イージス護衛艦漁船衝突事故徹底糾明!政府・防衛省は全事実を明らかにせよ!
軍事最優先・人命軽視がもたらした重大事故
□なぜ迅速な救命・救助活動を行えなかったのか?
□なぜ自動操舵を解除し回避行動をとらなかったのか?

石破防衛相は、隠蔽工作・情報操作の責任を認め、辞任せよ!

[1]防衛大臣が直接関与した隠蔽・ウソ・口裏合わせ・情報操作

(1)石破防衛相が直接関与した重大な事実隠蔽、ウソ、口裏合わせなどが次々に発覚している。
 石破は事故翌日の20日午前8時半には、あたごによる清徳丸の確認が2分前ではなく12分前との確定情報を得ていたにも拘わらず、午後5時まで発表していなかった。いやすでに事故当日19日の午後8時半ごろには「漁船を衝突12分前に発見した」という断片的な情報を得ていたという。情報を得てから20時間、確定情報からでも半日も情報を握りつぶし、その間ずっと2分前と言い続けていたのだ。しかも「12分前」の発表は記者会見でも何でもなく、自民党国防部会での説明なのである。
 さらに石破は、事故から6時間後、第3管区海上保安本部の本格事情聴取が始まる前に、大臣室であたごの航海長から事情を聴いていたことが発覚した。なんと「けが人を運ぶ」とウソを言って航海長をヘリコプターで移送し、石破のほか防衛事務次官、統合幕僚長、海上幕僚長の4人が事情聴取したというのだ。石破は海上保安庁に事前連絡したと主張しているが、海保は聞いていないと言っている。この航海長は事故直前の当直交代時まで当直士官を務めていた最重要人物である。そうそうたる防衛首脳4人の前で当時の航行責任者が説明を求められて、当事者はなんと答えるだろう。航海長は見張り員の話として「2分前、緑の灯火」と説明したという。事故以降あたごが海上自衛隊横須賀基地に接岸され、乗組員約300人は館内から一切出ることは認められず事情聴取を受けていたとされる中での出来事だ。
※事故6時間後、航海長呼ぶ=聴取人物、海保に報告せず−イージス艦衝突で防衛省(時事通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080226-00000011-jij-soci
※イージス艦事故:防衛相、航海長を当日聴取 説明で触れず(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/today/news/20080227k0000m040156000c.html
※「漁船確認は12分前」防衛相、首相に半日報告せず(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20080226-OYT1T00145.htm

(2)石破は22日の衆院安全保障委員会で情報操作や隠蔽が発覚した場合は引責辞任すると豪語していた。ところが26日午前マスコミに追及された石破は、情報確認するのに時間がかかったなどと開き直り辞任を拒否している。それどころか「12分前ということを隠して、防衛省にとって何の意味があるのか」と逆ギレしている。だが「2分前、緑の灯火」か「12分前、赤の灯火」かは、回避義務の所在や回避措置の緊急性の程度から決定的問題だ。「2分前、緑の灯火」は、清徳丸に回避義務をなすりつけるものなのである。だからこそ当直士官引き継ぎの問題も含めて今なお捜査が続けられている。
 新勝浦市漁協側が21日に記者会見を開いて「緑の灯火は金平丸のもの」「30分前にレーダーで捕捉していた」など、ホワイトボードやGPS記録などを使って証言を行ったのは、一般的な防衛相への不信感だけではない。黙っていたら「犯人」にでっちあげられてしまうからだ。責任を押しつけられてしまうからだ。まさに石破がしようとしたのはそういうことではないか。だから石破は、あたごに有利なよう口裏合わせをした「2分前緑の灯火」を否定する事実が伝えられて動揺していたのではないのか。それとも、2分前だろうと12分前だろうと衝突したのは一緒、沈んだ者は戻らないとでも言いたいのか。これが情報操作、隠蔽でないとすれば、一切のデタラメがまかり通ってしまう。石破は即刻辞任を表明すべきである。
※漁船確認時間の修正、石破防衛相が「情報操作」否定(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20080226-OYT1T00260.htm

