[シリーズ米軍の危機:その5 新兵募集危機と徴兵制復活の脅威]
米陸軍を襲う新兵募集危機――若者が中心となった新兵募集反対運動、徴兵制復活反対運動

はじめに
 これまで私たちは、シリーズ米軍の危機:その1〜3において、イラク占領支配の泥沼化の中で、とりわけ米軍事力の根幹をなす地上兵力が過小兵力とベトナム戦争以来の激しい市街戦の下で肉体的・精神的ダメージ、物質的・財政的ダメージを受けて継戦能力を維持できなくなっている実態、イラクに従軍した兵士たちの間に広範に見られるPTSDとその影響の大きさ、イラク帰還兵問題がこれから本格的に顕在化しベトナム戦争の再来のごとく米国社会を大きく揺さぶることになるであろうこと――これらの諸側面を指摘した。これらの諸問題は、現にイラクやアフガンの現地で倒れ傷ついた米軍兵士の高い損耗率の問題、いわば「出口」の問題であった。今回のシリーズ5では、「入口」の問題、米軍に兵士を供給する人材供給パイプラインの入口に生じている綻び――新兵募集の危機――に焦点を当てたい。

 米軍とりわけ陸軍の新兵募集は、ベトナム戦争以後経験したことのない深刻な事態に直面している。今年2月度における陸軍の新兵募集は、陸軍現役部隊では−27.5%の未達となった。海兵隊も同様に目標が達成できなかった。陸軍州兵部隊(Army National Guard)は陸軍現役部隊を越える未達となった。「志願制」を基本とする米軍への人材供給が、イラク占領支配の泥沼化を契機として一部において滞る事態が生じているのである。このような新兵募集に欠員が出るといった問題は、今年2月に限った傾向ではない。年間の陸軍の新兵充足率も大きく未達となる見通しとなっている。

 現段階における新兵募集の危機は、イラク占領支配の中心を担う陸軍と海兵隊、特に陸軍に集中している。その理由は明白である。陸軍兵士の犠牲者数は拡大し、負傷者は1万を大きく越えている。若者とその家族は、イラクに派兵されることに怯え、陸軍に入隊することに慎重になっているのである。また陸軍予備役・州兵は、従来は戦場に派兵されることはごく希な"パートタイム兵士"であった。しかし、陸軍州兵部隊が陸軍現役部隊とともに長期間にわたってイラクやアフガンといった最も厳しい戦場へ投入され、多大な犠牲者を出している現実を目の当たりにした米国市民は、陸軍予備役・州兵への登録を避けるようになっている。それとは対照的に、海軍と空軍においては採用に当たっての問題は生じていない。言うまでもないことである。海軍・空軍は、開戦時を除き、イラクとアフガニスタンの占領体制において小さな部分を占めるに過ぎないからである。

 米軍の新兵募集危機は、兵士が戦場に赴くリスクの側面だけから派生しているのではない。ここが私たち反戦運動にとって最も重要なことなのだが、軍の勧誘担当官(リクルーター)と反戦運動が、まさに学校や地域でこの勧誘活動を巡ってせめぎ合いをしており、イラク派兵を巡る闘いの集中点の一つとなっているのである。戦争の大義への疑念――大量破壊兵器問題がでっち上げであったこと、石油と軍産複合体のための戦争であったこと――、そしてアブグレイブ・スキャンダルに代表される米軍の占領支配への幻滅、これらの要因もまた、米国市民とりわけ若者が兵士として「国を守る」ことへの熱意を失わせているのである。その意味では、募集危機は反戦運動の成果でもある。

 現段階では、新兵募集危機は陸軍に集中している。米軍の全体を見回したならば、全軍の新兵募集が目標を大きく下回るような事態が常態化し、米軍が瓦解するようなシナリオは現実離れしたものである。ラムズフェルドをはじめ米国の戦争指導者たちの表向きの発言は、新兵募集危機は一時的なものとする楽観論である。しかし、本音はその逆である。金銭的インセンティブ(ボーナス増額、傷痍金、死亡手当の増額等々)によって兵士を部隊にとどめようとする方策をわざわざ打ち出し、またリクルーター(勧誘担当官)を大幅に増員するなど、なりふり構わず、次々と対策を打ち出している。軍事問題専門家の見通しも、非常に悲観的である。とりわけ来年度FY2006は、これまでにない募集危機が到来するだろうと予測している。後ほど詳細に検証していくが、新兵供給の人材プールに大きな地殻変動が生じていることが悲観論の根拠である。

 このまま新兵募集危機が進むならば「志願制」を維持できなくなり、徴兵制が復活するのではないか。このような疑惑が若者及び米国社会の中に浮上している。ブッシュ大統領、ラムズフェルド国防長官たちは、現在は徴兵制の導入に反対を唱えており、すぐに徴兵制が導入される状況ではない。しかし、ウソとでっち上げで平気でイラクという主権国家をつぶしたやつらだ。どんなウソでもつくはずだ。「赤紙一枚」で戦場に駆り出されるかもしれない貧しい若者、黒人、マイノリティーたちはブッシュやラムズフェルドへの警戒感を強めている。
 「徴兵制反対」が反戦運動の最重要課題の一つに浮上してきた。また、標的になっている若者たち、中でも高校生たちが、新兵募集反対を反戦運動の焦点に据え、学校や地域で軍の募集活動強化に対抗して立ち上がり始めている。
 米軍の新兵募集危機はまだ始まったばかりである。新兵募集危機の深刻化が一直線に米軍全体の兵力維持困難につながる可能性は今のところない。しかしすでに泥沼化しているイラクの治安維持と占領体制を支える最前線の兵力に支障を来す可能性は高まっている。長引くイラク戦争・占領は紆余曲折を経過しながらも、世界最大最強の米帝国主義の軍隊の危機をますます深刻化させずにはおかないだろう。

 以下、下記の順で詳しく検討していくことにする。末尾には関連する3本の紹介記事を翻訳して添付した。
@ 募集危機の実態とその背景
A 軍の強引な勧誘手法とそれに対して巻き起こっている批判
B 徴兵制復活の脅威と若者たちの危機感
C 新兵募集に焦点を当てた反戦平和運動の動向
 を見ていきたい。

