シリーズ<マスコミが伝えないイラク戦争・占領の現実>その10
ブッシュの被災者放置=人種差別とイラク戦争政策最優先に怒りが爆発
−−ハリケーン被害救済運動と反戦平和運動が結合して9.24全米統一行動へ−−

これはもはや犯罪だ!政府が人種と階級の故に被災者を見殺しにするのは!
戦争のためではなく、ハリケーン救済のために数十億ドルを要求せよ!
(Hurricane Relief, Not War! Campaign Troops Out Now Coalition)



[1]はじめに−−これはもはや犯罪だ! ブッシュの無策と被災者放置

(1)死者は1万人を超える勢い。避難民100万人、ニューオーリンズ市の80%が冠水
 世界最大のGDPを誇る唯一の超大国アメリカ、世界最大の金融帝国アメリカでいったい何が起こっているのか。最強の兵器を使ってアフガニスタンやイラクを瞬時のうちに壊滅させ、大量殺戮を平気でやってのける世界最大の軍事大国で何が起こっているのか。「世界を民主化する」と豪語する国が、自国民の生命や生活を守ることができず、むしろアフリカ系アメリカ人であるが故に平然と被災者を放置し見殺しにする状況をどう表現すればいいのか。イラクの地獄の惨状と重なる被災地の惨状。一方、大統領は休暇を満喫し、国務長官はニューヨークのフェラガモでお買い物。−−ブッシュが造り上げてきた軍国主義国家とはどのようなものなのか。アメリカ帝国主義の“恥部”が、社会的矛盾がこれほど鮮明に露呈したことはない。
※「ハリケーン大災害、ニューオリンズに戒厳令:ライス国務長官はNYのフェラガモでお買物!」(暗いニュースリンク)http://hiddennews.cocolog-nifty.com/gloomynews/2005/09/ny_1fc6.html

 8月29日に起こったハリケーン「カトリーナ」の被害は、日を追うごとに想像を絶するものとなっている。死者は最低でも数千人にのぼると言われている。ルイジアナ州だけで1万人を超えるという情報もある。スーパードームには3万人が避難した。コンベンションセンターには2万5千人が殺到し、階段には死体が積み上がっている。ニューオーリンズ空港は野戦病院と化している。街の外に逃げ出そうと必死になっている人々。人々は叫んでいる。「水も、食料も、薬もない」「逃げ出すこともできない」。あたかも戦場の様な光景である。
 ハリケーン「カトリーナ」は、ルイジアナ州、ミシシッピ州の各地をことごとく破壊した。完全に水没した都市、津波が押し寄せた跡のような壊滅状態、高潮に呑み込まれた家、濁流に押し流された車、放置された遺体、まるで難民キャンプのようになった巨大競技場、衰弱した老人や子どもたち、川を流れる犠牲者、略奪や銃撃戦。被災地の一部で赤痢が発生。心労で警察官が自殺。高齢者が相次いで死亡。等々。
※Criticism of Bush Mounts as More than 10,000 Feared Dead
http://www.commondreams.org/headlines05/0903-05.htm

 とりわけニューオーリンズ市は、80%が冠水し、9割以上の市民が被災、人口約50万人の大半が避難した。水深は7メートルにもなる。市全体が湖になってしまっている。ルイジアナ、ミシシッピの2州で避難者は100万人に上り、停電は州の75%にのぼっている。しかし未だに8万人〜10万人の市民が救助を待っている。生きているのか死んでいるのかさえわからない。お年寄りや障害者、幼い子どもを抱えた貧しい人々はどこへ避難できるというのか。
 水面に死体が浮んだまま放置される恐るべき惨状を呈しており、ニューオーリンズのネーギン市長は1日、「絶望的なSOSだ」と語り、地元ラジオのインタビューに「4万人の支援部隊が来るというが、来ないじゃないか。いい加減、腰を上げたらどうだ」と連邦政府の対応の遅れを批判した。州や政府の記者会見通りに支援が届かない状況について怒りをぶちまけ、「記者会見はもう十分だ。現実に支援が届くまで、記者会見を制限すべきだ」と声を荒らげた。

 米国ではかつて1900年、死者・行方不明者12,000人を出した史上最悪のハリケーン「ガルベストン」による大災害を経験したが、今回はそれを越える100年来の大惨事になる可能性がある。ブッシュは記者会見で、「これまでの政府の対応には満足だが、結果には不満だ」と述べ、各方面から猛反発を食らった。また、「あらゆる兵器が使用された戦場のようだった」とまるで他人事のように感想を述べ、非難が集中した。彼は国民の生命と生活を守る責任を全く感じていないのだ。
※World Stunned as U.S. Struggles with Katrina
http://www.commondreams.org/headlines05/0902-04.htm

 ブッシュの対応は、人命軽視も甚だしいものであった。
@ 「カトリーナ」が上陸したのは、8月29日の朝であった。米CNNテレビによると、全市民に避難命令が出たニューオーリンズと周辺地域の計約130万人のうち、約80%は29日朝までに同地域から脱出した。市内に残る一部市民はアメリカンフットボールの競技場などに身を寄せた。しかし、弱者や貧困層は、避難する手段をもたず、市に残らざるを得なかった。避難命令を出すだけでは済まなかったのである。政府・州による当局の救済が不可欠だったのだ。にもかかわらず、避難命令を出しただけで、事実上低所得者層、貧困層を放置したのである。
 

A そして30日の午前の段階で、広大な地域に渡る停電や浸水の被害報告が出され、必死の救援活動を続けるミシシッピ州当局者から「数百人」もの死者が出ている実態が報告されていた。この時点で、類を見ない大災害が進行しているのは明らかだった。

