【紹介】欧米の反戦平和団体の間で始まった次の目標、次の課題をめぐる討論

■米英によるイラク侵略戦争は、首都バグダッド陥落、フセイン政権の崩壊という新たな段階を迎えました。フセイン暗殺作戦、残党狩り、それを口実とする市民の殺戮はまだ続いています。同時にペンタゴンの軍政=植民地総督府が始動し始めました。仏独露も怪しげな動きをしています。こんなところで国連安保理や国連が、「復興」の名の下に侵略と国際法違反を追認しお墨付きを与えてしまえば、それこそ「国連の死」になってしまいます。またその中で日本がまたもや危険な動きをしています。自衛隊派遣や「文官」派遣という形で米軍事政権に加わろうというのです。国際反戦運動、日本の反戦運動の監視と反対の圧力が今こそ求められています。

■そんな中、世界中で、また日本で、反戦平和を推進してきた団体やグループや諸個人が、次の目標、次の課題を、そして活動や取り組みをどう継承させ発展させていくのかについて、様々な模索や議論が始まりました。私たちは、可能な限りこの重要かつ真剣な議論を紹介して行きたいと思います。

■「イラクで終わりではない。始まりに過ぎない」「第4次世界戦争だ」「新ヤルタ体制だ」−−イラク侵略計画を策定したネオコンたちは調子に乗って豪語しています。皆さんもご承知の通り、ブッシュとネオコンたちは「意外と簡単だったじゃないか」「反対していた連中の心配は杞憂だったじゃないか」と、フセイン政権のあっけない崩壊で、自信を強め、次の獲物を狙い始めているのです。シリアが頻繁に狙い撃ちにされています。その他イラン、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)などが、俎上に上がっています。国際世論と世界中の人々は非常に不安に駆られています。私たちを含め、ここで国際的な反戦平和の闘いの手を緩めると大変なことになります。

 私たちの考えでは、ブッシュ政権は一種の侵略マシーンです。政権の人事・構造・実態の中に侵略戦争を推進する物質的基礎があるのです。その証拠にイラク軍政の最初で最大の仕事が巨大戦争特需と石油利権であることが露骨になっています。よだれを垂らしながら米英の軍産複合体や石油メジャーが群がっています。だから、ブッシュ政権が続く限り、政権から駆逐されない限り、その政権を牛耳っている親イスラエルのネオコンたち、キリスト教極右原理主義者たち、軍産複合体と石油メジャーと自動車ビッグスリーの代弁者たちは、世界中に戦争を拡大し続けるでしょう。少なくともまずはブッシュ政権を追放するまでは、国際反戦運動は今の闘争態勢を解除するわけにはいかないのです。
※パンフレット参照:「イラク:石油のための戦争」、「ブッシュ政権と軍産複合体

■まず最初に紹介するのはイギリスからです。「なぜ我々は今なお行進し続けるのか」−−このアピールは4/12国際反戦行動に向けて、これまでアメリカのインターナショナルANSWERとともに国際反戦行動を牽引してきたイギリスの「ストップ戦争連合」(Stop the War Coalition)が発したものです。占領反対、まだ戦争は終わっていない、即時中止せよを掲げて、4/12行動に臨む姿勢を示しています。署名事務局で翻訳しました。
※「Why we are still marching」 http://www.stopwar.org.uk/#march

インターナショナルANSWERもまた4/12行動に向けてアピールを出しました。「なぜ我々は4月12日に行進するのか」と題するもので、メインは「占領は解放ではない」というスローガンです。これは寺尾光身さんが翻訳され、aml などで配信されておられるものを転載させて頂きました。
ANSWERは5/3−4にニューヨークで「戦争、占領と帝国主義に反対する全国会議」を開くこと打ち出しました。私たちも注目していきたいと思います。
※「OCCUPATION IS NOT LIBERATION:Why We Are Marching on April 12」
 http://www.internationalanswer.org/news/update/040903occup.html

■私たちも、4月9日の首都陥落、フセイン政権の崩壊を受けて、運動をどうするのか、差し迫った4/12行動にいかなる姿勢で臨むのかを迫られました。事務局内で行った議論の結果は、論評「開戦後22日目:イラク戦争の戦況と反戦平和運動の課題−−侵略戦争、一方的な破壊と殺戮はまだ終わっていない−−」(4/11付)で明らかにしました。併せてご覧下さい。

