反占領・平和レポート NO.46 (2006/7/3)
Anti-Occupation Pro-Peace Report No.46 |
イスラエル軍はガザ侵攻を即刻中止せよ!
−−「拉致兵士救出」のまやかしを暴露し、イスラエル非難の声を広げよう−−
Stop Immediately the Invasion of Gaza by
Israeli 'Offense' Forces! |
◎インフラ基盤破壊をやめよ!パレスチナ人民に対する「集団懲罰」をやめよ!
Stop the destruction of infrastructure!
Stop the collective punishment on the Palestinian
people!
◎自治政府閣僚と評議会議員を即刻解放せよ!
Release immediately the ministers of PA
and Council members detained!
◎シリアに対する戦争挑発をやめよ!
Stop provocation of war on Syria!
◎イスラエルの戦争犯罪を支持する米国ブッシュ政権糾弾!
Denounce U.S. , Bush Government, for supporting
Israeli war crimes! |
(1)白日のもとに露呈したまやかしの「ガザ撤退」=形を変えた占領支配。
イスラエル軍は、6月28日未明、ガザ地区の発電所と中部の幹線道路橋梁をF−16による空爆で破壊しガザ地区南部に侵攻した。この発電所はガザ唯一のものであり、この道路も北部と南部を結ぶ唯一の幹線道路である。イスラエルはパレスチナ人民の生活破壊から、今回の侵攻を開始したのである。
29日には、北部からも侵攻すると同時に、西岸地区でハマスの自治政府閣僚と評議会議員を数十名拘束した。拘束者は30数名とも80数名とも言われており、何が真実なのか、まだ分からない。いずれにしても、パレスチナ人民が正当な民主選挙で選んだハマスの評議会議員を、武力にものを言わせて拉致したのである。
さらにイスラエル軍は7月2日、ガザの自治政府首相府をヘリコプターで爆撃、建物を破壊した。その前30日には、内務省庁舎など20カ所以上を空爆したばかりだ。イスラエル首相オルメルトは、ハマスのハニヤ首相を殺害しようとしたのである。かつて、逆らうアラファト議長を殺そうとしたシャロンと同様、自分の気に入らない指導者は武力で威嚇し殺しても構わないという脅迫行為そのものである。
破壊に次ぐ破壊、脅迫と挑発、またもやイスラエルはパレスチナ人民に対する侵略を開始し、言葉では言い尽くせない傍若無人の振る舞いをどんどん拡大している。今回の侵攻は、戦時の文民保護を定めたジュネーブ条約、国際人道法に明らかに違反する。私たちは、イスラエル軍・政府によるこのような許し難い侵略行為、国際法違反の戦争犯罪行為を断固糾弾する。
(2)常軌を逸する冒険主義的なシリアに対する国際的戦争挑発行為。
イスラエル軍の今回の軍事行動の最終的狙いは、イスラエルに屈服せず、奴隷となることを拒否するハマス主導のパレスチナ自治政府を軍事力で崩壊させることである。今回の軍事侵攻は、イスラエル軍がいつでも好き勝手に人口140万人のパレスチナ人の生活と命をもてあそぶことができるということ、そしてイスラエルは実際にそういう暴挙をやりたいときにはいとも簡単に行うのだということを、白日の下に示したのである。