B しかし、その時点でブッシュはまだ休暇を満喫していた。ブッシュは、「カトリーナ」が接近してきた27日にはルイジアナ州に、そして28日にはミシシッピ州に非常事態宣言を出しており、連邦政府として州政府などと協力して対処することを強調していた。事前に、ハリケーン「カトリーナ」の危険性を十分知っていたのである。しかし、実際には非常事態宣言を出すだけ出して、再び休暇に入ってしまったのである。
 ブッシュが重い腰を上げたのは、ハリケーン襲来から2日後の8月31日になってからである。しかも、ブッシュが31日、ホワイトハウスで関係閣僚会議を開いてまず決めたことは、戦略石油備蓄の放出を求めるなど、石油ビジネス、石油価格の安定に関わるものだった。ここでブッシュは、「米国史上最悪の天災の一つ」として“天災”“自然災害”をことさら強調し、政権の政治責任を回避しようとした。そして被災地では多くの人々の遺体が取り残され、救援を今か今かと待ちわびているときに「復旧には数年かかる」と発言し、今の被災地の救済ではなく、数年後の復興に関心を寄せたのである。ブッシュは景気対策、復興ビジネスにしか関心がないのである。イラク戦争の時もまさにそうであった。
 しかも、あろうことかブッシュが早速、軍産複合体であり副大統領チェイニーが関与する疑惑の企業ハリバートンの調査員に復興計画を策定させ費用を見積もりさせているという情報もある。

C さらにブッシュが現地視察に入ったのは9月2日であった。ブッシュは、現地さえ見ていないと言う批判をかわすためにアラバマ、ミシシッピ、ルイジアナの3州を大急ぎで視察したが、もっとも被害の大きいニューオーリンズ市はヘリコプターで通過して上空から眺めただけである。怒りを募らせている被災住民に直接対面することを恐れたのだ。
※ The questions a shocked America is asking its President http://news.independent.co.uk/world/americas/article309938.ece 英有力紙インディペンデントは、9月5日付の報道で5つの質問をブッシュに問い質した。ブッシュの対応を辛辣にまとめたものである。
@なぜブッシュはニューオーリンズに到着するのに、5日もかかったのか。
 A世界唯一の超大国はなぜ、自国民の救済にこんなに遅いのか。
 Bなぜブッシュは洪水のコントロールと緊急管理のために資金を提供することをカットしたのか。
 C なぜ法と秩序を維持する適切な州兵を送るのにそれほど長くかかったのか。
 Dどうしてわずか3週間で2500万人のイラクを掌握することができたのに、巨大なアメリカの都市のスポーツ競技場から25000人の自国民を救済することができないのか。


(2)大手メディア報道「救助・復旧活動本格化」はウソ。未だに犠牲者の数すらつかんでいないブッシュ政権
 しかし、9月5日当たりから日本のマスコミは、幾つかの批判的記事を載せながらも、全体として救助・復旧活動が軌道に乗り始めたと報じ始めた。「救助・復旧が本格化、避難民を大規模移送、決壊堤防を修復 大統領再視察へ」(日経)、「兵力5万4000人で救援 米政府イラク優先批判回避」(読売)、「救援活動が本格化」(朝日)、「避難所から市民の脱出完了 復旧作業焦点に」(毎日)等々。CNNなど米系放送を見ても、被災地の現状をただそのまま報じると同時に、大統領報道官の記者会見や救援に向かう船や大統領の被災地訪問をただ延々と報道している。ブッシュと政府のパフォーマンスを垂れ流しているのだ。

 だが、これは真実ではない。「避難民移送」とは、コンベンションセンターとスーパードームにいる6万人もの被災者をこれ以上放置すれば本当に殺してしまうことになるのを恐れた政府が慌てて移送を開始したというのが実情である。餓死や疫病が蔓延すれば、ブッシュ批判の火に油を注ぎかねないことを恐れたのだ。また「復旧」と言うが、決壊した堤防をまず補修しなければ浸水が止まらないからであり、普通考えられる「復旧活動」からはほど遠い状況だ。「兵力投入」は射殺と銃撃戦をやりまくり市内の強権的治安維持をやっただけだ。

 政府の救助・復旧活動は未だに混乱を極めている。何よりもまず、ハリケーン来襲後1週間も経つのに、ブッシュ政権は被害の全容を全くつかんでいないのである。何人が犠牲になったのか、未だにミシシッピ市の水没した家屋にいったい何人の人々が取り残されているのか、水没家屋・被害家屋がいったい何戸にのぼるのか、避難民はどこにどれだけいて、総計何人にのぼるのか、政府は全くつかんでいないのだ。日本時間の夕方6時時点でも、テレビ中継から伝わる声は悲痛そのものだ。「疲労はもう限界だ」「まるで刑務所にいるようだ」「生後3週間の子どもに水もミルクもない」「自分達は見捨てられた」「あちこちで放置された死体を見た」等々。



[2]今回の大惨事は“人災”。対外侵略と戦争国家造りを最優先し、自然災害対策を切り捨てたツケが回る

(1)初動対応は行われなかった!−−緊急災害対策機関FEMAがイラク戦争・「対テロ戦争」最優先のための機構改編=「民営化」で事実上解体される
 初動対応がなぜ遅れたのか、ではない。初動対応は行われなかったのだ!緊急救助は人間の生命がかかっている。水・食糧抜きに生き延びるせいぜい24時間、48時間が限界だ。ところが今回、災害時に立ち上がるはずのFEMAは全く動かなかった。なぜか。FEMAが出動命令を出すはずの連邦軍も州兵も動かなかった。私たちは、ここに今回の被害拡大の一つの重大な秘密があると考えている。
 実は、ブッシュ政権は緊急災害対策を基本任務にする国家機関FEMA(米連邦緊急事態管理局)を縮小再編し、機能を低下させると同時に、民営化させ、事実上解体してしまったのである。ブッシュ政権になって「対テロ戦争」の名の下で軍国主義国家造り、侵略国家造りが活発化し、ペンタゴンの権限が強大化、「米本土防衛省」なる新しい軍事機構も造り出された。CIAなど情報機関の再編統合も行われている。FEMAは、このようなブッシュの戦争国家体制造りの中で、無用なものとして切り捨てられたのである。

