反占領・平和レポート NO.43 (2005/2/27)
Anti-Occupation Pro-Peace Report No.43 |
米・イスラエルの危険な“火遊び”
−−ブッシュ政権、第二期の狙いもやはり中東の石油支配と軍事覇権−−
◎イラン原発への空爆の脅し
◎レバノンへの内政干渉とシリアへの軍事脅迫
[翻訳紹介]「猛犬に注意!」ウリ・アヴネリ 05.2.19
“ Beware of the Dog ! ” Uri Avnery 05.2.19 |
■ ブッシュ政権の軍事外交政策の第二期最大の狙い目もやはり中東の石油支配と軍事覇権であることが明らかになってきました。国務長官になったコンドリーサ・ライスの外交政策も明らかになりました。−−イラクの次なる獲物はイランとシリアです。
イランに対しては、イスラエルに空爆をそそのかす危険性が強まっています。シリアに対しては、レバノンでの反シリア感情を煽りたてることで介入の機をうかがっています。いずれにしてもブッシュ政権は、議会選挙を経ても未だに安定しない泥沼化したイラク情勢から米国民と世界の目をそらせるために、中東で新たな事件を勃発させることを狙っているのです。
■ とりわけイスラエルの最近の動きは危険極まりないものです。つい先ごろシャロン首相はヤアロン参謀総長の解任を決め、ダン・ハルツ空軍司令官を後継者にすえる動きを示しました。空軍から参謀総長が任命されたことは、これまではなかったことです。何よりも、このハルツという人物は、24年前のイラク原子炉空爆に参加したパイロットなのです。そういう人事をガザ撤退を控えたこの時期に行おうというのです。地上でのガザ入植地撤去よりも重大な計画が空の方であるのだと言わんばかりです。
そして、イスラエルのこのような動きは、この間の米国による対イラン強硬発言と符合し共鳴しあっているのです。この間チェイニーとブッシュが相次いで、イランの「核開発」に対してイスラエルは黙ってはいないだろうということを露骨に発言しました。
以下に紹介する翻訳は、そういうイスラエルをめぐる諸事情をイスラエルの平和団体「グッシュ・シャロム」のウリ・アヴネリ氏が詳しく暴露し論評したものです。アヴネリ氏は、シリア・レバノン問題についても、歴史的経緯を含めて解説しています。
■ シリアに対しては、昨年9月の国連安保理での「レバノンからの外国軍撤退決議」をベースにして、米国は脅しと圧力を強めてきました。そしてつい先頃レバノンの前首相ハリリ氏がベイルートで自動車爆弾によって暗殺された際に、まだ真相が何も分からないのに、ブッシュ政権は即座にシリアを名指しで非難し、大手メディアを動員した反シリアキャンペーンを開始しました。日本を含む全世界の大手メディアのほとんども、確証も何もないのに、まるで爆殺犯人はシリアであるかのように垂れ流しているのです。全く怪しいものです。何かのシナリオに沿って動いているのは間違いありません。
暗殺されたハリリ氏は、2000年から首相を務めていましたが、昨年10月に辞任後、反政府派に参加していました。アヴネリ氏はこう論評しています。「もしシリアが本当に有罪であるなら、それは最高にバカバカしい行為である。なぜなら、それは米国がレバノンで反政府勢力を構築し反シリア感情を煽り立てることに資するのは明らかだからである。それは、「シリアの占領を終わらせろ!」というスローガンで反シリアキャンペーンを開始することに関心がある者にとってまさに最適な瞬間に起こった。」と。アヴネリ氏も暗にシリア犯人説は怪しいと言っているのです。
現に中東では米=イスラエル陰謀説が有力です。日本では全く報じられていないのですが、このハリリ暗殺に関しては、米国−イスラエル、具体的にはイスラエルの諜報機関モサド、あるいは米CIAの可能性が高いと考えられているのです。なぜ日本のメディアは米政府や米系メディアの、何の根拠もない「大本営報道」を、検証もないまま垂れ流すのでしょうか。イラク戦争における根本的に誤った虚偽報道を何も反省していないのです。
※「Assassinating Al-Hariri Fits Washington’s
Plan」by Mike Whitney February 17,
2005 http://www.dissidentvoice.org/Feb05/Whitney0217.htm
※「IRAN: Is the US planning a military
attack?」Doug
Lorimer http://www.greenleft.org.au/back/2005/616/616p17.htm
※「Late Hariri`sconsultant: Hariri`s
assassination
by Mossad aimed」Islamic Republic News
Agency
