7/25学習討論集会報告−−−−−−
日本の軍国主義はどこまで来たのか、どこへ行こうとしているのか?
−−日本の新しい軍国主義について熱心な討論−−


 7月25日、大阪浪速区のヒューマインドにおいて、学習討論集会『自衛隊の多国籍軍参加と日本の新しい軍国主義−「主権委譲」後のイラク情勢と米軍の世界的再編の下で−」が行われ、60名を越える市民が参加しました。テーマはずばり、自衛隊派兵をテコとして急速に台頭してきた新しい日本の軍国主義の到達点、具体的内容、今後の進展方向についてできるだけトータルにとらえることです。

 集会の第1部では、基調報告を元に、この新軍国主義の概要を詳しく述べ、参院選での自民党敗北の意味、反戦運動への影響、民主党が今後如何なる役割を果たすのか、米大統領選の結果によって小泉政権の軍国主義の行方はどう影響されるか、ミサイル防衛(MD)と武器輸出三原則撤廃の衝動力は何か等々、質問や意見が相次ぎ熱心な議論が行われました。

 集会第2部では、「日の丸・君が代」強制と教員の大量処分、教育基本法改悪の動きなど、現在進んでいる教育反動の状況について教員から詳しい報告がありました。集会には東京のピースニュースのメンバーも駆けつけ、ワールドピースナウのデモへの弾圧・逮捕など、最近首都圏で強まっている反戦市民運動への弾圧について報告が行われました。


[第1部]“新しい日本軍国主義”についての可能な限り全面的な概要を提起。


■“新しい軍国主義”−−イラク反戦に目を奪われて足元の自国の動きに立ち遅れる。
 集会第1部では、まず署名事務局より「基調報告」が行われました。表題は「自衛隊の多国籍軍参加と日本の新しい軍国主義−−「主権委譲」後のイラク情勢と米軍の世界的再編の下で」というものです。
※集会基調全文は「自衛隊の多国籍軍参加と日本の新しい軍国主義−「主権委譲」後のイラク情勢と米軍の世界的再編の下で−」を参照下さい。

 “新しい軍国主義の台頭”−−聞き慣れない言葉かも知れませんが、これは私たちが痛切に感じた今の事態を一言で表現したものです。私たちがイラク戦争、イラク派兵に目を奪われている間に、自分の足元を見れば、日本軍国主義の新段階とでも言える非常に危険な動きが進行している、このことに危機感を持ったのです。自分達の国の軍国主義がどこまで到達し、今後どこへ進もうとしているのか。その分析で大きく立ち後れていることを思い知ったのです。

 いろいろ調べている間に、米軍の世界的再編=トランスフォーメーションの下で、日本版トランスフォーメーションとも言うべき大規模な軍事再編が進行していること、「新防衛大綱」という名の新しい軍事戦略が今年中に決定され、臨時国会から来年の通常国会に、関連の法律が軒並み上程されること等々が、分かってきました。あまり時間がありません。一刻も早く警鐘を乱打し、この新しい軍国主義の台頭に反対する運動に取り組まねばなりません。そのためにはまず何が起こっているかをできるだけ包括的全面的につかむことです。

 報告者は、新軍事戦略は「防衛白書」にも概要が示されている、新戦略の柱は「海外派兵を本来任務へ格上げする」こと、日米安保体制強化、米日両軍「統合運用」強化の3本柱から成り立っていること、自衛隊始まって以来の根本的全面的な再編が画策されていること、その日本軍国主義の新段階は日本経団連や日本商工会議所など経済界も含めての「コンセンサス」になっていること、それは憲法改悪を射程に入れた「海外での武力行使」を最終目標にする極めて侵略的好戦的なものであること、しかし改憲をも射程に入れた侵略戦争への直接参加=武力行使はまだまだ国内世論では異論・反対が多く矛盾や軋轢を生み出さざるを得ないこと、先の参院選はこの動きに「先制パンチ」を食らわしたこと、緊急事態基本法案、海外派兵恒久法案、自衛隊改正法案など新戦略関連法案が一斉に上程される通常国会が最大のヤマ場となること、新軍国主義がどうなるかはひとえに大衆運動の力にかかっていること等々、を報告しました。