 具体的には、2003年に、それまで大統領直属でトップに大臣級をおき、連邦軍を直接動員できる大きな権限を持ってきたFEMAを、「対テロ戦争」を任務とする「米本土防衛省」の下に置き、権限を大幅に取り上げ、その22の局の1つに格下げしたのである。すなわち、災害対策機関が戦争遂行機関・治安弾圧機関に完全に従属編入され切り縮められたのだ。当然、緊急災害対策能力が大幅に低下した。
 しかも2003年にFEMAのトップに座ったブラウン長官は、危機管理、災害対策に何の経験もない弁護士だった。FEMA長官になる前には国際アラブ馬協会のコミッショナーをしていた。ブッシュとの個人的関係で地位にありついた曰く付きの人物だ。
 このようなFEMAの大リストラの下で、長年災害対策に当たってきた専門家の多くが2003年の組織改編を機に職を離れていった。また、FEMAの予算も大幅に削減されてきた。当然、能力低下に拍車が掛かる。ある論説は、ブッシュ政権は「戦費には40兆円支出したが、災害対策には40億円しか支出していない」と述べている。

 確かに、ハリケーン「カトリーナ」は自然災害である。人命を奪ったのも、家屋を破壊したのも、ハリケーンの仕業によるものである。しかし、初動対応、迅速な緊急救助活動が行われておれば、被害を最小限にくい止め、多くの人命損失を防ぐことができたのは間違いない。その意味からもして今回の大惨事は“人災”である。
※A can’t-do federal government
http://www.thestate.com/mld/thestate/living/12557559.htm
 この記事では、米政府・州政府が貧困な人々と病人を避難させる事がなぜできなかったのかと批判している。9月4日に、まだ州兵(空軍)には出動命令が出ずにバスケットボールをしているという。2002年にFEMAの長官が洪水対策予算の削減に抗議して辞職した。多くの専門家もFEMAを去ったと指摘している。
※FEMA's Brown faces destruction, criticism
http://www.kansas.com/mld/kansas/news/12554718.htm
※9月3日になってもまだ本土防衛省が赤十字の食料供給のための立ち入りを拒否している。
Homeland Security won't let Red Cross deliver food
http://www.post-gazette.com/pg/05246/565143.stm

 同時にブッシュは就任した2001年以降、「公共サービスの民営化」を拡大し、特に「緊急支援活動の民営化」を積極的に推し進めた。民間企業に災害支援業務を外注化する方針を採用した。その結果、円滑な緊急支援体制がとれなくなった。FEMAの職員は、「予算削減と民間企業への災害支援業務の委託は危険だ」「緊急事態が発生した際に遅滞を招きかねない」と警告していた。米国流の民営化路線は、イラク戦争で明らかになったような軍事面(民間請負会社:PMF)にだけにとどまらず、最も民営化がなじまない災害対策にまで及んでいたのである。
※「FEMA THEN AND NOW」http://www.washingtonmonthly.com/archives/individual/2005_09/007020.php


(2)州兵をイラク戦争・占領に総動員。本来の災害救助ができず
 今回の初動支援活動が欠如あるいは決定的に立ち後れてた最大の要因として、ミシシッピ州とルイジアナ州に所属する州兵部隊がイラクに派兵され、大幅に不足していた事情がある。州兵は通常、警察や消防などの職業に携わっているケースが多い。州レベルで災害緊急事態に対応できないのは十分予想されたはずだ。
 現在、ルイジアナ州では州兵の3分の1(1個歩兵旅団3500人)がイラクに配備されている。歩兵部隊だけでなく災害対処に必要な車両、浄水車などもイラクに持って行っているのでそれも大幅な不足状態にある。隣のミシシッピ州では州兵の4割がイラクに派遣されている。ミシシッピ州とルイジアナ州の州兵部隊約6000人がイラクに派遣されているという。

 また、州兵で対処できない場合、州知事が動員できるのは州内の州兵だけなので、連邦政府−−大統領の命令で連邦軍の動員が必要になる。しかし、この連邦軍の動員も極めて遅れた。災害後5日目にようやく動員部隊の最初の部隊が到着したにすぎない。未だに多くの市民が、水没した家屋に取り残されている事実からしても、そのことは明らかであろう。
※Why So Few First Responders in New Orleans? They're in Iraq!
 http://www.thenewamerican.com/artman/publish/article_2136.shtml


(3)連邦軍・州兵の投入は被災者に対する威嚇と治安弾圧のため。避難民救済よりも治安弾圧を最優先する恐ろしさ
 ブッシュ政権は3日、被災地への兵力投入を州兵を含む5万4000人態勢にする方針を決めた。全米50州中40以上から州兵を動員し、イラクやアフガニスタンなどからも一部州兵を帰国させるという。イラク戦争優先との非難をかわそうとする狙いからだ。
 ミシシッピ、ルイジアナ両州などではすでに州兵約2万2000人、米軍約5000人が、被災民への支援物資配給や治安回復にあたっている。今後、陸軍の第82空挺部隊、海兵隊の第1・第2遠征部隊など精鋭計7000人を増派するほか、州兵も追加動員するという。
※ハリケーン救援、米軍を5万4千人に増強(読売新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050904-00000015-yom-int

 しかし、少なくともハリケーン来襲後1週間の状況を見る限り、連邦軍・州兵の投入は、支援物資配給のためではない。被災者の略奪や治安悪化への対処であり、治安弾圧のためでしかない。1日、ルイジアナ州知事は「ニューオーリンズに到着した州兵3000人はイラクから戻ったばかり。彼らは撃ち方も殺し方も知っている」と被災者に「宣戦布告」する有様である。また、「アーミー・タイムズ」は、「軍が、ニューオーリンズで戦闘作戦を開始」なる記事を配信した。ある州兵部隊の司令官は、ニューオーリンズを「リトル・ソマリア」と表現して、治安弾圧作戦を遂行しているという。アフリカ系アメリカ人が集中するソマリアの難民キャンプを制圧する想定なのだろう。
 これほど恐ろしいことはない。繰り返し流れされるアフリカ系アメリカ人による食料品・日用雑貨品などの略奪の映像は、犠牲者である彼らをただ犯罪者としてだけ描き出し、人種差別と相まって米国民の怒りをかき立て、断固とした治安弾圧を求める方向へ世論を誘導しているかのようである。ブッシュ政権の支援の遅れとサボタージュを覆い隠す意図を感じざるを得ない。と同時に、アフリカ系アメリカ人を社会的救済の対象として扱うのではなく、抑圧の対象としてしか扱わない米国社会の恐ろしさがここにある。
※Troops begin combat operations in New Orleans By Joseph R. Chenelly "Army Times"
http://www.informationclearinghouse.info/article10100.htm