2005年4月21日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局



T.札束攻勢も不発。顕在化する陸軍の新兵募集危機

(1)新兵募集危機の実態。ベトナム戦争以来初めての異例の事態
 今年3月初旬、米陸軍は2月度の新兵補充率が(月間)目標の71%にとどまるとの見通しを発表した。各マスコミはこの事実を大きく報道した。ベトナム戦争以来、これほどまでに大きく落ち込んだのは初めてのことであった。3月末、国防総省から、新兵募集に関する2月度の正式の数値が発表された。陸軍現役部隊の新兵募集は目標の72.5%であった。また2月だけではなく、3月、4月と、3ヶ月連続で目標値を下回る見通しも発表された。このまま推移していくならば、FY2005(9月末まで)の目標達成は不可能であること、おそらくは陸軍現役、予備役部隊では−10%前後、州兵では−20%前後の未達になるだろうと見られている。海兵隊でも10年ぶりに、今年1月の新兵募集数が目標を下回るという事態が生じた。国防総省上層部、とりわけ陸軍上層部は新兵が集まらない状況に危機感を抱き始めている。各マスコミは、「陸軍の募集目標は悲観視される」、「陸軍の新兵募集危機」等の見出しを付け、その衝撃の大きさを伝えている。とりわけ陸軍州兵部隊の未達率はきわめて高く、月間、中間段階においても、低位に推移している。 

 陸軍の2月度の目標と実績
            現役部隊     目標 7050人   不足 1936人   −27.5%
            予備役部隊    目標 1320人   不足  330人   −25.0%
            州兵部隊     目標  ---     不足  ---

 陸軍のFY2005目標の2月までの中間結果
            現役部隊     目標 2万9185人 不足 1823人   −6.2%
            予備役       目標  6230人   不足  643人   −10.3%
            州兵        目標 1万6835人 不足 4014人   −24.5%
                         (ただし州兵部隊の数値は1月までのもので計算)

 陸軍の指導者層は危機感を率直に語っている。「非常に率直に言って数カ所において、私たちの新兵募集の貯水池は弱体化している」、「私たちは、次のように聞いている。『そうだね、イラクにおける事態がどうなるのかを見守ろう』と」。そしてFY2005については、困難ではあるが目標をなんとかクリアできるであろうと述べた上で、「私たちにとっての、それが本当に問題になる年次は、来る2006年である」(翻訳記事1参照)との見通しを語っている。

 過去数年間と比較してみよう。FY2003、FY2004ともに、陸軍州兵部隊を除く現役部隊、予備役部隊は順調に目標をクリアしている(表1参照)。FY2003は、9・11直後の愛国的雰囲気の中で陸軍入隊者が増えたという特殊事情があった他、第一期ブッシュ政権下による新兵勧誘活動の強化による効果が大きかったと見られる。法律によって、勧誘担当官が高校に自由に出入りでき、名簿を合法的に入手し、強引な勧誘活動を繰り広げる手法が2001年から認可されたのである。学校という教育機関が軍の出先機関になったのである。

 しかし、FY2004年から明らかにその潮目は変化した。その理由は明白である。イラク戦争である。「これほど多くの志願制の兵士たちが、多方面に、長期間にわたって戦場に派遣されるようなことはなかった」。しかも、1991年の湾岸戦争以来、全兵力が30万人も削減され、28の現役と予備役の師団数が18にまで削減された下で起こったのである。新兵の募集難をめぐる矛盾は一気に表面化した。



 さらにFY2005は、部隊を拡大する計画に着手した一年目であった(表2参照)。陸軍は2009年までに現役兵士を48万2000人から51万2000人へと3万人増、海外派兵用の15個の新たな戦闘旅団を編成しようとしている。イラク占領支配の泥沼化といったネガティブな環境下での軍の増強計画。その計画の実現が容易ではないことが、図らずも一年目から明らかになったのである。


 陸軍以外も同じように募集に苦闘しているが、陸軍州兵ほどではない。海兵隊は、2月と3月の基礎訓練キャンプに募集者を送り込む目標数を確保した。しかし、この10年間で初めて、月間(2月度)の新兵募集の目標を達成できなかった。


(2)札束攻勢でなりふり構わぬ新兵募集。それでも募集危機が発生

 陸軍は必死になって募集・勧誘活動を強化している。強引な手法で、あるいはまだ社会経験の乏しい若者たちを騙して、また時には姑息な手段を用いて、新兵を軍隊に送り込もうとしている。例えば、入隊契約のサインから訓練所送りにする期間を昨年の半分――すなわちサインしたら出来るだけ早く兵士に仕立て歩留まりを向上させようとした――に削減した。入隊希望者に熟慮させることなく訓練所に送り、拒否できないようにしようというのである。同時に、勧誘担当官の数を大きく増やした。昨年度に従事していた5201人にさらに800人以上の現役の勧誘担当官が加わっている。春期こそ勧誘の好機とばかりに、大量の勧誘担当官を学校に送り込もうとしているのである。

 それだけではない。米軍兵力を維持するために、州兵、予備役に対する入隊時特別金の拡充を進めている。マスコミからは、"史上最大のボーナス作戦"と揶揄される札束作戦を展開した。最も兵員が逼迫している陸軍は、ボーナス等の拠出金として、過去最高の総額4億ドルを投入する計画である。また州兵、予備役への新兵募集を進めるために、1万5000ドルもの特別手当を出す措置などもすでに取られている。その他に国防総省は、FY2006には、戦死者への死亡弔慰金や生命保険受取金を大幅に増額する予定である。現在の弔慰金の1万2420ドルから10万ドルに大幅増額し、生命保険金も現行の25万ドルからすべての兵役対象に40万ドルが認められる予定である。また戦死の場合には、政府が掛けた保険でさらに15万ドルが特別に追加される。このように国防総省、陸軍は、なりふり構わぬ金銭的インセンティブを利用し、現状戦力の維持に必死になっている。なりふり構わぬ勧誘攻勢について5月21日のワシントンポスト(電子版)は次のように伝えている。

「新兵がサインするに至るまでに要する平均費用は、勧誘担当官の増員とさらなる広告、兵役服務期間におけるボーナス増などの結果、FY2001年の1万5265ドルからFY2004年の1万5967ドルへと上昇している。1月、陸軍は、推定1億ドルも費やして"leo Burnett USA"(会社名)と6ヶ月の広告契約を交わしたことを発表した。陸軍は、大学進学を望む者、優先順位の高い仕事へサインした者、訓練に直ちに入ることに同意した者への特別の金銭的インセンティブとともに、4年間の勤務に対して2万ドル近くのボーナスを支給している。陸軍は現役兵士をとどめるために、さらに支出を増やしている。再入隊時のボーナスを受け取る現役兵士は2003年には39%であったが、今では50%にもなっている。」(※1)

※1 「Army recruiting goals in jeopardy」2005/5/ 21 Washington Post(翻訳記事1)
http://www.independent-media.tv/item.cfm?fmedia_id=10432&fcategory_desc=Under%20Reported
※2 「イラク駐留米軍ボーナスアップ 異例の厚遇 民間引き抜きに対抗」産経新聞2005/3/1
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050301-00000012-san-int
※ 「Army, reserves expected to meet recruiting goals」2004/9/27
http://www.usatoday.com/news/nation/2004-09-27-army-recruiting_x.htm
※「Army Recruiting Crisis? 」2005/3/14
http://usmilitary.about.com/b/a/153533.htm



