[番組紹介]NHKクローズアップ現代「海上自衛隊・問題続発の裏で」

日米軍事同盟強化と海外派兵の恒常化で、海上自衛隊に異変

罪をなすりつけられてはたまらない 危機感から漁師たちが証言

 3月13日のクローズアップ現代では、イージス艦「あたご」の事故に対して防衛省が事故の情報を隠蔽しようとしたことに、漁師達が怒りの声を一斉にあげたことに焦点をあてている。
 事故当日の漁協の記者会見で組合長が「自衛艦が、小型船を本当に家族共々奈落の底に落とすようなことをして、やられた方が悪いというようなことになっては大変だと思い、その真実を皆さんにきっちり伝えたい」と発言し、漁師達は現場で見たことや船に残っていた航跡記録をもとに、事故当時の状況を克明に語った。漁師の証言では、「あたご」は、直進を続け、逃げるように周りの漁船は舵を切っていた。「清徳丸」の後を航行していた漁師の1人は、回避義務があったのは「あたご」の方だと訴えた。彼は、「あたご」は、「清徳丸」の赤い灯りがしか見えなかったはずだ、青い灯りが見えたというのは自分の船が「あたご」を回避したときに見たものだと強く主張した。続いて、「青出しては走っているのは俺しかしかいないから、自衛隊発表とは違うんだよ、本当のことを言ってくれよという怒りの気持ちだけだった」と語った。漁船団の先頭を走っていた漁師は、「あたご」が事故の直前まで全く回避措置をとらなかったことに強い怒りをぶつけた。彼は事故の30分前にレーダーで「あたご」を捉えていた、自衛艦の性能のよいレーダーを常に見ていたなら20分から30分前に我々の船を捉えていたはずだ、「同じ海の上で働く仲間だと思ってきたが、事故からは仲間だという気持ちはなくなった」と語った。漁師達の自衛隊発表に対する反論会見は、事故を巡る防衛省の姿勢を厳しく問いただした。組合長は「大きくても小さくても正しいことは正しいと皆さんに判断してほしい。300人も乗っている船なんだから衝突を予防する措置はとるべきだ」と締めくくった。これらに対して、石破防衛相は、行方不明になってる吉清さん親子の家族に謝罪に訪れた際に、家族から「情報の出し方がおかしい」と直接指摘さて、「情報の出し方がよくない。自己正当化がないように気をつけなければいけない」と話したという。 
※ 3月29日付け週刊現代の記事「捜索ヘリであたご艦宴会の酒瓶を運んだ」は、2月19日の前夜に、昨年10月の出航以来4ヶ月ぶりの帰国を目前にして、艦長許可のもと祝杯をあげていて、事故後捜索ヘリで酒瓶を防衛省へ運んだというものである。石破防衛相は否定しているが、きわめて疑わしい。インド洋派遣の護衛艦「あさかぜ」「はるさめ」では相次いで飲酒が発覚し、大量の処分者をだしていることを考えれば、この点は徹底して追及されなければならない。

「戦える自衛隊」への変貌、海外派兵の本来任務化の中で起こった事件

 続いて番組では45000人の巨大組織の海上自衛隊に何かが起こっていると問題を提起している。3月11日、「あたご」と同じイージス艦「きりしま」の衝突回避訓練が同じ海域で行われ、NHK記者が同行し、取材した。1時間に20隻以上の船を確認し、艦長が「右に舵を取れといってるだろ」と当直士官に怒鳴り声を上げている。回避動作が遅れていた。艦長は「報告すべきことを報告する。やるべきことをやる。もう一度原点に立ち返る」とインタビューに答え、全くやれていない、回避行動さえ満足にできない深刻な実態を明らかにしていた。 
 「あたご」は事故の10日程前、ハワイの米軍施設で訓練を続けていた。1年前配備された「あたご」は実際の配備に付くための仕上げを行っていた。魚雷やミサイルを標的に当て「高い評価」を受けていた。その帰りにこの事故を起こした。
海上自衛隊は全国の部隊指揮官を集め会議を開き、「任務の増大で隊員が疲弊し、モラルが低下している」ことが事故の背景にあることを公表した。インド洋への7年に及ぶ派兵や、イージス艦などでは最新のシステムへの対応で追われ、年間の出航が250日以上に及ぶこともあるという。元自衛艦隊司令官は「任務の増大で基本的訓練が十分にできなくなっている」と、実態を証言している。現場で何が起こっているのか、現役の海自隊員がNHKに文章で回答している。「激務によるストレスから精神的に病みがち」、「大きな事故につながらないか不安になる」と深刻な実態が綴られていた。隊員が、インタビューに答え「厳しさが増す業務に耐えきれずに辞めていく隊員が後を絶たず、残された隊員への負担がますます重くなっている」と。
※すでに、イラクやインド洋に派遣された経験のある在職者中の隊員の死亡者総数は35人に上り、その中の16人が自殺であることが明らかになっている。特に海上自衛隊では自殺やいじめなどが急増しているという。
 単に業務負担増や任務のストレスに解消することはできない。自衛隊を「保有する自衛隊」から「戦える自衛隊」へ性格を変えていくために、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)や中国の敵視、市民を弾圧の対象とする思想教育と弾圧訓練、実戦的軍事演習、アメリカの軍事戦略への組み込みなどが推進される中で、隊員たちの日常的な緊張が要求される。海上自衛隊はインド洋への海外派兵を至上命題として、それを軸にして活動が組み立てられていく中で、ひずみを生み出しているのである。それらは人命軽視、人権蹂躙も、市民生活破壊につながる。日米軍事同盟強化が、衝突回避行動さえできなくなるまでに、突走っている実態を明らかにしている。
 番組の最後は3月13日、また新たに6艘目のイージス艦「あしがら」が配備され、「あたご」と同じように1年かけて、実戦配備しようとしていることで終わっている。
(2008.3.20.KB)



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