■「主体的防衛戦略」!?−−新しい日本軍国主義の背景と衝動力。
 討論ではまず、新しい日本軍国主義の背景と衝動力は何か、小泉政権になってからの異様な対米追随政策の背景と衝動力は何か、の補足説明がありました。報告者は、ブッシュの戦争へのこの間の異常な対米追随は単なる小泉首相の個人的な「性癖」ではないと述べ、政府与党、財界を含む日本の支配層主流の「コンセンサス」になりつつある考え方・政策を具体的に幾つか例示しました。

−−元防衛庁長官でもある久間章生・自民党幹事長代理が参院選前のインタビューで語った言葉がこのことをよく表している。「日本は経済的に自立していない。北朝鮮が日本を攻撃することは絶対にない。メリットがない。日本経済は米国経済に巻き込まれていて、米国抜きでは今の豊かさを維持することができないことが大きいと思う。」「テロ以降の日本の為替介入もそうだ。」「イラク戦費も含めて米国の財政を助けている。」等々。「米国支持は経済ファクターがある」のであり、日本経済は対米従属・対米依存が決定的に大きいため、米に追随するしかないと明け透けに語る。
※「2010年からの問い どうする日米関係」(毎日新聞)
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/senkyo/saninsen/sentaku/archive/news/20040619ddm010070160000c.html

−−また、日米の軍需産業の代表が参加した昨年11月の「第二回日米安全保障戦略会議」で、額賀自民党政調会長によって「主体的防衛戦略」なる見解が出された。彼は久間氏と共に自民党防衛族の中心人物であり、彼の背後には防衛庁や自衛隊幹部の主流の見解や意志が反映している。この「主体的防衛戦略」こそ現在の小泉政権の、世界に類をみない対米追随を進める根拠となっている。それは米側からせっつかれて嫌々戦争に参加したり日米同盟を強化するのではなく、積極的主体的に日本が進んで米の侵略戦争を支持し支援していく、そういう「主体的」な戦略。対米従属・対米依存を主体的に進めていく。アメリカに言われて嫌々進めるのではなく自主的に従属・依存していく。

−−自民党、防衛庁・自衛隊やその周辺のシンクタンクで最近、盛んに「日米同盟=新国益」論が台頭している。要するに米国の言いなりになることが日本の国益になったということ。防衛研究所は「日米同盟強化が我が国最高の国益の一つ」とし、アメリカの侵略戦争に在沖・在日米軍基地として、また国家総動員法である有事法制の形で、日本の国土や国民を米軍に自由自在に使って下さいと差し出すことが「新しい国益」だと表明しているのである。

 以上は全て、政府与党の政治的意志、政治的選択として、対米追随・対米依存を追求するという政策・見解の一例です。その意味では、「米の言いなり」「対米追随」と言う表現は不正確です。政府与党は「受動的」ではなく「能動的」に米の戦争・占領に加担しているのです。

 日本軍国主義の新しい台頭の背景と衝動力については、上記のような従来とは異質な「日米同盟重視」論や、政府支配層の異常・異様な対米追随の政治決定だけではありません。その他、石油資源の支配をめぐるアメリカとの利害の一致、これを正当化する「新地政学」の議論、グローバル企業による世界市場への参入、「世界秩序維持の使命と責任」論など、幾つかの補足説明がなされました。これらを精密化するにはまだまだ多くの議論や研究が必要となりますが、少なくとも自民党の伝統的な軍事外交政策を転換するものであることは明らかです。小泉政権の軍事外交政策は、従来の自民党のそれとの単なる量的変化ではなく、質的に異なるものと評価しなければなりません。


■事実上の外交政策の転換。対中外交の軽視・切り捨てと対米外交・対米同盟一本槍。
 さらに報告者は、米の軍事外交政策に大きな影響力を持つ「フォーリン・アフェアーズ」最新号の編集長ジェームズ・ホーグ氏の巻頭論文「パワーシフト」を紹介し、米の支配層が10年、20年後の中国の台頭に極めて大きな脅威を抱いていることを指摘しました。中国の中長期的な台頭は米支配層の脅威であるだけでなく、日本の支配層の脅威でもあります。新しい中国の台頭にどう対処するかは、新しい軍国主義の台頭の背景・衝動力になるのです。

 筆者は「日本と中国が同時に力強い国家として存在するのは史上はじめてである。」との認識を示した上で、対中国政策を日米同盟強化で進めること、すなわち米国にとって好ましくない日中緊密化を予め阻み、対中牽制・封じ込めのために日米同盟を強化する事を主張しているのです。MDはこの中国脅威論の延長線上にあることは、今では軍事的常識です。

