9月19日、大阪府・泉北地域4市1町合同防災訓練 |
防災訓練が有事訓練にすり替えられ一体化。有事体制の具体化に反対する! |
◎六カ国協議の『共同声明』合意、朝鮮半島と東アジアの平和と安定の取り組みに逆行
◎朝鮮民主主義人民共和国と中国を仮想敵とする戦争準備体制の整備を狙うもの
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[1]いつの間に、防災訓練が対テロ訓練になったのか!
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「近畿地方では初めての化学テロ防災訓練をする。
大阪府でテロが起こってもおかしくない」(太田知事のあいさつ)
(1) 9月19日、大阪府堺市新金岡公園にて、大阪府と堺市・高石市・和泉市・泉大津市・忠岡町の泉北地域の自治体が主催する防災訓練が行われた。自衛隊、消防、警察、公共機関など1300人の動員、市民も含めて10,000人の参加を見込んだこの防災訓練に、私たちも監視のために参加した。しかし私たちの危惧は的中した。早い話、これは防災訓練ではなく、有事訓練だったのである。
確かに、今回の訓練は、かつて石原知事の下の東京で行われてきたようなもの、すなわち自衛隊が我が物顔で首都を席巻するようなものではなかった。自衛隊が前面に出ていたとか、装甲車、戦車が列をなすというような軍事的パフォーマンスはなかった。しかし、地域の住民が参加する防災訓練が「国民保護法制」の下で行われる場合、多分に有事訓練の要素を取り入れ、いつの間にか有事訓練にすり替えられ、一体化していく危険性をはらんでいることが浮き彫りになったのだ。
市民が防災訓練に参加すれば、否応なく有事訓練に組み込まれてしまう−−このような危険な事態が進行しようとしているのである。
*一方では、イラク自衛隊派兵に伴い、各地で商店街を武装行進するなど露骨なパフォーマンスが行われていることも警戒する必要がある。
※陸自:新・出雲市発足記念でパレード 静かな市街地に戦闘車両 /島根
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051003-00000151-mailo-l32
※陸自が商店街を武装行進 長崎・佐世保で240人
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050917-00000068-kyodo-soci
(2) 今回の防災訓練は、9月15日付の大阪府の報道発表によれば、@簡易型図上訓練「DIG」、A外国人支援訓練、B自動体外式除細動器「AED」操作訓練、C有毒化学物質対応訓練(NBC訓練)から成っている。また、8月25日付の報道発表では、今回の訓練の新しい取り組みとして、@自主防災組織の構成員を対象にした図上訓練、A住民による応急手当訓練、B避難所体験コーナーの設置、CNBC訓練の実施、D防災講演会が上げられている。
すなわち、訓練は全体としては応急手当や避難所での救援活動などの住民の体験型の防災訓練にとどまっているが、(1)現在大阪府、堺市、池田市の職員となっている元自衛官3名の指導の元に、住民を巻き込んで行われた簡易型図上訓練「DIG」、(2)住民、消防、自衛隊、警察が連携してケミカル事故対策訓練を実施するというNBC訓練が、2つの目玉に置かれていたのである。
※平成17年度大阪府・泉北地域4市1町合同防災訓練の実施について(9/15)
http://www.pref.osaka.jp/fumin/html/07768.html
※平成17年度大阪府・泉北地域4市1町合同防災訓練の実施について(8/25)
http://www.pref.osaka.jp/fumin/html/07493.html
※平成17年度大阪府・泉北地区4市1町合同防災訓練
http://www.pref.osaka.jp/kikikanri/firescue/training/kunren/sinsai/h17senboku.html
※合同防災訓練パンフレット
http://www.pref.osaka.jp/fumin/doc/houdou_siryou1_07493.pdf
(3) 私たちがまず驚いたことは、太田知事が最初の挨拶で、今回の防災訓練が「化学テロ防災訓練」であることを明言したことである。合同防災訓練の案内や報道発表には「化学テロ防災訓練」など一言も書いていない。テロのテの字も出てこない。いつの間に防災訓練がテロ対策訓練になったのか。いつの間に「ケミカル事故」が「化学テロ」になったのか。誰が決めたのか。
