自衛隊によるスパイ・監視活動を許すな!
◎情報保全隊による「情報収集活動」の全容を明らかにせよ
◎違憲・違法行為を即刻やめよ
安倍首相、久間防衛相に抗議の声を集中しよう


[1]イラク派兵反対の市民運動を敵視する自衛隊の違法なスパイ・監視活動

(1)自衛隊による、市民に対する信じがたいスパイ・監視活動が暴露された。防衛相の直轄部隊「情報保全隊」が、自衛隊のイラク派遣に反対する全国の市民運動団体や野党議員の動向、デモ参加者の写真、マスコミの記者の取材内容などを日常的、組織的に収集していたのである。日本共産党が6月6日、「自衛隊関係者」から入手したという166ページにもおよぶ資料で明らかにした。
※資料の全文はhttp://www.jcp.or.jp/seisaku/2007/20070606_shii_jieitai.html(日本共産党HP)に掲載されている。文書は、2003年11月から2004年2月にかけて、陸上自衛隊東北方面情報保全隊と保全隊本部が作成したとされる「情報資料」と「イラク自衛隊派遣に対する国内勢力の反対動向」の2種類、前者には各派遣隊長にあてた東北方面情報保全隊長の「情報資料について」という表紙がつく。

 文書は、イラク反戦活動を中心に全国41都道府県、290を越える団体・個人を対象に、その行動や参加人数、時刻、スピーチの内容まで克明に記録している。週ごとの発生件数のグラフ、「セクト別」「方面・動態別」の集計表も記載された膨大なものである。おそらく暴露されたのは、氷山の一角だろう。自衛隊による系統的で日常的な市民生活への監視活動、スパイ活動が長期にわたって行われているのは間違いない。
 文書に記載されたイラク反戦の市民運動については、「『誰のため、何のためのイラク派遣なのでしょうか』と発言」、「『自衛隊はアメリカに協力するな』のシュプレ」など、集会や街頭演説、デモでの横断幕、プラカードのスローガン、自衛隊駐屯地などへの申し入れ書の内容などを詳細に記録している。街頭でマイク演説する個人を実名で記載したり、顔が特定できる写真を掲載している。また、「発言内容に、あらたに『武器輸出三原則見直し反対』を確認」など系統的な監視を伺わせる記述がある。
 これは単なる情報収集活動ではない。市民運動をP(共産党系)、S(社民党系)、NL(新左翼系)、CV(市民運動系)などと党派分けし、反政府闘争の動向を分析し、危険分子をあぶり出すというような、戦前の特高警察、憲兵の手法を想起させる活動である。シビリアンコントロールを踏みにじり、制服軍人が市民活動を明確に敵視し、牙をむけていることを示している。「国内勢力による隊員(家族等含む)工作」と記しているように、市民運動を得体の知れない工作員のように描きだしていることにも表れている。


(2)それだけではない。保全隊の文書は、以下のように様々な市民団体、個人を監視の標的にしている。
−−映画監督の山田洋次氏らイラク戦争に批判的な文化人や、志葉玲氏、森住卓氏らジャーナリスト。「黄色いハンカチ運動を批判」「人間の盾経験者」などと記載。
−−町議会などでのイラク派兵反対をもとめる意見書や決議の採択に強い警戒感を示している。自衛隊が、地方議会を敵視し、監視の対象とすることが許されるのか。
−−仏教やキリスト教などの宗教団体、高校生の反戦の取り組み、さらには日本国内のイスラム教徒も対象とされている。日本山妙法寺の僧侶による平和デモは実名入りだ。
−−医療費の負担増や年金改悪、消費税増税などに反対する市民運動、国民春闘、文化活動も対象となっている。
−−宮城県王城寺原演習場などでの騒音に対する住民の苦情を「反自衛隊活動」に分類している。
−−しかも成人式会場で配布された反対ビラや来賓の発言、「置きビラを山大キャンパス内で入手」など、保全隊員が勝手に大学キャンパスや成人式会場に入り込みビラを取ってきたり、発言を盗み聞きするなどの活動が行われている。
−−なかでも朝日新聞や東京新聞の記者の取材要請を「反自衛隊活動」としていることは重大である。自衛隊はイラク派遣において、サマワに大本営発表のための記者会見場を設置し、「歓迎される自衛隊」「給水支援が進む」「学校を修理」などの会見内容だけをマスコミに垂れ流す徹底した情報統制体制を敷いた。現場に直接足を運び、生の声を拾おうとする新聞記者は「反自衛隊活動」として排斥されたのである。
全く傲慢と言うべきである。派兵に反対する市民団体だけでなく、自衛隊の活動に疑問をもつ市民、騒音などに苦情を言う周辺住民、事実を伝えるために取材を行うマスコミ、さらには反政府行動一般にまで監視対象を拡大させ、あたかも彼らが「テロリスト」「危険分子」であるかのように動向を探っているのである。
 それはまた将来の「武力攻撃事態」での国民保護法発動時の治安出動にむけた、全国の反戦運動・グループや住民運動、反政府運動・グループの把握、見取り図作成という性格をもつている。