 もちろん事態がこの通りに進むわけではないでしょう。参加者から、対米一辺倒についてどこまで進むのか、疑問が出ました。現在の日本の景気回復には中国特需が大きく寄与している。日本経済の中国経済との依存関係も深まっているはずだ。いずれ日本の政府与党や支配層の中に、かつて自民党の伝統的な保守派が進めてきた「対米・対中バランス外交」を復活させる動きが出ないのか、と。もちろん可能性はあります。しかし現在の小泉政権の下では、靖国神社参拝の強行も含めて、対中外交を犠牲にして対米一本槍を貫いているのが現実ではないか。事態をもう少し見なければ分からない。報告者はそう答えました。


■米軍の再編、在沖・在日米軍基地再編−−中東をにらむ米軍の出撃拠点化。米軍の従属・補完部隊としての自衛隊再編。
 最近、米政府・米軍は、在沖・在日米軍基地の再編について、突如とんでもない包括的な要求を出しました。米側が考えている基地再編の全体像はどのようなものなのか、米側が出した要求の中で一体何が重要なのか。そういう点に議論が集中しました。米軍側にしてみれば、米軍の司令部機能の移転・統合が最も重要ではないか。報告者はそう評価しました。現在米本土には第一軍団という太平洋陸軍全部を動かす司令部があるが、それを日本の座間基地に移転する。横田基地に米空軍の総司令部を移転する等々です。これで日本は中東を含むアジア太平洋の米軍最大の出撃拠点になるということなのです。米本土にあった司令部が日本に移り、まるで日本を米国本土のように使おうという訳です。

 またこの在日米軍基地再編との関係で、自衛隊はどう変貌するのか。陸・海・空、三自衛隊全部が問題になるのか。このような議論があり、報告者は次のように答えました。海上自衛隊と米海軍はもともと一体化しており、その司令部は横須賀にある。航空自衛隊と米空軍も一体化が進んでいる。海と空はすでに組み込まれている。最後に残った陸上自衛隊を米陸軍に従属統合し組み込むことが次の目標であり、これらを合わせて三自衛隊全体を米軍の補助・補完部隊として位置づける。これが最大の狙いではないか。


■武器輸出三原則の撤廃と軍需産業生き残り・復活への野望。
 日本の新しい軍国主義の加速化に関して、日本の軍需産業の衝動力はどの程度のものか。そう言う議論がありました。言うまでもなく日本の軍需産業の規模、政財界への影響力はアメリカの軍需産業の足元にも及びません。圧倒的に小さいのが現状です。軍産複合体がブッシュ政権の中枢を牛耳っているのとは大違いです。だから軍需産業の発言や動きが、直接日本の新しい軍国主義、新しい軍事戦略を動かす衝動ではありません。

 しかし最近、日本経団連(この副会長が軍需産業トップの三菱重工)や自民党防衛族や政府与党の多くの政治家、財界人から、一斉に武器輸出三原則撤廃要求が出ています。これまでも何度か出ましたが、今回彼らは本気です。「新防衛大綱」等と一緒に突破させようとしています。オール・ジャパン、「総資本」の要求であるかのようです。

 なぜか?それはこのままでは日本の軍需産業が衰退し消滅してしまうからです。政財界がこぞって日米軍事同盟重視と日本版軍需産業復活をワンセットで考えているのです。それは日本の重機械・重電機産業、通信産業、航空宇宙産業などの衰退とも関連しています。彼らは生き残りと復活を賭けて、米欧で巻き起こった軍需産業のM&A・再編に匹敵する生き残りを目指そうとしているのです。
 彼らが危機感を持つのは、米欧の軍需産業にすでに大きく遅れをとっていることです。ボーイングとマクドネル・ダグラス、ロッキードとマーチンマリエッタ、ノースロップとグラマン等々、アメリカでは1990年代前半に軍需産業・航空宇宙産業の合併・再編・巨大化が進行し、それに対抗して欧州でも1990年代後半に合併・再編・巨大化が進みました。

 日本の軍需産業が武器輸出三原則撤廃を求めるのは、その規模を拡大しようとの目論見だけではありません。米欧との軍事技術交流、共同生産を相互的に行うために、邪魔になっているからです。ミサイル防衛(MD)がその端的な事例です。対米同盟重視のためにはMDへの参加・共同開発が必要だ。米は日米で共同開発したMD技術・部品を第三国に売りたい。しかし武器輸出三原則がそれに立ちはだかる。また、三原則があると民生技術の軍事転用ができない。MD参加・共同開発のために武器輸出三原則を撤廃するというのは、日米同盟強化の衝動でもあるのです。


