シリーズ<米軍のグローバル再編と反基地闘争>その1 |
“ノー・ベース”:米軍及び米軍基地の
グローバル再編に対する新たな闘い |
−−世界各地で新しい展開を遂げる反米反基地闘争−− |
はじめに−−エクアドルのキトで「世界反基地ネットワーク」設立総会
(1) 現在、エクアドルのキトで「世界反基地ネットワーク」設立総会が行われている(3月5〜9日)。このネットワークは、2004年インドのムンバイで開かれた「世界社会フォーラム(WSF)」の「国際反米軍基地会議」を継承したもので、総会には、40ヶ国から150人の反基地闘争や環境・女性・人権問題などの活動家が結集し、今後の闘いについて熱心な議論を続けている。この総会を紹介・発信するホームページのトップは“ノー・ベース”(基地にノー)となっている。
※外国軍事基地撤廃国際ネットワークのhp
http://www.abolishbases.org/
※現在行われているエクアドルでの総会には、日本からも「アジア太平洋反基地東京会議・エクアドル設立総会日本事務局」「アジア平和連合(APA)ジャパン」などが中心になって代表団を送り出している。http://list.jca.apc.org/public/aml/2007-February/011303.html
(2) 世界各国で米軍基地に対する反対運動が新たな展開、新たな盛り上がりをみせている。それは、イラク戦争の泥沼化とともに、米軍の過剰展開と過小兵力問題が顕在化する中で、アメリカが、世界中に張り巡らされた700を越える基地の再編と米軍の新しいグローバル展開を進める中で、各国で激しい抵抗を生み出しているものに他ならない。
−−「世界反基地ネットワーク」設立総会の会場となるエクアドルでは、今年1月に就任したエクアドルのコレア政権が、2009年に期限切れとなる米国とのマンタ軍事基地協定を更新しないことを宣言した。マンタ基地はコロンビア内戦に介入するための軍事拠点であり出撃基地である。この最重要拠点が廃棄されるということは、キューバ、ベネズエラ、ボリビアなどと続くラテンアメリカの「左傾化」、革命化に対する最重要の“防波堤”が廃棄されることを意味する。
−−韓国では、「平澤米軍基地拡張移転反対闘争」で住民の立ち退きが強制されたが、集団移転を選択することで、基地の全面撤去・米軍の韓国からの撤収にむけて新たな闘いが始まろうとしている。
−−ヨーロッパでは新しい反基地の闘いが始まっている。チェコのレーダー基地建設、ポーランドのミサイル基地建設などに対する怒りが高まっている。これらの基地建設は、ロシアに向けた軍事的対抗措置である。ヨーロッパでは、緊迫化するイラン戦争阻止−イラク戦争反対−アフガン派兵反対の反戦闘争が、ミサイル防衛反対=米軍基地再編反対の反基地闘争と結びつき始めている。イタリアでの10万人集会とデモ、ロンドンでの10万人デモ等々。
−−日本では、沖縄の普天間基地返還と辺野古基地建設問題が地元の粘り強い反基地闘争によって米日両政府の思惑通りにはいかなくなっている。横須賀への原子力空母配備反対、岩国への空母艦載機移駐及び夜間離発着訓練反対を含めて、厚木・横田・座間など在日米軍基地再編反対に取り組み様々な運動が、政府の攻撃と妨害にもかかわらず持続的に闘われている。等々。
(3) 安倍政権は、日米軍事同盟をさらに新しい段階に押し上げようとしている。イラク特措法の2年延長方針を固め、イラクでの日米軍事介入体制の維持をさらに継続することはその証左である。また、2月9日に閣議決定された「米軍再編支援推進法案」は、交付金バラマキによる自治体の懐柔によって反対運動を切り崩そうとするものであり、さらに在沖縄海兵隊司令部のグアム移転のための資金提供の枠組みを法制化しようとするものである。安倍による再三の集団的自衛権行使のなし崩し的踏み込みの予告、何よりも、9条改憲に道を開く国民投票法の与党単独強行の目論見は、日米同盟をグローバル軍事介入同盟に変質させようとするものである。