2003年4月14日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局




イギリス「ストップ戦争連合」アピール−−−−−−−
なぜ我々は今なお行進を続けるのか
"Why we are still marching" (http://www.stopwar.org.uk/#march)

1.この国は、解放ではなく征服の戦争で侵略された。
 イラクは、米軍に占領されることになるだろう。その頭目には、イラクの人々に選ばれたわけでもなく説明されたわけでもない親イスラエルの退役将軍のジェイ・ガーナーを据えて。アメリカによって提案されている名目上の主要なイラクの指導者は、有罪を宣告された詐欺師の輩アフメド・チャラビである。45年間イラクにはいなかった銀行家。そのCIAとの親密な結びつきは、彼を理想的な候補者としている。この国は、西側の植民地として運営されるだろう。

2.戦争はまだまったく終わっていない。
 この国の多くの場所で、まだ戦闘が行なわれている。北部では、クルド人がキルクークに入った。非常に大きな不安定が存在する。ティクリートへの爆撃は依然として行なわれている。祝賀のリポートは、誇張されているし、また時期尚早でもある。大部分のイラク人の状況は悲惨なものである。彼らは水と食糧の不足に直面し、病院はあふれ返り、まだ戦闘による多数の死傷の危険がある。

3.この戦争は始まる前から不正なものであったし、今も不正なものである。
 この戦争は、不法であり、不道徳であり、不必要なものである。戦争の理由は、大量破壊兵器(WMD)の存在とされた。だが、それがあるとされた多くの場所が調べられたけれども、ただ一つのWMDも発見されていない。たとえ今後何らかの存在が発見されることがあっても、イラク政権が主張していたように、それを使用する意図がイラク政権になかったということを、この戦争の遂行そのものが明らかにしている。

4.アメリカとイギリスは、600の油井を早々と奪取したことで、その戦争目的を如実に示した。
 イラクの再建は、主要に米国の企業によって遂行されるだろう。石油がイラク人民の財産になるというおしゃべりが多く行なわれているが、あらゆる徴候からすれば、石油収入は建設会社に利益をもたらすために使われるだろう。

5.「ストップ戦争連合」は、2001年9月11日の後にジョージ・ブッシュが発動した「テロリズムとの戦争」に反対して闘うために形成された。
 我々は、アフガニスタンでの「成功」を収めた戦争を目撃し、今またイラクでそれを目撃した。もう既に、ドナルド・ラムズフェルドはシリアとイランへの将来の攻撃について語りはじめている。1年あまり前のジョージ・ブッシュの悪の枢軸演説は、北朝鮮もありうる将来の餌食として攻撃目標にしている。

6.反戦運動は、この国で数世代の間に目撃された最大の運動としてあり続けている。
 反戦世論は、今でもしっかりとした実体のあるものである。ここ数日の反戦ミーティングは、記録的な聴衆を引きつけている。リバプールでは 1,000人、カーディフでは300人、クロイドンでは200人。これらの会合での気運は、非常に強い反戦であり、英米政府の動機に対する非常に強い懐疑である。4月12日(土)のデモンストレーションは、大量殺戮とイラク占領に対する巨大な抗議となるだろう。それはまた、38か国でデモが行なわれる国際的な反戦行動の日となるだろう。




インターナショナル ANSWER

占領は解放では無い:我々が4月12日に行進を行うのは何故か

行進の標的は企業の不当利得者およびフォックス・ニュース(Fox News)と戦争指向メディアだ
"OCCUPATION IS NOT LIBERATION:Why We Are Marching on April 12" (http://www.internationalanswer.org/news/update/040903occup.html)

 数千のイラク民衆を虐殺し不具にしつつ、イラクへの侵略に抵抗する者を叩き潰す大量、圧倒的、かつ残虐な軍事力の行使を、米・英侵略軍は称えている。アメリカのメディアで映し出されている映像は真実を隠している。どの病院も非戦闘員と兵士で溢れているのに、この国の車道に焼死体があちこちに転がっているのに、多くの民家がめちゃめちゃに破壊され、多くの家族が生き埋めにされているのに。(「連合軍の歓喜の真っ只中、一人の子どもが血でずぶ濡れの着衣に包まれ、苦悶しつつ横たわる」ロバート・フィスク、インディペンデント紙(英)、http://news.independent.co.uk/world/middle_east/story.jsp?story=395117 )

