(4.29 署名運動交流集会 問題提起)

「メディア規制法案」(個人情報保護法案、人権擁護法案)を廃案に!
−許せない国家権力による国民とメディアへの言論統制・弾圧−



[1]はじめに

(1)メディア規制法案の本質は、マスコミ規制を通じた国民の「知る権利」「表現の自由」への根本的な侵害。
・いわゆる「メディア規制法案」が国会に上程された。これまで個人情報保護法案、人権擁護法案、青少年有害社会環境対策法案がワンセットで「メディア規制三法案」と呼ばれてきたが、青少年有害社会環境対策法案については、政府・与党は今国会への提出は断念した。
・これらの法案はその名称と裏腹に、その手法は異なるが本質においては同じものを有する。その本質とは、国家権力がマスコミと言論に対する反動的国家統制を強化し、国民全体の「表現の自由」「知る権利」に対する弾圧と権利剥奪を狙うものだ、ということである。
・それにしても、「平時」から国民の思想・言論を統制し、メディアを規制しようとする法律が、有事法制と同時に強行可決されようとしていることに、この法案の危険性が端的に表れている。
・これらの法案に関して小泉首相は、3月21日訪問先のソウルで記者団に、「人権、プライバシーの保護と、表現の自由は両立できる。今国会で成立させたい」と、独特のデマゴギーを使って極めて強い意思を示した。
・そのうち個人情報保護法案は、25日に衆院本会議で趣旨説明が行われ、内閣委員会に付託された後、連休明けから実質審議に入る。参院先議となっている人権擁護法案は、24日に参院本会議で趣旨説明され、法務委員会に付託されることになっている。
・政府は、個人情報保護法案を最優先課題としている。また、24日には参院本会議で人権擁護法案の趣旨説明と質疑が行われたが、焦点の一つとなっている報道機関の取材活動と人権侵害行為の線引きについて、森山法相は「個別具体的事案の事実関係に即して適切に判断される」と述べるにとどめ、具体的な基準を一切示さなかった。

(2)メディア規制法案が成立しただけでも言論・思想に対する重大な侵害。
・これら諸法案が有事法制と共に可決されれば、いや仮にこれらが可決されただけでも、国民の思想・信条・表現の自由は著しく侵害される。すでにこれら法案の危険性を指摘し、反対する声は報道・マスコミ関連の労組、学者、文化人の中からあがって久しい。しかしまだまだ国民全体の声となっていない。産経・読売のように報道内部からそれを切り崩す声も大きい。事は緊急を要する。私たちも遅ればせながら、有事法制への反対と共に、これらメディア規制法案の危険性を暴露し、廃案運動に合流したい。


[2]公権力の金権腐敗と不正、政官財の汚職構造を隠蔽する言論弾圧法。

(1)小泉政権の支持率急落と政権の不安定を助長する政府与党の金権腐敗・政治不信を隠蔽し、政権延命を図る露骨なもの。

(2)個人情報保護法案は内部告発者を犯罪者として告発し、人権擁護法案はマスコミによる直接取材を人権侵害として自粛させ不可能にする。
・端的に言えば、この法律があれば、鈴木宗男議員の金権腐敗は追及されなかった。リクルート事件は暴かれなかった。ありとあらゆる政官財の癒着構造・汚職構造は暴かれなかった。全国の警察の不祥事は暴かれなかった。司法・検察の不正や汚職も無罪放免。外務省の機密費や、首相官邸へのその横流しはこれ以上追及されずに済む。
・今問題になっている秘書給与問題も、辻元氏の議員辞職以上は、他政党の同じような問題は追及されずに済む。
・何よりも山崎幹事長は自らの醜聞がこれ以上追及されずに済む。等々。等々。
・この法律は、今や自民党と与党の政治家、首相や幹事長、全ての官僚、警察幹部、自衛隊幹部、検察幹部にとって、待ちに待ったいわば「公権力救済法」である。これらの者たちの不正や金権腐敗、贈収賄、不正などを「個人情報」として「保護」してもらえるからである。なぜならこれらの法律には公人と私人との区別はされておらず、しかも管理・監督する所轄官庁は公権力そのものだからである。公権力の、公権力による、公権力のための法案なのである。