(IRNA) http://www.irna.ir/?SAB=OK&LANG=EN&PART=_NEWS&TYPE=HE&id=20050215030858
※「The assassination of Rafiq Hariri:
who
benefited?」By Bill Van Auken World
Socialist
Web Site 17 February 2005 http://www.wsws.org/articles/2005/feb2005/hari-f17.shtml
■ ブッシュ政権は、イラクでの失敗と泥沼化にもかかわらず、いやそれだからこそ、新たな敵、新たな挑発相手を探しているのです。もちろんイラクの泥沼化に手足を縛られた米軍は今、イラク以外に地上兵力を投入する余裕はありません。しかしだからといって自制をきかせて止まることなどできないのがブッシュの軍事マシーンです。イスラエルを使ったり、空爆を強行することは、軍事的には可能なのです。その意味で米=イスラエルの帝国主義的軍国主義、帝国主義的植民地主義の危険は、依然として中東と世界における最大の脅威なのです。
第二期ブッシュ政権の外交の手始めとして、この2月、ライス国務長官が地ならしした後をうけてブッシュ大統領が欧州を訪問し、「米欧関係修復」を演出しました。ブッシュ訪欧の狙いの一つは、次なる標的イランまたはシリアへの攻撃についての欧州の感触をさぐり、あわよくば賛同を得ることにありました。しかし予想通り結果は散々でした。第二期になっても単独行動主義、先制攻撃戦争政策を放棄しようとしないブッシュに対してそう簡単に米欧修復が実現するわけがありません。ドイツ、フランスなどEUの対イラン、タイシリア政策は軍事的解決ではなく、政治的外交的解決を目指したものです。「にっこり笑って記念写真だけ」と揶揄されています。ドイツやフランスの有力者からは「EUは米国の家来ではない」「同盟とは付き従うことではない」「オオカミはオオカミだ」などと厳しい批判が起こり、街頭では大勢の反ブッシュ・反戦の声が響き渡りました。イラク戦争開戦以来一気に険悪化した米欧対立、米・EU対立は、表面上の握手とは裏腹に一層激しくなり固定化しつつあります。
ブッシュとネオコンは次にどう出るのか。予想も付きません。はっきりしていることは、広義の意味でのネオコンがまだ政権の中枢に居座っている、そもそもブッシュとチェイニー、ライスとラムズフェルドは、ネオコンの思想と政策に共鳴しているということです。彼らネオコンとそれに近い連中の中東政策は、イラクを占領した後イランとシリアの現政権を倒して親米政権にすること、それによって中東における米の軍事覇権を磐石にすること、そのことを通じて膨大な石油資源を手に入れることにありました。いわば「中東ドミノ理論」です。ブッシュ政権がこの路線を基本的に堅持していることは間違いありません。
■ イスラエルの方はといえば、「ガザ撤退」の看板のもとで西岸での新たな大規模領土併合を既成事実化していますが、それについてブッシュ政権から合意・承認を得た見返りに、米国の代理としてイランを空爆しようとしています。それはまた、中東での核独占を崩す可能性は芽のうちに摘み取っておきたいというイスラエルの狙いでもあります。自らは多数の核兵器を保有しているにもかかわらず、です。イスラエルは中東における核独占体制を維持しようとしているのです。
そしてさらに、「ガザ撤退」に対する入植者と極右勢力の思いもよらなかった頑強な抵抗運動で混迷を深めている国内矛盾を、外へ転嫁する効果も見込んでいると思われます。
米国がイラクでの総選挙の「成功」を演出するのに協力して、イスラエルはパレスチナ自治政府との和解を演出し、「停戦」を合意しました。しかし、米国が次なる目標に触手を動かし始めるや否や、イスラエルも「停戦」を投げ捨てる策動を開始したかに見えます。
にわかに中東がきな臭くなってきました。事態を注視し、警鐘を鳴らす必要があります。
2005年2月27日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局
皮ひもにつながれたロットワイラー軍用犬のように見せびらかされるのは、お世辞にもうれしいこととは言えない。その主人は敵に対して犬をけしかけるぞと脅している構図である。だがこれは、現在の我々の置かれた状況なのである。
(訳注:「ロットワイラー」はドイツ原産のイヌ。体高60〜70cm、短く光沢のある黒い被毛で、軍用犬、警察犬として用いられる。)
副大統領ディック・チェイニーは、2〜3週間前、もしイランが核開発を続けるならイスラエルがイランを攻撃するかもしれないと脅した。
今週、大統領ジョージ・ブッシュは、この脅しを繰り返した。もし自分がイスラエルの指導者なら自分はイランに脅かされていると感じることだろう、と彼は言明したのである。彼は、少々回転の遅い人々に、次のことを思い起こさせたのである。米国はイスラエルの安全に対して脅威があれば、イスラエルの防衛をつねに引き受けてきたということを。
