反占領・平和レポート NO.54 (2007/7/8)
Anti-Occupation Pro-Peace Report No.54 |
オスロ合意以降一貫して追求されてきた
イスラエル型アパルトヘイト体制−−完成と崩壊の危機
Having Been Pursued Consistently After Oslo
Agreement
Israeli Apartheid -- near completion
of it
and the crisis of its colapse
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(1) 前号の反占領・平和レポートNo.53で、5月に入ってからの一連の事態について評価し、ウリ・アヴネリ氏の論説「ワニの涙
Crocodile Tears」を翻訳紹介した。その段階で、既にアヴネリ氏の次の論説が出されていて、そこで、シャロンのガザ撤退の隠された意図が暴露されたことが述べられていた。前号ではその一部の要点を取り急ぎ簡単に紹介したが、ここに、アヴネリ氏のその論説を翻訳紹介する。
パレスチナをバラバラに解体し、分断統治し、やりたい放題に領土併合する体制を、イスラエルはオスロ合意以降一貫して追求してきた。そして今、ガザ=ハマス、西岸=ファタハという究極の分断統治の形でついにそれを完成させようとしている。これまでの和平についてのあらゆる言説は、真の意図を覆い隠すためのものでしかなかった。イスラエルが一貫して追求してきたものは、イスラエル型アパルトヘイト体制にほかならなかったのだ。
シャロンは西岸を3つに分割し、ガザ地区とあわせて、パレスチナを4つのカントンに分断して支配する計画を練っていた。事態は、まさにそのような形に近づいている。しかし、意図したとおりのプロセスを通じて完成に近づいたのではない。パレスチナ人民の反占領闘争がハマスのもとに結集するというかたちをとりはじめ、擬制国家の番人に仕立て上げようとしていた者たちがガザ地区から脆くも駆逐されるという、イスラエルにとっての誤算の結果として、形の上で実現したものである。
(2) ようやく完成に近づいたこのイスラエル型アパルトヘイト体制を維持できる展望は、全くおぼつかないものである。アヴネリ氏も指摘するように、「全くのファンタジー」であり、「一民族全体が買い取られることなどありえない」のである。「おおいにありそうなことは、ガザ地区の人々の怒りが、自分たちを飢えさせているイスラエルの監獄の番人に向くということである。そして、西岸の人々は、ガザ地区で辛い思いをしている同胞を決して見捨てないだろう。」
オルメルト政権は当面する危機から脱し、バラクとペレスを取り込んで強化された。しかし、西岸でもハマス支配が実現しないようにアッバスとファタハを強化することと、和平交渉をしなくてすむようにアッバスとファタハを弱体化させることとの二律背反に直面している。アッバスとファタハは、ついにイスラエル型アパルトヘイト体制の協力者・番人に最後的になりさがるかどうかの瀬戸際に立たされている。だが、彼らがどのような選択をしようとも、パレスチナ人民全体がアパルトヘイト体制におとなしく服従することなどあり得ない。絶対にあり得ない。
2007年7月8日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局
エフード・オルメルトは、フリジアの王ミダスと正反対である。ギリシアの伝説によれば、ミダス王が触れるあらゆるものは金になった。オルメルトが触れるあらゆるものは鉛になる。これは伝説ではない。
今、オルメルトはマフムード・アッバスに触れようとしている。オルメルトはアッバスをこれ以上ないほど賞賛している。オルメルトはアッバスを「強める」と約束している。オルメルトはアッバスに会おうとしている。
もし私がアッバスに忠告するとすれば、私は彼にこう叫ぶ、走れ!