さらに異常なのは、イスラエル空軍機がシリア西部ラタキアまで領空侵犯し、大統領宮殿上空で挑発飛行をするという、まさに常軌を逸したような国際的戦争挑発行動まで行なっていることである。アサド大統領が滞在した大統領宮殿を、F−16が低空飛行したのだ。イスラエル閣僚は、ハマス指導者の暗殺のためには、シリアへのピンポイント空爆も辞さないという警告だと公然と言い放っている。
これら一連の無法行為は、イスラエル政府の追い詰められた手詰まり状況を反映していると同時に、「ガザ撤退」がまやかしであったことをも自己暴露している。また、「ガザ撤退」と西岸地区の一部の領土併合を含む「一方的国境画定」戦略の破綻をも表している。
(3)「拉致兵士の救出」は口実。まさしく140万人のパレスチナ人民に対する「集団懲罰」、正真正銘の人道に対する罪、戦争犯罪だ。
イスラエル軍は、ガザ地区の唯一の発電所を破壊した。電力供給の停止はドミノ的に深刻な影響を及ぼしている。ざっと、報道されたものだけでも、以下のような生活破壊状態が現出している。ガザ地区の人口は約140万人、この人々の命と生活全般が危機に瀕しているのである。
−−ガザの60%が停電している。その他も不安定状態にある。
−−浄水設備が停止したため、飲料水が不足し始めている。
−−下水処理もできなくなった。
−−イスラエルは石油燃料パイプラインもストップした。欧米の燃料援助停止もあり、石油が入らなくなっている。このことは自家用発電機を動かせないことにつながる。
−−中でも病院が深刻な危機にある。治療に必要な機器・設備が停止し、人工酸素の不足、人工透析の困難、集中治療室や手術室での治療困難等々、大変な事態に陥っている。
−−夏場に入っていることを考えなければならない。下痢、コレラ、脱水症状など、特に子どもたちの命と健康が危機に瀕している。
−−貴重な石油を節約するため、ゴミの回収と焼却を停止している。
−−それだけではない。救急車や生活用の移動も困難を強いれている。イスラエル軍は、あちこちで橋や道路、ビルや家屋を破壊し続けているからである。等々。
今回の軍事侵攻は、6月25日にパレスチナ武装勢力によって拉致され人質となっているイスラエル軍兵士を救出するためと説明されている。しかし、これは口実に過ぎない。真に兵士の救出を望んでいるのであれば、なぜ兵士を拉致した武装勢力との対話と交渉を呼びかけないのか。なぜ拉致と関係のないガザ地区のパレスチナ民衆全体に、卑劣な非人道行為を加えるのか。そもそもなぜこれまで、正当に選出されたパレスチナ人民の代表者との対話を拒否し続けてきたのか。全く説明が付かない。
イスラエル軍が行なっていることは、1人のイスラエル軍兵士を救出するという口実で、拉致に何の関わりもなく何の責任もない140万人のパレスチナ人の生活を軍事力でいとも簡単に破壊するということにほかならない。ある人権活動家は、「発電所を破壊することは、ガザ住民への集団懲罰であり、ジュネーブ条約違反だ」と主張する。まさしく、人道に対する罪であり、戦争犯罪である。
イスラエルのがんじがらめの植民地的な占領支配の下で、ありとあらゆる人間としての生き方を奪われている、世界で最も失業と貧困の多い地域のひとつであり最も人口が密集しているガザ地区のパレスチナ人民は、今回の侵攻が始まる前から、とりわけ今年1月にハマス政権が樹立されてから、イスラエルによる封鎖と西側諸国の援助停止、「兵糧攻め」により、一段と厳しい食糧不足、医薬品不足、生活必需品欠乏に見舞われている。それ自体、人道に対する罪である。こんな状況下でも、米国や西側諸国に守られたイスラエルに抵抗の手段を奪われ、為すすべもないパレスチナ人民は我慢に我慢を重ねているのである。この深刻で悲惨な事実を、イスラエルの側に立つことしか考えたことのない日本のマス・メディアは、ジャーナリズムとしてまともに報道したことがあるのだろうか!
