反占領・平和レポート NO.50 (2006/9/7)
Anti-Occupation Pro-Peace Report No.50

米・イスラエルの軍事一体化を暴く
戦争犯罪の共同責任を追及する

Expose U.S./Israel Military Unification
Accuse Joint-Responsibility for War Crimes


■戦争犯罪での米・イスラエルの一体性を追及する運動の開始
 8月30日、米国の反戦団体「インタナショナル・アクション・センター」(IAC)は、レバノンとパレスチナにおける米・イスラエルの戦争犯罪を具体的に暴露し、その責任を追及していく国際的なキャンペーンを開始した。
 同センターの呼びかけでは、米・イスラエルが共謀して、レバノンとパレスチナの人民レジスタンスに対する全面戦争を計画し準備したことを糾弾し、今回の軍事侵攻における戦争犯罪、平和と人道に対する罪を暴露し、その責任を追及していくことを宣言している。

 そこで問題にされているのは、イスラエルによる国連憲章を蹂躙するレバノンの主権侵害、国際法違反の無差別爆撃と市民に対する攻撃・殺傷、集団懲罰(2人または1人のイスラエル兵士の拘束に対して一国民全体の生活破壊をもたらすような軍事侵攻)、およびパレスチナ、特にガザ地区に対する同様の攻撃、そして、それらについての米・イスラエルの共謀と共同責任である。
 さらに、これまでのイスラエルによる数十年にわたるパレスチナ占領支配における戦争犯罪、およびイラクでの反占領レジスタンス弾圧における犯罪も同時に追及しようとしている。
※「インタナショナル・アクション・センター」http://www.iacenter.org/archive-2006/rc-aug302006.htm


■イスラエルのレバノン攻撃はあらかじめ準備され計画されたものである
 実際、イスラエルのレバノン攻撃は、ヒズボラの政治的・軍事的壊滅を目指した計画的な戦争であった。このことは日本のマスメディアではほとんど批判されていない。否、それどころか、まるでヒズボラのイスラエル兵拉致が根本原因であるかのように転倒して報道したのである。しかし、戦争の推移を見れば明らかである。イスラエル・レバノン国境で日常茶飯事のように起こっている小規模な軍事衝突が、なぜここまで大規模な戦争に発展したのか。そこが問題なのだ。ヒズボラによるイスラエル兵の拉致は単なる口実、きっかけに過ぎず、イスラエルはずっと以前から準備していた計画を実行に移しただけなのである。

 イスラエルの軍事作戦の狙いは、ヒズボラへの軍事的打撃に限定されず、もっと大きな目標をもっていた。イスラエルは最初からレバノンを海空から全面封鎖し、空港や発電所、燃料基地などインフラ・戦略拠点を破壊し尽くすことに向けられた。イスラエルはレバノン国中の主要道路や橋を徹底的に破壊し、人々が陸路避難することもできなくしたうえで、軍事施設ではなく一般住民の密集する住宅地を徹底的に破壊し、瓦礫の山にかえることに主眼を置いた。イスラエルが空爆した目標は7,000カ所にものぼる。一般市民や避難民の頭上から爆撃を繰り返し、破壊と殺戮の限りを尽くしたのである。

 イスラエル軍の戦争目的は、まず第一に、レバノン全土と交通網、インフラ、そしてレバノン人民を軍事力で痛めつけることで、レバノン国内でヒズボラへの非難を巻き起こしヒズボラを国内で政治的に孤立させること、正当な民主選挙で選出されたヒズボラも加わった現在のレバノン政府を崩壊させ、反米・反イスラエル勢力を政府から排除することであった。第二の目的は、ヒズボラの軍事力を空爆、地上攻撃で壊滅させ、イスラエルに抵抗する力をなくさせることであった。これは正当な選挙で選出されたパレスチナ・ハマス政権とそれを支持するパレスチナの人民を徹底した攻撃で痛めつけ、パレスチナの反米・反イスラエルの新政権を崩壊させようとしたガザへの軍事攻勢に続く許し難い蛮行である。