U.新兵募集危機の矛盾の集中点――ますます減少する州兵志願者と州兵依存を高めるイラク駐留米軍のローテーション体制の危機。

 新兵募集危機はどのようなインパクトを及ぼすのであろうか。まず考慮しなければならない点は、軍組織の維持との関連である。陸軍は現在、現役部隊約50万人、予備役約21万人、州兵部隊約34万人、総計約100万人から構成されている。陸軍現役部隊のみを見るならば、FY2005における未達数はおよそ5000人弱と想定されている。その比は100対1。この数値を見る限りでは、陸軍の組織と活動の維持において大きなインパクトはないと言える。

 しかし、表3からも明らかなように、最前線に立つ現役部隊は21歳までの若者が半数以上を占めている。入隊した下級兵士(士官となって長期に渡って残るのは大卒の兵士である)は、2〜4年間で次々と退役するためである。若者の出入りの激しい、新陳代謝の激しい組織、それが陸軍である。新兵が集まらなければ、たちどころにその減少幅が戦闘部隊の構成に影響を及ぼすことになる。入隊した新兵は訓練を受け、各地に派兵される部隊に「分配」(軍隊用語)される。部隊に十分な数の新兵が補充されないといった事態も起こりうるのである。そして目下新兵を最も必要としているのがイラクなのである。

 「派兵される部隊に対して最も優先的に満たさなければならない事柄は、海外に出る前に十分に定員を満たすことである」(第101空挺旅団参謀)。新兵募集危機が表面化するたびに、徴兵制の復活が論争として浮上するのは、軍隊のこのような構造もまた深く関わっている。また「陸軍はより経験豊富な兵士によって組織が維持することができるが、若者が新兵募集にサインをしなければ、その兵力は老化し始める」。陸軍現役部隊では、予兆が見られるとはいえ、そこまでの深刻な事態となっていない。しかし、現役部隊を補填する形で戦地に送りこまれた予備役部隊、州兵部隊は、本国の兵力が枯渇に近い状態にあり、帰国するにできない状態となっている。


 新兵募集問題について現段階において戦争指導者層が抱いている危惧は、@イラク駐留米軍のローテーション体制の危機、A州兵部隊の兵員の欠乏、米国が維持してきた州兵制度の崩壊の危機、B中長期にわたって新兵募集難が続くことになるかもしれない世界最強の軍隊を構成する兵員調達源の変化、黒人新兵の急減、に集約される。しかしそれらの問題は、米軍の根本問題の一つ、「貧者が富者のために戦う軍隊」といった根本矛盾を表面化させることになるであろう。以下では、それぞれの点について詳しく検証していきたい。

(1) インパクト1:過酷な兵士の使い回し。イラク駐留米軍のローテーション体制の危機

 イラクにおけるベトナム戦争以来の激しい市街戦やゲリラ戦が米軍の限界を一挙に顕在化させた。過剰展開と過小兵力、ますます増える戦死者数、負傷者数と重傷者の比率の異常な高さ、米兵士が被っている精神的傷害とPTSDの深刻さ、逃亡兵の多さ、招集命令の拒否、現役兵士の軍当局への怒りの爆発、現役兵士・退役兵士などのイラク駐留軍撤退運動への参加等々−−イラク駐留米軍はオーバーストレッチ(過剰展開)の状態に陥り、イラク派兵軍の補充に行き詰まっている。米軍に対するイラク人民の粘り強い武装抵抗闘争によって侵略軍である米軍自身が極めて深刻な損害を被っていることが表面化しているのである。

 このようにイラク駐留米軍は予想外の苦戦を強いられる中で、現役兵士を何度も使い回しする過酷なローテーション体制を採用せざるを得なくなっている。しかし兵士は生身の体を酷使しているのである。何度もイラク派遣を命令されると堪忍袋の緒も切れる。2度目、3度目の派遣が問題になっている。これまでは、正規軍現役兵士の酷使を、州兵・予備役兵士の酷使で代替してきた。しかしそれも限界に来ている。そんなギリギリの状況の下で、新兵募集が大幅に減少すればどうなるか。
 イラクにおける米軍の「過剰展開」と兵力欠乏の表面化は、陸軍現役部隊の兵員不足とそれを補う予備役・州兵部隊の不足が絡み合う形で展開している。募集危機は、とりわけ予備役・州兵の依存度を高めているイラクのローテーション体制を根底から動揺させている。イラクにおける米軍の泥沼化と苦戦が新兵募集難を一気に表面化させ、若い元気な新兵供給が困難になっている。州兵へもまた志願しなくなっている。イラクのローテーションはますます行き詰まる――このような悪循環に陥り始めているのである。


陸軍の海外派兵の劇的な増加を示すグラフ
http://www.comw.org/pda/fulltext/0410armystress.pdf
 現在、米軍の規模は、ベトナム戦争時どころか、湾岸戦争時と比べても大きく縮小している。にもかかわらず過剰任務が押し付けられているために、"overstretch" "overextention"、つまり「伸び切り」「過剰展開」と呼ばれる独特の兵力不足=兵力酷使問題が生じているのである。このような状況に直面したブッシュ政権と軍部は、地上部隊の拡大に舵を切った。陸軍は2009年までに現役兵士を48万2000人から51万2000人へと3万人増とし、海外派兵用に15個の新たな戦闘旅団を編成しようとしている。そしてFY2005の新兵募集の目標は、FY2004の7万7000人よりも3000人多い8万人に設定されたのである。イラク戦争と占領支配の泥沼化によって勧誘がより難しくなっているにもかかわらず、さらに高いハードルが設定されているのである。しかし、部隊拡大計画の1年目から早くもその破綻が明らかになりつつある。陸軍最高司令官のピータ・シュメーカー将軍は2月9日の下院歳出小委員会において「仮に30万本の木を刈り取ろうとすると、たしかに素早く実行することはできる。しかし今は、3万本を育てなければならないのだ」と語り、それが困難なことを率直に表明せざるを得なかった。陸軍は拡大どころか、縮小することを心配しなければならなくなっているのだ。

 どのようにしてイラクから撤退するのか。米軍の「過剰展開」を緩和するためには、イラクから引き揚げる以外に選択肢はない。しかし、混迷を深めるイラク情勢は、米軍が撤退することをますます困難にしている。このままズルズルと長期にわたり大軍をイラクに張り付けなければならない事態が続くならば、新兵募集危機とローテーション危機の両方がますます深刻化し、自らがイラク駐留米軍を撤退させざるを得ない状況に追い込まれるだろう。