(4)イスラエル側が不当に拉致・拘束し収監する9800人のパレスチナ人政治囚をなぜ問題にしないのか。
マス・メディアの今回の報道をよく見て欲しい。必ず修飾語が付いていることに気が付くだろう。「パレスチナ武装組織によるイスラエル軍兵士拉致事件を受け侵攻した・・・」「パレスチナ武装勢力に拉致された兵士救出のため侵攻中の・・・」「イスラエル軍は拉致された兵士の救出を侵攻の目的としており・・・」と。明らかな“刷り込み”である。パレスチナ武装勢力が、イスラエル軍兵士を拉致したから、今回の侵攻が起こったのだと言わんばかりだ。
パレスチナのガザとヨルダン川西岸を、文字通り帝国主義的で植民地主義的に占領し、この21世紀になった現在もなお、武力による支配を行い続けているイスラエル。これに正当な反占領の闘いを続け、自らの民族自決と独立国家を樹立しようとしているパレスチナ。一方は、米国の経済的支援、政治的軍事的支援を受け、頭の先から足のつま先まで近代兵器で武装し、絶えず口実を付けては侵略・破壊・殺戮を歯止めなくやり続けている。他方は、少年や若者が石で戦車に立ち向かい、武装抵抗も限られたもので銃くらいしかない。このような圧倒的な彼我の兵力差を前にして、パレスチナ人民の側は、やむにやまれぬ感情の発露として、自爆テロを含むさまざまな手段で「報復」しないではいられない状況となる。今回の兵士の拉致もこのような彼我の兵力差と抑えきれない怒りの表現として出てきた戦術に他ならない。
ところが、上述したように、日本のマス・メディアは、拉致された一人の兵士を悲しみ、140万人の命と生活を脅威にさらすイスラエル軍の野蛮行為を看過し正当化するのである。
それだけではない。拉致が近代兵器による侵略や破壊や殺戮行為よりひどいものだと言うなら、なぜ、マス・メディアは、イスラエル自身が9800人もの無実のパレスチナ人政治囚を不当に拉致・拘束し収監していることを問題にしないのか。「二重基準」も甚だしい。しかも、少なくともこの政治囚には335人の子どもたちが含まれており、政治囚は、逮捕後、獄中で虐待・拷問・虐殺にさらされているのだ。1人のイスラエル人は報道に値するが、9800人のパレスチナ人は報道に値しないと主張しているに等しい。
(5)そもそもなぜイスラエル軍兵士は拉致されたのか?−−原因は6月以降頻発したイスラエルの無差別殺戮行為。
そもそも、なぜイスラエル軍兵士は拉致されたのか。このことを知らずして、真実に近づくことはできない。以下の事実経過を見て欲しい。今回の拉致事件は、6月以降激しくなったイスラエル側のパレスチナ市民殺害に対する報復なのである。現に6月25日、ハマスの軍事部門とガザの民衆抵抗委員会が共同で、「イスラエル軍による市民殺害への報復」と声明を発表しているのである。つまり、6月25日のパレスチナ武装勢力によるイスラエル軍拠点の襲撃とイスラエル軍兵士の拉致は、原因ではなく結果だったのだ。
6月7日、衝突と対立を繰り返していたハマスとファタハが衝突停止で合意。
6月8日、ガザ地区南部ラファへの空爆。パレスチナ人民抵抗委員会の創設者で自治政府の内務省監察官に任命されていたアブサムハダナ氏ほか4人が殺害され、10人以上が負傷。
6月9日、ガザ北部海岸へ地中海から砲撃。海水浴の子どもと女性を含む7人が殺害され、数十人が負傷。車を標的にしたミサイル攻撃も数回行われ、民衆抵抗委員会の活動家3人が殺害される。ハマスは、停戦を破棄し十数発のロケット弾攻撃。死傷者なし。
6月11日、ハマスのロケット弾攻撃によりイスラエル南部スデロト付近で3人が重軽傷。イスラエル軍によるミサイル攻撃でハマスの地区幹部2人が殺害され、数人が負傷。5月中旬のパレスチナ各党派の合意文書への署名をハマスの一部メンバーが撤回表明。イスラム聖戦も署名撤回を表明。
6月中旬、ハマスとファタハの対立が再度激化。
6月13日、ガザ空爆。子ども2人を含む10人が殺害され、20人近くが負傷。6月9日の海水浴家族への砲撃に対する国際的非難が高まる。イスラエルは砲撃を否定し、海岸に埋まっていた爆発物によるものだと強弁。