■米国は単なる支援者・擁護者ではない、戦略を共有する共犯者である
 この計画された戦争には共犯者がいる。イスラエルはブッシュとアメリカがこの「対テロ戦争」に全面的に協力することで、事前に調整していたことが報じられている。
 ブッシュ政権は、イラク占領支配の泥沼化、スンニ派による武装レジスタンスとサドル師派を中心とするシーア派の反米抵抗、そのイラク戦争苦戦の影にイランを見るだけではなく、新しく台頭してきたパレスチナのハマス、レバノンのヒズボラに恐怖を抱き、パレスチナ−レバノン−シリア−イランとつながる反米・反イスラエルの国々とその人民大衆を「対テロ戦争」の名の下に軍事力で叩くことを、米・イスラエルの共通の戦略目標としてきたのである。

 戦略をともにするこの共犯者の全面協力なしに、イスラエルは戦争を始めることも、継続することもできなかった。イスラエル侵攻直後の国連安保理におけるイスラエルによるヒズボラ攻撃の正当化、「テロ組織ヒズボラが根本原因」「イスラエルは自衛権を行使しているだけ」と繰り返すブッシュの言明、即時停戦の拒否とイスラエルに戦争を継続させるための時間稼ぎ、そのキーワードとしての「即時停戦ではなく持続的停戦」。ライスの「新しい中東」論と「新しい中東の産みの苦しみ」等々−−どこから見てもブッシュ政権とイスラエルの間には事前に打ち合わせがあったとしか考えられないような緊密な連携と政治的支援があった。

 しかしブッシュが与えたのは政治的支援だけではない。象徴的な出来事は、レバノン侵攻直後にイスラエルが100発ものバンカーバスター爆弾(GBU−28)の緊急輸入を米国に要請し、ブッシュ政権がそれに応じたことである。イスラエルはヒズボラが予想を超える軍事力と訓練された部隊を持ち、地下施設を含む陣地で頑強な抵抗を続けたことに手を焼き、地下施設攻撃用のバンカーバスターの追加支援を仰いだのである。しかし、供給されたのはバンカーバスターだけではないし、供給された時期も戦争が始まってからだけではない。現在、レバノン南部には大量のクラスター爆弾の不発弾が散乱し、避難先からやっと居住地に戻った子どもや住民に最大の脅威になっている。クラスター爆弾は無差別殺戮兵器としてジュネーブ条約に違反すると非難され、告発されている兵器である。国連はイスラエルが停戦の直前に意図的に大量のクラスター爆弾を住宅地区に使ったと非難しているが、国連によれば放置されているクラスター爆弾の3分の2が米国製である。米軍は自分自身でクラスター爆弾をバグダッドなどイラクの人口密集地で一般市民を目標に使った。そのために多数の子どもたちが殺されたり、負傷した。米軍が大量に供与したクラスター爆弾がレバノンでもまき散らされたのである。
※日本ではほとんど報道されなかったが、ブッシュが急遽イスラエルに送り込んだバンカーバスターに対してイギリスの反戦グループが決然と阻止行動を行った。彼らはイギリス北部のプレスヴィック空港を経由してバンカーバスターが空輸されるのを知り、滑走路に入り込み、米軍機に侵入することで空輸を妨害しようとした。この数回にわたる抗議行動で、侵入した12名の活動家は逮捕されたが、それらの行動を通じてレバノン侵攻そのものを世界中に非難し続けた。
「Activists held after boarding US plane searching for weapons」 http://www.guardian.co.uk/antiwar/story/0,,1839385,00.html