(2)インパクト2:イラク・ローテーション体制の危機が引き起こす州兵制度の動揺と崩壊の危機

ケル・ムーアへ』
図1 州兵部隊の充足率の変化
 イラクのローテーションはますます州兵に依存しつつある。その州兵が問題の中心に浮上している。陸軍の新兵募集危機の中でとりわけ深刻なのが州兵部隊だからである。右の図1からも明らかなように、陸軍州兵の新兵充足率はFY2003以後、急速に悪化している。一昨年、昨年の充足率は88%前後にとどまっている。
 このような深刻な充足率低下を受けて米陸軍は3月21日、予備役と州兵の初回応募年齢の上限を、現行の34歳から39歳に引き上げることを発表した。米軍の危機感を反映した対策である。しかしこんなことをすれば、ますます州兵の志願者は減少するだろう。イラク・ローテーション体制の危機が州兵依存を高め、それが更に州兵募集の危機を高めているのである。

 FY2005の目標数は63000人に設定されている。FY2004の欠員を補うことも含まれるが、2月度にはその計画の破綻が早々と明らかになったのである。すでに見たように、10月以降の4ヶ月間で新たに12821人の入隊者を獲得したが、この数値は目標の−24%であった。

 陸軍州兵の深刻な募集危機は、陸軍が抱える募集難のツケが州兵部隊に集中した結果でもあった。イラク戦争とその後の占領支配の泥沼化による「米軍の過剰展開」がキーワードである。この問題を軸として、州兵の募集危機は展開している。

@  陸軍現役の戦線(その最たるイラク戦線)を維持するために、現役兵士の残留率の向上が図られた。その結果、州兵部隊への兵士供給の流れ(現役→退役→州兵)の一つが塞がった(新規に州兵部隊に入隊するのではなく、退役軍人を受け入れる流れ)。「現役陸軍の高い残留率は、すでに問題が生じている陸軍州兵と予備役兵の流れの先細りとなって現れている」(※翻訳記事1)
A  イラク駐留軍15万人の中に占める州兵と予備役の部隊の割合は約3分の1である。輸送、後方支援を主要に担う州兵・予備役であるが、イラクでは最前線との区別はない。アフガンとイラクで203人の州兵が犠牲となった。さらに何倍もの負傷者が出ている。米国の市民は、かつてならパートタイム軍務であった州兵登録を、小遣い稼ぎあるいは大学奨学金目当ての手っ取り早い手段、およそ危険性のないものと、もはや見なしていないのである。(※翻訳記事3)


写真1 「二週間なんてくそ食らえ」と書かれた米軍車両
 泥沼化するイラク占領支配は、これまでになかった州兵部隊の酷使といった状況を生み出し、州兵制度そのもののあり方を変えた。前線維持のための不可欠な兵力となったのである。従来、現役兵士、米国市民は、さほどの生命の危険性、市民生活を犠牲にするといった感覚もなく州兵に登録した。今や州兵は、イラクにおける18ヶ月にものぼる作戦行動に招集されているのである。現役兵士は州兵として再び戦場に送り込まれることを恐れている。陸軍州兵たちが乗る米軍車両ハンビーに書かれた落書き「二週間なんてくそくらえ!」(右写真参照:フロントガラスにそのように書かれている!)は、まさに州兵部隊の活動の変遷と現役部隊と変わらぬ役割を押しつけられことへの怒りである。

 勧誘担当官の常套文句、"一月間に一回の週末、一年間に二週間の訓練"、このような典型的な平和時の仕事、魅力的な手当て、奨学金をエサにするだけでは、もはや新兵を集めることが出来なくなった。全国4100人の陸軍州兵勧誘担当官は、ベトナム戦争以来の、気力を失うような困難に直面している。米国州兵司令官スティーブ・ブラム准将は、2700人の現存要員にさらに1400人の勧誘担当官を投入した。なんと50%以上の増員体制を取ろうとしているのである。こんな増員は、完全志願制の軍隊の歴史上、初めてであり最大のものである。


(3)インパクト3:陸軍新兵に占める黒人の割合が急減


図2 陸軍現役部隊に占めるアフリカ系アメリカ人の割合
 新兵募集の危機の兆候は、数年前から現れていた。その顕著な現れが、黒人、つまりアフリカ系アメリカ人の"軍離れ"である。アフリカ系アメリカ人の"軍離れ"こそが、今生じている新兵募集危機の底流にあると言っても過言ではないだろう。右の図2は、FY2000以後の黒人の陸軍入隊比率を示したものである。FY2000の陸軍新兵に占める割合は23.5%であったが、それ以降、この数値は14%以下まで急激に落ち込んでいる。FY2000とFY2004年における陸軍新兵に占めるアフリカ系アメリカ人の減少数は7000人を超えている。FY2005の未達予想人数を越える減少数なのである。

 アフリカ系アメリカ人は全陸軍の約1/4を構成している。米国社会における人種構成からすると、その割合は非常に高い(アフリカ系アメリカ人はおおよそ12%を占めるに過ぎない)。経済的困難な状況から抜け出すために、若き彼らが入隊していることはまぎれもない事実である。しかし近年、軍から、とりわけ陸軍からアフリカ系アメリカ人が離れていっているのである。これが、顕在化しつつある募集危機の最大要因なのである。

 陸軍によって昨年の10月に行われた新兵募集に関する調査結果は、「多くのアフリカ系アメリカ人が、彼らが支持しない大義のために闘わなければならないことを認識している」ことを明らかにした(翻訳記事2)。大義なき戦争、石油のための戦争、ブッシュ政権の取り巻きたちによる権益を守るためのイラク侵略に対するマイノリティーであるアフリカ系アメリカ人の不支持、反発、怒りが、このような数値となって現れているのである。今現在進行している募集危機は、まさにイラク戦争政策の行き詰まりの結果であり、ブッシュ政権の戦争政策への、アフリカ系アメリカ人、マイノリティーの無言の抗議である。このような傾向について、専門家は次のように冷静に分析している。「・・・その主因がイラク戦争にあると考えている。イラク戦争は、白人社会以上に黒人社会において関心を集めているのである。・・・白人は侵略を強く支持している。黒人はそうではない。入隊する白人数が増えているが、一方では入隊する黒人数は減少していることに現れている」(翻訳記事2)。

 では、どのようにしてアフリカ系アメリカ人の減少分が補われているのか。陸軍の新兵入隊者数は、FY2004まではなんとか維持されてきた。当然のこと、他の人種の増加分がその減少を補ったのである。人種別に見た陸軍現役兵士の構成は次のように変化した。ヒスパニック系アメリカ人は、2000年の10.4%から2004年には13%と増加した。白人系アメリカ人は、2000年の61%から2004年には65%へと増加している。アジアあるいは太平洋諸島に属する人種は2000年には1%以下だったのが、2004年には約5%にまでなっている。

 しかし一方、すべての様々な人種について共通するのは、陸軍兵士として避けることのできない「死と負傷への恐怖」である。イラク占領支配の泥沼化は、黒人層の減少分を補ってきた他の人種の入隊者数も減少させることになる。その傾向がすでに現れている。FY2006がさらに深刻である理由は、まさにここにある。