(3)しかも最新鋭イージス護衛艦が漁船に衝突・沈没させ、いまだに2人が行方不明という重大事故にも拘わらず、石破は一切事故についての責任を認めていないし謝罪もしていない。これ自体が異常なことである。たしかに石破防衛相は21日親族と漁協に対して「申し訳ない」などと口にしたが、一体何が申し訳ないのか、何に謝っているのかが全く明らかではない。「お騒がせして」「あってはならない事故が起きて」などとまるで人ごとのようなコメントだった。「2人を返してほしい」と詰め寄る親族に冷たい態度をとり続けた。
※イージス艦事故:防衛相が千葉に 「2人を返して」と親族(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20080222k0000m040112000c.html
 石破は22日の記者会見でも、「自動操舵は一般論として不適切」としながら「舵をきって巻き込んでしまう可能性がある」などと語っている。これは、一般的には自動操舵は不適切だがあの状況で本当に不適切だったのか、直進せず右舵をきれば巻き込んでしまうと判断したあたごの行為は正しかったのではないか−−そのような含みを持たせている。誰が一般論を問題にしているのか。要するに防衛省はいまだにあたご側の回避責任も、自動操舵の誤りについても一切公式には認めていないのである。もちろん海上衝突予防法に照らして明らかな違法行為も認めていない。
※イージス艦事故:「情報操作発覚なら辞任」防衛相答弁(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20080222k0000e010034000c.html

(4)ところが、事実関係や事故原因なども全く明らかになっていない状況のもとで、石破は自らの進退は棚に上げながら、「連絡の遅れ」を理由に21日には海上幕僚長の更迭を事実上決め、26日にはあたご艦長の更迭に言及した。22日には福田首相が「防衛省の抜本的な組織改革」を石破防衛相に指示している。とかげのしっぽ切りで防衛相への責任追及を押さえ込もうという意図が見え見えだ。中川秀直などが公然と防衛省の隠蔽体質を批判していることから見ると、これをきっかけに組織改革を図りよりスリムな省の構築へと向かおうという腹なのかもしれない。だが問題は連絡体制の不備でも人為ミスでもなく、人命よりも、人権よりも、人民生活よりもアメリカの戦争への協力を最優先する日本政府の姿勢そのもの、証拠を隠蔽し、人為ミスで片付けようとする防衛省の体質そのものである。この体質が、事故を引き起こし、救助活動を遅らせ、情報を隠蔽しているのだ。そして今回のあたご重大事故と隠蔽工作、歴代防衛閣僚と官僚トップを巻き込んだ守屋疑獄、インド洋給油問題での20万ガロンねつ造、沖縄少女性暴力事件、米軍再編にかかわるアメとムチ、沖縄集団自決への軍強制の削除等々数え上げればきりがない−−これら軍は自らの防衛と擁護を最優先し、血税を費消し人民の財産を食い物にし、住民に牙をむくという体質は、石破や福田が関与し構築してきた日米軍事同盟と戦争国家化の体質そのものである。私たちは事故の事実関係と責任の徹底究明を求めたい。私たちは、石破防衛相の責任を徹底して追及する。


[2]事故の事実関係と責任の徹底究明を!

(1)まず事故直前の状況について確認しておかなければならない。漁協側の証言などが著しく軽視され、見張り員が衝突2分前に右手に確認した緑色の灯火は清徳丸のものであるという当初の発表がいまだに公式に訂正されていないことや回避義務の所在などとの関係で特に重要である。

