小泉政権は4月28日に教育基本法「改正」案を閣議決定し国会に提出しました。与党は残り1月あまりとなった今国会で成立させるつもりです。 しかし、教育基本法は「教育の憲法」であり、日本国憲法とは一心同体の関係にあります。政府はこの最重要の法律をわずか1月あまりの超短期間に、国民的議論などまったくぬきで、国会中の数の力だけで通過させるつもりです。こんな国民を馬鹿にした強引なやり方で、教育の根幹にかかわる法律を変えさせてはなりません。 「改正」案の本質は戦後60年続いた教基法の根本理念を逆転させることにあります。「改正案」は自民党の狙う憲法改悪と連動したものです。前文では改憲後をにらんで日本国憲法との関係が削除され、教育勅語を否定し天皇制軍国主義と決別する宣言的な部分が意図的に削除されています。 教育の目的では、天皇制軍国主義の下で国のため天皇のために死ぬ子どもを作ったという反省から、一人一人の子どもを大切にし、「人格の完成」「平和的な国家及び社会の形成者」「心身共に健康な国民の育成」を目指すとしている基本理念が否定されています。代わって「愛国心」「道徳心」「公共の精神」「伝統と文化の尊重」など国家にとって「必要な資質」の育成が目的とされています。あるべき人格の姿を法律で決めようというのです。これでは学校は戦前と同じように政府の望む子どもを作る工場になってしまいます。 また、政府が教育を支配することを禁じた「教育は不当な支配に屈することなく」の文言は残しましたが、国民こそ教育の主権者であることを示す「教育は国民全体に対し直接責任を負って行われるべき」の項と、教育行政の任務を「必要な諸条件の整備」と限定した部分を切り取りとっています。現行法で国家・行政が教育に介入し支配することを禁じた根幹部分を削除することによって、多数派政党の数の力によって「法律」(「政令」や「通達」にも拡大解釈されていくでしょう)で決めさえすれば、国家はどのような教育でも国民に押しつけることができるようになります。教基法「改正」案は、「国・政府」を教育の主語・支配者に引き上げ、国民を政府の決めた教育政策に従うだけの従属的存在に貶め、現行法における国民と国家の主従関係を180°逆転させています。 教基法改悪が行われれば学校と子どもの状態は恐るべきものになります。現状でさえ、東京では「君が代」で立たないだけで教職員が停職にまで追い込まれ、法律や人権無視の横暴がまかり通っています。改悪が行われれば、君が代を容認するかどうかどころか、子どもたちは「愛国心」「公共心」「道徳心」「天皇への崇拝」などが有るかどうかで評価され、成績が付けられるようになるのです。教職員はこれらを「徳目」として子どもにたたき込むことを強制されるでしょう。思想・良心の自由は、公教育の現場では完全に否定されます。改悪教育基本法は、まさに政府に教育に関する絶対的権限を与えるものです。その結果は、個人の尊厳、民主主義、平和主義の破壊であり、憲法そのものを否定するものです。 改悪教基法の下で起こるもう一つのことは教育の機会均等の破壊、新自由主義による格差拡大です。すでに現在でも政府・文科省によって教育に弱肉強食の「自由競争」が持ち込まれています。小中、中高一貫校や株式会社立学校等エリート育成校、学校間競争の拡大と学校選択の自由化、全国学力テストによる学校毎の順位付けの準備などです。06年度文科省予算には、今後これら全体を管理するための「教育水準局」の設置が盛り込まれました。「エリートは100人に一人でいい」「非才、無才はただ実直な精神だけを養ってくれればいい」という切り捨てと選別主義が、大手を振って横行することになります。金の有るものだけが「良い」教育を受けられ才能を伸ばせる不公平社会のシステム=小泉の新自由主義政策を教育に持ちこませてはなりません。 情勢は緊迫しています。国会会期は6月18日までです。教基法改悪を会期延長で強行するか、延長なしで継続審議にするか、政府はまだ腹を決めていませんが「延長して強行」の線が強まっています。「教育基本法の改悪をとめよう!全国連絡会」は6月2日に再度の全国集会、国会行動を呼びかけています。第4回の連続講座は、この極めて重要な時期に開きます。講座までに、国会議員、地方議員への働きかけや街頭宣伝など、それぞれができることに取り組み、講座にご参集ください。いまこそ、戦後教育の中の民主主義を守るために全力を挙げることが必要です。 講師紹介 大内裕和さん 1967年神奈川県生まれ。教育社会学。現在松山大学人文学部助教授。「教育基本法の改悪をとめよう!全国連絡会」呼びかけ人。主な論文に「教育における戦前・戦時・戦後」(山之内靖ほか編『総力戦と現代化』柏書房)、「現代教育の基礎講座 教育と社会を理解するために」(『現代思想』2005年4月号)、 「教育を取り戻すために」(『現代思想』2002年4月号)著書に『教育基本法改正論批判』(現代書館)など。 2006年5月7日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局 <案内チラシダウンロード(pdf 41KB)> 第5回講座の案内
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