 ブッシュ政権は、植民地型占領統治をイラクに押しつける方向に急速に方針を移している。これは解放ではない。圧倒的な火力を用いてイラクの領土と資源を獲し、イラクの主権を消滅させたのだ。自己決定という最も基本的な原理を犯してである。これは帝国のための戦争である。ブッシュ政権はアフガニスタンで征服のための戦争をおこなって来たが、今度はイラクでやっている。次は中東やどこかその他の地で、次の侵攻戦争計画のペースを速めようとするだろう。

 アメリカ合州国と世界の民衆は、帝国主義と帝国に対してNOと言うために、中東で抵抗している人びと全てと共に立ち上がらなければならない。イラクの占領は、シリア、イラン、南レバノン、北朝鮮、フィリピンに対する、そして祖国の中で占領に抵抗し続けているパレスチナの民衆に対する、強化された戦争計画の舞台を整えるのに利用されるであろう。4月12日土曜日、国際行動デーとして、ワシントンと世界中で、世界中の主な首都でのデモという形で、侵略と占領に反対する大衆動員行動を引続いて行う。

 ブッシュとアメリカの戦争への積極行動に反対して過去6ヶ月に突如出現した世界連帯運動は、稀に見る重要な展開である。中東で、アジアで、アフリカで、ラテンアメリカで、アメリカ合州国で、そしてヨーロッパで、世界中の民衆が、協同の行動として行進した。これらの運動は今や国境を無視し、連帯の国際的な声を作り上げた。あのニューヨークタイムスさえ、2月17日号でこの運動を世界の第2の「強大な力」(スーパーパワー)と書いていた。

 この運動は、戦争、帝国主義、圧制、人種差別、そして如何なる形の植民主義をも人類の連帯を世界中に広げることによって克服することができるのだという、この惑星地球の大きな希望を表わしている。

 この運動が−1歳にもならないのに−ブッシュとペンタゴンがイラクで大量虐殺を続けていることを以って我われの努力が失敗に帰したともし結論付けたとすれば、それは最も悲劇的で我われを消耗させる結果と言わざるを得ないだろう。イラクに対する戦争が現実のものとなったことは、反戦運動の失敗を証明するものではない。証明されたことがあるとすれば、イラクに対する戦争はアメリカ合州国の経済における、政治における、軍事における権力が道徳的に破産したことを証明しているに過ぎない。それは軍国主義と戦争にはまり込んでしまうシステムによって育て上げられたものなのである。

 ディック・チェイニーは、アメリカ政府を代表しての話の中で、あの9月11日の後で、「終り無き戦争」、一生続く戦争が行われると確言した。これらの言葉は他愛の無いコメントでも修辞的美辞麗句でもない。このとき以来、政府は計画した海外での軍事的冒険や、国内でのアラブ系アメリカ人、イスラム教徒、公民権、および市民の権利に対する系統的攻撃に関して鉄面皮を貫いている。

 彼等は決して認めようとしないが、この計画された「終り無き戦争」は、名ばかりとは言え独立と自国の自然資源の管理を懸命に保持しようとして来た以前植民国とされていた世界の全ての政府に対して、企業と銀行のエリートのためにアメリカ政府が仕掛けた階級闘争なのである。ブッシュは世界に向かって「貴方は我われにつくのか、彼らにつくのか」と言ったとき、ブッシュはこのことを簡潔に表現したのだ。アメリカ合州国の勤労者たちは帝国のためのこの戦争から得るものは何も無い。この戦争は、大量レイオフ、組合つぶし、賃金カット、保健医療その他の給付金の廃止などに励んできた同じ企業銀行界の蓄財と権力のためのものである。事実、帝国のためのブッシュの戦争には、ペンタゴンの急激に拡大している予算に資金を供給するために、社会事業諸プログラムからの富の大掛かりな移転が必要なのである。

 ブッシュ政権の世界支配計画は、右翼と新保守主義運動と企業泥棒が抱いている世界政治を究極的に仕切るのは軍事力だけであるという幻想に基づいている。彼らが熱望する新世界秩序は19世紀植民主義の旧世界秩序に似ている。世界の民衆は自由、正義、平等そして自己決定を熱望している。まったくの暴力だけでは必然的結果として解放をもたらす長い歴史過程を逆転することはできない。この戦いでの本質的要素は、世界的な運動を支え続け盛り立てて行くことである。それこそが軍事力と経済力に常に打ち勝って来た力であり、打ち勝つことができる力なのである。    (翻訳 寺尾光身)