(3)文書を作成したとされる情報保全隊は、陸海空の3自衛隊に置かれ、総員は約900人にのぼる。防衛庁時代の2002年、自衛隊について情報公開を請求した人々のリストをひそかに作り内部で閲覧していたことが発覚し、厳しい批判が起こったことをきっかけに、それまでの「調査隊」を再編・強化してつくられた「自衛隊の機密情報の保護と漏洩の防止」を任務とした組織である。そもそも市民運動の動向を探るなど全くの任務逸脱であり、違法行為である。例外的に、自衛隊に対して秘密を探知しようとする、基地施設などに対する襲撃、業務に対する妨害、職員を不法な目的に利用するための行動等の恐れがある場合などの情報収集が認められているが、今回の調査対象としたのは市民の平和的な反戦行動、市民活動一般である。絶対に許されない。
※情報保全隊の本来任務は以下を参照
http://www.mod.go.jp/j/info/hyouka/13/jizen/youshi/11.pdf


[2]シビリアンコントロールを破壊し、閣議決定も国会承認も無視して暴走

(1)この報告が作られた2003年11月から2004年2月とはどういう時期か。すでにイラク特措法は2003年7月に成立しているものの、イラク派遣については基本計画も実施要領も閣議決定されていない。基本計画の閣議決定は12月9日、実施要項の決定は12月19日である。またイラク特措法に基づいて事後承認案が国会で成立するのは2004年2月9日である。つまり自衛隊は、文民統制の基本である内閣や国会における「派遣決定」が出る前から、派遣に反対する運動を一方的に敵視しているのである。文書が書かれた時点では、自衛隊がイラクに派遣されるのかどうかは白紙の段階であり、自衛隊も自衛隊員も、内閣や国会の政治決定に従うという基本姿勢が貫徹されなければならないはずである。まだどちらに転ぶかもわからない段階で、派兵を所与のものとし、反対運動を敵視・排撃することなど許されるはずがない。
 これに関しては、04年1月に福島県郡山市で行われた自衛隊員OBの新年会で、来賓として招かれた民主党の増子輝彦衆院議員が「自衛隊のイラク派遣は憲法違反であり、派遣に反対」と述べた事に対して、保全隊は「反自衛隊」としたうえで、「イラク派遣を誹謗」と批判した記述がある。
 上で述べたように、国会ではイラク派兵の承認を巡って激しい論議が繰り広げられており、この時点でイラク派兵承認案は成立していなかった。ところが自衛隊保全隊は、明確に小泉と自民党の対米協力路線、イラク戦争への加担と派兵路線の立場に立ち、反対を表明した野党議員を排撃の対象と捉えた。これは議会制民主主義に対する制服組の蹂躙である。極めて危険な動きである。


(2)2004年の2月27日、自衛隊派兵に反対する市民団体「立川自衛隊監視テント村」の市民3人が住居侵入で警視庁に逮捕されるという事件が起こった。3人は2004年1月17日(それはまさに、陸上自衛隊の先遣隊がイラクへ出発した日の翌日であった)の昼間、東京都立川市の防衛庁官舎の郵便受けにビラを入れて回った。ビラには「自衛官・ご家族の皆さんへ 自衛隊のイラク派兵反対!いっしょに考え、反対の声をあげよう!」と書かれていた。
 この事件は、保全隊の報告でも事実が記載されている。私たちは公安委員会によって執拗に立件されたこの事件が、自衛隊の情報収集活動と無縁であるとは考えられない。久間防衛相は答弁で、「当時は(イラク派遣への)反対運動もあり、隊員や家族を安心させることが目的だった」と述べている。「隊員や家族を安心させることが目的」とはどういうことなのか。自衛隊員や家族が不快に感じないように、自衛隊官舎へのビラ配りのような反対運動を弾圧するために情報収集する、という意味ではないのか。この時期、自衛隊員の中でも派遣に対して動揺が広がっていたとも言われる。保全隊の活動は、一般的な監視活動、スパイ活動ではなく、公安委員会や警察と一体となって弾圧体制を敷くものではなかったのか。
市民がビラを配っただけで逮捕される「事件」相次ぐ――イラク派兵と軌を一にした言論弾圧、反対運動への不当弾圧に抗議する(署名事務局)