しかもテロ一般ではない。太田知事は、この防災訓練を行うに当たって、イラク戦争との関係が指摘されている今年7月、グレンイーグルズサミットを標的にした「ロンドン連続テロ」を具体的に想定していたのである。
太田知事いわく、「(イギリス出張していて)私が帰国した次の日にロンドンでテロがあり、1日帰国が遅ければ遭遇したかもしれません」。その上で太田知事は「近畿地方では初めての化学テロ防災訓練をする。テロ・危険事象から地域を守る。大阪府でテロが起こってもおかしくない」とDIG(簡易型図上演習)とNBC訓練をことさら取り上げた。太田知事が示すように、この2点が今回の「防災」訓練の特徴なのである。これこそ、「国民保護法」下での防災訓練が、有事訓練にすり替えられる中身なのである。
行われた防災訓練は明らかに「国民保護計画」に基づく有事訓練の要素を組み入れている。その中身はそれほど大きなものではないかもしれないが、大きく一歩踏み出すものである。この太田知事の発言は、この訓練の目的の秘密を暴露するものだった。訓練そのものは「防災」を前に出し、有事もテロも住民の目からは隠されていたからだ。
※テロ災害対策の再確認及び徹底について(消防庁国民保護運用室長 2005年7月15日) ロンドン同時テロをうけて、改めて全国のテロ対策担当者にテロ対策の徹底を求めている。
http://www.fdma.go.jp/html/data/tuchi1707/pdf/170715un22.pdf
(4) 大阪府でのテロの可能性に言及する太田知事の発言に対して、私たちはさらなる危機感をもつ。なぜなら、太田知事が「大阪府でテロが起こってもおかしくない」というとき、知事が意識しているか否かに関わらず、信太山自衛隊駐屯地がある泉北地域とイラク戦争とが直接結びついていることを明らかにしているからである。伊丹第三師団を中心とした5月の第6次イラク派兵部隊には、信太山駐屯地からも派遣されている。信太山の第37普通科連隊はイラクを想定した殺戮訓練、市街戦訓練を米軍とつみかさねた経歴がある。
※自衛隊伊丹第三師団、第6次イラク派兵反対行動へ!
※NHKスペシャル「陸上自衛隊 イラク派遣の一年」から透けて見えるもの
太田知事は、テロの脅威を煽る前に、なぜここでテロが起こるのかを説明しなければならなかったはずである。「大阪府から、イラクへ自衛隊を派兵している。アメリカのイラク市民虐殺に加担している。だからテロリストに大阪が狙われてもおかしくない」と日本政府がブッシュのイラク戦争・占領を支持し補完している事実を説明しなければならない。伊丹基地や信太山基地の自衛隊員がイラク・サマワまで何のために派兵され、彼の地で「人道復興支援」の隠れ蓑の下で一体何をしているのか説明しなければならない。イラクの地で、とりわけファルージャやスンニ派居住地域で、いったいどのような弾圧と虐殺が米軍の手によって行われているのか、どれだけ多くのイラク人が米英日を含む多国籍軍の軍事占領の下で恐怖と絶望と怨嗟の渦巻く日々を暮らしているのか、その現実を説明しなければならない。ところが、太田知事はそれらに一切触れず、ただ無邪気にブッシュやブレアや小泉の言い口をまねて、「テロの危険」を喧伝するだけであった。
(5) しかし、「ロンドン連続テロ」が明らかにしたことは、イギリスのようにどんなに警戒態勢を取ったとしても、政府の「テロ対策」では、それを防ぐことは不可能であること、「テロ」が起こった場合には、住民避難ではなく、犯人探しと犯人逮捕が優先されるということである。「ロンドン連続テロ」では、ブラジル人の無実の若者が、何の理由も弁明の余地も無く一方的に犯人と決め付けられ、警察官によって追われ拘束され、その場で射殺された。そして政府・警察は、この「国家による殺人」を正当化したのである。
本当に「テロ」を防ぐためには、イラク戦争政策の転換、軍隊の撤収以外に道はない−−これが「ロンドン連続テロ」事件の最大の教訓である。
※「対テロ戦争」政策の破綻示した「ロンドン・テロ」−根本問題は「イラク派兵」。小泉首相は自衛隊を直ちに撤退させよ! (署名事務局)
(1) 今回の大阪府・泉北地域4市1町合同防災訓練は、地震を前に出しながら、実質的には「国民保護計画」を先取りする形で行われた。
(自衛隊の車両が消防車と一体になって訓練している) |
参加機関は自治体と自衛隊、消防、警察、自治会、NHK、バス会社、トラック協会など55機関、約1300人に登る。「国民保護法」に規定された「指定公共機関」である放送、通信、運送などの民間企業が多く組み込まれている。会場には自治会関係者と見られる年配の人が多く動員されていた。