(4)インパクト4:社会階級的差別、貧富の格差という構造の上に成り立つ米軍の構造的矛盾

 米軍の構成・米軍の現役兵力は、140万人弱。陸軍48万人、海軍37.5万人、空軍35.9万人、海兵隊17.5万人。予備役は、87万人プラス40.5万人超(1999会計年度)。しかし、世界に比肩するものが無いほど強大であるにもかかわらず、非常に脆い構造の上にその軍隊は維持されていることを、新兵募集危機は明らかにしている。「貧者が富者のために戦う軍隊」、まさに米軍固有の構造的矛盾を新兵募集危機は明らかにしているのである。

 米国はベトナム戦争後、徴兵制から志願制へと移行した。しかし志願制を担った若者は、自らの命を危険にさらすことと引き換えに、軍隊生活によって得ることのできる経済的諸条件にあった。社会の底辺層出身の者たちが、金銭的理由、経済的理由で集められ、侵略戦争の先兵を担わされているのである。当然のこと、彼らにとっては「国への奉仕」、「愛国心」等は問題ではない。そもそも、守るべき「国」、「国民」とは、その社会の特権層であり、彼らの権力であり利権である。戦争が深刻化し、自らの生命が危機に直面するかもしれないのに、一体誰が、特権層を守ろうとするのか。一体誰が、侵略戦争に加わろうというのか。新兵募集危機は、まさにこの構図の破綻の一端を示している。

 すでに見てきたように、黒人の経済的地位が低いという社会階級的差別構造の上に、現在の軍隊の兵員供給体制が成り立っていた。そして新たに、違法移民を米軍の隊列に加えているのである。入隊と引き換えに、市民権を与えるといった約束によって。このような社会的差別・不平等を前提とする新兵募集の手法が、未来永劫残り続けるわけなどない。

※ 参考 事務局「【研究ノート】 基地帝国としてのアメリカ帝国主義」からの引用
・「軍の新兵募集係たちは、現実の戦争で国家に奉仕するために入隊する者が事実上一人もいないことに気づいた。」入隊志願の若者たちの「およそ5人に4人が非戦闘任務をはっきりと選択」。
・「ベトナム戦争中に徴兵制度が不公平なやりかたで運用されている――大学生は免除されるいっぽうで、強制徴兵の重点は人種的少数派や徴兵逃れの手段を持たない者たちに不当なほど置かれていた――ことが明らかになると、政府は平等に徴兵を実施するよりも徴兵制を廃止してしまう方を選んだ。それ以降ずっと、軍隊の勤務は完全に志願制になり、それ以外の出世の道がしばしば閉ざされた人々が社会的安定を得るための道となっている。」(「第二章」p.80)
・「実際のところ、新兵をひきつけるうえで唯一うまく機能していると思えるのは、軍が5万ドルまでの大学の授業料を補助する制度である。もっとも、軍に入隊した者のなかでこの計画を利用するものは結局ほとんどいないのだが。 ...。軍へ入隊するかどうかの決断に影響をおよぼすのは、人種や社会経済的な階級、アメリカの景気、そして近づく戦争の可能性なのである。 ...。イラクとの二度目の戦争の準備期間中、軍の新兵募集係たちは、現実の戦争で国家に奉仕するために入隊する者が事実上一人もいないことに気づいた。」
「新兵募集をじゃまする本当の要因は、新兵が戦闘に巻きこまれる可能性があることである。われわれの完全志願制の軍隊に入隊するアメリカの若者のおよそ5人に4人が非戦闘任務をはっきりと選択し、コンピューター技術員や人事係、出荷係、トラック整備員、気象予報員、情報分析員、コック、フォークリフト運転手になる――どれも敵と接触する危険性が低い仕事だ。民間でいい職が見つからないために入隊し、そうすることで軍が長年かかって築いてきた国家社会主義システムに避難場所を求める者も多い。確実に支払われる給料、まずまずの住居、医療の恩典、職業訓練、大学教育の保証といったものに。」(「第四章」p.127〜128)
・「若いアフリカ系アメリカ人たちは一つには、大都市の中心部にある人種的スラム街と、刑務所暮らしをまねくことが多い『裏経済』稼業から逃げだす目的で、ぞくぞくと軍隊に入る。第一に愛国的な動機や大衆に奉仕するという動機で入隊する者はほとんど誰もいない。ジャーナリストたちとのさまざまな会話のなかで、若い兵士や水兵たちは、民間の高い失業率、初級レベルの製造作業の海外流出による雇用のいっそうの悪化、自力で成功をつかもうとすると法とぶつかる可能性があるといった問題を口にした。」(「第四章」p.138)

※参考 「米国の見えない徴兵制」(『アエラ』2005年1月3-10日号、ライター堤未果)
     http://spaces.msn.com/members/mikatsutsumi/
・2002年にブッシュ政権が出した、入隊と引き換えに市民権を出すという新しい改正案をリクルーターから説明された時、アンヘルは迷わず入隊した。「怖くないと言ったら嘘になるよ。人に銃を向けた事なんてないしさ。でも俺の暮らしをみればわかるだろう?この国じゃ志願制といっても弱者にとっては徴兵制と同じ。イラクに行けば少なくとも食いっぱぐれる心配はないからね」 世界の富の二十五%を所有するアメリカ。現在人口の八人に一人が貧困生活(2人家族で年収140万円以下)を送っている。中でも貧困児童数は先進国で最も多い1300万人だ。入隊前のアンヘルの家族のように慢性の飢餓状態にいる国民の数は三千百万人にのぼる。貧しさから逃れようと入隊する移民の若者たちがいま、別の貧しい国の人間に銃を向けている。



V.最大の犠牲者は高校生。公立高校と軍部が結託したなりふり構わずの強引な新兵募集活動

(1) ペンタゴンが公立高校当局と結託し高校生を騙してまで新兵募集活動を強化

 米軍とりわけ陸軍は、新兵募集危機を回避しようと、必死のリクルート活動を展開している。貧困層の若者を狙い撃ちにし、「奨学金が得られる」、「技能が身につく」、「海外にも行ける」、等々、言葉巧みに若者の弱みに付け込み、軍隊に送り込んでいるのでる。新兵募集が困難な状況がますます強まっているにもかかわらず、陸軍はさらに兵員を増強する計画を立てており、勧誘担当官のノルマは増えている。それがさらに強引な勧誘を生み出す。成績の悪い勧誘官は、その給与に影響するのは当然のこと、最前線に送り込まれることもあるという。しかし勧誘担当官は、あくまでも国の政策の体現者である。「軍隊の入隊勧誘担当官たちはこの戦争機構に於ける攻撃陣の筆頭です。この機構は、恵まれない人たちを犠牲にして権力者層( power elite )の利益に奉仕するように出来ています。表に出ない陰気な商売を華やかに見せる売り込みをしながら、勧誘担当官たちは市民社会に入り込んで行きます」(※4)。