■参院選での自民党の敗北の意味。「躍進」した民主党の評価を含む選挙結果の二面性。
 今回の参院選が新しい軍国主義にどのような影響を与えるのかは、非常に複雑で二面的です。基調報告では、自民党の“歴史的敗北”と述べましたが、もちろん小泉首相の対米従属的な軍国主義のエスカレーションは、参院選の敗北だけで止まる訳ではありません。7月30日から始まる臨時国会、秋の臨時国会、9月の内閣改造等々、政府与党と民主党・野党との政局の主導権争いがどうなるかにもかかっています。とりわけ国内世論と反戦運動がどう動くかにかかっています。

 選挙結果の複雑さと二面性の根拠は、民主党が“半軍国主義勢力”的な本質を内包しているからです。自民党は、「憲法」「安保」「防衛」での民主党の弱点を徹底的に突いて来るのは目に見えています。民主党の躍進をどう評価するのか。このような疑問が参加者から出されました。

 先に問題にした「第二回日米安全保障戦略会議」には民主党の前原議員が参加しています。前原−石破−久間−額賀、民主党の防衛族と自民党の防衛族が一緒に活動しているのです。久間・前原ラインは、有事法制を自民・民主で成立させたときに「活躍」したラインなのです。もちろん、民主党の中でこのようなタカ派のポジションがどの程度のものであるのかという留保は残ります。しかし、民主党は有事法制に賛成し、対北朝鮮制裁では先頭に立っており、集団的自衛権行使でも推進、憲法第9条の改憲にも賛成です。つい最近も、岡田代表はテレビ番組の中で「9条は全文改正」と語る始末です。民主党が改憲の主導権を握ろうとし、自民が応戦するという可能性も出て来うるのです。民主党への圧力をも含めて世論と大衆運動にかかっているのではないでしょうか。


■ブッシュかケリーか。大統領選挙の行方が、日本の新しい軍国主義にどう影響するのか。日本の新しい軍国主義台頭をめぐる矛盾・軋轢をどう見るのか。
 議論は、これほど全面的で露骨な軍国主義の台頭はスムーズに進まないはずだ、どんな矛盾・軋轢があるのか、という方向に進みました。幾つかの軋轢・矛盾は、基調報告の一番最後の部分に列挙されています。

 例えば、ブッシュが大統領選で負けた場合、アメリカの戦争政策、イラク政策はどうなり、それとの関係で小泉政権の軍事的暴走はどうなるのか。これは非常に重要な問題です。ケリー候補は、ディーンと違い、元々イラク戦争反対を掲げてでてきた候補ではありません。イラク戦争開戦に賛成票を投じました。現に現在行われている民主党大会でも、イラク反戦は掲げていません。国連やEUなどとの「国際協調」重視を打ち出していますが、先制攻撃戦略や対テロ戦争には強硬論者でもあります。しかしイラク戦費に関しては反対しました。非常に複雑怪奇というのがケリーの特徴です。おそらく米兵の犠牲が拡大し泥沼化する占領政策に異論を唱えているに過ぎないのではないか。長期的にみてイラク政策のスタンスを変える可能性は高いが、今すぐ撤退ということにはならないだろう。従って小泉政権への影響も複雑だ。報告者はそう答えました。

 一方米軍の世界的再編=トランスフォーメーションについても、それはペンタゴントップ、米支配層全体の意向です。もしブッシュが再選されても、イラク戦争・占領の失敗、アブグレイブの一件がありラムズフェルドは再選されないだろう。だからペンタゴンは秋の大統領選挙までに、ラムズフェルド型のトランスフォーメーションを決めたいと考えている。この点ではブッシュもケリーも変わらないだろう。それが報告者の意見です。


[第2部]教育基本法改悪と教職員「思想改造」攻撃

 第2部では、「急速化する教育基本法改悪への動きと教職員『思想改造』攻撃−−牙をむき出しにした国家権力の暴虐を押し戻す闘いのために」と題した報告が、大阪の府立高校教員から行われました。

■東京都、広島県での教職員「思想改造」攻撃の異常さ。
 まず大阪の府立高校での状況が報告されました。大阪では通常、卒業式の「日の丸・君が代」の通達は1月初めに出るのですが、今年はぎりぎり2月に出ました。なぜか。東京の攻撃を見ていたのです。東京の教職員への強制と大量処分が報じられている中で、大阪府教育委員会では、「東京でここまでやっているのに、大阪では従来通りでいいのか、一歩踏み出す必要がある」との意見が出て相当検討されたと言います。結局、今年については東京への追随は時期尚早となったのですが、しかしここからも分かるように、全国の府県は東京の動きを見ているのです。