(2) この防災訓練は、大阪府と東大阪や北摂などの市町村とが毎年持ち回りで行っている防災訓練の一環である。昨年は、中河内地域の八尾市、柏原市、東大阪市の三市合同で行われた。昨年のこの訓練では、@近畿府県で初めての夜間避難所運営訓練、A初めて実在の建物(元府立高校)を使用して行われたNBC災害対応訓練の2つの目玉とされた。
※大阪府・中河内地域三市合同防災訓練(2004年9月12日)
http://www.pref.osaka.jp/fumin/doc/houdou_siryou1_04554.pdf
防災訓練のハウツーが着実に積み重ねられているということになるのであるが、中でも「NBC」対策訓練が一つの重要な課題となっている。すなわち、テロ対策が想定されているのだ。「国民保護法」が成立してからは、この防災訓練はますます、有事訓練を先取りしたものとなっていくだろう。
大阪府は、「国民保護法」に基づき今年中に「国民保護計画」を策定し、政府に提出することになっている。9月1日には「国民保護協議会」による「国民保護計画概要」が作成された。
※第二回大阪府国民保護協議会
http://www.pref.osaka.jp/kikikanri/crisis/protection/kyogikai/170901/kekka.pdf(結果概要)
http://www.pref.osaka.jp/kikikanri/crisis/protection/kyogikai/170901/aramashi.pdf(あらまし)
http://www.pref.osaka.jp/kikikanri/crisis/protection/kyogikai/170901/youten.pdf(要点)
この協議会の会議では、「NBCテロ発生時における患者の搬送は府が行うこととなっているが、多数となると地元の消防の協力が必要」「住民の自発的協力が得られるよう、自治会、消防団など、市民レベルで避難誘導にあたる各種団体との協議を行う必要がある。」などの委員意見が出されている。このような意見は、今回の合同防災訓練が有事訓練が深く結びついていることを改めて認識させる。
また、「英国でもテロ後に、多数の外国人が被害に遭う「ヘイトクライム」が起こった。こうしたことが起こらないよう配慮すべき」という意見も出されている。9月19日の合同訓練で導入された「外国人支援訓練」なるものの導入も、このような配慮の元に、外国人の掌握を念頭においたものに他ならない。あきらかに、検討中の「国民保護計画」は防災訓練に先取りされているのである。
(3) 防災意識は阪神・淡路大震災をきっかけに高まってきた。これは有事=戦争とは何ら関係がない。ところが、有事法制における「国民保護計画」は、そもそも戦争とは全く関係のない地震や台風、大規模事故を想定した防災訓練を、有事訓練に利用しようとしている。
政府は「国民保護基本計画」に置いて、地震や台風、火事などの防災訓練、各地の消防団など自主防災組織、被災地で活動するボランティア団体、障害者や高齢者を介護するボランティア団体−−これらを「連携」の対象とし、有事体制=戦争準備に組み込んでいくことを明記している。「国民保護計画」のパンフレットと防災計画のパンフレットを並べれば、内容の酷似にすぐに気がつくだろう。政府が「防災」を口にするとき、その影に有事があることを見逃してはならない。
※大阪府の危機管理室にある防災関連パンフ
http://www.pref.osaka.jp/kikikanri/panf/panf.html
※内閣官房ポータルサイトにある国民保護パンフ
http://www.kokuminhogo.go.jp/pdf/hogo_manual.pdf
[3]住民を巻き込む簡易図上訓練、消防・警察・自衛隊の連携強化、NBCテロ対策訓練
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(1) 簡易図上訓練(DIG)−−住民を網の目に縛る自主防災組織の動員とリーダーの養成
(住民参加者を指導する元自衛官) |
体育館では簡易図上訓練(DIG)が、住民組織を巻き込んで行われていた。
訓練は、大阪府の危機管理室の指導者(元自衛官)が指導する形で進められた。参加者は堺市の自治会の自主防災部会に関わっていると見られる人だった。泉北ニュータウンの各地域の地図が机に並べられ、高齢者などがどこにいるのかを書き加えたりしていた。危機管理室の指導者がこと細かく指導していた。大阪府の危機管理室の担当者(府の職員)は
「災害時には府や自治体では対応が困難なので、地域単位で対応して行けたらと考えている。この訓練は全国でも珍しい、近畿では初めてのものだ」と話していた。