必死になって走れ! オルメルトのワンタッチがあなたの運命を決めるだろう、と。
アッバスは救われるだろうか? 私には分からない。私のパレスチナ人の友人たちの幾人かは、絶望感の中にある。
彼らは、ファタハの中で成長し、ファタハが彼らのホームである。彼らは世俗主義者である。彼らはナショナリストである。彼らは、はっきりと、自分たちのホームランドでの狂信的なイスラム体制を望んではいない。
しかし、現在の闘いの中では、彼らの心はハマスとともにある。彼らの精神は引き裂かれている。そして、それは驚くべきことではない。
彼らは、ブッシュ大統領の言葉を聞く。オルメルトの言葉を聞く。イスラエルの政治家や学者の「聖なる」おしゃべりを聞く。そして彼らは、不可避的な結論を導き出す。米国とイスラエルは、アッバスを占領の代理人にしようとし、ファタハを占領者の民兵にしようとしている、と。
今、ワシントンとエルサレムから発せられる言葉は、すべてこの疑念を確証している。あらゆる言葉は、西岸でパレスチナの民衆と自治政府とのギャップを拡大している。ラマラでの新たな「非常事態内閣」は、先の選挙で2%の得票しかなかった人物によって率いられる。その選挙では、アッバスの選挙人リストがハマスに深刻な形で打ち負かされた。それはガザ地区においてだけでなく、西岸地区においても生じたことである。
「制限の緩和」や「経済封鎖の段階的解除」などは、何の役にも立たないだろう。イスラエル政府によって横領されていた税金の返還が問題なのではない。ヨーロッパやアメリカの援助が問題なのではない。80年も前に、最も極端なシオニストであるウラジミール・ジャボチンスキーが、経済的勧誘でパレスチナ人民を買い取ろうとしたシオニズム指導者たちを笑い者にした。一民族全体が買い取られることなどありえないのである。
もしアッバスが救われうるとすれば、それはただひとつの道しかない。和平を達成するための早急の実務的な交渉の、即刻の開始によってのみである。東エルサレムを首都として、あらゆる占領地に主権の及ぶパレスチナ国家を樹立するという、既に宣言されている目的に基づく交渉である。それ以外にはありえない。
しかし、それはイスラエル政府が全く用意していないことである。オルメルトも、リブニも、バラクも。
もし彼らがこれを行う用意があったとすれば、彼らまたは彼らの前任者たちはもうずっと前にそれを行なっていたであろう。バラクは、キャンプデービッドでヤセル・アラファトと取り決めることができたはずである。アリエル・シャロンは、アッバスが圧倒的な多数で議長に選ばれたときにアッバスとの間で合意することができたはずである。オルメルトは、シャロンが後景に退いたときに、アッバスとの間で解決できたはずである。オルメルトはまた、サウジアラビアの後援のもとに樹立されたパレスチナ統一政府との間で交渉できたはずである。
彼らはそうはしなかった。それは、彼らがバカだったからでもなければ、弱かったからでもない。彼らがそうはしなかったのは、ただ単に彼らの目的が全く正反対であったからである。西岸の大きな部分の併合と入植地の拡大という目的である。だからこそ、彼らは、米国から「和平のパートナー」と指名されているアッバスを弱めるために、あらゆることをしたのである。シャロンと彼の後継者たちの目からすれば、アッバスは、米国に「テロリスト組織」と規定されているハマスよりも危険だったのである。
最近の事態の展開を理解しようと思えば、「分離計画
separation plan」にまでさかのぼることなしには不可能である。
今週になって、イスラエルでセンセーショナルな暴露が公表された。それは、我々が当初から抱いていた疑惑、「分離」というのはただ単に策略であり隠された計画の一部に過ぎないのではないかという疑惑を確証している。
シャロンは、3つの主要な要素を伴ったマスタープランをもっていた。(a)ガザ地区を分離し孤立したものにし、ハマスによって支配されるものにすること、(b)西岸地区をファタハによって支配される孤立したカントンの群島にすること、(c)その双方の領土をイスラエル軍の支配下におくこと。
これは、シャロンの「一方的撤退unilateral
withdrawal」の主張を説明するものである。表面的に見れば、それは非論理的に見える。なぜ前もってパレスチナ自治政府と話し合わないのか?
なぜマフムード・アッバスへの権力の秩序ある移管を保証しないのか?
なぜ建物やグリーンハウスなどを含めて入植地のすべてを自治政府にそのまま移管しないのか?
なぜあらゆる境界出入り口を開放しないのか?
なぜガザ空港の再開やガザ港の建設を許さないのか?
もし目的が和平を達成することであったなら、これらのことはすべて実現したはずである。しかし、完全に反対のことが行われた。したがって、シャロンは、だいたいのところ実際に生じたようなことを望んでいたと想定される。ガザにおける自治政府の崩壊、ハマスによるガザ地区の支配、ガザ地区と西岸地区との分裂である。
この目的のために、シャロンは、陸海空すべてにわたってガザを他の世界から切り離し、境界の通行をほとんど継続的に遮断し、ガザを「世界最大の監獄」にした。食料、医薬品、水、電気は、完全にイスラエルの善意に依存している。エジプト国境での(イスラエル軍によってコントロールされたヨーロッパの監視部隊の支援の下での)取り扱いもそうであるように、あらゆる輸出入品も、住民の登録証さえもそうである。
もはや明らかである。これは、何か新しい政策などではない。ガザ地区の西岸地区からの切り離しは、長年の間イスラエル政府の軍事的および政治的目標であった。
1993年の「オスロ原則宣言Oslo Declaration
of Principles」の第W項は、あいまいさを残さない形で「双方ともに、西岸地区とガザ地区を単一の領土とみなし、その統一性は暫定自治の期間を通じて保たれる。」と宣言している。これなしでは、アラファトは合意を受け入れなかっただろう。
後になって、シモン・ペレスが「Gaza First(ガザ先行案)」というスローガンを考案した。パレスチナ側は頑強に拒否した。結局、イスラエル政府は諦め、1994年に「ガザ地区とエリコ地域に関する協定」に署名した。かくして西岸地区においてパレスチナ自治政府に与えられた足がかりは、2つの領土の統一性を保証するものであった。
同じこの協定において、イスラエルは、ガザ地区と西岸地区との間に「安全通行道路safe
passage」の開設を引き受けた。それも1つではなく4つで、それは協定付属の地図に書き込まれた。その後すぐに、「ガザへ」というアラビア語の刻銘が西岸の道路に沿って建てられた。
しかし、それから13年経っても、この道路は1日たりとも開かれたことがない。エフード・バラクが首相職に就いて解決策の枠組みを定めたとき、彼は、ガザと西岸の間に架かる世界で最も長い橋(約40km)を夢想した。他のバラクの聡明な思いつきと同様に、これも誕生前に死滅した。この道路は完全に封鎖されたままである。
イスラエル政府は、この約束を果たすことを繰り返し繰り返し引き受けたし、最近ではコンドリーザ・ライス自身に対して特別な詳細にわたる誓約を行なった。だが何も起こらなかった。
なぜか? なぜ我が政府は、そのような重要な責務の、明らかではっきりした曖昧さのない継続的な違反という危険を犯したのか?