先のチェイニー訪日は、「米日豪トライアングル」の新しい帝国主義的軍事同盟の構築を目的意識的に目指すものであり、その要としての沖縄、グアムの位置づけを鮮明にした。2月16日に発表された「新アーミテージ報告」では、「日米同盟は米国のアジア戦略の要」と位置づけ、米日軍事同盟の強化と日本の一層の協力を促す一方、日米が協調して、「中国がステークホルダーとなるよう啓発すべきだ」として、日本を対中牽制の拠点に据えることを目論んでいる。また日本を、アジアにおける軍事的プレゼンス強化の拠点、対途上国出撃基地として改めて位置づけを鮮明にしようとしている。
(4) 今進行中の米軍及び米軍基地のグローバル再編と米帝を中心とする新たな軍事同盟の形成は、攻勢的なものというよりも守勢的なものである。米軍は、イラク戦争・占領の泥沼化、アフガニスタンでのタリバン復活と泥沼化に手を焼き、過剰展開=過小兵力に陥っている。そして、イラクに精力を注いでいる間に、予想を超えるスピードで中国の政治的経済的ポジションが急速に高まってきた。中東ではイランが台頭し、プーチンのロシアが対米「新冷戦」といわれるほどブッシュの米帝に対抗し始めた。盟友安倍を事実上見捨ててまでも、金融制裁と「テロ支援国家」を前面に掲げて対決してきた「悪の枢軸」の朝鮮民主主義人民共和国と「妥協」を図らないわけにはいかなくなった。さらには、米国の“裏庭”で破竹の前進を遂げるベネズエラ「ボリーバル革命」、これと再生・復活を遂げたキューバ社会主義との同盟、キューバ−ベネズエラの革命的同盟へのボリビア・エクアドルの接近・参加等々、ブッシュはラテンアメリカの「左傾化」「革命化」をどうすることもできなくなっている。
1990年代に一世を風靡した「米一極支配」は明らかに、根底から動揺し掘り崩されつつある。「多極化」の歴史的流れが全世界を覆うようになっている。ブッシュ共和党だけではなく民主党を含めた米の支配層全体にとって、こうした反米・離米傾向の大きな歴史的流れをどうやって阻止するかが最大の関心事になりつつある。これが米軍及び米軍基地の新しい政治的狙い目になり始めていることは確実である。その意味で、1990年代に始まった米軍の「トランスフォーメーション」と米軍基地のグローバル再編は、イラク戦争の泥沼化の下で、反米傾向に対する巻き返しという新しい意味付与をされようとしているのではないか。今、米軍は、旧い米軍基地のネットワークを、綻びを取り繕うように、まるでパッチワークのように必至に再構築しようとしている。
「米日豪トライアングル」という発想も、イラク「有志連合」がほぼ全面的に崩壊し、イギリス軍の大幅な兵力削減という事態に直面して、今やブッシュの「盟友」は、日本とオーストラリアしかなくなったという事情を反映するものでもある。
もちろん、米帝「一極支配」と世界最大最強の米軍事力を過小評価することはできないし、してはならない。チャベス大統領の暗殺とベネズエラへの介入、キューバへの経済制裁強化、ペルシャ湾への空母機動部隊の集中とイランへの軍事攻撃の恫喝等々、後退した米帝はかえって凶暴になる恐れがある。瞬時たりとも警戒を怠ることはできない。
しかし、反戦闘争及び反基地闘争は、ブッシュ政権のイラク戦争における事実上の“敗北”、「米一極支配」の後退と「多極化」という新しい政治軍事情勢の下で闘われる、ある意味で全く新しい時代に入ったのではないか。
以下、エクアドルを筆頭に、シリーズ<米軍のグローバル再編と反基地闘争>を開始する。
2007年3月7日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局
エクアドル |
コレア政権、マンタ米軍基地の閉鎖を宣言
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――麻薬撲滅を口実とした隣国コロンビアの左翼ゲリラ掃討作戦=「プラン・コロンビア」への協力を拒否
/ 枯葉剤の散布による被害にも怒り―― |
大統領選と軌を一にして高揚してきた反基地闘争