(a)緑色の灯火はどの船のものか。
 当初見張り員は午前4時5分ごろに清徳丸とみられる緑色の灯火を視認したが、自動操舵のまま速度を維持して航行し、衝突より約1分前の時点になって緑色の灯火がスピードを上げたためようやく船と確認し、操舵を手動に切り替え急制動をかけたが間に合わなかったと主張していた。ところが以下のような証言と証拠によって新たな事実が解明されている。
 清徳丸を含む7〜8隻の漁船団はあたごの右前方を右から左に航行していた。事故直前の漁船の位置関係は清徳丸の右後ろに金平丸、左後ろに康栄丸が三角形を描くように航行し、清徳丸の前方には幸運丸が航行していた。まず午前4時頃に幸運丸がイージス艦の前方を横切った。次に金平丸があたごを回避するために右へ大きく舵を切ったがあたごが回避行動をせずにそのまま直進してきたため、回避針路があたごの針路と交わる危険を感じ、あわてて左へ舵を切り直してほぼ180度転回しイージス艦をやり過ごした。金平丸の船長は、「左へ舵を切ったのは金平丸だけであり、見張り員が目視したという緑は金平丸の灯火ではないか」と主張している。この通りだとするとあたごは衝突するまで清徳丸を全く確認していなかった可能性がでてきている。金平丸の緑の灯火にだけ気をとられている内に清徳丸に衝突した可能性である。
※イージス艦衝突 回避へ舵…動かぬ証拠GPS 海保、僚船船長ら聴取(産経新聞)
http://data.news.goo.ne.jp/article/sankei/nation/m20080221002.html

(b)回避義務の所在
 回避義務があたごにあったことは、もはや否定しがたい事実である。上記のように清徳丸を含む漁船団があたごの右の方から航行しており、あたごが避航船、清徳丸が針路・速力保持船であることは間違いない。
 だがさらなる重大な疑惑がある。そもそも海自側が「緑の灯火が見えていた」と公表したのは、あたごに回避義務が生じないように作った苦し紛れの出任せではないかという見方である。清徳丸があたごを左から右に横切っていたとすれば、回避義務はあたごではなく清徳丸に生じるからだ。緑の灯火は金平丸のものではないかというのは、あくまで当初の「緑の灯火が見えた」というあたご側の証言がが正しければそうなるという話だ。もっとも金平丸の船長の証言の正しさはGPS記録装置によって証明されている。
 この疑惑は、石破ら防衛首脳4人による航海長の事情聴取、口裏合わせ疑惑の発覚によってますます信憑性を強めているのではないか。
※海上衝突予防法
http://www.houko.com/00/01/S52/062.HTM
※左舷側から衝突と断定 あたごに回避義務か (静岡新聞)
http://www.shizushin.com/national_social/2008022101000773.htm

(c)なぜ急制動をかけながら舵を切らなかったのか。
 通常回避措置は「制動」と「面舵いっぱい」によってなされるが、なぜ制動だけをしたのかはわかっていない。最大の疑問の一つである。結果的に衝突の1分前に逆スクリューで制動を加えたことになるが、それが清徳丸を知覚した上での制動だったのかどうかも明かではない。(a)で言及したように、あたごが金平丸を視認しての制動であった可能性が高い。また、イージス艦が停止した直後、金平丸の船長と、康栄丸の船長は「船止まったよ」「おまえが前走って止めちゃったんじゃないの」という会話をしている。急制動をしたというよりも「ああ止まったな」という感じだったという。この時点でふたりは、清徳丸が衝突・沈没させられたことを知らず、そのまま漁を続けている。あたごは清徳丸を除けるためではなく、横切った金平丸に驚いて制動をかけた可能性がある。そうであれば、右舵をきるという発想は出てこない。
※「大型船」避け右へ左へ 衝突の経緯次第に判明(朝日新聞)
http://www.asahi.com/special/080219/TKY200802210407.html

(d)なぜ警笛と警告ライト点滅を行わなかったのか。
 あたごが緑の灯火を船と認識した衝突前1分の時点で、なぜ警笛をならさなかったのかという疑問がある。そのときのあたごと清徳丸の位置関係は回避措置をしても衝突を避けられない「傘形危険界」に迫っており、あたごが緑の灯火を認識した時点で警告を発すべき状態だった。しかし、清徳丸の僚船の船長はいずれも「汽笛は聞いていない」と口をそろえている。これは明確に海上衝突予防法違反である。これについても海自は、「汽笛は通常鳴らすが、今回どうだったかは調査中」と話している。ただし、24日になって、あたごの乗組員は警笛を5回鳴らしたと話し始めているという報道もある。
※海自イージス艦・漁船衝突:危険界進入時、漁船に警笛発せず 衝突予防法に違反(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20080222ddm001040017000c.html
※「警笛5回」イージス艦乗組員が供述、漁船証言と食い違い (読売新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080223-00000059-yom-soci