6月17日、米国、EU、ロシア、国連の4者が自治政府を通さない形での住民への直接支援について合意。アッバス議長を調整役とすることで新たな分断策。しかし、アッバス議長は不満を表明。
6月下旬、ハマスとファタハの合意へ向けた協議が進展。
6月20日、ガザ空爆。子ども3人が殺害される。
6月21日、ガザ地区南部ハンユニスで、イスラエル軍によるミサイル攻撃が民家を直撃し、2人が殺害され、妊婦や子どもを含む十数人が重軽傷。イスラエル軍当局は、武装勢力を狙ったミサイルが軌道を外れたと釈明。
6月25日、イスラエル南部の軍拠点をパレスチナ武装勢力8人が襲撃し、イスラエル兵2人を殺害して1人を拉致。パレスチナ武装勢力側は2人が射殺された。ハマスの軍事部門とガザの民衆抵抗委員会が共同で、「イスラエル軍による市民殺害への報復」と声明を発表。
6月27日、ファタハとハマスの間で政策文書が合意され、まもなく正式発表される見通しであると報じられた。
※この合意文書の要旨は次のようなものであると報じられている。「イスラエルによる占領を容認しない。エルサレムを首都とし、1967年に占領された全ての土地で構成される国家創設を要求する。パレスチナ人民の唯一の合法的な代表としてのPLOを強化する。パレスチナ人民には1967年に占領された土地で、さまざまな手段による抵抗の権利がある。パレスチナ人民にとって公正でパレスチナ人の権利を保護する国際的決議に基づいた包括的な政治プランを要求する。パレスチナ人民、アラブ諸国、世界各国の支持を得られる統一されたパレスチナ政府を追求する。イスラエルとの交渉はPLOとパレスチナ自治政府議長の権限である。占領に対し、パレスチナ人民のより高次の利益を考慮に入れた最適な抵抗手段を模索する。」
6月28日未明、イスラエル軍、ガザ南部に侵攻し今回の軍事行動を開始。
(6)常軌を逸したイスラエルの侵略行為−−背景には、ハマス孤立化に失敗した焦りと苛立ちがある。
では、なぜイスラエルが、パレスチナ市民への攻撃と殺戮を拡大したのか。その背景には、イスラエルと米欧諸国によるハマスに対する執拗な「兵糧攻め」政策が行き詰まり破綻してきたという事実がある。
イスラエルのこれまでの占領と軍事弾圧、経済封鎖、その他あらゆる手段を使った支配抑圧にもかかわらず、パレスチナ人民は今年1月末の評議会選挙で、米国をも含む国際社会が正当と認める選挙を通じて、屈服しないことを鮮明に意思表示した。それに対してイスラエルと米国は、あらゆる手段を使って締め付けを強化してきた。パレスチナ内戦を煽る策動をも含めてハマスとファタハの対立を煽って、ハマスの孤立化をはかろうとしてきた。
しかし、パレスチナ人民は、苦境の中でいっそう結束を固める方向へと大きく動き始めたのである。今回のイスラエルの軍事行動は、そのようなパレスチナ人民全体に対する軍事力による暴力的な屈服強要なのである。
今回の事態を正しく認識しようと思えば、少なくとも今年初めのパレスチナ評議会選挙以降の事実経過を確認しなければならない。
※「反占領・平和レポートNo.44/屈服を拒否したパレスチナ人民」署名事務局
・今年1月25日のパレスチナ評議会選挙でハマスが圧勝し、3月下旬ハマス主導の自治政府成立。
・イスラエルと米国はハマスを孤立させ屈服させようとあらゆる手段をとってきた。イスラエルは代理徴収している関税の引渡しを停止するという窃盗行為を公然と行い、米国とEUは「援助停止」による恫喝を行なってきた。小泉政権もそれに同調した。
・またイスラエルと米国は、ファタハとハマスの対立を煽り、ハマスを孤立させてハマス主導の自治政府を破綻に追い込もうと策動してきた。
・事態はイスラエルの思惑通りには進まなかった。「兵糧攻め」に対しては、まずアラブ諸国が反発し、アラブ連盟が各国に自治政府への財政支援を呼びかけ(4月中旬)、ついでロシアが支援を表明した。さらに、既に2月に支援を表明していたイランの支援が具体化へ向けて動き出した。このようなハマス包囲網の破綻の中で、EUは、ハマス主導の自治政府ではなくアッバス議長に支援を集中することで影響力を確保しようと動き出した。しかし、米国とイスラエルは、現実に自治政府に現金や支援物資が届くことを妨害し続けている。