 高校が勧誘をめぐる主戦場である。表4からも明らかなように、米軍の新兵の7〜8割が、高校を卒業したばかりの若者である。米軍の勧誘担当官は高校生を狙い撃ちにしているである。愛国心に訴えるやり方は、もはや通用しない。米ブッシュ政権はさらに強権的手法をも合法化し、若者の兵士狩りに乗り出した。その一つが「落ちこぼれゼロ法案(No Child Left Behind Act)」である。その内容は次の通りである。107条110項には、公立学校は軍のリクルーターが、企業と同じ形で就職説明のために生徒と接触することを許可すること、さらに学校側は親から「情報提供拒否」の申請書を受け取らない限り、リクルーターに生徒の連絡先などの情報を渡すことが定められている。この2点について、全ての学校に実施させることを各州の教育委員会に徹底した。法案はもともと成績不良で中退する生徒たちを救い上げる目的だったが、就職先の一つとして軍への入隊というオプションを加える意味も持っている。法案を守らなければ国からの助成金が打ち切られるため、貧しい地区の学校に選択の余地はない。軍と学校当局はグルになって若者たちをイラクという死の戦場へ送り込もうとしているのである。これはまさに若い高校生を死に追いやる共犯関係と言える。(以上の法案の内容は※3から)



(2) 嘘、ごまかしで塗り固められた勧誘手段

 貧困層の若者が教育を受ける機会を求めて軍隊に入っていく。これが米軍の現実である。高校を卒業して最低でも2年間の軍隊生活を過ごせば将来大学に進学でき、そして人生の展望を切り開くことができる。このように勧誘担当官は言葉巧みに若者を軍隊に誘い込む。実際、入隊する兵士の大半(90%を越える)が教育支援プログラム(G. I. Bill)に参加している。しかし入隊後、軍から学費を受け取る兵士の割合はその中の35%程度と言うことである。入隊した多くの若者たちは、後になって勧誘担当官が言っていたことはウソであり、騙されたことを思い知るのである。元勧誘担当官が自らの手口を暴露した記事「軍隊勧誘活動でのはったり:或る元関係者の告発」(反戦翻訳団 http://blog.livedoor.jp/awtbrigade/archives/10965089.html)から、彼らの嘘の具体例を見てみよう。

・ 嘘その1 「奨学金をもらえ大学に行ける」
「大学進学のための便宜について、彼らはどのように嘘をついているのでしょう?G.I.Billを得るために入隊初年に1,200ドル支払わなければならないことについては、彼らは決して触れません。月給が700ドルの身にとって、この金額は非常に大きいですね。新入学生は充分な学資を持って大学に入って来ると思っているアホな官僚のお陰で、大学に進学して最初の3ヶ月間は、月々のG.I.Bill援助を受け取ることは余程のことがないと無理でしょう。まだ他にも勧誘官が隠していることがあります。独立していて25歳以上の学生の殆どは、民間人でも退役軍人でも同様に色々な方法で多額の奨学金を得る資格を有しているのです。但し、これはG.I.Bill援助を未だ受け取っていない場合の話でありますが。」

・ 嘘その2 「戦場に行かなくてもよい軍務に就ける」 
「勤務地配属について、勧誘官はどんな嘘をついているのでしょうか?予備役兵になりそうな人たちに向かって、彼らはこう言います。即ち、大学に通うことも出来るし月に一回週末に服務すればよい、現役部隊への召集の可能性は殆ど無い、と。しかしながら、現政権(訳注:第一次Bush政権)は湾岸地域だけで30万人の予備役を動員しようと目論んでいるのですよ。この話については、私は身近な例でご説明することが出来ます。私のご近所さんの娘が州兵に志願しようと考えておられました。彼女に入隊署名をさせるため、勤務地はKansas州になるだろうと勧誘官が話していました。然し幸いなことに、私は彼女に入隊を思い留まらせました。でも彼女の友達は幸運ではなかった。州兵に加わって間もなく、彼は現役任務に招集されて2年間ボスニアに行かされたのです。9・11以降、何千もの州兵と予備役兵が現役任務に招集されてきました。そして更に数千以上がイラクに送り込まれることになるでしょう。」

・ 嘘その3 「サインしたら軍隊を辞めることはできない」
「或るpoolee(既に入隊して、新兵教育訓練基地への移動待ちの新兵)が、私に手紙を寄越して来ました。私の初めての小文によって、海兵隊を辞める決心がついたと云うのです。勧誘官はpooleeに、もう遅すぎる、と嘘をついていました。既に入隊が完了しているのでこれから4年間軍務に就く義務がある、と言っていたのです。私が勧誘担当官を務めていた時に、新兵教育訓練基地に入る前であればpooleeはみんな軍隊を出ることが出来る、と云うことを学んでいました。そしてその後の複数の電子郵便( e-mail )を遣り取りして、彼が要請を少し押し出した後に結局除隊を勝ち取ることが出来た、と聞きました。彼の勧誘担当官は「今、俺がお前の目の前に居たなら、ぶっ飛ばしてやるところだ。」と言って肉体的な脅しを以て応えて来たそうです。軍人精神が身に付いた指導者の質がどのようなものかを示す、素晴らしい例といえましょう。」


(3) 入隊した若者の叫び―――「お母さん僕はだまされていたよ。軍に入隊したのは大きな間違いだった。お願いだからここから出して」

 一度入隊すれば、兵士は命令一つで戦場に送り込まれる。入隊した後に、「そんな約束ではなかった」と主張しても軍部にその声は届かない。戦場に送り込まれると何が待ちかまえているのか。イラクにおける米軍兵士の犠牲者は、1500人を大きく越えた。1万人を越える負傷者が出ており、多くが社会復帰の困難な負傷した退役兵として米国社会で長きに渡って生活することになる。精神的疾患、PTSDに苦しむ帰還兵も多い。すでに社会に順応できず、ホームレスとなったイラク帰還兵も散見されている。帰還兵に広まる薬物汚染・アルコール中毒の蔓延。そして妻・子どもへの暴力と家族崩壊。異常に高い自殺率。劣化ウランなどによる慢性疾患。社会犯罪や凶悪犯罪に手を染める者もいる。――しかし国は決して彼らに援助や温かい手を差し伸べない。それどころか、帰還兵、退役軍人への諸予算は削減され、医療施設はますます統廃合されている。これが、入隊にサインしたことへの代償である。