(3)また以下の事実もある。2004年1月6日、第55回札幌雪まつり(2月5〜11日)で雪像製作などを行う陸上自衛隊第11師団の雪まつり協力団の編成完結式(札幌市南区の真駒内駐屯地)において、竹田治朗同師団長が、自衛隊のイラク派遣に対する反対運動に触れ「度が過ぎたデモや街宣活動があって協力する環境にならない場合は撤収も含めて検討する」と語り、札幌市に、反対運動を封じ込めるように恫喝を加えたという事件である。札幌市はこれを受けて、都市公園条例をたてに、反対派の街頭宣伝などがあれば退去を指導する方針を出した。そして、7日までに、雪まつりの会場に初めて監視カメラを設置するなど厳重な警戒態勢で臨むことを決めた。
 この事件は、制服組が露骨に反対運動への弾圧を公言し、地方自治体に対策をとらせた事例であった。陸自派遣の先遣隊となる北海道における反対運動は最大の関心事であったはずだ。これも、情報保全隊の活動と無縁と言えるのか。
よそ事ではない。自衛隊イラク派兵師団のある北海道で今何が起こっているのか?−−軍隊が発言力を増し表舞台に出てくる恐ろしさ−−(署名事務局)

 今回明らかになったことは、いわば軍隊が軍隊独自の論理に基づいて国民に対して振る舞いはじめた、その反対者に対して諜報活動を行い始めたと言うことである。それは突き詰めれば、軍隊が政治的力を持ち、国民支配にさえ道を開くということである。


[3]全容究明が絶対必要 安倍首相、久間防衛相に抗議の声を集中しよう

(1)今回の自衛隊の行為は全くの違法、違憲である。自衛隊に、市民活動を監視しスパイを行う権利は無い。そのような行動を正当化する条文は自衛隊法にはない。「情報保全隊」の任務規定にもない。それは、憲法で保障された基本的人権、民主主義に対する冒涜であり、集会・結社の自由、言論・出版の自由など表現の自由を定めた憲法第21条への重大な脅威、重大な違反・侵害である。
※「陸上自衛隊情報保全隊に関する訓令第3条」に基づくとの奇怪な見解が出ている。しかし、この条項「情報保全隊は、陸上幕僚監部、陸上幕僚長の監督を受ける部隊及び機関並びに別に定めるところにより支援する施設等機関等の情報保全業務のために必要な資料及び情報の収集整理及び配布を行うことを任務とする。」は、国民のスパイ・監視活動のための規定なのか。まったくでたらめな議論だ。「情報保全のために必要な情報収集」について、2002年4月の安全保障委員会で当時の中谷国務大臣が「あらかじめ防衛秘密を取り扱う者として指定をした関係者のみに限定するわけでございます。」として、民間人一般を対象としないことを明確にしている。訓令にも政府答弁にも違反しているのだ。こんな拡大解釈が可能ならば、一般市民に対する盗聴でも尾行でもなんでも許されてしまうだろう。 http://jda-clearing.jda.go.jp/kunrei_data/f_fd/2002/fx20030324_00007_000.html

 久間防衛相は、7日の参院外交防衛委員会で、集会やデモの情報収集を認めた上で「調べる必要はない。保存文書ではないから調べようがない」と開き直り、調査を拒否した。また守屋防衛事務次官は「手の内をさらすことになるので、コメントするのは適切ではない」と平然と語っている。
 だが、久間は、「わからない」「調べようがない」と言いながら、「(自衛隊の活動に関し)市民団体などの動きが国民全体の中で非常に多くなれば止めようとか、少なければ堂々とやれるとか、その判断材料になる。世間の動きを正確に把握することは悪いことではない。皆の動きを情報収集するのを悪いと思うこと自体がおかしい」とあたかも中立的な活動であるかのように正当化した。
 「世間の動きを正確に把握する」のは、自衛隊の仕事なのか。スパイ活動をしなければわからないのか。自衛隊にそんな権利は無いはずである。自衛隊が勝手に世論の動向を調査し、自らの行動を決定することが合法とされればどうなるのか。軍は自らの意志を持って暴走することになるだろう。世論の動向を知るのは政治の仕事である。政府の仕事である。しかも、デモ参加者などの実名まで明記した文書は、一般的な世論動向の調査であるはずがない。明確に弾圧を意図しているとしか考えられない。
 そもそも、圧倒的多数の国民がイラク派遣に反対している下で、「世論の方が誤っている」と大見得を切って派兵を強行したのは小泉首相ではなかったか。

