憲法改悪、教育基本法改悪に反対する連続講座のご案内

第5回 「国家構造の根本的転換を目論む反動的改憲阻止のために−−「公益」の名による権利の包括的制限」
講師:冠木克彦さん(弁護士)

日時:7月2日(日) 午後1:30〜4:00(開場1時)
場所:阿倍野市民学習センター 講堂(阿倍野ベルタ3階)    <地図>
会場費:700円
主催:アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局


 憲法というような一国の根本規範が改変されるのは通常は社会の大変動により、その大変動を指導した政治勢力が中心になって新しい価値観に基づいてなされます。現に、現在の憲法は天皇制軍国主義によるアジア・太平洋戦争という侵略戦争と植民地支配、中国・朝鮮・アジアの多くの民衆に対して犯した殺戮・破壊行為など、過去の過ちを反省し、その原因を除去しようとしたものであり、平和主義と第9条に代表されるように国内外の力関係と当時到達しえた「普遍的な価値」に基づいて成立しています。
 ところが今日、こんな大変動がないのに、政府・自民党は憲法を変えるとして改憲案を出してきました。一般的に宣伝されているのは、第9条をかえて自衛隊を海外に出兵させることだけで、あとは、別にたいした変更がないようにいわれていますが、とんでもありません。クーデター的にこっそりと「国家構造の大転換」をはかろうとしているのです。

 第一は、言うまでもなく、堂々と「戦争のできる国家」にすることです。軍隊の保持をうたい、「国際的協働行動」と称して、自衛隊と米軍との協働によるグローバルな軍事介入、グローバルな戦争行為を「国際社会の平和と安全」のためという名目でやるということです。しかし、戦争国家は人権抑圧を同時に伴います。したがって、第二に、基本的人権を抑圧するということです。連続講座5回目の今回は、この基本的人権のあり方を根底から覆す危険性を暴くことをテーマにします。

 改憲案第12条には「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚しつつ常に公益及び公の秩序に反しないように自由を享受し、権利を行使する責務を負う」と規定しています。この規定は“一般的包括的規定”ですから全ての権利の解釈や、法律で権利の内容を定めるときにこの規定が猛威をふるうのは間違いありません。例えば、良心の自由は「保証されるが」日の丸を掲揚してそれに敬礼し、君が代を歌うのが「公益」であって「公の秩序」だからそれに反する行為は許されないとか。
 今でも「公共の福祉」による制限がありますが、これは「人権相互の調整原理」であり、「国家による人権制限」ではありません。例えばデモ行進だと、いきなりやられると道路使用者らの諸権利が混乱させられるから「届出」はしてくれというようなことです。「公益」「公の秩序」というと国や公権力のすることは全て「公益」です。私益はありません。ということは改憲案によれば、結局、国家権力の言う制限のもとでしか権利が存在しないことになってしまうのです。これは、戦前の天皇制憲法で規定された「法律の範囲内」での権利行使という文言よりも、法律上はもっとひどいものです。「公益」は無限に広がる概念ですから、政府にとって都合の悪いことは全て制限できる仕掛けになるのです。下手をすれば「暗黒社会」にもなりかねない危険な条文と言わざるをえません。

 憲法や法律を考える時の大切な視点は、国家社会を形成している私たち主権者たる国民であり、この国民が自由に発言でき、国家権力が不当なことをやった時、これと闘うことができる保証があるかどうかということです。その意味で、改憲案の中で最も危険な規定こそ、この「権利の包括的制限規定」です。基本的人権が国家の都合で制限されてはなりません。国家が国民に襲いかかった時、国民に対して不当な行為をやった時、これに対する反対・抵抗の権利が憲法上保証されているのか、ここが肝心要なのです。
 自民党の改憲案の最も危険な本質は、この基本的人権のあり方に真正面から攻撃を加え、国民の抵抗する権利を奪おうとしていることです。「権利の包括的制限規定」を発動されると現行憲法が保証している権利行使ができなくなります。本来憲法は国家権力に守らせるべき制約原理を定めたものですが、この改憲案は「詐欺的手法」を使って、“国民抑圧憲法”にしようとしているのです。絶対許してはなりません。

2006年5月18日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局



講師紹介 冠木克彦さん
 弁護士として、高浜原発差止訴訟、高浜原発MOX燃料装荷差止仮処分訴訟、大阪筋短縮症医療被害訴訟、掃海艇派遣違憲訴訟などの主任を担当。大阪労働者弁護団幹事、大阪社会法律文化センター理事、「脳死」臓器移植による人権侵害監視委員会事務局、大阪中国人強制連行受難者追悼実行委員会代表など。





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