(2)もう一つの決定的な論点はいつあたごは清徳丸と漁船団を確認したかという問題である。それは、なぜ衝突1分前まで自動操舵を漫然と続けたのかという問題と一体である。[1]で述べたように、防衛相は事故が起きた19日夜、清徳丸の接近に初めて気付いたのは午前4時5分と発表したが、翌20日夜、衝突の12分前の3時55分に清徳丸とみられる漁船の灯火を視認したと修正した。12分前に灯火確認したとされる見張り員は、緊急性を感じず当直士官などに報告をしていなかったと22日に報じられていた。
 しかし24日には、衝突時の当直士官が交代前の当直士官から「針路方向に漁船群が存在する」という引き継ぎがなされていることが報じられている。この引き継ぎは、3時45分から55分頃に行われており、すでに交替前の見張り員も交代後の見張り員も漁船群の確認があったことを示している。それぞれ26人が漁船群の存在を知っていたことになる。レーダーで漁船群が捕らえられた場合、場所と速度などから衝突する危険のある船を注視し、追跡をしながら進路を変えるなり停止するなりしなければならない。そのような追跡が全くなされていない。そのまま自動操舵が続けられている。
※イージス艦 当直責任者も船団把握、回避指示せず(朝日新聞)
http://www.asahi.com/national/update/0224/TKY200802240169.html

 また、清徳丸の船長は、衝突の約10分前、すなわち午前4時前ごろに無線で、あたごにライトを照らされたと僚船に連絡している。これはあたごが清徳丸を覚知し、警告して追い払うためにパッシングをしたことを意味する。だが、僚船の船長たちはだれも「警笛」を聞いていない。海上衝突予防法では、衝突の危険が生じた場合、「直ちに短音を5回以上鳴らすことにより汽笛信号を行わなければならない」と定めている。さらに、「せん光を3回発することもできる」と明記している。義務づけられた警笛をならさず、なぜパッシングだけをしたのか。清徳丸を視認しパッシングをしてからかい、追い払おうとしていたのではないかという疑いがある。
※衝突、証言に食い違い…ライトや回避行動で防衛省と漁船側(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080221-OYT1T00357.htm
 さらに金平丸、幸運丸の船長らは両船のレーダーに30分ほど前にあたごが映っていたことを証言し、あたごが「30分〜1時間前にレーダーで捉え漁船団を認識していたはずだ」と主張している。最初だんまりを決め込んでいた防衛省側は、あたごのレーダーの記録がないなどと言い出した。最初から記録を取っていなかったとされているが、証拠隠滅のために事故後に消去・破棄した可能性も否定できない。
※イージス艦焦点 レーダー員、船団把握は?情報伝達は?(朝日新聞)
http://www.asahi.com/national/update/0224/TKY200802230394.html?ref=doraku


[3]軍優先、民間蔑視、人命軽視がもたらした惨事

(1)私たちは、このような経緯を見て、あたごが、漁船がひしめき合う現場へライトをパッシングをしながら一直線に突入し、「イージス艦様のお通りだ、どけどけ」といわんばかりに突っ切ろうとしたとしか思えない。僚船の船長たちはあわてふためき、スピードを上げ、右へ左へと舵を切りながらなんとか難をのがれたが、清徳丸は逃げ切れずに胴体を直撃され沈められてしまった。何も今回が特殊なのではない。自衛艦はいつもそうやって民間船を追い払い、漁場を荒らしていたのではないか。防衛省のでたらめな大本営発表に対する漁協の厳しい反論は、日頃の怒りが爆発したものにほかならない。巨大軍艦に直撃された清徳丸の親子の恐怖と無念はいかほどのものだったか。
※不明の哲大さん、ホームレス支援団体に魚贈る(朝日新聞)
http://www.asahi.com/national/update/0222/TKY200802220200.html
※「大型船」避け右へ左へ 衝突の経緯次第に判明(朝日新聞)
http://www.asahi.com/special/080219/TKY200802210407.html