こういったことのすべてを勘案すれば、つまるところ次のようなはっきりとした警告になる。もしイランが米国の指図に従わなければ(そしておそらくは従う場合でさえ)、イスラエルは米国の支援のもとにイランを攻撃するだろう。およそ24年前にイラクの原子炉を攻撃したように。
同じく今週、まったく予期せぬことが起こった。アリエル・シャロンが参謀総長モシェ・ヤアロンを首にしたのである。後任者は十中八九、ダン・ハルツ将軍だろう。
ハルツは知っての通りパイロットであり、1981年のイラク原子炉攻撃に加わったひとりである。もし彼がヤアロンの後を継げば、イスラエル軍の歴史上初めて空軍から参謀総長が出ることになる。だがそれは、かなり妙な話である。というのも、ここしばらくは、軍には地上での非常に困難な任務を遂行することが求められているからである。つまりガザ地区の入植地の撤去である。空軍の将軍を参謀総長に任命することは、イスラエル軍がもっとずっと重要なことを空で計画しているということをほのめかしているのかもしれない。
(挿入 : ヤアロンの退場に誰も涙を流しはしないだろう。参謀総長として、彼は、ここ3年の間に軍で起こったひどい事柄すべてに責任を負っている。13歳の少女の「殺害検証」から「近隣者プラクティス」――戦闘員を殺しに行くときにパレスチナ人の民間人に兵士の前を歩かせること――にいたるまで。しかし、もしヤアロンの後継者にハルツがなるとすれば、悪人が除去されてももっと悪い奴が後を継ぐ、という悲観的な格言を確証することになる。
忘れた人々のために。: ハルツ(ヘブライ語で「先駆者」の意)は、空軍がハマス指導者の家に1トン爆弾を投下して9人の子供をふくむ15人の民間人もろともその指導者を殺害した後に、公の場でのごうごうたる非難の嵐を引き起こした。そのような爆弾を投下した時にはどう感じるかと尋ねられて、かれは、「ほんのわずかな衝撃(を感じるだけ)」と答えたうえに、そのあとでもよく眠れると付け加えた。その際に彼は、「グッシュ・シャロム」の戦争犯罪に反対する行動をけなし、我々が国家反逆者として裁判にかけられるべきことを要求したのである。)
ブッシュ=チェイニーとロットワイラーに戻ろう。
ブッシュが初めて権力についたとき、ネオコンは、中東におけるアメリカ帝国の拡大へ向けた一貫計画を大統領に提示した。それは3つの段階からなる。
1.イラクの莫大な石油資源を支配管理するために、またカスピ海の石油とサウジアラビアの石油との間の重要な結節点に米軍部隊を駐留させるために、イラクを征服すること。
2.イランの現政権を倒してイランをアメリカ陣営に引き戻すこと。
3.シリアとレバノンについても同様に行うこと。イランがシリアの前にくるかその逆かは、まだ決められていなかった。
イラクでの米国の冒険の経験から、次の段階が取り消されるだろうという憶測がなされたかもしれない。イラクの人々は占領軍を花束で迎えはしなかった。侵略の口実――サダムの大量破壊兵器――は、見え透いたウソとして暴露された。武装蜂起は続いている。イラク国家の将来は、最近の選挙の後でも、不安定なバランスの中で揺れ動いている。国が3つの部分に分裂して中東全域に衝撃波をつくり出すかもしれない。無邪気な人々は、およそこういったことがあった後にブッシュがさらなる冒険の危険をおかすことはないだろうと信じている。が、それはまちがっている。
第一に、彼のような単純でうぬぼれの強い人間は決して失敗を認めないからである。彼の冒険のひとつが失敗しても、それはただ、もっと野心的な冒険へと彼を突き動かすだけである。
第二に、その失敗は、実際イラクにおいて多大な人命を奪い、生活基盤を破壊しているのだが、そんなことはこの作戦の立案者にとってはどうでもいいことなのである。主要な目的――イラクに恒久的な駐屯地を確保すること――は、達成されたのである。イラク外では、誰も米軍兵士に立ち去るよう要求してはいない。そして、妨害行為があるにせよ、イラクの石油は米国によって支配管理されている。ブッシュファミリーのパトロンである石油産業の有力者たちは、十分満足できるのである。
ヨーロッパとロシアはブッシュの道をふさごうとしている。ブッシュは今、EUとNATO諸国へ歴訪しようとしている。そこでは、自分の冒険に協力するよう甘言と脅しで説得しようとするだろう。
したがって、ロットワイラー軍用犬を放つぞというブッシュとチェイニーの脅しは、深刻なものと受けとめねばならない。彼らが視界良好だと感じたときには、シャロンにサインを出すだろう。シャロンは、パレスチナ人の土地をさらにガツガツとむさぼりと食うのを米国が同意して許してくれたことへの見返りとして、彼の義務を果たすだろう。
軍事行動はアヤトラの体制を崩壊させるだろうか?