 石原都知事の教育行政の下で一体何が起こっているのか。報告では、あまり一般の人が見ることのない卒業式「会場図」「教職員配置図」「職務命令書」のコピーが配られ、それを説明する形で東京の現状が報告されました。
−−卒業式はこの会場図通りに配置されなければならない。中央に国旗、向かって左に都旗、向かって右に校旗。明らかに、国、都、高校とランク付けがされている。
−−国旗はもちろん、都旗と校旗が逆になっても許されない。
−−しかも席順の筆頭は都教委の課長だ。校長はその次である。卒業式の主催はこれまでのような学校ではない。都教育委員会であり、その力関係を知らしめているのである。
−−教頭は一番後ろで、教員と生徒全体を監視する。教職員配置図には、教職員の名前が書き込まれている。(資料では墨塗り)。誰が起立せず、誰が「君が代」を歌っていないのか、一目瞭然である。
−−一方教職員に出される「職務命令書」には「妨害行為・発言をしないこと」「国旗に向かって起立し国歌を斉唱すること」とともに、「服装は卒業式にふさわしいものとすること」が入っている。ピースリボンなどを付けることを禁じているのだ。等々。

 東京都で最近、新しい攻撃が始まろうとしています。日の丸・君が代攻撃に異論を唱えた教職員に対して、それを自分の使命と感じるまでに「思想改造」をする攻撃です。その一環として都教委に「転向システム」とでもいうべき制度が作られました。都教委は、卒業式での不起立で処分された220人あまりに対して8月2日から「服務事故再発防止研修」なるものを実施しようとしているのです。不起立の教師は、研修所に行かされ、反省文を書かされる。反省文を書くまで何度でも、いつまでも「研修」を受けさせられ、「転向」を迫られるのです。
 多くの教職員はこの攻撃に対して立ち上がりました。都人事委員会への処分への不服申し立て、起立斉唱の義務がないことを確認する「予防訴訟」等々、様々な闘いが進められています。

 攻撃はこれらだけにとどまりません。教員を日常的に監視し従順にする策動があります。例えば教育委員会による「教職員評価システム」です。「自己申告書」を提出しないと指導力不足教員とされ研修所に送られる。また、評価システムの裏に人事異動の希望が入っている。出さないということは、私はどこに異動されてもかまいませんということになる。様々な形で圧力をかけ、不利益を与え、反抗する芽を摘もうとしているのです。
 これら全体を一体どう捉えればいいのか。偏執狂、病的と言っていいほどの執拗さ、まさに「茶色の朝」「ファシズム」という状況です。

 そしてこの東京都すらびっくりするほど、今最も「恐怖支配」が進んでいるのが、文部省が主導する広島県なのです。すでに何人もの校長が自殺しています。学校の長が文部省や県教委の圧力を受けて死ぬ「教育」とは一体どんな教育なのか。学校の長が命を断たずにはおれない「教育」とは一体どんな教育なのか。広島の教委や文部省に「生きることの大切さ」云々を言う資格はありません。教員に死を強制する教育など教育と言うべきではないでしょう。
 中でも陰湿なのは「相互監視」体制です。広島では、同僚が同僚をチェックするシステムが導入されています。チェックする同僚の良心を破壊し、チェックされたほうは頼まれて仕方なく起立する。互いの精神をずたずたにしていく。広島では自由に発言することすら難しい状況が生まれているのです。あまり表沙汰にはされていませんが、教職員の精神疾患や自殺が増えていると言います。自殺は校長だけではないのです。君が代斉唱の音量調査、生徒の歌唱チェックと教師の責任追及、保護者の不起立チェック等々、異常で異様な攻撃が次々かけられています。


■時代錯誤の復古主義−−驚くべき内容の教育基本法改悪「中間報告」。 
 そしてまさにこうした広島と東京における学校の「恐怖支配」は、教育基本法改悪の“先取り”であり、“予行演習”という性格を持っているのです。
 報告者は次に、与党が6月16日に出した教育基本法「改正」に関する検討会の「中間報告」と現行の教育基本法とを対比させた表を使い、詳しく批判しました。それは自民党の文教族=森派(あの「日本は神の国」を信条とする連中の巣窟)を中心とした時代錯誤の復古主義が好き放題に書いたものなのです。