現在自治会や地元企業は自主防災組織という名で組織されている。自主防災組織は元々1961年に制定された災害対策基本法を根拠としており、かねてよりあった組織だが、「国民保護法」の制定により戦争協力という新たな意味が付け加えられたことになる。
防災の際にも有事の際にも、この自主防災組織が住民を組織する核となる。簡易型図上演習では自治会関係者が住民をどのように組織して避難させるかが検討されていた。自治会役員が向こう三軒両隣にどのような人が住んでいるのか把握していることが、この演習の前提である。防災では有効な避難活動ということになることも、有事では戦争協力に他ならない。
大阪市では100%の組織率、堺市では93.6%であるから、住民自身が知らない間に自主防災組織に組み込まれていることになる。
※大阪府の自主防災組織
http://www.pref.osaka.jp/kikikanri/firescue/fire/jishubou/kessei.html
政府は、「国民保護基本計画」において、消防団や自主防災組織について、「消防庁及び地方公共団体は地域住民の消防団への参加促進の自主防災組織の核になるリーダーに対しての研修等を通じて自主防災組織の充実を図り、国民保護についての訓練の実施を促進する」とし、自主防災組織のリーダー育成を要請している。DIGはまさにそのようなものである。
「自衛隊の図上演習と形式的には同じもので、目的が違う(自衛隊の場合は作戦遂行、この訓練は高齢者・障害者の救助)」と、近くで見ていた現役の自衛官は言っていた。しかし、同じ形式で行われる防災目的の図上演習が、有事目的の図上演習に利用されていくところに危険があるのである。
(2)消防・警察・自衛隊、そして民間企業や住民の一体化を追求
(写真 左:ビルの屋上から退避訓練する消防・警察・自衛隊のレインジャー。自衛隊員は戦闘態勢を保つ必要があるため、唯一下を向いて滑降している。自衛隊員は「防災活動」ではなく「作戦行動」を遂行しているのである。右:「大阪府災害対策本部」のゼッケンをつけた民間運送会社のトラック。)
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屋外のグラウンドでは、消防、警察、自衛隊など、訓練に参加する車両が待機していた。住民の参加出来る訓練として、地震の体験、消火訓練、簡易担架の作り方、煙中訓練など、防災に役立つもので、そこでは消防や自治体が前に出ていた。
実際の訓練は、地震による被害を想定し、被害者の救出、消火等に当たるというものだった。通報を受けて消防と警察が出動、自治体の要請を受けて自衛隊も出動し、被害状況の確認という設定で自衛隊八尾基地からヘリが動員されていた。どの訓練も三者が一体となっていて、各機関が単独に行動するという訓練はなかった。警察・消防・自衛隊の車両が並んで行動する姿や、それぞれのレスキュー隊員が並んでビルを降下する姿などが印象的だった。返して言えばこの一体感のある訓練が目的だったのではないだろうか。
デモンストレーションが目的ではなく、指揮命令系統の異なる各機関を有機的に結合させるのが目的だったとすれば、この防災訓練は十分に効果的だった。そしてこの有機的結合の中には、自治体や住民組織、民間企業なども含まれている。
(3)馬脚を現したNBC訓練
NBC訓練の設定としては危険物を積んだトラックが高速道路で事故を起こしたために危険区域を設定し住民を避難させ、危険物の特定とその除去にあたるというものだった。この訓練でも先ほどから見られた消防、警察、自衛隊の一体化が印象的だった。ガスマスクをつけて最初に登場した部隊は自衛隊ではなく警察・消防だった。自衛隊は危険物質の特定のために後からの登場となった。
まずは名称である。訓練の最中「NBC訓練」という大きな看板が出され、訓練の締めくくりを飾る目玉であることがアピールされた。NBCとは通常、核・生物・化学兵器の略称であるが、核・生物・化学兵器に対する訓練など普通の防災訓練にはあり得ない。それこそ原発立地点くらいしか想定しようがない。NBC訓練を想定すること自体が、暗に有事を想定していることの証拠なのである。
(ガスマスクを装備した警察の部隊) |
また今回設定された通りの事故では、自衛隊の出動は現実にはあり得ない。消防の化学部隊では、現在サリンでさえ解析するような高度な設備を装備している。また原因物質の特定はマニュアルでは警察の仕事である。仮にまた地下鉄サリン事件のようなことがあったとしても、自衛隊の出番はないのである。では自衛隊の出番があるような事態とは何であるのか? 有事以外の何があるのか?