 見出しの若い兵士の叫びは、学費を得ることを目的に入隊した一人のプエルトリコ人の若者の叫びである。彼は、勧誘担当官から予備役だからイラクに行くことはないと言われていたにもかかわらず、その地に送り込まれることになった。その時の、母親への悲痛な叫び声である。それに続くエピソードは、軍隊の非情さを象徴している。
「命令が変わった。来月からイラクだ」 入隊の契約書にサインしたとき、リクルーターは確かに言ったはずだ。ジョシュアは予備兵だからイラクには行かされないと。キムは息子にこう言った。「待ってなさい。母さんが必ずそこから出してあげる」 国中のNGOや軍のホットラインに、片っ端から電話をかけると、退役軍人の会のひとつが教えてくれた。入隊後九十日以内なら除隊できるオプションがある、と。 問い合わせた彼女に、軍はこう言い放った。「では軍事裁判にかかってもらいます。ただしその間、軍は息子さんを拘束する権利がある。イラクには予定通り行ってもらいます」 さらに続けた。「あ、それから軍事裁判にかかっている者は武器を持ってはいけない決まりがあってね。息子さんは裁判が終わるまで、丸腰でイラクに駐留することになりますね」。
※3 『アエラ』正月特大号掲載「米国の見えない徴兵制」(2005年1月) (堤未果)
 http://spaces.msn.com/members/mikatsutsumi/

※4 抵抗を受ける生徒勧誘担当官たち
 Tommy Nguyen , Christian Science Monitor(2003/12/19)
 http://blog.livedoor.jp/awtbrigade/archives/11557941.html
※5 入隊勧誘担当官は嘘つきだ。  SNAFU
 http://blog.livedoor.jp/awtbrigade/archives/10965089.html



W.若者たちに広がる徴兵制復活の危機感。大統領の決断一つでいつでも復活可能な米国特有の"選択徴兵制"

(1) イラク戦争・占領の泥沼化とともに強まる徴兵制復活への警戒

 米軍全般の兵員不足、リクルート危機を反映して、若者たちの間で徴兵制の復活への懸念が増大している。イラクの占領支配が泥沼化し、米軍の「過剰展開問題」が表面化した昨年、若者たちの間には、徴兵制復活の危惧が急速に台頭した。それはブッシュ再選阻止の運動と結び付けて闘われた。さらにもう4年もブッシュが大統領に就けば、やつは必ずや兵員不足から徴兵制度を復活させるに違いない。若者たちは、そのような危機感を募らせたのである。実際に、イラクの泥沼化が深刻化するに従って、議会、民主党タカ派の中からも、徴兵制復活の動きが浮上した。

 徴兵制復活に対する危惧が深まるとともに、まだ規模は小さいがベトナム戦争以来と言われる徴兵制反対の運動が起こっている。徴兵制に反対する"No Draft, No Way"(NDNW)は、2004年の夏に設立された、退役軍人、学生、活動家、若者からなる組織である。その組織への参加者は、「民主・共和党の世界的な軍事支配の衝動が、軍隊を限界点まで引き延ばしていることを主張し、徴兵制の復活の可能性を危惧している。そして徴兵制を阻止する決意を固めている・・・」。(http://www.nodraftnoway.org/index.shtml about NDNWからの引用)。そして他の反戦運動との連携を深め、全米規模で組織されるまでになっている。

 徴兵制復活が話題に上るたびに、ブッシュ大統領、ラムズフェルド国防長官は、その復活を否定してきた。また軍高官も徴兵制の導入に関しては、繰り返し否定している。しかし、次で具体的に見るように、米国社会には、大統領の権限によっていつでも徴兵制を導入できるシステムが温存されているのである。だからこそ若者たちにとって徴兵制導入は、極めて現実的な脅威なのである。

(2) いつでも徴兵制復活が可能な信じがたい制度としての"選抜徴兵制"(SSS)

 アメリカでは、いつ何時でも徴兵制度が復活できるような準備がなされている。それが、"Selective Service System(SSS)"(選抜徴兵制)である。アメリカではごく当たり前の制度ではあるが、私たち日本人にはあまりなじみのないものである。
 SSSのホームページにはその組織の役割について、次のように描かれている。
緊急時において軍隊に人員を供給する。
徴兵期間にあたる良心的徴兵忌避者に分類される若者のための多様なサービスプログラムを運営する。
 選抜徴兵とは、選抜徴兵制の登録手続によって集められた若者の氏名リストから徴兵制の指令を受け際に軍部に人員を供給するためのものである。実質的にはすべての18〜25歳までの男性は登録しなければならない。この法に従ったのみ、将来の徴兵制は公平で適正なものとなる。登録しなければならない若者の義務は、選抜徴兵制の運用を構築し、担当する選抜徴兵法によって負わされる。……(http://www.sss.gov/mission.htmから)

 ここに明示されているように、18〜26歳までのすべての男性は、SSSに登録する義務を負っている。このシステムによって、大統領および議会が、国の緊急事態、戦時における軍の拡大が必要となった際、登録したリストの中の若者を徴兵し、戦場に送り込むことができるのである。このシステムを稼働させることによって、「強制的徴兵制度復活が認可されてから」75日以内に、選抜徴兵制度が完全実施され、そして新兵が軍に送り込まれる計画であるという。

 2003年11月における登録実績は、20〜25歳の若者の93%、18〜25歳の若者の94.5%が登録している。このような高い登録率は、運転免許証を取得する際、また奨学金を受け取る際にSSS登録を必須とするといった強い締め付けがある。また高校にSSSの職員を派遣し登録を強く要請しているのである。また2004会計年度においてSSS運営費用として2610万ドルが計上されている。

 このように米国市民にとって徴兵制とは、ベトナム戦争の終焉と共に完全に過去に葬り去られた存在ではなく、大統領、議会によっていつでも導入することのできる、いまだに現実社会を徘徊している生者のごとき亡霊なのである。たしかに現段階においては、ブッシュ大統領、ラムズフェルド国防長官そして議会の主流も徴兵制の復活に反対である。しかし、これまで機能してきた予備役制度が募集危機によって存続が脅かされる、また陸軍をはじめとする正規軍に人員が集まらない、このような事態が常態化した時、為政者たちが徴兵制復活の衝動に駆られ、開始ボタンを押すのではないか、このような危惧を若者たち、反戦平和運動が抱く最大の根拠の一つが、このとんでもない制度にあるのである。

※ 選抜徴兵法の全文は、http://www.sss.gov/PDFs/MSSA-2003.pdfにあり。
※ 参照 http://www.sweetnet.com/draft.htm
※ 参照 反戦翻訳集団 「迫り来る赤紙」
    http://blog.livedoor.jp/antiwarbrigade/archives/9662741.html