−−まず前文がない。現行の前文は「日本国憲法」の下に、「平和」に貢献し「個人の尊厳」を重んじる事が唱われている。改悪派は憲法改悪を目指しており、改悪教育基本法そのものが違憲。だから現行日本国憲法の下にあることを頭から否定する。全く異なるものである。
−−「教育の目的」(第1条)から「平和的な国家及び社会の形成者として」「個人の価値を尊び」「自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成」などが削除された。すなわち改悪派の教育の目的はこれを否定することである。戦争のために個人を捨て命を投げ出す子どもを作るのが目的である。
−−教基法第3条の「教育の機会均等」−−「すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育」の文言からの「すべて」「ひとしく」を削除。差別選別教育の推進。また、「人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位または門地によって、教育上差別されない」から「社会的身分、経済的地位または門地」を削除。貧乏人は教育を受けなくても良い、出身家庭によって差別される。
−−男女共学の項の全面削除。男女平等と男女平等教育の否定。長い間かかって教育に取り入れられた「ジェンダー」を全面的に排除することが狙い目。 
−−そして極めつけは「教育は、不当な支配に服することなく」の「教育行政は、不当な支配に服することなく」への変更。「教育」と「教育行政」の2文字違いの大違い。国家・行政権力が教育に不当介入することを排除するという現行規定から、全く正反対の、国の教育政策への批判、教職員組合による批判を排除する方向へ、180度の転換。国家の介入のフリーハンドをもたらすもの。
等々。

 ただ1点、全面的に改悪された「中間報告」の中で、第2条「教育の目標」だけが“両論併記”となりました。すなわち、「郷土と国を愛し」(自民党)と「郷土と国を大切にし」(公明党)。この1点だけで、自民党と公明党が対立したのです。戦前・戦中の軍国主義イデオロギー、排外主義的民族主義につながる“愛国心”を、自民党側の言いなりにならなかった点で公明党がぎりぎり踏みとどまったのです。これは反対運動の力です。この対立点が無ければ、参院選挙後改悪法案の手続きが加速しこの7月30日にも始まる臨時国会に提出される危険性がありました。

 教育基本法改悪の動きは、参院選で自民党が敗北したこと、公明党依存が強まったことによって“一定の猶予”を与えられることになりました。もちろん依然抜き差し成らない状況です。日本会議などは「全国キャラバン隊」をつくり宣伝を強化すると共に、「つくる会」教科書同様、各地の地方議会から「教育基本法改正」の決議をあげていく戦術を採ろうとしています。たとえば大阪府和泉市では、反対していた公明党が裏切って賛成に回り、危うい状況に陥っています。決して油断は出来ません。
 新しい軍国主義に関わる法案は通常国会がヤマ場となるが、教育基本法改悪については7月末と秋の2つの臨時国会で上程そのものを阻止しなければならない。教育基本法改悪の場合、上程されたときは「成立」と考えねばならない。このように報告者は、ヤマ場は臨時国会という切迫感を強調しました。


■強まる反戦運動への弾圧を跳ね返し、地道な取り組みを強めよう。
 東京のピースニュースからは、特に7月4日に起こったワールド・ピース・ナウのパレードへの弾圧・逮捕事件について詳しい報告がありました。珍しく「完全武装」した機動隊が最後列の市民を盾で挑発し逮捕に至った様子や、この逮捕に抗議した実行委員を狙い撃ちにしシャツを破り上半身裸で引きずり回し、殴る蹴るの暴行を加え逮捕した生々しい状況が伝えられました。最初から逮捕を意図的に狙っていたことは明らかです。東京では、署名や街頭での宣伝活動への監視・介入・弾圧が強まっており、今はそれをかいくぐりながら署名活動などをやっている状況だといいます。
大阪でも、まだ東京ほどではありませんが、街頭での署名・宣伝は確実に規制が強まっています。反戦運動は、こうした警察の挑発や規制、弾圧に打ち勝っていかねばなりません。

 最後に署名事務局から、この間の署名活動や署名提出の経緯、パネル展などの活動報告がありました。すでに首相の私的諮問機関「安全保障と防衛力に関する懇談会」の議論、答申の一部や概要が新聞やTVで報道され始めています。臨時国会から通常国会にかけてこの日本の新しい軍国主義を大きな政治的争点にしていかねばなりません。まずは政府支配層が推進しようとしているこの新しい軍国主義そのものとは何かをつかむことが重要です。