今年1月に就任したエクアドルのコレア政権は、2009年に期限切れとなる米国とのマンタ軍事基地協定を更新しないことを宣言した。
マンタ米軍基地は、1999年にエクアドルの太平洋岸に建設された南米最大の軍事基地である。表向きは、この地域の麻薬取引を監視することに資するとされているが、実際には、この地域における米国の諜報活動の拠点であり、太平洋側での米国海軍の拠点港である。この基地の滑走路は800万ドルをかけてつくられ、米国の最も精巧なスパイ諜報航空機が発着できる。絶えずフロリダにある米国南方軍司令部との間で、軍事要員の交替ローテーションが行われている。
また、隣国コロンビアでの左翼ゲリラ掃討作戦=「プランコロンビア」(1999年開始、2000年から米国の支援で本格化)に深く関わっている。米国は、コロンビア内戦に軍事介入することで、コロンビアを南米における米国の一大軍事拠点にしようと計画した。それが「プラン・コロンビア」である。「麻薬撲滅」がその口実として使われた。エクアドルのマンタ米軍基地は、「プラン・コロンビア」の遂行上なくてはならない基地である。
※参照:「ブッシュ政権、ベネズエラ革命と“左傾化”の新たなうねりの中で覇権後退に危機感――ラテンアメリカで軍事的・政治的・経済的介入の新戦略を模索――」(署名事務局2005.9.6)
※参照:「プラン・コロンビア概説」(益岡賢のページ)http://www.jca.apc.org/~kmasuoka/
「新プラン・コロンビア(05.5.10)」「プラン・コロンビアの失敗(05.8.6)」(益岡賢のページ)http://www.jca.apc.org/~kmasuoka/
マンタ基地ができて「プラン・コロンビア」に基づく米軍の作戦が展開されるようになると、コロンビア内戦がエクアドルのコロンビア国境地帯にまで拡大され、枯葉剤による農作物への被害と地域住民への健康被害が生じるようになった。それに対する地域住民・農民の訴えは、ずっと抑えつけられてきた。しかし、新自由主義にもとづくドル化政策の下で、国民の70%が貧困に苦しむという状況を背景に、反基地闘争が次第に高揚した。それは、昨年の大統領選でマンタ基地の閉鎖・撤去をコレア候補が選挙公約に掲げたことと結びついて、大きなうねりとなっていった。
反米軍基地闘争は、数年前から本格的な取り組みが始まっていた。2004年の「世界社会フォーラム(WSF)」(インドのムンバイで開かれた)で、「国際反米軍基地会議」が開催され、世界34ヵ国から125人の反基地・環境・女性・人権・平和などの活動家が参加して「世界反基地ネットワーク」が設立された。それが、2年間の活動の成果を打ち固めて新たな出発をしようと、今年3月5〜9日、エクアドルのキトで設立総会が行われている。これは、まさにエクアドルにおけるマンタ米軍基地撤去闘争の一大高揚と結びついたものにほかならない。
エクアドルでは「エクアドル反基地連盟」が設立され、米国の世界戦略を挫くことを目的に、国内の人権団体、先住民組織、農民、学生などの民主的組織を糾合して、精力的な活動が行われている。その運動は、さらに、世界に点在する反基地運動がつながりその力を強めていくことを追求して、国際的にも積極的な役割を果たしている。
※「Conferencia Internacional No Bases
en
Quito y Manta del 5 al 9 de Marzo」(Independent
media center / ecuador)http://ecuador.indymedia.org/es/2007/03/18710.shtml
枯葉剤による深刻な被害が明るみに
1999年にマンタ基地が建設されて以来、コロンビアの内戦がエクアドルのアマゾン地域にまで拡大してきた。それに伴って、コロンビアで行われている枯葉剤の空中散布による、作物と人体への深刻な被害が問題となっている。米国は、麻薬撲滅という口実でコロンビア内戦に介入し、ジャングルにひそむ左翼ゲリラを壊滅させようと、ベトナム戦争でベト君・ドク君に象徴される悲惨な人体被害をもたらした悪名高い枯葉剤を、今もコロンビアのエクアドル国境付近のアマゾン地域で空中散布しているのである。