[3]メディア規制三法案は有事法制の言論統制を「平時」から準備するもの。

(1)一般に、古今東西「有事」=「戦時」の際には、あらゆる言論統制・弾圧が行われることはいわば「常識」(国民には「知らせるべからず、寄らしむべし」)である。
・それだけではない。現に過去の日本の侵略戦争が苛烈な言論・思想弾圧と報道統制・管制の下で行われたことを知るだけでも十分である。
・近くはアメリカのアフガン侵略が報道管制と、西側での意識的な翼賛的なメディア報道と世論誘導の下で遂行されていることは周知のことである。今またイスラエルのマス・メディアはシャロン支持の翼賛報道で満ちあふれている。
・侵略戦争と戦争犯罪者にとって真実の報道がどれほど邪悪なものかは、シャロンがパレスチナ・ジェニンでの大虐殺を、内外の全報道陣のシャットアウト、いや報道陣への攻撃の下で展開したこと一つを例に挙げても明らかだ。

(2)有事法制のメディア統制条項=「大本営発表」の先取り。
・今回の有事法制も明らかにメディアへの反動的な国家統制が最重要項目としてある。「武力攻撃」あるいは「武力攻撃事態」にあると認定されれば、NHKはじめ民放、さらに通信事業は「指定公共機関」として直ちに政府の(いや端的に言えば軍隊の)統制下に置かれ、軍隊にとって都合の良い情報ばかりが国民に垂れ流され、「有事」下の真実は国民の前に一切明らかにされないことになる。これと、後述するが、昨年成立した改正自衛隊法が一体となれば、軍隊と戦争に関する真実の情報はまったく国民に届かないことになってしまうのだ。

(3)見事なウソとトリック。様々なやり口で公権力の情報(府政と汚職)を公権力自らが「保護」し「擁護」し、逆に告発者に対する言論・思想弾圧を目論む。
@個人情報保護法案のからくり。
・個人情報を取り扱う民間の事業所を規制すると称している。しかし、それを通じて国家権力が自分たちに都合の良いように情報を統制しようとする意図が露骨である。
・例えば、法案第4条、第5条、第8条、第32条を組み合わせれば、「内部告発者」は犯罪者になり、メディアはその情報源を保護できなくなる。予め「内部告発者」は汚職議員に汚職を公表しますよと「利用目的」を言わねばならず(第4条)、メディアは「適法かつ適正な方法」以外に情報を得られなくなり(第5条)、汚職の公表にあたっては「本人が適切に関与し得るよう配慮」しなければならない(第8条)。また汚職議員が「当該保有個人データの利用停止または消去」を求めたらそうしなければならない(第32条)。そんなバカな!
・一方、最も必要とされている国家・行政機関に関する規制を完全にはずしており、政府に対する規制が棚上げにされている。
・この法案は包括法案で、その適応除外の事業者として、放送機関・新聞社・通信社・大学・学術研究団体・宗教団体・政治団体をあげているが、出版社やフリージャーナリストの適用除外は明記されていない。
・公人のプライバシーや事件報道など、政府が記者に取材の目的や取材源の開示を求めることができ、拒否すれば6ヶ月以前の懲役か30万以下の罰金が課せられる。取材制限の問題がでてきている。雑誌の取材、特にフリーランスのジャーナリストの取材が懸念される。政治家の汚職などを報道すると、ジャーナリストが処罰されかねないのだ。
・この法案は監督者が主務大臣で、実際にはそれぞれの業界を所轄する役所が監督権限を持つことになる。義務規定の適用除外は「報道機関の報道目的」だけで、これでは報道目的以外の表現活動を役所が監督することになる。