メディア統制と反戦運動−−−−−−−−−−−−−−−−−
4月8日が“転換点”。サダム像引き倒しの「やらせ」報道が反戦運動に与えた衝撃
−−チョスドフスキー氏の論説の紹介を中心に−−

ミッシェル・チョスドフスキー氏論説「反戦運動を武装解除するにはどうするのが最善か?−−独立メディアを抹殺し、“戦争は終わった”という幻想をふりまくことだ−−「従軍取材ではない真実」を抹殺して−−」
How best to disarm the anti-war movement?
Kill the independent media and convey the illusion that“the War is over"
Killing the“Unembedded Truth"
http://globalresearch.ca/articles/CHO304B.html


■主流翼賛メディアとの苛烈な闘いを迫られる米英の反戦運動。
 4月9日にバグダッドでサダム像が引き倒された映像は、「戦争が終わった」ということを全世界に強烈に印象づけました。それが米軍と翼賛報道メディアによる「やらせ」であったことは、日本の一部メディアではすでに暴露されています。しかしながら、米英の主流メディアではあまり暴露されていません。独立系のインターネット・メディアで流れているだけです。
 日本でも翼賛報道はひどいのですが、米英とは比べものになりません。開戦後の7割支持、6割支持という米英の異様な好戦的世論は、半ばはメディアの翼賛報道が作り出したと言っても過言ではないでしょう。私たちはそうした翼賛メディアが支配的な米英両国の中で、反戦運動が絶えず主流メディアと闘い続けていることに注目してきました。

 以下では、日本でも有名なミッシェル・チョスドフスキー氏が、メディア報道との闘いの重要性を指摘した最新の論説を紹介したいと思います。翻訳ではありませんが、内容の骨子を明らかにしたものです。


■「サダム像引き倒し」の反戦運動への衝撃。
 氏の論説の日付は4月11日、4月12日の国際反戦行動デーの前日です。結論から言えば、氏は言葉の広い意味で「戦争はまだ終わっていない」「戦闘もまだ終わっていない」「占領という形でまだ続く」と強く主張し、反戦行動デーを控えて、反戦運動が戦闘態勢を解除するのはまだ早いと力説しているのです。

 氏が危機感を持ったのは、主流メディアによる大々的なサダム像引き倒しの繰り返し報道です。サダム像引き倒しの強烈なインパクトは、反戦平和運動にも衝撃を与えたことがよく分かります。「戦勝」の高揚、「解放の成功」の宣伝の大洪水が、反戦運動の側の敗北感、挫折感を招きかねない状況を生みだしたことは想像に難くはありません。

 氏は、サダム像の引き倒し前後の諸事実を今一度詳しく検討して、どのような情報操作が行なわれたのかを検証したのです。4月9日のサダム像引き倒しと、4月8日のアルジャジーラ支局爆撃、そしてロイターなどジャーナリストの拠点であったパレスチナホテル砲撃とは、いかなる関係にあるのか。アルジャジーラだけでなく欧米系メディアまで意図的に攻撃されたのは何故か。そのことによってメディアにどのような変化が生じたか。同じ日に赤十字の医薬品運搬車列が集中砲火を浴びて13人が殺されたことは、ほとんど報道されていないが、それはどういう意味をもち、どういう関係にあるのか。等々。
 私たちも、これらの重要な諸点をミシェル・チョスドフスキー氏とともに検証・検討することを通じてメディア情報戦争の実相に迫り、それにどう対抗していくかを考えていきたいと思います。


■ペンタゴンの「従軍取材」以外をことごとく排除しようと目論む。
 今回のイラク戦争ほど軍が情報を統制したケースはありません。まず3月20日の開戦に先立って、米政府は全世界の政府と民間組織にイラクからの退避を勧告しました。それに応え大手メディアを中心に、米英のほとんどの戦争翼賛報道機関は退避勧告に従ってイラクから引き揚げました。
 皆さんもその異様さにお気付きだと思いますが、NHKや民放各社も、カタールの米中央軍司令部からのブルックス准将の記者会見、ヨルダンからの特派員の報告、ワシントンの大統領報道官、国務省やペンタゴンの報道官からの報告がメインでした。一部民放だけがフリーのジャーナリストからの報告としてバグダッドからレポートを送ったのが珍しいくらいで、バスラやその他の諸都市からの報告は皆無に近いものでした。

