周年を迎え、
日本軍『慰安婦』問題解決のための第721回水曜デモに連帯する


日本軍「慰安婦」問題解決のための8・9世界連帯集会声明書

STOP 女性への暴力! 日本軍「慰安婦」被害者に正義を!

・ 日本政府は国連の勧告通り、日本軍性奴隷制度に対する完全な法的賠償を実施せよ!
・ 日本政府は、アムネスティ・インターナショナルの勧告通り、日本軍性奴隷被害者たちにあらゆる種類の賠償を実施し、これを実行するための効果的行政手段を即時講じよ!
・ 韓国政府は、日本軍性奴隷問題解決のための対日外交活動を、即刻実行せよ!

 世界史に前例のない人権蹂躙と種族の抹殺、女性に対する性奴隷制という戦争犯罪として記録され、記憶されている第二次世界大戦が終わって61周年になった。しかしなぜ、過去の戦争は現在の戦争として継続しているのか。女性に対する性奴隷化は中断されないで、なぜ継続して繰り返されているのか! 戦争犯罪人が処罰を受けず、むしろ「自国の平和」のために犠牲になった殉国烈士として崇め奉られ参拝される現実、戦争犯罪の被害者は何らの賠償も受けられぬまま、過去の傷と苦痛をそのままに耐えて生きていかなければならない現実、過去の戦争を正しく知り二度とまちがった過去が繰り返されないよう教育されねばならならない青少年たちが歪曲された歴史を真実だと学ぶ現実、まさにこのような現実が過去の誤った歴史を断ち切らせることができない妨げとなっている。
 第二次世界大戦が終わってから61周年になる8・15を目前にした今日、世界は、過ぎ去った15年の間毎週水曜日ごとに日本軍性奴隷制問題の解決を促してデモを継続してきた韓国の日本軍「慰安婦」被害者たちと共に連帯して、「ストップ女性への暴力! 日本軍『慰安婦』被害者に正義を!」と叫んでいる。私たちのこの世界連帯行動を通じて、日本軍国主義によって人権と名誉を蹂躙され人生を根こそぎ奪われてきた性奴隷被害女性たちに正義を回復させるのだ。また、今も継続されている戦争で、人権を蹂躙されている世界の女性たち、弱者たちに連帯と希望のメッセージを伝えるのだ。

1. 日本政府は国際機構の勧告通り、日本軍「慰安婦」被害者に速やかに謝罪し賠償せよ!
 日本はアジアの女性たちを日本軍の性奴隷として拉致し人権を蹂躙する犯罪を犯した。すでに国連などの国際機構は日本軍「慰安婦」制度を非人道的犯罪であると明らかにし、日本政府に被害者たちの年齢を考慮して一刻も早く謝罪し法的に賠償するよう勧告した。世界の市民社会も、日本政府に国際機構の勧告を遵守することを促してきた。だが日本政府はむしろ、過去の犯罪に対して隠蔽と妄言に明け暮れ、総理の毎年の靖国神社参拝、歴史教科書歪曲、平和憲法改悪などの動きをし、またしても軍国主義に回帰しようとしている。世界の平和と正義のために連帯する私たちは今一度、日本政府に強く要求する。
・ 日本政府は日本軍「慰安婦」被害者たちの要求を一日も早く受け入れよ!
・ 日本政府は、国際機構の勧告通り、速やかに日本軍「慰安婦」問題を解決せよ!

2. 日本軍「慰安婦」被害を受けた被害国の政府は、日本政府に日本軍「慰安婦」問題解決を積極的に要求せよ!
 第二次世界大戦が終わって後、ヨーロッパではナチス戦争犯罪を解決するため、ドイツ周辺国の諸政府が犯罪を告発し犯罪者を徹底的に捜索するなど問題解決に積極的に乗り出した。しかしこれとは違って、日本の戦争犯罪の被害国であったアジア諸国は日本の戦争犯罪を告発することさえ自ら回避してきた。特に女性たちに犯された「日本軍『慰安婦』」犯罪は、被害国内部でさえ徹底的に無視され隠蔽されてきた。このような被害国政府の非自主的な態度は、日本政府をして戦争犯罪を隠蔽し法的責任を回避させる一助となった。日本軍「慰安婦」被害者たちに正義が回復されることを切に願い連帯する私たちは、被害国の諸政府に強く要求する。
・ 被害国政府は日本政府に、日本軍「慰安婦」問題解決を積極的に要求し日本軍「慰安婦」問題解決の先頭に立て!

3. この地上に戦争と暴力がなくなり平和と正義が実現される日まで、世界市民社会の連帯
を希望する
 世界では依然として戦争が継続しおりその戦場の中で女性たちはまたしても性暴力の犠牲者となっている。歴史歪曲と侵略戦争称揚など過去への回帰を夢見る軍事大国化しつつある日本軍国主義はまた、依然としてアジアと世界平和の脅威となっている。私たちは希求する。この地上において日本軍「慰安婦」問題が完全に解決されるその日まで! 戦争と暴力が終わり平和が実現されるその日まで! 世界市民が正義の監視者として、人権守護者として、日本軍「慰安婦」被害者たちのとてつもなく長い闘いに共に連帯してくれることを願う。私たちはまた、日本軍「慰安婦」被害者たちに正義が回復されるその日まで、戦争と女性への暴力がなくなる時まで、私たちの行進を止めないのだ。

2006年8月9日
解放(戦後)61周年、日本軍「慰安婦」問題解決のための
世界連帯集会(721回水曜デモ)参加者一同