 イスラエルが大規模空爆に用いたF15(89機)、F16(226機)の攻撃機は、すべて米国製である。イスラエル空軍の300機を越える主力攻撃機は、すべて米国製である。また、レバノンの地上攻撃に使われた対戦車攻撃ヘリの全機−−アパッチAH−64ヘリ(40機)、コブラAH−1ヘリ(55機)−−もやはり米国製である。米国は、最新鋭の戦闘機や攻撃ヘリを惜しげもなくイスラエルに供与しているのである。陸軍の主力戦車では全戦車数3,657両の半数近くはイスラエル製のメルカバ戦車であるが、米国供与のM60、M48戦車も3分の1を占めている。兵員装甲輸送車APCのほとんども米国製のM113である。
 主要装備だけでなく、戦争に必要な弾薬類も多くが米国製であると考えられる。そして足らなければバンカーバスターのようにいつでも追加できるのである。空爆に使われる爆弾も精密誘導爆弾の多くが米国製であると考えられている。カナの虐殺で50人以上(大半は子ども)を殺した爆弾も米国製の誘導爆弾であった。イスラエル製主力戦車であるメルカバの主砲はイスラエル製の120ミリ砲だが、米国製、ドイツ製の120ミリ砲と互換であり、砲弾も米国製のものがあると考えらる。現に米国はメルカバの主砲用に300発の劣化ウラン弾をイスラエルに輸出しており、これらがレバノン侵攻で使われた可能性も大きいのである。
※「US exports of DU ammunition 」(Foreign Military Sales)http://www.laka.org/teksten/Vu/where-how-much-01/main.html


■米国の支援なしに、イスラエルは戦争を始めることも、継続することもできない−−イスラエルの軍事予算を支えている米国の軍事援助
 私たち日本の反戦平和運動ではまだ周知のことではないが、欧米の反戦平和運動では、米国とイスラエルの一体性、共謀関係を厳しく問う視点が当然のこととなっている。今回の「レバノン戦争U」では、従来にもまして露骨な米国のイスラエル擁護がひときわ目立った。
 そこには私たちの想像を超える、米・イスラエルの強固な物的基礎、米・イスラエルの軍事一体化がある。上記のように、イスラエルの兵器類や砲弾の多くが米国製の武器で成り立っている。そして米国の軍事援助が、イスラエルの軍事予算を支えているのである。改めて言うが、米国の支援・協力なしに、イスラエルは戦争を始めることも、継続することもできないという深い関係で結ばれているのである。

 イスラエルによる今回のレバノン侵略のさなかに、米国のリベラルなシンクタンク「世界政策研究所 WORLD POLICY INSTITUTE(http://www.worldpolicy.org/)」のW・D・ハートゥング、フリーダ・ベリガン両氏による実証研究「米国のイスラエルに対する軍事援助と武器移転」(2006.7.20)が出された。米国がイスラエルにどれだけの軍事援助を行なっているか、また他国と比較してどれだけ優遇された形で支援されているか、イスラエルの兵器類・砲弾がどこまで米国製のものであるか、さらに、イスラエルと米軍産複合体とがどれほど密接に結びついているか、等々についての具体的・定量的な分析と暴露である。
※「米国のイスラエルに対する軍事援助と武器移転」(世界政策研究所)http://www.worldpolicy.org/projects/arms/reports/israel.lebanon.FINAL2.pdf

 それによれば、「ブッシュ政権の2001年から2005年の間に、...イスラエルは63億ドルの米国武器供与のほかに、105億ドルの『外国軍事融資 Foreign Military Financing』――ペンタゴンの最大の軍事援助プログラム――を受け取ったのである。」この5年間の合計額168億ドル(およそ2兆円)は、年平均33.6億ドルとなる。イスラエルの国家予算は550〜600億ドルの規模で、軍事予算はそのうちの約3割を占めている。したがって、米国のこの軍事援助は、イスラエルの軍事予算の約2割を占めるのである。イスラエルにおいても軍事費の相当部分は人件費のはずであるから、装備費あるいは武器・弾薬費だけをとれば、米国の援助がどれほどの決定的な比重を占めるのかが分かる。
 イスラエルは、30年以上にわたって米国の対外援助の最大の受け取り手であり、1985年以来米国から毎年約30億ドルの軍事・経済援助を受け取ってきた。それが、ブッシュ政権になってから顕著に増大しているのである。特に、2005年度の「武器売却引渡し」は、前年度の2倍以上の27億6,000万ドルに跳ね上がっている(その前年度そのものが前々年度の1.5倍なのである)。
※また、ハートゥング氏らとは別のSIPRIの統計によれば、イスラエルの軍事費は2005年に96億ドルである。これには米国からの武器援助及び軍事援助予算は含まれていない。ハートゥング氏らの論文によれば、2005年にイスラエルが受けた武器売却は27億ドル、軍事援助は22億ドルで、合計すれば49億ドル、この2つを比較すれば軍事費の約3分の1の額にあたる予算が米国政府からの援助で占められることになる。軍事費のうちで通常人件費が大きな割合を占めることから、イスラエルの兵器購入費や兵器開発費の半分近くはアメリカのカネによると見ることができる。米国−イスラエル関係がいかに異常なものであるかがわかる。イスラエルの軍隊を武装させているのはアメリカなのである。なぜか。それは米国がイスラエルを中東における米軍の補完物、軍事的先兵と考えているからである。
※「SIPRIの統計によるイスラエルの軍事費」http://www.sipri.org/contents/milap/milex/mex_major_spenders.pdf
#search=%22the%2015%20major%20spender%20countries%20in%202005%22