・イスラエルや米国の意図とは逆に、パレスチナ人民は結束強化へと動き始めた。5月中旬にイスラエル刑務所からはじまった動き――ファタハ、ハマス、イスラム聖戦、PFLP、DFLPの主要5党派の合意――が、パレスチナ全域に拡大しはじめた。
※合意文書のフルテキストはhttp://www.mideastweb.org/prisoners_letter.htm
このように、まさに紆余曲折を経た上で、6月27日、ファタハとハマスの間で対イスラエルの「政策合意」が行われ、パレスチナ人民が統一と団結に成功したことが、最後的にイスラエル側の思惑を打ち砕いたのである。侵攻はその翌日であった。これほど分かりやすい侵攻理由はないだろう。
当初イスラエルは、正当な民主選挙という事実を否定することができず、これまで公然と軍事力を行使することはできなかった。代わりに、経済的締め付け、隠然の干渉・介入によってファタハとハマスの対立を煽り、パレスチナ人民を分断し、ハマス主導の自治政府を破綻に追い込もうとしてきた。しかし、イスラエルは、ハマスの「兵糧攻め」に失敗し、パレスチナ分断に失敗した結果、最後の手段として公然たる軍事力によって、ハマス主導の自治政府を暴力的に一挙に崩壊させようとして、なりふりかまわぬ暴挙に出たのである。
(7)繰り返しイスラエルを支持する米国ブッシュ政権。国連決議阻止に動く。
米国ブッシュ政権は、6月28日、「イスラエルには自衛の権利がある。」と述べることでイスラエル軍によるパレスチナ人民に対する集団懲罰=戦争犯罪を容認し支持した。私たちは、いかなる暴虐をはたらいてもイスラエルを支持し続ける米国を厳しく糾弾する。
スノー米大統領報道官は定例の記者会見で、「侵攻を招いたのはイスラエル兵の拉致などパレスチナ側の行為だ」と述べた。イスラエルの公式発表と米国のこのような見解とが、大手メディアを通じて全世界に垂れ流され、日本でもメディア報道はほとんどすべてこの見地を基本にして行われている。そのようなプロパガンダに抗して事実を広く知らせることが重要である。
パレスチナ情勢をめぐる国連安保理の緊急協議が6月30日開かれた。パレスチナ側はイスラエル軍の侵攻について、戦時の文民保護を定めた国際人道法の「重大な違反」としてイスラエル非難決議の採択を要求した。これに対してイスラエル側は、パレスチナ武装組織による自国兵奪還のための侵攻作戦だったと白々しく正当化した。
米国のボルトン国連大使は、これまでと同様、イスラエルを擁護し侵攻を公然と後押しした。拉致された兵士の「即時かつ無条件解放」が先決として、非難決議は必要ないとあからさまな妨害を行った。
(8)根本原因はイスラエルの過酷な占領支配=アパルトヘイト体制。
今回のイスラエル兵士拉致問題の本質は、イスラエルによるパレスチナ人民に対する過酷で残忍な占領支配である。
現在イスラエルが推し進めようとしている「分離壁」による「一方的国境画定」は、国境線の画定などでは全くない。そもそもイスラエルは、独立した主権国家としてのパレスチナ国家を認めず、一貫してパレスチナ国家の樹立を阻止しようとしてきた。イスラエルが意図しているのは、かつて南アで黒人を不毛な土地に押し込めてそれを「国家」と称したバンツースタンと同様の擬制国家、それも「分離壁」で囲まれた「巨大青空監獄」と言うのがふさわしいような擬制国家である。パレスチナ自治政府は、イスラエルにとっては、その擬制国家の番人でなければならないのである。
今回のガザ侵攻で白日の下にさらされたように、「ガザ撤退」によってガザ地区における占領支配が終わったわけではない。壁で隔離され軍事的に包囲され、経済も交通もあらゆることがイスラエルの掌中にある。イスラエルが必要であると判断すればいつでも、どんな口実をつくってでも圧倒的な軍事力によって殺戮と破壊を行うことができる、巨大な青空監獄なのである。ヨルダン川西岸地区で急ピッチで建設されてきた分離壁は、西岸地区もガザ地区と同様の青空監獄にしようとするものである。「一方的国境画定」と称しているのは、西岸地区の一部の領土併合と青空監獄の外壁建設にほかならない。