 しかし、そもそも治安悪化の原因を作ったのは誰なのか。ブッシュは緊急救援体制を全くとらなかった。食糧や水など、最低限の援助をしなかった。その多くが低所得者であり貧しいアフリカ系アメリカ人は、衰弱し、汚水を飲み始めていた。餓死の声すら上がり始めていたのだ。生き延びるために略奪をせざるを得なかった。人々が略奪に走るのも、人心が荒廃するのも、人々が殺気立つのも、全てはブッシュが緊急救援対策を怠ったからである。救援を怠った者が、逆に被災者を銃撃し殺し、武力で威嚇し弾圧する様をいったいどう表現すればいいのか。今回の事態を作り出したブッシュ政権そのものの責任を徹底して追及しなければならない。私たちは腹立たしい思いで一杯である。


(4)被害はアフリカ系アメリカ人に集中−−ハリケーンがさらけ出した人種差別と極度の貧困
 ブッシュ政権の初動対応がなかった背景には、アフリカ系アメリカ人に対する人種差別主義がある。映し出されるニューオーリンズの映像は唖然とするばかりだ。被害の甚大さにも驚かされたが、何よりも異様に見えたのが、取り残された人々が全てと言っていいほどアフリカ系アメリカ人であるという事実である。レポーターはその様子を、「まるでアフリカの難民キャンプのようだ」と表現した。
 ニューオーリンズ市は、人口の67.3%をアフリカ系アメリカ人が占めている。そして、27.9%が貧困ライン以下の生活を強いられている。これは、ルイジアナ州全体のアフリカ系アメリカ人の比率が32.5%、貧困層が19.6%であることを考えれば、いかにニューオリンズ市に矛盾が集中しているか一目瞭然である。
※US Census Bureau
http://quickfacts.census.gov/qfd/states/22/22071.html
※Lost in the Flood
http://slate.msn.com/id/2124688/nav/tap2/
 この記事では、「われわれが見ているニューオーリンズの避難民の99%がなぜアフリカ系アメリカ人なのか」との問いを発し、ニューオーリンズ市民のうち10万人が個人的な移動手段を持っていないため、大きな嵐に見舞われた場合これらの人々が立ち往生するという2002年のレポートをその答えとして引用している。悲劇は予想されていたのである。

 悪名高いFEMAのブラウン長官は、早速信じがたい暴言を吐いた。「事は比較的うまくいっている」「死者総数は数千人にものぼるであろう。それは不幸なことではあるが、事前に発した警告に注意を払わなかった多くの人々の責任である。」(CNN9月1日)。要するに彼は、取り残された被災者がアフリカ系アメリカ人である実情を見て、「なぜ警告したにもかかわらず避難しなかったのか」「自己責任だ」と開き直ったのである。まさのここに、歴代米大統領の中でも特別に金持ち優遇政治をやっているブッシュ政治の人種差別的・階級的視点が反映している。ブッシュ大統領の初動対応がなかった理由もまた、先のブラウン局長と同様の社会的弱者への無関心と人種差別的視点を彼自身が抱いていたからであろう。彼らにとってアフリカ系アメリカ人や社会的弱者の生命と生活を守ることは、二の次であった。警告を発したのであるから、車に乗って急ぎ避難すれば良い、自分たちは責任者としての義務を果たした、このように考えていたのであろう。彼らには、車も持たず、避難先のホテル代にも困るような貧困層の存在など、眼中にはなかったのだ。
※FEMA chief: Victims bear some responsibility Brown pleased with effort: 'Things are going relatively well'
http://www.cnn.com/2005/WEATHER/09/01/katrina.fema.brown/index.html

 災害直後、米議会黒人市民権運動家たちから批判の声が上がった。メリーランド州イライジャ・カミングズ下院議員は、「(被災地で)生き残ろうと格闘している米国人の多くは有色人種だ。…歴史のなかで、2005年の大嵐と洪水で生死を分けたのは、貧困や年齢、または肌の色だけだったと言われるようになるのを許すわけにはいかない」と怒りをぶちまけた。
 また赤十字の救援コンサートでハプニングが起こった。黒人のラップ歌手カニエ・ウェスト氏が、「ジョージ・ブッシュは黒人はどうなってもよいと思っている。何日も救援の手が届かなかったのは、大半の被災者が黒人だったからだ」「メディアは、白人の場合は食料を探していると報じるが、黒人は食料を略奪していると報じている」とコンサート途中で突然ブッシュの対応とメディアの報道姿勢を激しく批判し始めたのだ。コンサートの中継は急遽コメディアンの会話に差し替えられた。
 アフリカ系アメリカ人は怒りに満ちている。被害者の立場により近い彼らは、ハリケーン「カトリーナ」におけるブッシュ政権の人種差別的言動、対応に敏感に反応し、批判しているのである。
※米議会黒人議員グループ、ハリケーン救援の遅れを批判
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050903-00000311-yom-int
※ハリケーン悲劇の裏に黒人差別=有名音楽家や公民権運動家が非難
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050904-00000016-jij-ent
※救済公演で米大統領批判 米人気ラッパー(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050904-00000016-kyodo-int
※Kanye West Rips Bush at Hurricane Aid
http://news.yahoo.com/news?tmpl=story&u=/ap/20050903/ap_en_tv/katrina_nbc_telethon