2004年7月29日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局






 




7/25学習討論集会
自衛隊の多国籍軍参加と
    新しい日本の軍国主義
−−「主権委譲」後のイラク情勢と米英占領支配の継続の下で−−
日時:2004年7月25日(日)
    13:00開場 13:30開始 16:30終了
場所:ヒューマインド 第一研修室
     (JR大阪環状線芦原橋駅下車徒歩7分)
[検討内容]
○「主権委譲」後のイラク情勢とアメリカの軍事外交政策の破綻
○米軍の世界的再編・統合と日米軍事同盟のグローバル化
○多国籍軍参加と、海外派兵を自衛隊の主任務とする新しい日本の軍国主義
○全般的な政治反動・教育反動と教育基本法改悪、「日の丸・君が代」強制の新しい事態
○憲法改悪と「集団自衛権」行使への暴走を阻止するのは運動の力

主催:アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局

参院選は、小泉政権に不信任を突きつけた!
多国籍軍参加を白紙撤回し、自衛隊を今すぐ撤退させよ!
 
 参院選で自民党は敗北しました。この選挙の焦点になったのは「年金問題」とともに「多国籍軍参加問題」です。国民へ一片の説明もなしにブッシュに迎合した多国籍軍参加決定と年金問題での問答無用のごり押し、「人生いろいろ」に代表される国民をバカにした対応に対して厳しい批判が加えられたのです。選挙民はこうした“小泉政治”に対して不信任をたたきつけました。
 自民党は、議席数、票数においても過半数をとることはできませんでした。それだけでなく、比例区の得票率でわずか3割、公明党とあわせた与党全体でも45%と、大きく後退しました。自民党の牙城のはずの一人区で惨敗し、当初威勢よく言っていた絶対単独過半数どころか、公明党なしではもはややっていけず、またその助けを借りたとしても過半数に届かない、文字通り自民党支配の瓦解が始まったといえるのではないのでしょうか。非改選議席によってようやく与党の安定多数を確保している状態です。
 小泉首相が、国民を無視して勝手にブッシュに約束し、後から閣議に事後承認させて強行した多国籍軍への参加の違法性、違憲性は明らかです。多国籍軍参加を白紙撤回し、今すぐイラクから自衛隊を撤退させるべきです。                                  

 改憲勢力の拡大を阻止するのは大衆運動の力 
 しかし、今回の選挙結果は同時に、日本の政治全体の右傾化の進行の中での自民党の敗北であったという事実も見ておかなければなりません。確かに民主党は大幅に議席をのばし躍進しました。単独では自民党議席を上回りました。しかし、共産党や社民党など護憲政党の議席を食った形での躍進にすぎません。そして何よりも、民主党が創憲、すなわち改憲に賛成であることを考えれば、護憲対改憲という枠組みでは、国会で改憲派が7割以上を占める危険な状況に変わりはないのです。今後、民主党をも巻き込んだ、改憲論議と教育基本法改悪の動きが出てくる危険性があります。
 民主党は、有事法制の成立に賛成し、許し難い裏切りをしました。多国籍軍参加反対も全く信用できません。ミサイル防衛や対北朝鮮制裁では自民党以上にタカ派です。“半軍国主義勢力”と言っても過言ではありません。反戦・平和・護憲を掲げた大衆運動だけが、このような危険に動きにストップをかけることができます。

 もはや自衛隊がイラクに居座る理由はない 
 小泉首相は早速続投を表明しました。だれも小泉の責任を問わず、他の選択肢がないという理由で、ブッシュに忠実な好戦主義者である小泉は、首相の座に居座り、反動と軍国主義を進めるつもりです。国会よりも日米同盟、国民よりもブッシュを優先する小泉首相は、文字通り、自らのが首相である間に軍国主義化を「やれるところまでやる」危険性があります。
 イラク派兵は新しい段階に入りました。自衛隊の居座りと多国籍軍への参加によって、自衛隊は正真正銘の侵略軍、占領軍の一員としてブッシュのイラク戦争・占領支配に加担しています。小泉首相は何が起ころうとも自衛隊を引くつもりはありません。
アメリカでは、「大量破壊兵器はなかった」すなわちイラク戦争開戦の理由が全くのでっち上げであったことが、議会上院で正式に報告されました。次いでイギリスでも、情報が誤りであったことが政府委員会で正式に報告されました。もはや、イラク戦争と占領支配に一片の正当性もないことは明らかです。
 暫定政権への「権力委譲」以降も、米軍とイラク人協力者に対する、イラク民衆の闘いが継続し、拡大しています。今後ますます、反米反占領レジスタンス運動は強まるでしょう。サマワの自衛隊に対する攻撃が強まるのも間違いありません。

