[投稿] 日本人移民一世の目を通してみたキューバ医療
テレメンタリー2008 幸せの指標「世界が注目するキューバ医療」(3月10日 テレビ朝日)
国民の医療費負担が高く、国家予算からも医療費が削減されているという日本に暮らす私たち。政府は社会保障が財政圧迫の原因であるとの宣伝を繰り返す。保険料を払えなければ保険証を取り上げられ病気になっても医者にもかかれない。この4月からは高齢者の医療費負担が増え、ますます状況は悪くなっている。そんな中アメリカの経済制裁の最中においても医療費が無料な国、南米キューバの医療についてのドキュメンタリー番組が放送された。
キューバでは憲法第50条において、すべての国民が無料で医療を受ける権利を有し、法律で健康の保護がされている。なんて幸せなんだろうと思う。
格差社会といわれる日本で年を重ね、番組でもふれていたアメリカの医療ドキュメンタリー映画「シッコ」のように、いざ病気にかかった時、保険に入っていてもお金持でもないし、有名でもない、自分も見捨てられるようになるのかという不安をもった。
アメリカより所得が低くても健康度が高い、高度な医療をもって年間3万人以上の人が目の手術を無料で受けられる、海外の医療支援にも積極的に取り組んでこれまでに103カ国から無料で留学生を受け入れ、1万人以上の医師を発展途上国に派遣している――そのキューバの医療がどのようなものか知ってもらうために内容をまとめることにした。
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冒頭で、キューバのお年寄りたちが口々に言う、「もちろん無料よ」「ここはキューバなのよ」「孤独死なんてあるはずないわ」「日本は世界最高のテクノロジーを持っているのに・・・」
番組の中心はキューバの首都ハバナから300km南にある島、イスラのオガール老人ホームで暮らす人々である。
新潟からキューバに農業移民した日本人一世・島津三一郎さん
キューバに暮らし80年、現在100歳の日本人一世・島津三一郎さん。24時間常駐の看護師さん、2日に一度の医師による診断を受けられるなど至れりつくせりの環境で暮らしている。もちろん費用はすべて国が負担している。
高齢だからと言って薬をねだることはしないし、医師も不必要に処方はしない、医療自体がビジネスと考えられていないため点数稼ぎの投薬などは考えられていない、100歳でも薬を飲まない、自分でできることは自分でする。
ホームの入居条件は60歳(男性)、55歳(女性)を超えた一人暮らしの年金受給者もしくは介護が必要な人。入居費は日本円で月額200円、年金は月額1000円で十分賄える条件にある。島津さんが11年間で支払った費用は2万6千円だけである。因みにアメリカの経済制裁の下で、街で売られる輸入菓子は500円でホーム入居費の3倍もする。
キューバの平均寿命は77歳、アメリカ78歳、日本83歳と先進国並み、乳幼児の死亡率も1000人に6人とアメリカ並だ。
60歳を超える人口は総人口8万6千人のうち15%、日本では27%と日本同様高齢化社会をむかえているが無料の医療、社会がある。
一方日本では「高齢者医療制度」が成立、今年4月から医療費の負担がふえ年金から高額の保険料が強制的に徴収されようとしている。
ラモンおじいさん(96歳)
体調不良で大きな病院に入院が必要となった時おじいさんのカルテは入院先の病院に引きつがれる。
キューバでは一つのカルテを通じて医療機関の連携を図り、患者の状態を共有し病気が悪化する前に未然に防ぐ予防医療をおこなっている。医療現場はライバルではないため患者が減ることを歓迎している。
〈キューバの医療制度〉
7万1千人医師のうちの3万3千人のファミリードクター(診療所)がおよそ750人に1人の割合で配置され、地域住民のカルテと健康の管理に責任をもっている。
そのファミリードクター制度が土台にあり、その上にはポリクリニコ=地域病院が498、さらにその上にはホスピタルと呼ばれる総合病院が213。それぞれのレベルに応じて、より高度な医療をうけもつ。そしてガンや心臓移植など最高度の技術が求められる場合には14ある研究所で対応する。これら施設には明確に役割が定められており、日本の大病院の様に夜間救急に軽傷患者があふれるという光景はこの国ではみられない、という。
ラミロおじいさん(85歳)
身寄りがなく8年前入居。毎朝片道40分の畑に行き、ひまわりやピーマンなどを栽培して売っている。仕事をしない生き方は自分にあわないと働いている元気なおじいさん。
細かい入居規則がある日本と違ってホームには6時の夕食に帰ればその間は何をしていても構わない、個人の行動の自由がある、という。
孫夫婦と暮らすビオレータおばあさん(86歳)
日中一人で居ることが多くなり日中だけのデイケアに参加。
洗濯、入浴と家族の負担が軽減され、孤独を紛らわす目的でお年寄りであれば誰でも利用することが可能。月に25ペソ、日本円で125円 年金1000円で十分にまかなえる。洗濯、入浴、食事のほかにいろいろなレクリエーションがあって地域の老人が集う憩いの場となっている。
日本の医療制度に対して厳しい問題提起
確かにキューバのような貧しい小国で、医療を無料にするのは大変な事だと思う。でも、日本の医療を想像してそれをそのまま無料にするというと莫大な費用がかかりそうな気がするが、余計な薬を投与しない、病床を埋めるための入院もない、高額の医療機器で検査漬けにすることもない、医者だからといって威張ることもない−−つまり皆が命と健康の大切さを理解し、その社会的条件作りに精を出し、それで一儲けしようなどと考えないとすれば、社会的コストは遙かに低いのではないだろうか。
キューバには介護度という制度はない。お年寄り同士、元気な人が障害を持っている人を助けるなどお互いを助けあう。老人の物忘れが入居して回復する人も多いという。一方日本の介護制度は介護度数を設定し度数によって介護報酬が支払われ、より高い報酬を得ようと不正請求が後をたたない。
日本との経済差は200倍近くある、しかしここには継続可能な介護がある、キューバには貧しいからといって治療や介護をうけることができないほど歪んだ社会にしてはいけないというキューバ政府の強い意志と国民一人ひとりの自覚がある、と番組の終わりに世界最高の医療を備えた日本に「幸せの指標」とはいったいなんなのかを訴えて終わっている。
(2008年3月31日 S)
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