 現場の相模湾沖はマグロ、カジキ、カツオ漁がさかんで漁船や貨物船、タンカーの航行も多い船の密集地である。ちょうど明け方には東京湾から漁船が漁のために繰り出してくる。そして自衛艦は横須賀基地へと向かう。ちょうど対向する。現場には清徳丸と僚船だけがいたのではない。付近を一度でも航行したことのある人たちは、「自動操舵にするなど考えられない」「ぶつからないようにかなりの緊張が必要」などと口々にいっている。海上保安庁は、自動操舵から手動に切り替えるよう指導する条件として、@漁船が多い、A他船と接近するとき、B船舶交通の多い場所で進路を変えるときなどというが、こんなことはわざわざ指導される必要もないだろう。人命と事故防止を第一に考えているならば、自動操舵が不適切であることは素人にでもわかることである。
※東京湾レーダネットワーク監視システム
http://202.212.165.70/guide1.html
「東京湾は大小の各種船舶の出入りが非常に多く、また、湾の内外で操業する漁船が航路付近に密集することがあるので航行には十分注意が必要である。」という警告まで加えられている。

(2)26日読売新聞朝刊には、ようやくあたご艦長船渡健一等海佐の本格事情聴取が25日に始まったことが報じられている。私たちは、現場の最高責任者である艦長がなぜ記者会見に応じもせず、責任が一切問題にされないのか強い疑念を抱いていた。いわば危険海域にさしかかろうとするときに仮眠をし、あらかじめ当直士官に適切な指示もしなかった艦長の責任は極めて重大である。当然事故後の救助活動の責任については艦長が負わなければならない。
 海自内部やOBからも批判が噴出している。現場の野島崎沖は、関門海峡や瀬戸内海と並ぶ過密地域、危険箇所として海自内部でも知られているという。艦長の経験者らは、漁船群の中に入ってしまうと回避行動に強い緊張を強いられるため、「漁船団を発見したら大きく迂回するのが通常だ」「艦船の両方のスクリューを止め、完全停止するなどの措置を講ずるべき」「ずっと手前で自動操舵を解除し、艦長は起きて艦橋で指揮していなければならなかった。眠っていたとすれば言語道断」などという批判が出されている。
※漁船団突入は常識外 海自内野島崎沖部からも「あたご」批判(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2008022590081303.html
※海自OBら批判連発 「艦長寝ていた?言語道断」(朝日新聞 2月25日夕刊)

(3)もちろん、自衛艦はいつも漁場荒らしのように、なりふり構わず漁船ひしめく現場へ突入していく無法者だというのはあまりにも極論だろう。そんなことをしていれば、自衛艦による海難事故が多発するだろう。だが、今回の事件に遭遇したある乗組員が、「あたごは、私の表(前方)を空けろという風に走っていた」と証言しているし、船員たちは口々に「軍艦は絶対に進路を譲ってくれない」「自衛艦など大型船は、小回りが利く漁船が回避すると思い込み、自分たちは漫然と進んでくる」などと語っている。また、あたごの乗組員自信が今回の事故について「相手が避けると思った」と語っている。要するにあたごは漁船がよけることを前提にして針路も速度も変えることなく漁船群の中へ突き進んでいったのである。決して事実とかけ離れているわけではない。事故が起こらなかったのは漁船や民間船が注意深く自衛艦を避けてきたからに他ならない。起こるべくして起こった事件だ。
※「相手がよけると思った」 漁船確認の見張り員供述(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2008022401000509.html