 イラク派兵は、海外派兵を主任務とする新しい軍国主義の第一歩 
 昨年12月に始まった自衛隊のイラク派兵と多国籍軍への参加は、日本の軍国主義化、これまで進められていた軍事化の動きを加速させています。“新しい軍国主義”と言える状況が急速に進んでいます。
 今年度版「防衛白書」は、政府防衛庁・自衛隊の進むべき方向性を露骨に打ち出しています。まず第一に、情勢認識がブッシュ・ネオコンとうり二つなのです。超大国アメリカによる世界支配と対テロ戦争の継続という、アメリカの戦争世界観にどっぷりとはまり込んでいます。ブッシュの先制攻撃論を正当化する情勢認識です。
 第二に、防衛庁・自衛隊の戦後史を画する軍事戦略の大転換です。米のグローバルな軍事介入への協力・加担を前面に打ち出しています。最大のポイントは、世界各地への海外派兵を「本来任務」に格上げし、自衛隊を迅速的、機動的に動ける侵略軍に仕立て上げることです。
 第三に、従来型の日米安保体制を抜本的に強化することです。その最大の柱はミサイル防衛への参加・開発・配備です。対北朝鮮先制攻撃、対中国牽制を射程に入れているのです。
 白書は、「わが国に対する本格的な侵略事態生起の可能性は低下している」と述べ、日本周辺の軍事的緊張が緩和していることを認めています。本来なら軍縮に進むべき情勢なのです。ところがそれでは、米ソ冷戦時代に膨れ上がった巨大な軍備、兵力、組織である「官僚機構」としての防衛庁・自衛隊は困ります。軍縮をさせない口実、それが「新しい脅威」「対テロ戦争」なのです。
 私たちは、ブッシュの先制攻撃戦争に参戦する、政府防衛庁・自衛隊の新しい軍事戦略に大反対です。グローバルな海外派兵にも、ミサイル防衛にも反対です。そのための集団自衛権行使容認、改憲に反対です。軍縮、軍事費削減こそが進むべき道なのです。

 小泉の暴走を止めなければ次は改憲と教育基本法改悪 
 このような新しい日本軍国主義の動きは、小泉首相の個人的なパーフォーマンスだけでも、ブッシュとの緊密な関係だけでもありません。日本経済のグローバル化、日本の資本のグローバル資本への変貌に合わせて、日本の政財界全体、支配層全体の共通した“政治的意志”になりつつあるのです。
 その“政治的意志”はまた、米軍のグローバルな侵略戦争体制、軍事介入体制に積極的に加わり、アメリカの中東覇権・世界覇権に関与して行き、世界政治の舞台で政治的軍事的発言権を高めていく、そして、イラクでの軍事的プレゼンスをテコに石油利権や復興利権も奪い取ろうというものです。
そのために、イラク特措法とイラク派兵、有事関連法案の制定等々を先行させることで、日本国憲法を骨抜きにしていくとともに、憲法第9条そのものを廃棄する明文改憲への動きが出てきているのです。そして、「国を愛する心」を強制し、「国家のために命を投げ出すことのできる」子どもたちを作り出すための教育基本法の改悪が狙われているのです。イラク戦争への加担、イラクへの自衛隊の派兵を一つの重大な事実として、国民にそれを受け入れさせ、それに慣れさせ、反対する者を弾圧し、非国民としてつるし上げ、逮捕し、検挙の対象としていく、そのような体制と法整備が進められようとしているのです。

 新しい日本軍国主義を検討する学習討論会に参加を 

新しい日本の軍国主義を検討する学習討論会を開催します。是非ご参加ください。
[検討内容]
○「主権委譲」後のイラク情勢とアメリカの軍事外交政策の破綻
○米軍の世界的再編・統合と日米軍事同盟のグローバル化
○多国籍軍参加と、海外派兵を自衛隊の主任務とする新しい日本の軍国主義
○全般的な政治反動・教育反動と教育基本法改悪、「日の丸・君が代」強制の新しい事態
○憲法改悪と「集団自衛権」行使への暴走を阻止するのは運動の力