 そして今回の最大の特徴は600人と言われる「従軍取材」(embedded cover)です。このエンベッド取材とペンタゴンが許可する「大本営発表」にメディア報道の窓口を一本化することを狙ったのです。もちろんそれが全面的に成功したわけではありません。しかし米の主流メディアはほぼ完璧に軍の情報統制下に入りました。
 これには日本のメディアも参加し日本TVなど一部の報道機関は反吐が出るような異常な「戦況報告」を垂れ流ししましたが、アメリカはその比ではありませんでした。朝から晩までまるでテレビゲームを見るように戦車や装甲車から兵士の奮闘ぶり、勇敢さ、素晴らしさを大々的にレポートしました。「イラクの自由」「イラクの解放」がこれでもかと頭にたたき込まれ、洗脳されました。もちろん米軍兵士の死傷や捕虜映像、相手側のイラク兵士や市民の死傷なども報道は禁止され、「きれいな戦争」がフィクションとして作り上げられたのです。あの翼賛機関CNNの記者でさえ最近不満を表明するほどだったのです。
※戦争の真実伝わらず CNN看板記者が不満(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030418-00000014-kyodo-int


■“転換点”は4月8日:バグダッド侵攻軍とともに“進撃”してきた「従軍メディア」がそれまでの「独立系メディア」を圧倒した日。
 しかし米英軍当局の誤算は、国際的な反戦運動の一大高揚を背景に、アルジャジーラを筆頭にアラブ系TV、フランスやドイツの欧州系報道機関、ジャーナリスト、その他諸組織が、事実を克明に世界に報道しようと、バグダッドその他にとどまったことです。つまり、開戦の時から2週間以上にわたってバグダッドから世界に発信されていた報道は、米軍と米政府の統制のきかない報道だったのです。

 ところが米軍のバグダッド突入とともに事態は一変します。それまでイラク情報省の保護下にあった独立系ジャーナリストたちは、米軍の直接の支配下に置かれることになりました。一転して、米英軍に従軍してきた米軍公認の“従軍ジャーナリストたち”が、バグダッドから直接報道するようになり、パレスチナホテルを拠点に活動していた独立系の報道機関を圧倒するようになりました。その転換点が、まさに4月8日なのでした。この日にイラク情報省がつぶされ、アルジャジーラのバグダッド支局とその他ジャーナリストの拠点であるパレスチナホテルへの攻撃が行なわれ、米軍の統制下に入らない者はどうなるか見せしめにされたのです。


■これはまさにメディアの戦争犯罪ではないのか。
 もう一度考えて下さい。世界中の主流メディアが米侵略軍に従軍してバグダッドに“進撃”してきたのです。そしてずっとバグダッドにいた独立系・中東系メディアが砲撃を受け脅迫されたのです。まさにこれは「メディア侵略」ではないのか。かつてなかったメディアの戦争犯罪です。

 チョスドフスキー氏は、こう述べています。「この根底にある目的は、“従軍取材でないメディア(unembedded media)”の居場所を奪うことと、事実に基づく客観報道を、この戦争の劇場から占め出すことであった。ジャーナリストの殺害は、また、米軍のしかるべき公認なしでバグダッドからの戦争報道を行なっていたアジア系中東系のメディアへの警告でもあった。」と。アルジャジーラへの爆撃は、バグダッド市街で強められた爆撃の生中継を、スタッフが準備していたときだったといいます。

 米軍は、この無法なメディア攻撃によって、米軍の統制下に組み込まれていなかったメディアとジャーナリストに、米軍の公認を求めることを余儀なくさせ、バグダッドからの情報の流れを直接検閲するようになったのです。そうした上で、翌日のサダム像引き倒しを翼賛メディアと共謀して演出し、全世界に、特に米国内に、「戦争は終わった」「イラクは解放された」ということを強烈に印象づけることに成功したのです。


■「やらせ」のサダム像引き倒しを更に捏造:「数十人」を「数千人」に。
 この4月9日のサダム像引き倒しについての報道には、現場の映画撮影的な演出に、更なる捏造が加わりました。
 第一報はロイターが伝えましたが、そのリポートでは、「数十人の人々が(dozens of people)像の倒壊を祝っていた。」と、あるがままに(もちろんやらせの演出であることは伏せられていましたが)報じられました。それに続いて、AFPも「数十人のイラク人が(dozens of Iraqis)」と報じました。それが、数時間後に、英国首相トニー・ブレアの代弁者である「ロンドン・デイリー・エキスプレス」が、「数十人(dozens)」を「数千人(thousands)」に水増しし、ベルリンの壁崩壊になぞらえて報道するという捏造を 行なったのです。そして、その報道がその後全世界で、特に米国内で、繰り返し繰り返し執拗に流し続けられたのです。