 もうすこしリアルに状況をみていこう。
 自衛艦のレーダーは30分以上前に漁船団を見つけていたと見られるが、少なくとも衝突12分前に灯火が視認され、3キロ以上手前(10ノットの場合)、右前方に数隻の漁船を確認している。当然、あたごはここで漁船群が操業中(操業灯を付けている)なのか、移動中なのかを確認しなければならない。操業中であれば操船が自由にできないために、進路上にあれば事前にあたごが迂回しなければならない。移動中なら、自分の進路を横切るのかどうか確認する必要がある。いくら自衛艦でも操業中の漁船団の中につっこんではいかないだろう。当直士官が自動操舵を意識的に選択したとすれば、様子を見ながら操業中で進路上には来ないと判断したか、衝突せずにやり過ごせると判断したはずである。だが、「職務怠慢」「たるんでいる」といわれているように、このときに本当にそのような判断を下したのか、緊張感をもって事態に対処したのかは疑わしい。
 次に衝突7分前には一隻の漁船(幸運丸と見られる)が前を横切った。この段階で当然漁船団は操業中でなく移動中であり、あたごの前を横切ると判断し、右に回避しなければならなかった。
 さらに、「緑の灯火」(金平丸と見られる)を確認した時点で回避措置がとられなければならなかった。すでに幸運丸が移動中していることを考えれば、緑の灯火も移動中であると考えてしかるべきである。以上をみてもあたごは3回の回避機会を逃している。
 イージス艦は、タンカーやフェリーなどと比べると比較にならないくらい小さい半径で旋回できる。もともと駆逐艦は魚雷や爆弾を回避できるように運動性が高い。少し旋回するくらい簡単なことだ。なぜそれをしなかったのか。漁船団が見えた時点で当然大きく回避するべきものをなぜしなかったのかが問われなければならない。
※<イージス艦事故>見張り員「漁船が避けると思った」(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080223-00000009-mai-soci
※イージス艦の当直士官、交代時に漁船認識も回避行動とらず(読売新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080224-00000036-yom-soci
※イージス艦事故:原因と責任、海自と漁協で主張の溝広がる(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/jiken/atagocollision/news/20080222k0000m040140000c.html
※複数の乗組員「よく覚えていない」(TBSニュース)
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3786671.html


[4]人命軽視の自衛艦 「船に乗る資格はない」

(1)官邸、防衛大臣への通報の遅れも、救命・救助活動の遅れとして批判されなければならない。有事体制の連絡体制の不備にすり替えるのは言語道断だ。「漁船がテロリストだったらどうするのか」というような信じがたい暴言がまかり通っている。「テロリストだったらどうするのか」の背後には、「テロリストで無くて良かった」「衝突したのが単なる漁船で良かった」「海にたたき落としたのがただの漁師2人でよかった」「イージス艦が無事で良かった」という考えが根底にある。多かれ少なかれ政府にも自衛隊にもそれがある。だから、イージス艦の安全が保たれたことが第一であって、救命はどうでもいいのである。閣僚や議員たちの暴言の背後には、イージス艦が小さい民間船、漁船に当たって沈没させたくらいたいしたことではないという考えがあるのではないか。

(2)以下救助活動について見てみよう。
・あたごの見張り員は、4時5分頃に緑色の灯火を確認した。
・さらにその一分後4時6分頃に灯火が船であることを認識して逆スクリューで後進をかけ急制動した。
・4時7分に清徳丸に衝突した。

 [2]でも述べたように以下のような補足が必要である。
@緑色の灯火は、当初清徳丸のものと考えられていたが、金平丸が急転回した時のものである可能性が高い。
Aあたごが急制動をかけたのは、その金平丸があたごの前を横切る形になったためで、あたごは清徳丸を一切関知していない可能性が高い。
Bあたごは衝突直前に灯火を5回余り点滅させている。点滅直後に艦全体に明かりがつき、停止したという僚船の乗組員の証言がある。