枯葉剤による被害は数年前から指摘され始めていたが、メディアではこれまであまり報道されてこなかった。しかし、昨年11月の大統領選に勝利したコレア氏は、昨年末、コロンビアとの国境地帯を訪れて現地を視察し、米州機構(OAS)をはじめとする国際機関に調査を要請した。また、視察の2週間後にコロンビアのウリベ大統領と会談し、空中散布の中止を求めた(ウリベ大統領は拒否)。このような状況の下で、枯葉剤被害問題が急速に国際問題として浮上し、報じられるようになったのである。
日本でも朝日新聞が、2月4日に「除草剤
生活枯らす / コロンビア コカ撲滅 米援助で散布
/ エクアドル 国境付近で被害相次ぐ」という見出しで大きく報じた。
昨年8月には、米国カリフォルニア州オークランドを拠点とする環境保護団体「米州環境防衛協会
Asociacion Interamericana para la Defensa
del Ambiente (AIDA)」が、研究報告を出していた。「Alterative
development strategies: the need to
move
beyond illicit crop spraying」と題するその報告は、「プラン・コロンビア」にもとづく枯葉剤の空中散布が深刻な環境破壊と人体被害をもたらすとして、即刻中止すべきであると主張している。
※「Plan Colombia」(AIDA)http://www.aida-americas.org/aida.php?page=plancolombia
「COLOMBIA:Massive Coca Spraying Mostly
Hurts
Legal Farmers」(IPS)http://www.ipsnews.net/news.asp?idnews=34474
反新自由主義・反IMFを鮮明にするコレア政権
1月15日に就任したコレア大統領は、前政権が米国と交渉していたFTAAは締結しないと明言した。現在、ベネズエラ、ボリビアとそれぞれ二国間協定を交渉している。キューバ、ベネズエラ、ボリビアが締結しているALBAにすぐには参加しないが、事実上の準メンバーとなることは確実である。
2月7日、エクアドルのパティーニョ経済財政相は、残存するIMF債務を速やかに完済することを含む
1億3,500万ドルの対外債務完済計画を発表し、IMFと「趣意書」(IMFから融資支援を受ける際に取り交わす経済政策に関する合意文書)を交わすことはもうないだろうと、きっぱりと述べた。それに対して、ベネズエラやアルゼンチンなどが全面的な支援を表明した。
パティーニョ経済財政相は、従来対外債務の支払いを拒否する考えを表明していた。それに対して、米国と国際金融資本が強い懸念を表明し、圧力をかけてきた。今回の発表で、当面する軋轢は取り除かれた形であるが、厳しいせめぎ合いが今後も続くことはまちがいない。
昨年12月には、ウルグアイもIMF債務完済を発表している。勝利した左派政権は、ベネズエラを中心としてメルコスル諸国の支援を受けて、次々と反新自由主義・脱IMFの流れに合流しているのである。
ラテンアメリカで現在生じている反新自由主義・反米帝の大きな流れは、単に政治的なものだけにととまらず、経済においても米国と国際金融資本のくびきから脱して自立していこうとするものとして生じている。反米軍基地闘争の一大高揚も、そのような背景を伴ったものとして、巨大な流れとなりはじめているのである。
※参考「"We Will Not Permit the
Violation
of Our Air Space" Ecuador Stands
Up
to the US」(counterpunch 2007.2.19)http://www.counterpunch.org/burbach02192007.html
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