(5)緊急時に国連その他の海外緊急援助を事実上拒否。キューバやベネズエラなどからの援助も断る
 さらにブッシュ政権の恐るべき対応がある。彼は、自らが緊急初動対応をしなかっただけではなく、緊急援助を申し出た海外諸国からの救援をも、無視する形で拒否したのである。これではまるで、ニューオーリンズのアフリカ系アメリカ人や貧困層は死ねと言っているようなものである。
 米政府に対して緊急援助を申し出たのは、ロシア、日本、カナダ、フランス、ホンジュラス、ドイツ、ベネズエラ、キューバ、ジャマイカ、オーストラリア、イギリス、オランダ、スイス、ギリシャ、ハンガリー、コロンビア、ドミニカ共和国、エルサルバドル、メキシコ、中国、韓国、イスラエル、アラブ首長国連邦等々、60カ国にのぼる。国連やNATOなど国際機関からも援助の申し入れがあった。
 しかし、ブッシュはABCテレビに、言い放った。「私は外国の国家からあまり期待していない。私たちがそれを求めたのではないからだ。私は、多くの同情を受けることを期待するしいくらかのドルは送られてくるだろう。しかし、この国は立ち上がり、これを片づけるだろう。」
 ブッシュ政権は9月4日、ようやく国連の援助を受け入れることを表明した。国連から申し入れがあったのは9月1日である。ブッシュ政権はこの緊急事態を前に、4日間も海外からの緊急援助を無視し続けたのである。海外援助部隊が活躍し、自国の援助部隊は混乱し右往左往する−−このような対比が生じるのを恐れたからである。人命は二の次、堕落しきったブッシュ政権の威信失墜の回避。信じがたい対応である。
※<米ハリケーン>米政府、国連支援を受諾(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050905-00000017-mai-int

 とりわけブッシュは、キューバやベネズエラの動きに神経をとがらせている。自らが「ならず者国家」「敵対国」「悪魔」とののしってきたキューバやベネズエラが人命を尊重する人道主義国家であることを実証させたくないし、彼らが積極的に救援活動をする姿を自国民に見せたくないからである。キューバのカストロ国家評議会議長は2日、ハバナにある米利益代表部に対し、米南部のハリケーン被災地に千百人の医療チーム派遣などの支援を申し出た。反戦団体ANSWERは、キューバが申し出ている医療支援を受け入れるよう緊急行動を提起している。ベネズエラのチャベス大統領は4日、被災地に対し、国営石油会社の米国法人を通じた百万ドルの寄付、救援チームの派遣の他、100万バレルのガソリンを提供する方針を明らかにするとともに、ブッシュ米大統領がハリケーンの被災者を見捨てたと非難した。
※カストロ議長、米被災地向けに医師1500人を結集(ロイター)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050905-00000678-reu-int
 「キューバのカストロ国家評議会議長は4日、医薬品などを携えた1500人余りの医師をハバナに集結させた。同議長は、ハリケーン「カトリーナ」被災地への医師団派遣を米国に申し出ているが、米国からはまだ回答が来ていない、という。・・・医師らは、それぞれが医薬品などを詰めたリュックサックを持ち、週末にかけてハバナに集結した。すぐにも出発できる状態だという。」
※Venezuela's CITGO to Provide Cheap Gas for U.S. Hospitals, Nursing Homes and Schools
http://www.venezuelanalysis.com/news.php?newsno=1738



[3]ブッシュ予算の階級的性格−−戦費・軍事費の肥大化とハリケーン対策予算、人民・生活関連予算削減

(1)誰に予算を集中し誰の予算を切り捨てたのか。軍事へのくれてやりと災害関連予算の大幅カット
 ハリケーン「カトリーナ」の甚大な被害は、ブッシュ政権の6年間にわたる軍事最優先、災害対策切り捨て、人民・生活関連の切り捨てという予算配分の恐ろしい結果を誰の目にも明らかになる形で明らかにしている。まさに今、私たちの前に展開されている被災者放置劇が明るみに出しているのは、ブッシュ予算の階級的本性、すなわち誰の利害を体現しているのか、何を切り捨て、誰のための予算を切り捨ててきたのかである。自国民の生命と安全を守るといった一国の最高指導者の責任をサボタージュし、ひたすら石油産業と軍産複合体の利害の実現に邁進し戦争を遂行してきたブッシュ大統領の責任を追及することが迫られているのである。
a.2001年のブッシュ就任以来、クリントン政権下でのFEMAのプロジェクト・インパクトを含む連邦災害緩和プログラムは次々に破棄された。削減された予算の下で、各地の災害対策予算は厳しい削減競争の対象になった。

b.今年の初めに、ブッシュ政権はルイジアナ州議会が提案した湾岸ハリケーン対策費用の要求を拒否し、必要と見られた4年間で140億ドルに対して5億4千万ドルしか認めなかった。何と必要額の4%にも満たない数字である。2005年度の予算ではブッシュ政権は必要とされる予算の6分の1の1040万ドルしか認めなかった。
 連邦のルイジアナ州南東部に対する洪水対策費は2001年の6900万ドルから2005年には3650万ドルにまで、半分に削減された。連邦のポンチャートレイン湖に対するハリケーン対策費は2002年度の1425万ドルから2005年には570万ドルに、6割も削減された。

※The worst President ever!
http://www.uruknet.info/?p=m15362&l=i&size=1&hd=0

c.イラク戦費の増大の下で、各州の災害対策費用には大なたが振るわれている。1州あたりの災害対策費の平均額は2003年より23%削減され、4080万ドルに削減されている。
※The worst President ever!
http://www.uruknet.info/?p=m15362&l=i&size=1&hd=0

d.ルイジアナ州の工兵部隊はニューオーリンズの堤防修復予算として2004年度に1100万ドルを要求したが、半分の550万ドルが認められただけであった。2005年には2250万ドルが要求されたが、4分の1の570万ドルしか認められなかった。2006年度にブッシュ政権はそれより更に少ない290万ドルを提案した。全く人を馬鹿にした提案である。
※New Orleans and Baghdad?two sides of the same policy
http://www.wsws.org/articles/2005/sep2005/noir-s03.shtml
※Warnings went ignored as Bush slashed flood defence budget to pay for wars
http://news.independent.co.uk/world/americas/article310195.ece