午前4時7分  イージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」が衝突
  4時23分 「あたご」から無線で海上保安庁に事故の一報
  4時40分 「あたご」から護衛艦隊司令部に連絡
  4時45分 護衛艦隊司令部から自衛艦隊司令部に連絡
  5時00分 試験艦「くりはま」護衛艦「しらゆき」が捜索開始。その後、3隻とヘリ4機などが加わる
  5時38分 石破茂防衛相に事故の連絡
  5時55分 政府が情報連絡室を設置
  7時00分 海自が事故調査委員会を設置
  8時00分 首相、官房長官、防衛相、国交相が対策会議。首相は「全力挙げて捜索するように指示」
  9時25分 石破防衛相が会見。「極めて遺憾。捜索、救助に全力挙げている」
   http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080219-00000919-san-soci (産経新聞より)
 
防衛省のホームページでは、 
  4時8分 あたご内火艇2隻で救助活動作業開始を下令
  4時21分 救助活動を開始
 とされている。
http://www.mod.go.jp/j/news/atago/pdf/080221_chronology.pdf

 仮に衝突後すぐにも救命・救助活動が行われていれば、2人は無事で発見された可能性がある。冷たい冬の海での捜索の勝負は落下直後の5分から10分、15分だと言われる。上記からすると、1分後には救命ボートを下ろす命令が下されている。だが、実際に救助活動が開始されるのは4時21分だ。すでに14分も経っている。タイムリミットだ。さらに捜索活動開始とされるのは5時である。しかもそれは駆けつけた試験艦「くりはま」と護衛艦「しらゆき」が開始した。
 イージス艦からサーチライトが照射され、救命浮き輪やゴムボートなどが次々と投下され・・・というようなあわただしい光景は目撃されていない。イージス艦の停止直後明かりがついたというのは金平丸の船長らの証言からわかっている。この明かりとは艦上の照明であると思われる。しかし、異変が起こったという印象がなかったことから金平丸などはそのまま漁をつづけ事故を知るのはそれから2時間後になるのだ。あたごから僚船に対して救助活動への協力を求める連絡もない。なぜそうしなかったのか

(3)何が起こったかはわからないが、大変な事が起こったようだ、ひとまずサーチライトをつけ、警笛を鳴らし、付近の漁船などにも事件をしらせ、協力を仰ぐというような発想はなかったのか。この時点で人命最優先ではなく組織防衛、できる限り事を荒立てず、事態の状況をきちんと把握してから連絡をしても遅くない−−こんな考えがあったのではないか。だからこそサーチライトも付けずに粛々と小舟を下ろして状況を判断し、事態を目の当たりにして「やっぱりやってしまった」とばかりに、16分も経ってから海上保安庁に連絡を入れたのではないか。とすれば、この一分後の「救助活動作業開始」の命令というのは後講釈であって、実際には「状況把握活動開始」である。しかも一分後になされたのは、命令だけである。ある漁師は1分後なんかにボートをおろせるか!とすぐに救助活動をしたことにしてごまかそうとしていることに憤慨している。
 「何にぶつかったか分からない段階では通報できない。」−−これは、通報の遅れの批判に対する防衛省の答えである。この発言自身が、事故直後に出した救命ボートが救命のためではなく、状況把握のためのものであったことを何よりも示している。
 仮に巨大イージス艦からボートを降ろし、状況を把握するのに15分もかかるというのであれば、イージス艦は民間船で行き交うところを航行すべきでない。存在そのものが違法であると言うべきである。
※イージス艦事故 救助開始14分後、通報16分後  『あたご』対応遅れる (東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2008022590135041.html
※イージス艦事故:救助の作業艇、衝突14分後に降ろす(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20080226k0000m010100000c.html
※予算委員会質疑(動画)(500k)
http://www.shugiintv.go.jp/jp/wmpdyna.asx?deli_id=38410&media_type=wb&lang=j&spkid=6940&time=05:48:15.6 石破は答弁で、「作業艇を降ろすまでの14分間、乗員は甲板などに集まり双眼鏡で被害者を捜すなどしたほか、探照灯で衝突海域を照らし、艦橋や甲板から呼び掛けた」といっている。要するに上から見ていて、時々「おーいいるか?」呼びかけたのだ。