■他人事ではない米国との軍事一体化−−日米の軍事一体化の危険性
 「世界政策研究所」の論文の目的は、イスラエルによるレバノン攻撃の初期の段階で、米国−イスラエルの不可分の関係を暴くことで、米国がイスラエルに停戦の圧力を加えよという積極的な主張をすることであった。ただ、米国・イスラエルとシリア・イランを同列に扱うなど、主張の一部に必ずしも同意できないところがある。
 しかし、イスラエルとシオニズムを批判することがタブー視されている米国の中で、米国−イスラエルの侵略的な軍事的一体化関係を暴くことの重要性はいくら強調しても強調しすぎることはない。私たちは、この貴重な実証研究から、米・イスラエルの軍事一体化について認識を深め、さらに両国の関係全体について認識を深めていく必要がある。なぜならば、それは、中東問題を解明する決定的に重要な“カギ”のひとつだからである。

 また、翻訳中にどうしても頭から離れないことがあった。それは、戦略や兵器体系や、ある種の指揮系統の協力関係に至るまでの、米国−イスラエルの軍事的一体化関係の持つ危険性は、私たち日本の明日の姿を暗示するものではないかという懸念である。もちろん上で取り上げたよう米からの軍事援助で成り立っているイスラエルは、文字通り中東での米国の武装尖兵、米軍の支隊そのもの、あるいは米軍の傭兵といえる異常な国家である点では根本的に異なる。また、日本の場合には、「思いやり予算」という形で、カネの面では米軍に貢いでいる方である。しかし、それでも「対テロ戦争」への加担のエスカレーションの危険性を軽んずることはできない。
 安倍新政権の誕生は事実上決まりとなった。安倍は、憲法改悪や教基法改悪と並んで、基地再編の加速、防衛庁の省への昇格、集団的自衛権行使、海外派兵「恒久法」を矢継ぎ早に打ち出そうとしている。小泉政権の時代を越え出るような日米軍事一体化を目指すだろう。米軍の命令下で、あるいは一体的関係の下でグローバルな軍事介入を行うということの危険性を、このどう猛なイスラエル軍が指し示しているのではないだろうか。

 以下、「世界政策研究所」の論文「米国のイスラエルに対する軍事援助と武器移転」を全訳紹介する。(なお、翻訳については「世界政策研究所」の執筆者を代表してフリーダ・ベリガン氏の快諾を得ている。)


2006年9月7日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局





[翻訳紹介]
「世界政策研究所 WORLD POLICY INSTITUTE」http://www.worldpolicy.org/

米国のイスラエルに対する軍事援助と武器移転:
米国の支援と米国企業がイスラエルの軍事力を充填している


By フリーダ・ベリガン、ウイリアム・D・ハートゥング
2006.7.20
http://www.worldpolicy.org/projects/arms/reports/israel.lebanon.FINAL2.pdf



はじめに

 イスラエルとレバノンでの暴力のエスカレートにおいて、ヒズボラによって使われているシリア製とイラン製の武器については、米国のメディアで多くのことが語られている。しかし、イスラエルの武器がどこからきたものであるかということについては、それと同等の議論が全く行われていない。その非常に大きな部分は米国からのものであるのだが。「米国が毎年毎年供与している何十億ドルにものぼる武器と援助によって、ブッシュ政権は、イスラエルによるレバノンへの攻撃においてイスラエルに対して停戦への圧力をかける実質あるテコを保持している。」と、ニューヨークの世界政策研究所長ウイリアム・D・ハートゥングは指摘している。「少なくとも米国のイスラエルに対する軍事援助を議論することなしには、米国人が、この危機に際しての自国政府の別な選択肢を理解することは――不可能ではないにしても――困難である。」と、同研究所上級研究員フリーダ・ベリガンは主張している。