※大阪府は、1999年には全国に先駆けて、警視庁とともに大阪府警に「テロ対策部隊」をつくり、NBCテロ対策を、防災対策の重要な部分と位置づけてきた。
http://www.kantei.go.jp/jp/kikikanri/nbc/2001/0416suisin.html(「NBCテロ対策に関する施策の推進状況」 首相官邸)
http://www.pref.osaka.jp/kikikanri/crisis/crisis/nbc/nbc.html(「NBCテロ対処現地関係機関の連携指針」について 大阪府危機管理室)
しかしそれは、言うまでもなく警察、消防の役割である。知事の指揮監督権がある警察・消防と、「武力攻撃事態」の認定を前提にした知事の派遣要請がなければ出動することが出来ない自衛隊とが連携してテロ対策にあたるということは、有事訓練を先取りしていることに他ならない。
[4]防災訓練を有事訓練にすり替えるな!福井県での実働有事訓練反対!
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(1) たしかに、消火活動、避難活動、お年寄りや障害者への連絡と救助−−これらはひとつひとつを取ってみれば、防災活動も有事活動も変わらない。そしてこれまでも防災訓練への自衛隊の参加は広範に行われてきた。しかし、災害と有事は本質的に違う。災害時の避難活動と戦争時の住民誘導とは本質的に違う。従って、戦争を想定した有事訓練と防災訓練=大規模災害時の避難訓練は質的に全く異なる。
防災訓練は、地震や台風、津波、火災被害などの発生の場所、規模、時期などを予測し、最大限の予防、防災措置を講じ、起こった場合に被害を最小限に押さえ、住民を避難させることが第一となる。当然のことであるが、この過程での武器の使用、敵の殺戮は想定されない。しかし、有事訓練は、ミサイル攻撃やテロに対する対応やテロリストの捕捉、工作員への攻撃、殺戮という軍による作戦遂行が最優先される。有事訓練では作戦遂行上じゃまになる住民は強制避難、言うことを聞かない者は弾圧と排除の対象である。しかも、戦争に反対する市民の活動が活発化する可能性がある。余計に軍事の論理と弾圧が中心になる。ここが、防災訓練への自衛隊の参加と、有事訓練との決定的な違いである。有事訓練では自衛隊の軍事行動をどう保障するのか、戦闘の障害にならないように住民をどう排除・統制するのかの訓練が行われるのである。
明らかに有事法制成立後の防災訓練は大きく変質させられている。いつの間にか防災訓練に有事訓練が滑り込まされ、一体となって行くところに危険性がある。この危険は、国民が戦争計画に巻き込まれる危険という面だけでなく、本来の防災対策が切り捨てられると言う危険でもある。それはアメリカでのハリケーン「カトリーナ」の被害に端的に現れた。
(2) 小泉政府や大阪府は、「テロ対策先進国」アメリカで、いったい何が起こっているのかを、真剣に検討したのであろうか。「防災」に「有事」が優先された結果、それはどのようなものになるのか。有事訓練が最優先されれば、いったいどうなるか。それは最近のアメリカでのハリケーン「カトリーナ」の大災害に当たってのブッシュ政権の対応を見れば一目瞭然である。
ブッシュは、災害対策を管轄してきた巨大機構FEMA(米連邦緊急事態管理局)を事実上解体し、権限を奪い取り、「対テロ優先」の国家安全保障省に、一部局として組み込んでしまった。そしていざという時に、災害対策は機能しなくなってしまったのである。また、防災予算を削減し、「テロ対策」なるものに血道を挙げた結果、防災対策と住民避難がネグレクトされ、とてつもない甚大な被害がもたらされたのである。
しかも、米兵が被災地に、救援部隊としてではなく、治安弾圧部隊として送り込まれたことが、このことを端的に表している。武装した物々しい出で立ちの兵士たちがまるでイラクの戦場を想起させるような「制圧」をしたのである。「ニューオーリンズでバグダッドが再現された」と非難されたほどである。まさしく「有事」が「防災」を押しつぶした情景がニューオーリンズで実際に現れたのである。
※シリーズ<マスコミが伝えないイラク戦争・占領の現実>その11
「被災者」さえ差別選別する恐ろしい米国社会の暗部 (署名事務局)
※シリーズ<マスコミが伝えないイラク戦争・占領の現実>その10
ブッシュの被災者放置=人種差別とイラク戦争政策最優先に怒りが爆発 (署名事務局)
(3) 2004年6月に成立し9月に施行された「国民保護法」と2005年3月に策定された政府の「国民保護基本指針」に基づいて、各都道府県で今年度中に「国民保護基本計画」の作成が義務づけられているが、その進展具合はまちまちであり、必ずしも進んでいるとは言えない。