私はそれは疑わしいと思う。それは確かにいまわしい体制ではあるが、外部からの、特に「十字軍とシオニスト」からの攻撃に直面すれば、イランの人々はそれを前にして団結するだろう。イランのような輝かしい歴史をもった誇り高い人々は、たやすくは破れないだろう。
シリアはもうひとつの異なったターゲットである。イラクやイランとは違って、シリアには石油資源はない。しかし、シリアがなくなればアメリカ帝国は切れ目なしになるだろう。シリアはまた、イスラエルにとっての邪魔者でもある。
1967年の戦争でイスラエルはゴラン高原を占領した。そこはイスラエルでは、それまで「シリア高原」として知られていたのであるが。数多くのシリア人の村々がこの地上から一掃されて、そのかわりにイスラエルの入植地がゾクゾクとつくられた。シリアは、自分たちの領土の回復を決して諦めてはいない。1973年にそれを戦争によって実現しようとしたが、初戦での顕著な勝利にもかかわらず失敗した。それ以来、軍事力のバランスは、イスラエルの側にずっと傾いている。したがって、シリアは別な方法を用いている。つまり、代理によって、ヒズボラとパレスチナのラディカルな組織を支援することによって、イスラエルにいやがらせをするという方法である。それらの組織の指導者たちはダマスカスに在住している。
ゴラン高原の支配を恒久化するためには、イスラエル政府はシリアを破らなければならない。ワシントンのネオコンは、――驚いたことに――同じ目的を持っている。その口実は、シリア軍がレバノンに駐留しているということである。
歴史的には、レバノンはシリアの一部である。ダマスカスは、20世紀前半には、フランスの植民地主義者による分離したレバノン国家樹立に甘んじて従うことは決してなかった。属国としてのレバノンを受け入れるのがせいぜいのところであった。
1976年、恐ろしい内戦の最盛期に、シリア軍がレバノンに入った。イスラム教徒とドルーズ派が、PLOの支援を得て、キリスト教徒地域を征服する用意ができていた。シリアに助けに来てほしいと要請したのは、まさにキリスト教徒であった(これはぜひ覚えておいて欲しい!)。それ以来、シリアはレバノンにとどまっている。多くのレバノン人は、シリアが離れれば再び内戦が起こるだろうと信じている。
1982年に、イスラエルはシリアを追い出そうと試みた。それは軍首脳の主たる目的だった(当時の国防相アリエル・シャロンの主目的がパレスチナ人を追い出すことであったのとは異なっていた)。しかし、この侵略は目的を達しなかった。結局、イスラエルは追い出され、シリアは残った。
今週、最近反政府派に加わったイスラム教徒の指導者ファリク・アル・ハリリがベイルートで暗殺された。誰がやったのかはまだわかっていない。巨大なアメリカのプロパガンダ・マシーンは、イスラエルのメディアも含めて、シリアを名指ししている。もしシリアが本当に有罪であるなら、それは最高にバカバカしい行為である。なぜなら、それは米国がレバノンで反政府勢力を構築し反シリア感情を煽り立てることに資するのは明らかだからである。それは、「シリアの占領を終わらせろ!」というスローガンで反シリアキャンペーンを開始することに関心がある者にとってまさに最適な瞬間に起こった。
この要求は、二つの占領勢力つまりイラクの占領者アメリカとパレスチナの占領者イスラエルから出されているということで、お笑いぐさである。しかし、ロットワイラー軍用犬はユーモアのセンスで有名であるわけではない。それを革ひもにつないでひけらかす人々も同様に、ユーモアでそれをやっているわけではない。
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