 もし、なるべく事が大きくならないように事故状況の報告の仕方や乗員たちの口裏合わせをしたり箝口令を敷いていたりしたとしたら恐ろしいことである。しかし、そう考えるのは不自然だろうか。現に、海自幕僚長が親族にマスコミに余計なことを話すなと口止めをしたり、捜索活動を一緒にしている漁船の乗組員に捜索情報を一切出さなかったりしている。捜索に当たった漁船の乗組員は「保安庁や自衛隊が浮遊物などを回収していて、私が様子を尋ねても『捜索内容は教えられない』という答えだった」と海保や海自を批判している。
※海自イージス艦・漁船衝突:「減速せず正面から」 僚船船長が証言、危険感じ右へかじ(毎日新聞)
http://mainichi.jp/seibu/seikei/news/20080220ddp041040025000c.html
※幕僚長が口止め発言?吉清さん親子の親族に(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080221-OYT1T00023.htm?from=rss

 救命・救出・救助活動は船乗りとしてのイロハ、船員法で明記された義務である。自船であろうと他船であろうと、通りかかった船であろうと、ましてや自分がぶつけた船である場合はなおさらである。漁協の組合員たちは、『あいつらは船に乗る資格はない!国を守ると言う資格もない!』などと怒りをぶつけている。..
※救命活動の遅れについては、ささやかれているもう一つの疑惑がある。それは、自衛艦側の失態があまりにも明かであったため、「ひき逃げ」「当て逃げ」でそのまま放置して逃げおおせるとでも思ったが、僚船がいたため、口封じのために見殺しすることを選択したのではないかという見方である。救助できなくなるまで通報を遅らせたというのである。本当とは思いたくないが、完全に否定することはできない。
※船員法
(船舶が衝突した場合における処置)
第13条 船長は、船舶が衝突したときは、互に人命及び船舶の救助に必要な手段を尽し、且つ船舶の名称、所有者、船籍港、発航港及び到達港を告げなければならない。但し、自己の指揮する船舶に急迫した危険があるときは、この限りでない。
(遭難船舶等の救助)
第14条 船長は、他の船舶又は航空機の遭難を知つたときは、人命の救助に必要な手段を尽さなければならない。但し、自己の指揮する船舶に急迫した危険がある場合及び国土交通省令の定める場合は、この限りでない。
http://www.houko.com/00/01/S22/100.HTM

(4)あたごは昨年11月から今月上旬まで、ハワイ沖でミサイルや航空機を撃ち落とす海上配備型迎撃ミサイル(SM2)の装備認定試験を実施しており、19日に横須賀基地に入る予定だった。イージス艦あたごは、日米が進めているミサイル防衛(MD)で中心的な役割を担う、まさに日米軍事同盟強化と軍国主義化最優先の日本の姿の象徴のような兵器である。今回の事件は、「俺たちはイージス艦だ、周りの小舟がよけて道を譲るべきだ」というようなあたごの傲慢な態度が、乗組員たちのエリート意識がストレートにでたものだ。それは人命軽視、民間軽視、人民生活軽視である。また、横須賀に基地があることが東京湾、相模湾の危険を著しく高めているという批判が強まっている。実は防衛省は、この事故が起きる2日前の2月17日に、漁船の安全運航に十分に配慮すると、千葉県漁協に約束している。防衛省は米原子力空母入港のため、神奈川・横須賀港の浚渫工事で搬出される土砂を衝突現場から南東に数十キロの海域に投棄する作業を実施する計画をたてていたが、漁協が、漁場となる時期は土砂投棄を見合わせるよう要求したため、安全航行を約束した上で、2月18日から無理矢理再開していた。今回の重大事故はその直後に起こったのである。彼らの言う「安全」「安心」がいかに嘘っぱちか。横須賀の原子力空母母港化と基地機能強化などとんでもない。今回の事故を徹底して追及することは基地問題にまで発展していくだろう。

2008年2月26日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局