 
(2)今回の事件はシビリアンコントロールの極めて危険な破壊行為である。そして私たちは今回の事件を、小泉政権の時代から顕著になり、安倍政権でさらにエスカレートしてきた軍国主義化・反動化の大きな流れの中で捉えるべきである。憲法の平和主義を公然と蹂躙した戦後初の戦場への海外派兵=イラク派兵、有事法制の制定、国民を戦争に動員するための「国民保護法」の制定、ミサイル防衛という新しい軍拡、武器輸出三原則の撤廃の動きと軍需産業の台頭、そして直近の防衛省への昇格、集団自衛権行使容認のための様々な画策、さらに安倍がやりたくてやりたくてしようのない憲法改悪、等々。これら一連の軍国主義のエスカレートの中で、イージス艦を独断で出航させるなど、文民統制を空洞化し投げ捨てる極めて危険な動きが強まってきていた。「国民保護法」の訓練、地震・災害の訓練と称して、意識的に装甲車両や戦争のための装備を街頭に出したり、自衛隊員の隊列を市民に公然と見せて威圧する動きなどが頻発していた。今回の事件も、軍事力の威力を国民、市民に向けるとんでもない傾向−−軍による公安活動−−である。
 ごく最近の沖縄で強行されたことも忘れてはならない。安倍は5月半ば、海上自衛隊の艦船を辺野古基地建設の「事前調査」強行に動員するという前代未聞の暴挙を行ったのだ。全く法的根拠のない、軍の総司令官=安倍の暴走であった。これについても政府は「防衛秘密」などとして自衛隊派遣の詳しい事実を明らかにしていない。
軍艦を動員した辺野古基地建設強行糾弾!(署名事務局)

 今回の事件は、安倍政権の危険性、憲法改悪の危険性、自衛隊を自衛軍とする危険を改めて明らかにしている。政府の政治決定も、国会の承認決議も採択される前から、自衛隊は、イラク派兵という戦場への海外派兵を自らの既定の任務として位置づけ、その実現のためにスパイ・監視活動を始めていたのである。自衛隊は「自衛のためのもの」でも、「国民のためのもの」でもない。アメリカと日本のグローバル独占資本の海外権益確保のための、侵略のための自衛隊である。
 マスコミやジャーナリストの中には、今回の事件を軽視する意見が出ている。「公安のまねごとにすぎない」「気持ちが悪いが・・・」「中身はたいしたことはない」等々。しかし、そうした捉え方自体、政府・自衛隊を増長させる非常に危険な発想である。危険は芽の内に摘むべきだ。
 今回の事件を絶対にうやむやにさせてはならない。政府・防衛省・自衛隊当局の開き直りを許してはならない。文書がどのような経過で、誰が、何のために作ったのか。これ以外に文書はないのか。事態の全容を明らかにさせなければならない。東北方面情報保全隊長が各派遣隊長にあてた文書である。保全隊の直属である防衛庁長官(当時)は石破であった。関係者、責任者を国会に招致し徹底して究明されなければならない。
 まず声をあげよう。軍部の暴走を封じ込めるための文民統制とは、まさにこうした危険な行為が暴かれれば、即刻それに批判を集中させるということである。安倍首相と久間防衛相に抗議と真相究明の要求を集中しよう。

2007年6月9日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局


抗議先

■安倍晋三首相 内閣官房内閣広報室
 〒100-8968 東京都千代田区永田町1-6-1
 ご意見募集 http://www.kantei.go.jp/jp/forms/goiken.html  TEL 03-3581-0101  FAX03-3581-3883


■久間章生防衛大臣
 〒100-8982東京都千代田区永田町2-1-2 衆議院第二議員会館708号室 
メールinfo@f-kyuma.com  TEL03-3508-7458 FAX03-3502-5058