なぜ善良なコンドリーザのような友人の目をごまかすところまでいったのか?
ただひとつの答えだけがありうる。ガザ地区の西岸地区からの切り離しは、政府と軍の中心的な戦略目標であったということである。それは、占領と併合に対するパレスチナ人の抵抗を打ち破る歴史的な努力の重要なステップである。
今週、この目的が達成されたようにみえる。
アッバスを「強化する」という公式の対処も、この構想の一部である。エルサレムでは、夢がついに実現しつつあると感じている者たちがいるだろう。西岸はガザ地区から分離され、世界からもお互いにも切り離されたいくつかの飛び地に分けられ、かつての南アフリカにおけるバンツースタンのようなものになる。ラマラは、パレスチナ人にエルサレムのことを忘れさせるように、パレスチナの首都として構想される。アッバスは、西岸においてハマスを破壊するために武器と増強部隊を与えられる。イスラエル軍が街と街の間の地域を支配し、随意に街に作戦展開することもできる。入植地は妨げなしに拡大でき、ヨルダン渓谷は完全に西岸から切り離され、分離壁はさらに延長され続けてパレスチナ人の土地をさらに貪り食い、入植地「前哨居留地outposts」を解体するという政府の約束は忘れ去られたジョークとなる。
ブッシュ大統領は、パレスチナの地における「民主主義の拡大」に満足している。そして、米国のイスラエルへの軍事援助は、年々増大している。
オルメルトの観点からすると、これは理想的な状況である。だが、持続するだろうか?
答えは、全く否である!
ブッシュとオルメルトの、また彼らの前任者の、あらゆるアクションがそうであるように、それはアッバスに対する軽蔑とあなどりに基づいている。この侮蔑は、災厄をもたらす処方箋として何度も証明されてきた。
イスラエルのメディアは、マフムード・アッバスとモハメド・ダハランのプロパガンダを垂れ流すようになったのだが、ガザの飢えた住民が西岸の繁栄した栄養十分な住民を羨望の目で見るだろうということを、もう既に大喜びで書いている。ガザ地区の住民はハマスの指導部に対して反乱を起こすだろう、その結果、イスラエルに協力する者が統治者として就任する、西岸の人々はヨーロッパとアメリカの資金で肥え太り、ガザとそのわずらわしさとから手を切ることに喜びを感じるだろう、等々。
それは全くのファンタジーである。おおいにありそうなことは、ガザ地区の人々の怒りが、自分たちを飢えさせているイスラエルの監獄の番人に向くということである。そして、西岸の人々は、ガザ地区で辛い思いをしている同胞を決して見捨てないだろう。
パレスチナ人は、誰一人として、西岸からのガザ地区の分離に同意しないだろう。そのようなことに同意する政党はパレスチナ人民によって退けられ、そのような事態を受け入れる指導部は除去されるだろう。
イスラエルの政策は、2つの矛盾する願望のあいだで引き裂かれている。一方では、ガザ地区で起こった出来事が西岸で繰り返されないようにすること。西岸でハマスが支配するようになれば途方もなく危険になるだろうから。他方では、米国がオルメルトにアッバスとのあいだで真剣な交渉をするように強く迫ってくるような、それほどにまでアッバスが成功するのを妨げること。いつものように、イスラエル政府は、棒の両端を握っている。
現在のところ、オルメルトのあらゆるアクションは、アッバスを危険な状態に陥れつつある。オルメルトの抱擁は熊の抱擁であり、その口づけは死の口づけである。
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