 ブッシュ政権の2001年から2005年の間に、イスラエルは、実際、米国による武器供与で受け取った以上のものを米国による軍事援助で受け取ってきた。つまり、この期間に、イスラエルは63億ドルの米国武器供与のほかに、105億ドルの「外国軍事融資 Foreign Military Financing」――ペンタゴンの最大の軍事援助プログラム――を受け取ったのである。この援助額が武器供与額より大きいのは、それが主要な武器協定のための融資を含んでいるからである。その中には装備などがまだ完全には供与されていないものも含まれる。これらの武器取引の最も著名なものは、ロッキード・マーチン製のF-16戦闘機102機、45億ドルの売却である。「話が米国から武器を手に入れるということになると、イスラエルは、銀行にいくらでもカネがあるのである。」とハートゥングは指摘した。

 米国がイスラエルの武器使用について人権侵害で批判した前例はいくつかある。それには、「超法規的殺害 extrajudicial killings」と「過度の武力行使 excessive use of force」が含まれている。2003年、2004年、2005年の米国務省人権報告においては、次の事柄が述べられている。6人を殺害し19人を負傷させた難民キャンプへのミサイル攻撃、4人のパレスチナ人の子どもの狙撃と殺害、戦車砲や重機関銃やロケットによるパレスチナ人の家屋の破壊(武力の過度の使用と見なされている)、ハマスのリーダーたちの標的殺害(targeted killing)におけるロケット弾の使用、占領地でのテロリストの疑いがある者を標的とした軍事行動での民間人47人の殺害、パレスチナ側からの攻撃の拠点となっているパレスチナ人の町や市街地に対する空からの戦車砲弾や重機関銃砲弾やロケット弾の使用、などが述べられている。この人権報告は、これらの過度の武力使用や標的暗殺(targeted assassination)、パレスチナ側からの攻撃に対する報復における民間人保護の失敗などにおいて、使用された武器がどこからきたものであるかということについては述べていない。しかしながら、イスラエルの戦車、対地攻撃機、攻撃ヘリコプター、空対地ミサイルが、米国からのものであるということを考えると、少なくともこれらの攻撃のいくつかにおいては米国製の武器が使用されたということは、大いにありうることである。

 1981年の大規模なイスラエルによるレバノン侵攻のときに、レーガン政権は、イスラエルが武器を米国法の要求どおりに「防衛目的」で使用しているかどうかを調査する間、軍事援助と武器供与を10週間にわたって停止した。その調査期間の終わりに、当時の国務省長官アレクサンダー・ヘイグは、次のようにあいまいに述べた。所与の武器使用が攻撃的であるか防衛的であるかについては「永遠に議論する」ことができるだろう、と。そして禁は解かれた。しかし、少なくともレーガン政権は一定の行動をとったのであり、それは、ブッシュ政権について言えば、はるかにそれ以上のことが可能であるようなことである。

 このことによって、ヒズボラがそれ自身の武器供給源なしに闘っているなどと言おうとしているわけではない。「ニューヨーク・タイムズ」の2006年7月17日(月)の論説は、イスラエルの防衛問題専門家の次のような叙述を引用している。ヒズボラが少なくとも数百のファジル・ミサイルを保持しており、それには「シリア製の」ファジル-3が含まれ、それが日曜日にハイファの鉄道補修ビルに打ち込まれ、8人の死者と20人の負傷者を出した、と。ヒズボラは、伝えられるところによれば、数百基のイラン製ファジル-3とファジル-5ミサイルを保持している。それは、30から45マイルの射程をもち、巨大弾頭を搭載可能である。その同じ論説は、イスラエルの民間船舶を沈めたイラン製のC-802レーダー誘導ミサイルと、イスラエル軍によって阻止され拿捕されたシリア製ロケットの船積みのことを述べている。ある情報によれば、ヒズボラは数千のミサイルを保持しているという。しかしそのデザインと射程についての情報は提供されていない。