A人権擁護法案のからくり。
・政府から「独立」した強制捜査権を持つ「人権委員会」が、差別や虐待など人権侵害を取り締まるというものである。
・そもそもこの人権機関の問題は、日本政府が国連人権委員会から勧告を受けて検討を始めたものなのだが、勧告の対象は、死刑制度、代用監獄、被疑者・容疑者に対する接見の禁止など、ほとんど政府の所管事項の問題だった。ところが、政府はその問題をすり替え、主に民間における人権侵害を救済する機関として構成したのである。国連人権機関の指摘の無い「メディアによる人権侵害の一項目を立て、政府機関がメディアを強制調査や勧告の対象としている。過剰な取材等を積極的対象としていることに対して、誰がどのような基準で過剰と判断するかが曖昧で、報道の自由に明らかに抵触する。
・法案は、「報道による人権被害」として「過剰な取材」をあげている。「過剰な取材」とみなされれば、人権委員会が取材停止の勧告を行い、勧告内容の公表を行うとしている。電話やファックスをどの程度繰り返せば過剰な取材となるのか、その線引きは人権委員会の判断に委ねられ、報道側からの不服申し立ての設定がない。こうした制度は、政府の報道への不当な干渉につながり、国民の知る権利に応えるための「熱心な取材」「粘り強い取材」にブレーキをかける危険がある。
・人権委員会は法務省の「外局」といっても省内の一組織であり、法務省の管轄下にあるような組織は、独立した人権救済機関ではない。

B青少年有害社会環境対策基本法案のからくり(今回は上程されず)。
・参議院の自民党が準備した議員立法の法案である。これは、青少年条例の中央立法化として懸念されてきた内容を含むと同時に、メディアや各事業を含む有害社会環境全般への規制・統制をはかり、地域・学校・家庭をも巻き込んで「対策」を立てるというものになっている。事業者は青少年有害環境対策協会を作り、主務大臣と都道府県知事は協会に指導・勧告をし、従わない時はそのむねを公表できるという危険な内容になっている。


[4]メディア規制法案は国民総背番号制・盗聴法・自衛隊法の防衛秘密条項、有事法制その他の反動的諸立法と結合して「戦争国家体制」を作る。
・メディア規制法案が、すでに成立している反動諸法と結合するとどうなるか。それは日本をまさに「戦争国家」またはそのために国民が管理・統制された国家に改造するものに他ならない。
 
(1)改悪基本台帳法と国民総背番号制。
・まずこの8月から施行される改悪基本台帳法。すべての市民が同法によって11桁の住民票コード(番号)を割り振られ、一人一人の住所氏名、生年月日、性別などの住民票データが総務省外郭団体である財団法人・地方自治情報センターと全国の市区町村、都道府県を結んだコンピューター・ネットワーク上を流通するのである。
・この法も広い意味での有事法制と言える。なぜならこの法律が実現する住基ネットおよびICカードの普及、各種技術・制度の推進は、国民総背番号制に通じ、至る所に国民に対する監視の網を張りめぐらせる結果になるからである。

(2)盗聴法。
・改悪基本台帳法と同時に成立した盗聴法(通信傍受法)は、すでに施行されている。これは周知のように、犯罪に関係ありとされた者の通信回線は、捜査当局が盗聴してよいとする法律である。エシュロン(衛星通信傍受システム)の存在とも絡み、今後いかようにも運用される余地を残している。