e.全米レベルで見ても、災害対策を含む工兵部隊の予算にはイラク戦費のしわ寄せで大なたが振るわれている。2004年度予算では46億ドルの予算が13%削減の対象とされ40億ドルにされた。
※Racism is at the Heart of the Katrina Disaster
http://www.politicalaffairs.net/article/articleview/1788/1/116

f.一方で米議会はイラク戦費として2500億ドルを承認した。1ヶ月あたり54億ドルである。イラク戦争戦費と一部の富裕層への減税のための1300億ドルのためにカネを工面するためにこれらの災害対策費用を削減する必要があったのである。
※米シンクタンク「政策調査研究所」は毎月の戦費がベトナム戦争を上回り、月額52億ドルに達したとする研究結果を発表した。ベトナム戦争の支出上回る 米のイラク経費、月単位で(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050831-00000102-kyodo-int


(2)早くから警告されていたニューオーリンズ大災害の危険。資金不足で水害対策がストップ
 以前からニューオーリンズの危険性は指摘されていた。ニューオーリンズへのハリケーン直撃が堤防の決壊等の大惨事をもたらすことを、FEMAは2001年の段階で指摘していた。南側をミシシッピ川、北側がポンチャートレイン湖に囲まれた、メキシコ湾からのデルタ地帯に位置するニューオーリンズは大半が海抜以下であり、一度堤防が決壊すれば、市全体が水中に沈んでしまうことは明らかだったのだ。
 また、地元紙タイムズ・ピキューンは、2002年6月、「大きなハリケーンがこの地域を破壊し、中程度のハリケーンでさえ、その洪水で数千人の命を奪うだろう。それはまさに時間の問題だ。」と警告していた。
 危険性が指摘されていたにもかかわらず堤防の改修が先送りにされ、今回の大惨事が起こった。これを「人災」と言わずして、何と呼べばよいのか!あきれるばかりの無策ぶりである。
※NEW ORLEANS IS SINKING (2001.9.11)
http://www.popularmechanics.com/science/research/1282151.html
※Thinking Big About Hurricanes(2005.5.25)
http://www.prospect.org/web/page.ww?section=root&name=ViewWeb&articleId=9754
※Warnings went ignored as Bush slashed flood defence budget to pay for wars
http://news.independent.co.uk/world/americas/article310195.ece

 ニューオーリンズでは、今年の早い段階から1億1400万ドルものハリケーン対策計画の資金が不足していることが指摘されていた。その結果、市当局とともに堤防管理と改修に当たってきた米陸軍工兵隊の作業が停滞していることが伝えられていた。資金不足のために堤防改修ができず、危険性が懸念されていたのである。2001年の水準と比較して44%を超える対策予算がカットされた結果、財政年度2004年度において新たな改修契約を結ぶことができない状況が生まれていた。また財政年度2005年度における堤防補修関連の予算は大きく削減され、改修の見通しがまったく立たなくなっていた。そのような惨状についてニューオーリンズの緊急対策局のウォルター・マエストリ氏は、次のように語っていた。「資金が、大統領の予算として国内の治安対策とイラク戦争に消えていった。…堤防改修が終わらず、安心できる人など誰もいない。……」
※Feds Ignored Catastrophe Predictions, Diverted Funds
 http://newstandardnews.net/content/?items=2307&printmode=true

 また、“人災”の中には、都市と水害との「天然の緩衝装置」となってきた「湿地帯の消失」があると言われている。そしてその背景には、ブッシュによる湿地帯保護規制の緩和政策があるという。湿地帯は、洪水を吸収する“スポンジ”なのである。森林破壊、河川工事、気候変動とともに、湿地帯の埋立は、自然が形成してきた複雑な生態学的セーフティネットをずたずたにする最重要の原因とされている。
※人間活動が自然災害を増大させる WorldWatch-Japan.org
http://www.worldwatch-japan.org/NEWS/pressrelease2001.10.html

 更に、石油の過剰掘削のために、ニューオーリンズ一帯の地盤沈下は進行していた。沖合に展開する石油産業による過剰油田掘削のために、ニューーオーリンズ地域の地盤沈下は徐々に進行していた。その結果、長い年月をかけて、ハリケーンなどの自然災害をきっけとした水害の脅威が高まったとも言われている。
※冠水と洪水、地盤沈下追い打ち 石油採掘・都市化に起因(朝日新聞)
http://www.asahi.com/special/050831/TKY200509030258.html


(3)地球温暖化によるハリケーンの大規模化。ブッシュの京都議定書からの離脱と温暖化対策に対する妨害
 米の反戦センターの一つであるANSWERは声明文の中で、ハリケーンと地球温暖化の密接な関連にも大きな関心を払い言及している。「地球温暖化は、熱帯暴風雨の異常なまでの増加の主要な原因である。とりわけ、ハリケーン・カトリーナは、メキシコ湾の海水温の異常なまでの高温によって小さなハリケーンから巨大な、かつて記録されたこともない規模にまで成長した。一方、ブッシュ政権は、気候変動の証拠を軽視し続けており、京都議定書を無視する姿勢を取り続けている。」と。確かにここ数十年、ハリケーンの規模は大きくなった。地球温暖化による海水の温度上昇がその原因だと主張する科学者たちの見解は支持されている。
 最大の温暖化ガス排出国でありながら、京都議定書による地球温暖化対策への努力をぶち壊し、自らは石油浪費構造を拡大し続け、猛烈な勢いで温暖化ガス(主成分はCO2)を排出し続ける米国は、地球温暖化の最大の根源であり、最大の責任者である。ブッシュ政権の中枢を牛耳る石油産業と自動車産業のどん欲なまでの利潤追求の結果が、社会の最底辺層の人々を直撃し、人命を奪い去ったのである。
※Katrina Should be A Lesson To US on Global Warming
http://service.spiegel.de/cache/international/0,1518,372179,00.html