 取引記録の他の側を見ると、米国がイスラエルの圧倒的に優位な武器弾薬の最も主要な源泉である(詳しくはイスラエル軍の兵器類備蓄在庫における米国供給の兵器類に関する「補遺T」参照)。30年以上にわたって、イスラエルは米国の対外援助の最大の受け取り手であり続けてきた。そして1985年以来、イスラエルは米国から軍事援助と経済援助で毎年約30億ドルを受け取ってきた。米国の援助は、イスラエルの全防衛予算の20%以上を占めている(「表U」参照)。

 イスラエルの米国への援助と武器の依存は、イスラエル軍が最適の戦闘行動を維持するための予備の武器弾薬や技術援助を米国に頼っているということを意味している。この点は、ペンタゴンの防衛安全保障協力局(Defense Security Cooperation Agency)が、2億1,000万ドルにのぼるJP-8ジェット燃料を求めたイスラエルの要求を支持した7月14日に、白日の下に明らかになった。この燃料は即座には供給されないだろうが、このことによって、イスラエルはレバノンでの空爆に使用される燃料を補充することができるだろう。ペンタゴンは、この取り決めを次のように叙述している。

 「提案のあったJP-8軍用機用燃料の売却は、イスラエルが航空機関連在庫に関して作戦遂行能力を維持することを可能にするだろう。ジェット燃料は、地域の平和と安全を維持するために航空機が使用されるときに消費されるだろう。イスラエルがこの追加的な燃料を軍に注ぎ込むことに、何の支障もないだろう。」(防衛安全保障協力局「イスラエル―JP-8航空ジェット燃料」プレス・リリース 2006.7.14)


イスラエルの現在の軍事備蓄における米国製兵器

 イスラエルの現在の軍事備蓄の大部分は、米国の軍事援助計画の下で供給された装備品からなっている。たとえば、イスラエルは、次のような米国供給の兵器類を保持している。226機のF-16戦闘機と攻撃ジェット機、89機のF-15戦闘機、700台以上のM-60戦車、6,000台以上の要員運搬装甲車両、多くの輸送機、攻撃用ヘリコプター、多目的機、訓練機、砲弾、あらゆる種類のミサイル――空対空、空対地、艦対空、空対艦――など。イスラエルの軍事備蓄における米国製兵器の、より完全な一覧は「補遺T」参照。


武器売却と供与

 イスラエルは、米国の最大の武器輸入国のひとつである。1996年から2005年(完全なデータが利用できる最終年度)の間に、イスラエルは101億9,000万ドル分の米国製の武器および軍事装備の引渡しを受けた。それには、「外国軍事売却計画 Foreign Military Sales program」の85億8,000万ドル以上と、「直接商業売却 Direct Commercial Sales」の16億1,000万ドルが含まれている。(最近の武器売却データについては「表T」参照)

 国防総省と国務省の資料が示すところによると、2005年だけで、イスラエルは、米国から27億6,000万ドルの武器類と軍事的ハードウェアを受け取った。そしてそれ以外に、メンテナンスや訓練のような防衛サービスで6億2,900万ドルを受け取った。この数値には、1億8,800万ドルのさまざまなミサイル予備部品、710万ドルの戦車部品、1億5,500万ドルの船舶部品、130万ドルの爆弾、72万ドルの地上戦闘員殺傷用の暴徒鎮圧化学物質、などが含まれている。

 最近のイスラエルへの軍事品売却には、MTUデトロイト・ディーゼルから調達された1,500万ドル以上する「高速パトロール船」の推進システム、イスラエルのジェット機のためのハイテク赤外線「誘導・攻撃目標設定」装置に対するロッキード・マーチンとの800万ドルの契約、イスラエルの Medium Tactical Vehicles 用の900以上の装甲キットをつくるための Oshkosh Truck Corp との1億4,500万ドルの取引などが含まれている。