ヨルダン川西岸地区とガザ地区は、1967年以来、イスラエルが国際法に違反して占領し続けている。イスラエルを中東支配の要として位置づける米国歴代政権が、それを容認し庇護してきた。しかし、87年末にはじまる第一次インティファーダによるパレスチナ人民の反占領闘争の爆発によって、古典的な占領支配は行き詰まり、占領の終結とパレスチナ国家の樹立を求める国際社会の圧力も強まった。その結果として、93年に「オスロ合意」が成立し、それに基づきパレスチナ暫定自治が開始され、パレスチナ国家樹立へ向けた中東和平が成立したかに見えた。しかし、その後7年にわたって進行した諸過程は、「パレスチナ国家」とは名ばかりの、入植地と道路(イスラエル領とされた)と検問所によって寸断された飛び地の「国家」=イスラエル版アパルトヘイト体制の構築にほかならなかった。
2000年9月末、再びパレスチナ人民の鬱積した不満が爆発した。第二次インティファーダである。これも当初は、第一次インティファーダのときと同じように若者たちが石でイスラエル軍の戦車に立ち向かった。しかし、イスラエル軍の武力弾圧によって、事態は急速に武力闘争へと変化していった。パレスチナ自治政府は、複雑で二面的な性格を抱えていたが、イスラエルが望むような擬制国家の番人になりさがる側面よりも、パレスチナ独立のための闘争の拠点として機能する側面が強まった。圧倒的な軍事力を誇るイスラエル軍は、武力弾圧と挑発を繰り返し、パレスチナ側の自爆テロを誘発して、ブッシュ政権の「テロとの闘い」に乗じる形で2002年3月から4月、西岸地区へ大侵攻し、自治政府そのものを破壊しようとした。そして、ジェニンの大虐殺を含む大規模な破壊と殺戮を行なったのである。
パレスチナ人民の第二次インティファーダは、完全に血の海に沈められたかにみえた。ブッシュ政権主導の「ロードマップ」が押し付けられ、占領を終わらせることなしにパレスチナ人民の反占領闘争だけを終わらせることが要求された。弱体化したパレスチナ自治政府は、譲歩に譲歩を重ね、パレスチナ難民の帰還権を放棄するところまで行きつこうとしていた。
しかし、占領がなくならない限り、いくら弾圧を繰り返しても反占領闘争がなくなることはありえない。ただ、現れ方が変化するだけである。パレスチナ人民は、今度は選挙という形で、イスラエルと米国に屈服しない自治政府を選出することによって、強烈なインティファーダの意思を、イスラエルと全世界に突き付けた。そのことによって、パレスチナ問題の根源が再び国際政治の焦点に浮上しようとしているのである。イスラエルが39年にわたる占領を終わらせ、1967年占領地から入植地を含めて完全撤退すること、「分離壁」による領土併合とバンツースタンの建設をやめること、「分離壁」を撤去すること、イスラエル国家と並んで独立した主権をもつパレスチナ国家を樹立すること、そのもとでパレスチナ難民問題をはじめとする歴史的な大問題を国連決議に基づいて話し合いと相互理解と交渉によって公正に解決していくこと。そのような根本的な解決に向かって進むのでなければ、パレスチナ問題の解決はありえないのである。
ハマスの壊滅、ハマス政権の打倒を目指すイスラエルの攻撃は、経済封鎖であろうと、武力攻撃であろうと、逆にパレスチナ人民の統一と団結を打ち固め、反イスラエル闘争を激化・先鋭化させつつある。やられてもやられても立ち上がって抵抗の姿勢を示す。私たちは、そのようなパレスチナ人民の不屈の意志に限りない連帯を表明する。私たちが、今やらねばならないのは、イスラエルによる国際法違反の侵略行為を糾弾することであり、そのために、「拉致兵士救出」論というまやかしの口実を徹底的に暴露することである。私たちの周辺から、孤立しながらも自らの尊厳を崩さず抵抗し続けるパレスチナ人民への連帯の声を何としても広げていきたい。
2006年7月3日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局
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