[4]ハリケーン被害救済運動と反戦平和運動が結合して9.24反戦大行動へ

 アメリカの反戦平和運動は、今回の災害救援を最大のターゲットの一つとし始めた。すでに闘争は始まっている。「今すぐ撤退せよ連合」(Troops Out Now Coalition)は、ブッシュと議会に対して、「戦争にではなく、ハリケーン救済に数十億ドルを即刻支出せよ!」というキャンペーンを開始した。彼らは主張する。「政府が、人種と階級故に被災者を見殺しにすることは、もはや犯罪だ!」と。緊急救援行動が、9/10、9/12、9/15と連続して計画されている。そしてその集約点は9/24行動に据えられている。
※「Hurricane Relief, Not War! Campaign」のサイトにはブッシュと議会向けに英文の手紙の見本があり、誰でも要求と広義ができるようになっている。http://www.troopsoutnow.org/reliefnotwar.shtml http://www.troopsoutnow.org/

 9月2日には、すでにニューヨークのタイムススクエアでブッシュの責任を追及する抗議行動が行われた。参加者たちは、「ハリケーン=ジェノサイド」などのプラカードを掲げ、ブッシュの見殺し政策を批判した。
※Protest demands justice for hurricane victims, not repression
http://www.workers.org/2005/us/times-square-0915/


 米国の反戦運動の最大のセンターの一つであるANSWER(Act Now to Stop War & End Racism)は、ニューオーリンズの人々を支援する全米規模の「9月7日緊急行動」を提起している。(被害にあった人々へ)「仕事と収入を、路頭に投げ出されたすべての家族に住居を!真の救済に−YES!人種差別に−NO!」をスローガンに掲げ、アフリカ系アメリカ人の被害が特にひどく、低所得者層・貧困層に犠牲が集中していることを問題にしている。これは自然災害と言うよりも、人災である。利潤と覇権、戦争を人々の生活よりも優先させるブッシュ政権の結果である、と批判している。

 もう一つの反戦運動センターUFPJ(United for Peace and Justice)は、「2つの湾岸戦争」(The Gulf Wars)との声明を発表し、この被害が、アメリカがイラクで行っている戦争の直接的結果であると批判している。ブッシュ政権は洪水対策、避難対策のための予算を7400万ドルも削減する一方、イラク戦争に2000億ドル以上をつぎ込んだ。そして、ルイジアナ州とミシシッピ州の州兵の35〜40%をイラクに派兵することによって空白地帯を作り出した。UFJPは、米国民がホワイトハウスに電話を集中し、有効な救済措置を執ることを要求するように呼びかけている。


UFPJ(United for Peace and Justice)http://www.unitedforpeace.org/article.php?id=3094 より

 シーハンさんは、8月31日から「全米バスツアー」を開始した。「キャンプ・ケーシー」から開始された「米軍の即時帰還を求めるツアー」は、9月5日の時点で、北部ツアーはミルウォーキー、中央ツアーはインディアナポリス、南部ツアーはモンゴメリにある。イラク反戦を訴えるこのツアーは、事実上ハリケーンの救済キャンペーンツアーとしての役割を果たしている。テキサスのクロフォードで一ヶ月近い座り込みを貫いた大きなエネルギーを持って、水や缶詰、毛布、粉ミルク、おむつ、浄水用タブレットなど被災地に必要なもののカンパを呼びかけ、トラックを手配し、支援物資を運んでいる。またツアーに参加したイラク退役軍人は、一時的にツアーを離脱し、救援活動に参加している。
 ブッシュのイラク戦争の批判とハリケーン被害救済行動は「キャンプ・ケーシー」を軸に一つになって、9/24に向かって前進しようとしている。
シーハンさん、「キャンプ・ケーシー」から全米バスツアーを開始(署名事務局)
  http://bringthemhomenowtour.org/

2005年9月5日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局





ANSWER連合からの行動呼びかけ 2005年9月2日
ニューオーリンズ市民への支援を! 9月7日(水) 全国緊急行動日
ニューオーリンズの人々への支援を!
すべての避難家族に仕事・収入・住宅を!
真の救援に−YES! 人種差別に−NO!

http://answer.pephost.org/site/News2?abbr=ANS_&page=NewsArticle&id=6642


 ルイジアナ州、ミシシッピ州、アラバマ州で今日起こっている出来事は、この国では稀に見る危機である。ハリケーン・カトリーナによる犠牲者への心配がほとばしっている。全米、そして世界中の何百万もの人々が、被害の規模と、ブッシュ大統領および米政府の無策ぶりを、戦慄して見つめている。数千人が死亡、あるいは行方不明である。数百万人が退去させられ、あるいは仕事と家を失った。

 ニューオーリンズのアフリカ系アメリカ人のコミュニティーは特にひどい打撃を受け、そして大量の死者と被害を出したことに加え、政府当局と企業メディアによる邪悪な人種差別的スケープゴートによる犠牲者でもあった。今回の危機における真の“略奪者”は、国中のガスと石油の価格をつり上げ超過利潤を稼いできた巨大石油企業たちである。

 危機が「自然災害」とは程遠いことが、日々明らかになってきている。大量の死者と破壊は、ハリケーンの結果として生み出されたのではない。人間の必需品より、利益、戦争、征服を優先させる政府によって引き起こされたのである。ハリケーンがニューオーリンズとその周辺にもたらす危険性は、既に知られており、ここ数年、議論になっていた。しかし、なんら対策はとられなかった。堤防を強化する資金はイラク戦争に転用され、防護湿地は開発者たちに売却された。

 地球温暖化は、熱帯暴風雨の著しい増大、とくにハリケーン・カトリーナの主要な要因である。それは、メキシコ湾の海水温の異常なまでの高温によって小さなハリケーンから、かつて記録された最大で最強のハリケーンの一つにまで成長した。それでもなお、ブッシュ政権は、気候変動の証拠を軽蔑して無視し続けており、京都議定書を破棄する姿勢を取っている。