イスラエルへの米国の軍事援助

 上に述べたように、イスラエルは、比較的小さな国であるにもかかわらず、米国の外国軍事援助の最大の受け取り手である。過去10年にわたって、米国は、170億ドル以上の軍事援助をこの人口600万人ほどの国に与えてきた。2005年にイスラエルは、22億5,000万ドルの「外国軍事融資(Foreign Military Financing)」を受けた。2007年のブッシュ政権の予算要求には、このFMF援助でイスラエルに対する22億4,000万ドルの追加が含まれている。

 米国は、軍事援助を「歴史的に不安定な地域に安定を醸成することに資する」ものとして見ている。また、イスラエルの「複数年にわたる防衛近代化計画」を支えるものと見ている。議会に提出された2007年の軍事援助要求では、国防総省もまた、次のように述べた。この同盟国を援助して、F-16戦闘機、アパッチヘリコプター、フィールド車両など最新装備を調達するための「キャッシュ・フローの要求に応える」こと、と。

 「外国軍事融資(FMF)」は、イスラエルの防衛予算のかなり大きな部分を占めている。その大部分は、米国の武器を購入することで米国において費されている。この「特別な関係」に加えて、米国のイスラエルに対する援助に関する議会調査局報告は、この援助をめぐる他の数多くの米国からの特別な待遇を列挙している。

 他の諸国とは違って、イスラエルは、四半期毎の分割払いではなく会計年度の早い時期に一括払いで「経済支援基金(Economic Support Funds)」を受け取っている。このことで、米国は、一括払いのために借入する額に対する利子分だけ多く支払うことになる。それは、国際開発局によれば、年5,000万ドルから6,000万ドルにのぼる。

 他国は、米国企業から軍事装備を購入しようと手配する場合、何よりもまず国防総省と取引することになるのだが、イスラエルは、米国でのその莫大な軍事購入を行う際に、直接米国企業と取引する。他国は、ひとつの契約につき最低10万ドルと決められているが、イスラエルは10万ドル以下の軍事品購入が許されている。

 最後に、米国はイスラエルの兵器研究開発を保証している。そのために、メルカバ戦車や地上攻撃機ラヴィのようなイスラエルの兵器システムに、数十億ドルを供与してきた。

 2003年11月に、新規のイスラエル向けF-16戦闘機102機の最初のものが、テキサスの生産ラインからそっくり移転された。F-16Tスーファ1機あたり4,500万ドル、これは、生産者ロッキード・マーチンとイスラエルとの間の45億ドルの取引の一部である。スーファF-16戦闘機は、イスラエルとの共同生産である。イスラエルの軍事会社ラハヴは、注文に応じた航空電子工学を提供している。




米国の援助によって米国はイスラエルに対して影響力を行使する手段を保持している

 米国が毎年イスラエルに供与している数十億ドルの援助と、イスラエルの兵器類備蓄における米国供給分の中心的役割を前提にすれば、米国は、現在のイスラエルとヒズボラとの紛争において、さらに多くのイスラエルとレバノンの民間人が殺され退去させられる前に、停戦を促進するために使うべきかなり大きなテコを持っていることになる。ブッシュ大統領は、「自制」というようなあいまいな呼びかけではなく、イスラエルとヒズボラとの間の停戦をはっきり要求する必要がある。その停戦には、この地域の他の主要な勢力、イランとシリアも含めるべきである。



※(訳注)「FOREIGN POLICY IN FOCUS」に要約版が掲載されている。そこには、次のような要約が付け加えられている。
「米国は、イスラエルの圧倒的に優勢な兵器類の主要な源泉である。30年以上にわたって、イスラエルは米国の対外援助の最大の受け取り手である。そして、1985年以来、イスラエルは、米国から毎年約30億ドルの軍事・経済援助を受け取っている。米国の援助は、イスラエルの軍事予算の20%以上を占める。」
The United States is the primary source of Israel's far superior arsenal. For more than 30 years, Israel had been the largest recipient of U.S. foreign assistance and since 1985 Jerusalem has received about $3 billion in military and economic aid each year from Washington. U.S. aid accounts for more than 20% of Israel's total defense budget.
http://www.fpif.org/fpiftxt/3387