そのような中で、今回の泉北合同防災訓練は、「国民保護計画」を先行して実質的に具体化したということに他ならない。大阪府の「国民保護計画」はまだ策定されていない。策定されないものを「防災」の名を借りて先行実施したのである。私たちはまずそのことを厳しく批判する。
そして今回の訓練は、有事のための訓練がどれほど住民に染みこみやすいかを示している。「戦争協力」といわれれば抵抗を感じる人も、「防災」には逆らいがたい。そして現実に自主防災の名の下に、知らぬうちに住民は組織されている。おそらく今後も、「国民保護計画」の具体化は「防災」の衣をまとって推し進められていくだろう。防災訓練も「国民保護計画」も、実施主体は自治体であり、大阪府ではともに危機管理室に情報が集約されることになる。そして現場では自治会などにより結成された自主防災組織単位で、避難などを行うことになる。
今回は図上演習であるが、今後は実際に住民を巻き込んでの訓練が追求されることになるだろう。そしてこれが「防災」であるから住民に馴染みやすい。しかし実際に行われていることは有事と同じ訓練なのだ。
そしてそれは、紛れもない戦争準備、戦争協力なのである。「防災」に名を借りた戦争準備、戦争協力体制の整備に警鐘を鳴らさなければならない!
(4) 今年11月27日には、福井県で「国民保護法」に基づく初の実動有事訓練が行われる。私たちはこれにも反対である。
9月13日、福井県美浜町で、調整会議が実施され、58機関125人が出席した。訓練は、実在する関西電力美浜原子力発電所への攻撃を想定して実施される。これに先駆けて、有事図上訓練を10月末をめどに実施するという。
住民の参加はあくまで自主性に任されているとされるが、自主防災組織、青年団、消防団などがまず強制的に参加させられ、それに引きづられる形で住民の参加が強いられるのは間違いない。政府の「国民保護基本指針」では、日程や場所の設定も含めて、いかに住民を有事訓練に「自主的に」参加させるかが最大の課題の一つとされている。
※福井、鳥取の国民保護計画、初の閣議決定 原発攻撃など想定
http://www.asahi.com/politics/update/0722/002.html?ref=rss
※国民保護訓練:武力攻撃事態を想定、11月に福井で実施へ
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20050614k0000e010028000c.html
(5) 大阪や福井、あるいは全国各地で行われ準備されている、「防災」に名を借りた有事訓練は、すでに述べてきたように、有事法制の具体化、「国民保護」を口実にした、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を仮想敵国とした戦争準備体制の整備・確立である。北朝鮮(あるいは中国)を露骨に想定した核ミサイル攻撃、「テロリスト工作活動」に対抗する極めて危険な軍事演習の一環である。その意味で、全国各地で行われている防災=有事訓練は、有事訓練の性格が強くなればなるほど、規模が大きくなればなるほど、相手に出す戦争準備へのメッセージ性は強くなる。
9月19日、朝鮮半島の非核化をめぐる六カ国協議が質的に新しい段階を切り開く『共同声明』を採択した。協議の舞台を取り仕切ったのは韓国と中国である。日本は協議そのものの成功を望まないが故に、蚊帳の外におかれ、米国は最後まで「合意」に抵抗した。いわば、『共同声明』は、米国と日本に圧力を掛ける形で、合意されたのである。ここに、誰が、朝鮮半島と日本を含む東アジア全体の平和と安定を作り出そうと奮闘し、誰がそれを妨害し抵抗しようとしているのかを見事に暴露したと言えるだろう。平和の敵は米国と日本の政府、日米軍事同盟なのだ。
私たちは朝鮮半島と東アジアの平和と安定の観点から、このような防災=有事訓練の実施に断固反対する。朝鮮半島と東アジアは平和に向かって大きく動き始めたのである。そんな時に、国民の反北朝鮮感情をあおるとともに、北朝鮮や中国を初めとする東アジア諸国に戦争準備の挑発とも受け取れる訓練を強行するなどもってのほかである。絶対にやめさせなければならない。
2005年10月4日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局
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