 ハリケーンが襲う前、政府は、「自由市場的手法」による強制避難命令を発令した。言い換えるならば、人々は避難することを求められたが、避難の手段は用意されなかった。避難手段を持たず、最大の人的犠牲を強いられたのは、労働者階級の最貧層であり、圧倒的にアフリカ系アメリカ人のコミュニティーであった。ハリケーン襲来から数日後でさえ、米国政府は、利用できるバスを徴発し、人々を外に移送するためにそれらを送り込むことを拒否した。街が汚水と化学物質の海に浸かった状況で、米連邦緊急事態管理局(FEMA)の軽蔑に値する責任者であるマイケル・ブラウンは、傲慢にも、最も深刻な被害を受けた人々を批判した。「死者総数は数千人にものぼるであろう。そして、不幸なことではなるが、多くは、事前に発した警告に注意を払わなかった人々の責任である。」(CNN放送 9月1日)

 ブッシュ政権は、イラク戦争の遂行に資源の投入を惜しまず、アメリカの市民からの2000億ドル以上をそれに費やしている。昨年の11月のファルージャの街を完全に破壊するのに出し惜しみをしなかった。しかし、今回の「自然による」大惨事に直面した時に、ブッシュ政権は犯罪的に無責任だった。イラク占領経費のわずか7週間分に相当するブッシュの105億ドルの救援対策は、まったく不十分なものである。赤ん坊や老人を含む人々が食料も水もない状態にあり、死体が通りに横たわり、水に浮かんでいる中で、ブッシュは、貧弱で遅々とした対応しかしなかった。
 
 政府は、石油企業、保険会社、その他の大企業とカジノを救済する準備を進めている。巨大石油企業はまた、この大惨事を自分たちの私腹を肥やす機会に利用している。アメリカの労働者は、この危機の被害者を支持し、すべてを失った人々に対して政府が、短期ならびに長期の支援を実施すること要求しなければならない。




二つの湾岸戦争
−−UFPJ声明−− 2005年9月2日
「The Gulf Wars」
Statement from United for Peace and Justice, Sept. 2, 2005
http://www.unitedforpeace.org/article.php?id=3094


 カトリーナの影響は悲劇的であり、死者を出し、生活を崩壊し、想像を絶する規模の財産の損失をもたらしている。カトリーナは天災だったが、その結果は大部分は回避可能であったのであり、7000マイル離れたもう一つの「湾岸」近くで毎日展開している別の悲劇と並行するものだった。両方の災害は、ブッシュ政権の犯罪行為から生じるているもので、密接に関連している。多くの者が、長期的な政策が ―― 貪欲な開発者が防護用の沖合の島や湿地を破壊することを可能にするために地球温暖化の存在を拒否することによって ―― いかにカトリーナの激しさに寄与したかに関して語ることができる。しかし今回は、もっと直接的な関係がある。

 米連邦緊急事態管理局(FEMA)とブッシュ大統領は、ニューオーリンズの最も貧しい人々に時宜を得た援助を与えることを怠った。彼らは、避難する術を持たなかった。彼らは、腰まである汚水の中や、コンベンション・センター、スーパードームで、既に死んだ人と一緒に、悪臭を放つごみや人の汚物に囲まれて、飲み水も食物も医療もなしで、何日も事実上見捨てられた。

 これは、私たちにイラクを思い出させる。そこでは、封鎖と戦争によりインフラストラクチャーが破壊され、人々を電気も医療も仕事もなしで、うだるような暑さを耐えさせている。両方の災害は予想されていた。多くの研究が、大きなハリケーンがニューオーリンズを氾濫させる可能性を予想しており、また多くの研究が、イラク侵略が何百万もの罪のない人々を酷い目にあわせ、レジスタンスや内戦の可能性をもたらすだろうと予言した。しかしながら、これらの研究は、支配と利益で夢中になっている連邦政府によって無視された。

 ペルシャとアメリカの両方の湾岸で、最も貧しい人々が最も苦しんでいる。どちらでも、有色人種は人種差別主義の政策によって無視され残忍な仕打ちを受けている。この醜さは、毎日、テレビスクリーンから噴出してくる無策の映像イメージに反映されている。必需品を得ようと必死の人々は今、略奪者として犯罪者にされている。ニューオーリンズ警察は、救助作業を止めて、代わりに財産を保護することを命じられ、そして、州兵は「射殺せよ」との命令を受けた。

 ペルシャ湾岸の戦争は、我が国の南部の州で展開されている大災害に直接に強い影響を及ぼしている。治水、堤防の強化、避難、および救援のための予算はずっと不十分なままであり、実質的に縮小された。昨年、ニューオーリンズだけで7100万ドルが、治水のための予算からカットされた。一方で、2000億ドル以上がイラクで乱費された。取り残された人々を救出できる大型ヘリコプターはどこにあるのか。難民を収容し食べさせることができる、大型空調設備のあるテントやインスタント食品 ―― ハリバートンがイラクで非常に高価で提供しているのと同じテントや食べ物はどこにあるのか。なぜ、イラクにいるルイジアナおよびミシシッピ州兵の35〜40%は、切実に必要とされている故郷に帰還をさせずに、死の使命を帯びているのか。

 イラク戦争による中東の石油生産の崩壊と、カトリーナによる米湾岸の精製能力の崩壊は、ガソリン価格の急上昇を余儀なくさせる。これらの不足は、米国の勤労者からさらに大きな利益を強奪する口実として、すでに大手石油会社、パイプライン、精製会社によって利用されている。この搾取の故に、経済は世界的に影響を受け、失業と同時のインフレ、ベトナム戦争中に私たちを罰した「スタグフレーション」の再現をもたらす可能性がある。

 私たちの声が聞かれなければならない。

 ホワイトハウスに電話して、ニューオーリンズ、湾外沿い、難民が連れて行かれるすべての所での、即刻の有効な救済努力を要求してください。ホワイトハウスの電話番号は202-456-1111です。そして、私たち自身の寄与は、次の2つのハリケーン救済特別基金のどちらかで行ってください:

AFL-CIO - http://www.aflcio.org/
NAACP - https://www.naacp.org/disaster/contribute.php