■「従軍取材」とジャーナリスト殺害はメダルの裏表。
 「サダム像の引き倒しは、ペンタゴンのプロパガンダにおいて決定的な役割を果たした。」とチョスドフスキー氏は述べています。大量の犠牲者を出し続けながら戦争が続いているのに、「戦争の終わり」を印象づけることに成功したからです。さらに、イラクの「解放」のシンボルとなって、他の事柄を圧倒し、特に米英軍による大量殺戮の影を薄くすることにも役立ったからです。

 4月8日と9日の後、民間人犠牲者の記事が第1面で報じられることがなくなり、女性や子どもの虐殺も病院の危機も、国連によって問題にされていた差し迫る人道的危機も、問題にされなくなりました。民間人の犠牲者は、「イラクを解放する」ために「支払わねばならなかった代償」とみなされるようになっていきました。
 戦争についての詳細報道も、もはや必要ないというムードになりました。「平和」「再建」「民主主義」「ポスト・サダム時代」などが、けたたましく喧伝され、国連憲章と国際法に露骨に違反した侵略だという事実は、問題にされなくなってしまいました。ペンタゴンのプロパガンダがすべてを席巻し、独立系の報道はかき消されてしまいました。つまり、4月8日を境にして、報道主体が完全に入れ替わり、報道内容がすっかり変わってしまったのです。事実報道を旨とするジャーナリストたちは沈黙させられ、戦争翼賛「大本営発表」を旨とするジャーナリストと報道機関が、バグダッドからの情報発信の主体となったのです。
 チョスドフスキー氏は、「バグダッドでのあの意図的なジャーナリストの殺害がターニングポイントだった。」と述べています。アラブ諸国のメディアもトーンが変わったといいます。事実上、全ニュースが「組み込まれた(embedded)」ものになったのです。


■赤十字の物資輸送車まで攻撃し殺戮した米軍。
 チョスドフスキー氏が指摘しているもう一つ重要な点があります。それは、この同じ4月8日に赤十字(ICRC)の物資運搬車列が集中砲火にあい、13人が殺されたという事件です。車輛には、遠くからでもわかる大きな赤十字が書かれていました。意図的に攻撃されたことは間違いありません。チョスドフスキー氏によれば、「赤十字はバグダッドで活動していた最後の独立した国際援助機関」でした。この攻撃によって、赤十字の活動は停止しました。
 チョスドフスキー氏の評価はこうです。「イラク保健省職員および病院のスタッフと緊密に協力しながら活動していた赤十字への攻撃もまた、重要なターニングポイントだった。それは、ペンタゴンが承認した(“組み込まれた embedded”)人道諸組織や支援機関 を送り込む地ならしをしたのである。」と。

 この事件は日本ではほとんど報じられませんでした。このことは、日本のマスメディアの姿勢、その翼賛的体質をよく示していると思われます。国連憲章に違反し国際法を無視して行なわれた戦争であっても、「成功」のうちに終わろうとしている時に、戦争特需と石油利権のおこぼれにあずかろうと、小泉政権は今、憲法に違反してでも占領軍による植民地権力に「復興・人道支援」を行なおうとしています。人道支援は問題ないという理屈がもち出されています。しかし、この赤十字まで攻撃し殺戮する米軍、すべてを米軍の統制下に置き、その統制下に入らないものは赤十字であろうが平気で攻撃し活動できなくする占領軍、その植民地支配に参加し貢献するのが「復興・人道支援」の実体なのです。


■戦争はまだ終わっていない。植民地占領支配が行なわれ、反占領闘争が始まっている。
 チョスドフスキー氏は、最後にこうまとめています。「反戦運動を武装解除し批判者を黙らせる最善の方法、それは、戦争は終わったという幻想をふりまくことである。しかし戦争は終わっていない。」「米国の占領に対する闘いがはじまっている。」と。

 欧米の反戦運動は主流メディアに騙されているわけではありません。情報戦争に果敢に立ち向かっています。私たち日本の運動も、翼賛報道に惑わされずに、反戦平和の初志を貫徹しなければなりません。国連憲章に違反し国際法を無視して開始され、無法で無慈悲な殺戮と破壊を行ない続けた戦争、石油には細心の配慮を行なうが人々の生活と文化遺産には配慮しない植民地占領軍、それを厳しく批判し続けねばなりません。そして、自国政府がそれに加担することに反対し続けねばなりません。人道支援は、全世界の平和を希求する人々の総意として国連主導で、植民地占領軍の撤退を要求する闘いの一環として行なわれねばなりません。