(3)自衛隊法改悪と防衛秘密条項。
・そして2001年11月に行われた自衛隊法の改悪。これは防衛秘密を特別に扱い、その違反に対しては、国家公務員の場合よりも重罰で処罰するというものである。
・対象とされるのは、自衛隊や防衛庁関係者だけではない。国家公務員や自衛隊の仕事に関係する民間人に対しても「秘密を漏らした」として処罰できるようにした。
・しかも秘密と知らずに情報を伝えたり、鍵をかけ忘れてデータが盗まれたりした場合も、過失犯として処罰されるのだ。
・また、自衛隊の仕事を引き受けている会社や防衛庁に情報公開を求める運動も、国民の秘密を漏らすことを煽動したなどとして処罰の対象とされる恐れがある。マスコミの取材も、秘密を漏らすようそそのかしたなどとして教唆罪で処罰されかねない。煽動や教唆は実際に秘密が漏れなかった場合でも、独自に処罰される。国民の権利は大きく侵害される。
・さらに問題なのは、防衛庁長官によって、さまざまな情報が「防衛秘密」と一方的に指定され、国民の知りたい情報も国民の目から隠されることになる。報道関係者に対してだけでなく、国会審議や国政調査権などにおいても、秘密であるとして明らかにされない事態も起こる。

(4)極め付けが今回の有事関連三法案。
・ここで二つのことを考えねばならない。一つは、有事関連三法案が成立すれば、この法律の国民・メディア等に対する言論・思想弾圧部分はどのように具体化するかということであり、二つは、メディア規制法が成立すれば、有事法制下での言論統制とどう関わっていくかということである。
・第一については、先述したように昨年11月に行われた自衛隊法の改悪でかなりの部分が具体化する。まず防衛庁長官によって、あらゆる情報が「防衛機密」と一方的に指定される。米軍や自衛隊の動向は無論、気象情報、交通情報等、国民の日常生活に必要な情報さえ、軍事にかかわるものとして指定を受けるだろう。先の大戦でも人心に不安を与える、士気を減退させるとの口実の下、実に細かな情報まで統制を受けた。国民の知りたい情報が国民の目からすっかり隠されることになる。そしてそれらを知ろうとするマスコミの取材活動は大きな制限を受ける。取材攻勢は秘密を漏らすようそそのかしたなどとして教唆罪で処罰されかねない。煽動や教唆は実際に秘密が漏れなかった場合でも、独自に処罰されるのだから、取材活動そのものが萎縮するのは間違いない。国会審議や国政調査権でも秘密であるとして明らかにされないことが起こる。
・第二については、メディア規制法は、「平時」より国民・メディアの思想・表現の自由を著しく制限・統制するものであるということだ。ことに有事法成立下では「有事」に備えた、いや「有事」を作り出すための世論操作にこれら法案が利用されるのは間違いない。日米の政治・軍事・外交分野の多くのことが国民に知らされなくなるか、あるいは日米政府にとって都合のよいことだけが垂れ流されることになる。
・有事法案とメディア規制法案により、日本においては「平時」から「有事」に至るまで国民の思想・表現の自由は著しく制限・統制され、また「知る権利」は弾圧され、権利そのものが剥奪されようとしている。日本国憲法の基本理念そのものが、特に憲法第21条が、「下位法」によって破壊されようとしているのだ。


[5]メディア規制法案を廃案に追い込もう!
・民主、自民、共産、社民の野党四党は3月21日の首相発言を受けて、4月2日、対抗案を共同提出する方針を決めた。今月中にも骨子を公表し,国民に意見を求めるとしている。小泉の発言以降、反対するメディア・市民は緊張感を高めている。
・マスコミの一部は法案の危険性を様々な形で訴えている。しかし、それらはややもすれば報道の自由が前面に押し出され、国民全体の「表現の自由」「知る権利」、さらに言えば思想・信条の自由を侵害し、剥奪するものであることの指摘がまだまだ弱い。
・さらに有事法制との関連を指摘するものは皆無といってよい。有事法制反対が腰砕けであるから、これらの法案に反対の声も説得力に欠ける。事柄そのものから言えば、メディア規制法案に反対である者は、当然有事法制にも反対である。
・私たちはアメリカの戦争拡大と有事法制に反対する新たな署名運動を開始した。「メディア規制法案反対」を、署名項目に付け加えることを提案する。
・あらゆる機会を捉えてこの法案の危険な本質を明らかにし有事法制廃案とあわせて廃案を要求していこう。