2003年4月19日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する事務局



新たな闘いへ向けて−−−−−−−−−−−−−−−−
戦争と占領に反対する闘いは不変
−反戦運動は「情報戦」で勝利しなければならない−

<米の反戦系サイト・コモンドリームズの論説から>
・「イラクでの出来事は戦争と占領に対する非暴力抵抗運動を変更させるものではない」
・「長期戦:人々の心と頭脳を変えながら」


■「サダム像引き倒し」の衝撃に抗して。
 4月9日のサダム像引き倒し報道は、反戦平和運動にも大きな衝撃を与えました。しかし、敗北感や挫折感にとらわれることなく、意識をいっそう鮮明にして運動を再構築しようとする努力が、即刻開始されました。
 そのような取り組みの中から、4月10日に出された「イラク抵抗の誓い(Iraq Pledge of Resistance)」全国調整責任者ゴードン・クラ ーク氏による声明と、4月11日に出された情報戦に関する「コモン・ドリームズ」のクリストファー・D・クック氏の論説とを紹介します。
 日付を見てもらえば分かるように、いずれもバグダッド中枢への進撃の直後であり、サダム像引き倒しの衝撃がまだ大きな影響を及ぼしていたときです。今回も諸般の事情で全訳できなかったことを予めお断りしておかねばなりません。

 前者の「イラク抵抗の誓い」は、1980年代のニカラグア、エルサルバドルへの米国の軍事介入に反対して大衆を動員した「抵抗の誓い(the Pledge of Resistance)」に範をとった非暴力抵抗運動です。4月10日に即刻、「イラクでの出来事は戦争と占領に対する非暴力抵抗運動を変更させるものではない」という声明を発しました。
 後者は、情報戦争の重要性に焦点を当てて、「今の狂気と闘いながらも、我々は、きたるべきオピニオン戦争の土台をすえなければならない。」と提起しています。
※「イラクでの出来事は戦争と占領に対する非暴力抵抗運動を変更させるものではない」
 http://www.commondreams.org/news2003/0410-11.htm
※「長期戦:人々の心と頭脳を変えながら」
 http://www.commondreams.org/views03/0411-10.htm


■不法、不道徳、不正義の戦争から、不法、不道徳、不正義の占領へ
 「イラク抵抗の誓い」の声明は、まず、フセイン像引き倒しをはじめとする「イラクの解放」を演出するテレビ映像について、こう述べています。「我々は、バグダッドの通りでジョージ・ブッシュを歓迎するイラク人の映像に、何らぐらつくことはない。それは、サダム・フセインを歓迎するイラク人の映像にぐらつかなかったのと全く同じことだ。」と。さらにこう続けています。「(短期勝利したことで)次の事実が変わるわけではない。この戦争が不法、不道徳、不正義であるということ。そして、計画されている米軍によるイラク占領も、等しく不法、不道徳、不正義であるということ。軍事占領も、戦争のときほどではないにしても、等しく血にまみれたものとなるであろうということ。」

 この声明が出されたときは、米軍に従軍してバグダッド入りした翼賛報道機関の大手メディアが、バグダッドからの翼賛報道映像を大量に流しはじめたときです。それに惑わされず、ぐらつかず、意識を鮮明にして闘いを続けることを、必死で呼びかけていたことがうかがわれます。そして、たとえ戦争が終わったとしても、不法、不道徳、不正義の軍事占領との闘いが継続されねばならないことを訴えています。その際、占領も血にまみれたものとなるということを指摘しているのも、重要な点ではないでしょうか。それは、誰しも考えるところではないかと思うのですが、自然とパレスチナとダブります。

 既にアメリカの軍事占領に反対し抗議するイラクの人々の闘いがはじまっています。声明も、「イラクだけでなく、アラブ世界全体、イスラム世界全体で、米軍事占領に対する憤激と憎悪が日に日に高まるだろう。」と指摘しています。反占領闘争に対する米軍の血の弾圧を監視し暴露し、抗議・反対していくことは、全世界の反戦平和運動の重要な課題の一つとなっています。


■一定の退潮は避けられない。だが反戦運動は止まらず発展する。
 声明は、反戦平和運動の意気消沈、挫折感、敗北感に抗して、人々を鼓舞しようとする熱意にあふれています。これまでの運動の成果として次のことを指摘しています。
−−反戦運動は、大統領ブッシュに、国連の承認をとりつけようと努力させた。米議会の承諾をとりつけようと努力させた。このどちらも、彼は最初は喜んでやろうとはしていなかったことである。
−−史上最大の反戦運動を電撃的に生み出し、全地球規模での反戦感情を史上最大のデモンストレーションに結実させた。
−−イラクの軍事占領とブッシュ政権の中東および全世界での軍事介入に反対していく巨大な基盤を創出した。

 最後に声明は、当面反戦運動の一定の後退・退潮が避けられないことも、冷静に評価しようとしています。そして、その時期を、次の大衆運動の一大高揚のときに備える時と位置づけています。「しばらくは、大衆はより少なくなるかもしれないし、大衆行動も頻繁ではなくなるかもしれない。しかし、運動はストップしない。そして、ブッシュ政権の諸計画からすれば、大衆が再び衝き動かされるときがくるのは明らかである。それも、我々が考えるよりも早く。」と。


■情報戦争における全国的に統合された協働体制を。
 「コモン・ドリームズ」のクリストファー・D・クック氏の論説は、今回のイラク戦争に際しての情報戦争について、まずこう評価しています。「国際世論戦争(the global opinion wars)」に破れたブッシュ政権は、「恥知らずの戦争翼賛主流メディアから、 ありあまるほどの支援を受けて、アメリカ人の心と頭脳をとらえる闘いには勝利した。」と。そしてそこからの教訓として、「今の狂気と闘いながらも、我々は、きたるべきオピニオン戦争の土台をすえなければならない。」と述べています。そこで主要に念頭に置かれているのは、一つには、きたるべき大統領選や次の議会選挙ですが、もう一つは米国による次なる主権国家侵略です。
 対イラク侵略戦争を開始するにあたって、国連安保理決議による国際社会の承認を得ることに失敗しても、米国内で主流メディアを駆使して国民の多数を獲得すれば、無法な戦争に突き進んで居直ることができる。そういうブッシュ政権のやり口を繰り返させないためには何が必要か。それがこの論説の主要テーマです。そのような関心から、情報戦争にもっと多くのエネルギーを注がねばならないと主張しています。

 クック氏は問いかけます。「世論調査員に戦争を支持すると答えた人々は、平和や民主主義とはおよそ無縁の米国の軍事介入の歴史を、ちゃんとした根拠に裏付けられた真実でもってどれほど知っているだろうか。米国の経済制裁が、この10年の間に50万人以上のイラク人を死に追いやったことを示す議論の余地のないデータを、どれだけの人が知っているだろうか。また、米国はイラクの水道システムの多くを、戦争の前に、破壊したということ、それが無辜の市民を殺すことになるのを知っていて破壊したということを、国防総省の文書が示しているが、どれだけの人がそれを知っているだろうか。」と。
 そこからの結論はこうです。「無知と偽りの情報との闘いは、国内での最も重要な“戦争”である。」そして、現存する諸手段をこえた「新たなコミュニケーション手段を創出しなければならない。」と提起しています。


■長期的に米国の草の根の民衆の世論を再形成していく闘いへ。
 クック氏によれば、「主流」は学校であり、職場であり、集会場であり、街頭です。政府と主流メディアによって流布される支配的なイデオロギーに対して、こうした場所でもっと一貫した具体的反撃が必要であると論じています。そこには、以前には受け入れられなかったような先制攻撃や市民的自由に対する攻撃が、今や正常なものとされつつある、という危機感があります。政府や主流メディアのプロパガンダを、こうした真の「主流」がはねつけていくことを運動は促進しなければならないのです。それは、これまでも行われてはきたが、各組織がそれぞれにバラバラに行なってきた、それらを全国的に統合して統一した協働体制をつくりあげていくことが必要である、と提唱しているのです。「知的資源と財源をプールする全国連合を発展させるべきである」と。

 情報戦における大規模な組織化されたイデオロギー的反撃。−−いわば米国の世論を根本的に作り替えていくことです。もちろんこれは短期ではできません。畢竟長期的な闘いになります。その中には来年に迫った次期大統領選挙があります。ブッシュから大統領の座を奪うことと、長期的に米国の世論を再形成していくことを不可分に結びついたものとしてやっていこうとしているのです。


2003年4月24日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する事務局