X.反戦運動と新兵募集反対運動の結合

(1)新運動"カウンター・リクルーター"(反入隊勧誘運動)の誕生

 反戦運動の中において、学校現場への介入を強めるブッシュ政権に対抗して新たな組織"カウンター・リクルーター"(反入隊勧誘運動)が対抗している。その運動には、イラク戦争反対を掲げる"Veteran for Peace"も参加している。反戦活動家である彼らは、高校生たちに対して粘り強く、入隊勧誘官たちの甘いささやきが嘘であること、軍隊が押しつけたものではない別の人生設計を持つことを訴えている。

 組織"カウンター・リクルーター"は、2003年と2004年の夏にフィラデルフィアにおいて全国ネットワークを作るための会合を開いた。そこには、ベトナム退役兵から、仲間を入隊から守るために運動に参加した高校生まで、様々な人々が含まれていた。またそこに参加した組織の一つである"The American Friends Service Committee"(米国フレンド教徒奉仕委員会)は、『入隊についてあなたは十分に理解していますか』とのタイトルの冊子を配布し、学校現場への働きかけを行っている。また一部の高校の教職員組合は、"カウンター・リクルーター"と共同しながらも、軍の入隊勧誘官に対抗している。このように非常に地道な取り組みではあるが、高校現場への軍の攻勢に抵抗する運動が生まれ、反新兵募集のキャンペーンを繰り広げている。


(2)反戦運動も反新兵募集運動に合流

 多様な反戦運動が反リクルート運動に合流している。ニューヨークで軍勧誘官が頻繁に訪れる学校に10歳代の若者たちが乗り込み、反リクルート活動を展開しているグループもある。その運動に帰還兵もまた協力し、リクルート対象の在校生に対して自らの軍隊での体験、その生活を聞かせ、勧誘官の嘘を暴露している。また南カリフォルニア方面では、"Coalition Against Militarism in our School"(われわれの学校の軍事化へ反対する同盟)(http://www.militaryfreeschools.org/)などの組織が、在校生へ勧誘官の入隊の誘いを阻止するために広範な協力を反戦団体に呼びかけ行動している。

 イラク戦争の泥沼化によって、兵力維持のパイプラインである新兵供給が滞りはじめている。ベトナム戦争では徴兵対象の若者が反徴兵制運動の先頭に立ち、徴兵カードを焼き捨て、抗議行動を繰り広げた。ベトナム戦争をきっかけに徴兵制度が機能しなくなり、そして形の上では志願制に移行した。しかしイラク戦争が泥沼化するにしたがい、「貧者が富者のために戦う軍隊」といった矛盾があぶり出されている。反戦運動のホームページには、反新兵募集を主張するスローガンが、例えば『Stop the Military Recruiters! We Won't the Corp of the World! 』(軍への勧誘を止めろ!われわれは世界の侵略軍にはならない!)のようなものも散見されるようになっている。反ブッシュ、反戦平和の運動は、新兵募集に一つの焦点を当て、それを前面に掲げ行動を始めている。こうした取り組みはまだ大きな力を持つに至っていないが、泥沼化するイラク占領支配とそれに対して米国民の中に広まる不安、不満の声を吸収する形で、両親や本人たちの軍隊を見る目を厳しくさせ、結果として軍隊への新兵供給を阻止し始めている。ジワジワではあるが、反戦運動そのものがブッシュ政権の侵略政策に打撃を与えはじめているのだ。新兵募集反対運動は、徴兵制反対の運動と結合し、アメリカの反戦運動の新しい決定的に重要な一翼を担うまでになっている。

 世界最大最強の軍隊である米軍が、そうやすやすと衰退することなどあり得ない。米軍にとって新兵募集危機は、小さな針の一穴である。すでに述べたように、新兵募集危機の矛盾の集中点は、さしあたりはイラク・ローテーション体制の危機に現れているに過ぎない。しかしその一穴は、新兵の貯水池を動揺させ志願制の基盤を揺さぶり、同時に徴兵制度に対する牽制の形で、新たな政治的争点に浮上している。

※'Counter-recruiters' shadowing the military
By Rick Hampson, USA TODAY  2005/3/7
http://www.usatoday.com/news/nation/2005-03-07-counter-recruiters_x.htm
※ Military recruitment now more difficult on high school campuses
Daily Sundial     2005/3/17
http://sundial.csun.edu/vnews/display.v/ART/2005/03/17/4239a91423671
※Calling All Soldiers: Military Recruiters Face Resistance From Young Anti-War Activists
by Elizabeth Weill-Greenberg, New York Amsterdam News    2005/2/25
http://www.unitedforpeace.org/article.php?id=2758


新兵募集官の学内からの退去を要求する学生の抗議
http://www.campusantiwar.net/index.php?option=content&task=view&id=76&Itemid=2

サンフランシスコ州立大学における、募集官の学内立ち入りへの抗議
http://www.campusantiwar.net/


翻訳記事1
陸軍の募集目標は危機的状況にある。
Army recruiting goals in jeopardy
February 21, 2005   By: Ann Scott Tyson   Washington Post
http://www.independent-media.tv/item.cfm?fmedia_id=10432&fcategory_desc=Under%20Reported

ワシントン 陸軍統計と高官のインタビューによると、現役陸軍(Active-duty Army)は新兵募集の目標を達成しない危機の最中にあり、また州兵(National Guard)と予備役(Reserves)が定員を下回わっているように人員の歪みが問題となり始めている。

陸軍は2001年以来はじめて、80000 人の年間の現役新兵(active-duty recruits)を目標としたすでに10月から始まっている会計年度(訳注:FY2005)の、18.4 %しか充たすことができない。その数値は前年度の半分に相当し、陸軍の目標である25 % を大きく下回っている。(訳注:途中段階における募集状況の比較)

陸軍は、入隊予定の新兵をできる限り早く訓練を押し込もうとしている。去年と比較すると、新兵契約から訓練所に入隊するまでの平均日数は、50 パーセント以下に削られている。昨年度に従事していた5201人にさらに800人以上の現役の勧誘担当官が加わっている。志願した兵士を引き付けるために、より多くの取り組みと金銭的刺激を要求している。

人員不足に追い込まれたのは、イラクでのローテーションのため、またその他の地域の世界的な偶発事への対処するために必要となる戦闘旅団の数を拡大しようとする陸軍の目標にある。陸軍の高官はその悩ましい兆候を、若いアメリカ人の男女、親たちが、主要にはイラク戦争によるものだが、軍務に対する懸念を募らせているためと見ている。

「非常に率直に言って数カ所において、私たちの新兵募集の貯水池は弱体化している」と陸軍人員担当者フランクリン・ハンゲンバック准将は語った。「私たちは、次のように聞いている。『そうだね、イラクにおける事態がどうなるのかを見守ろう』と。2005年の現役兵に関して、目標を達成することは厳しくなっているが、達成できると見ている。しかし、私たちにとっての、それが本当に問題になる年次は、来る2006年である。」

他の軍高官も、同様の懸念を表明した。「会計年度2005 は、現役および予備役部隊の新兵募集の両面において能力の試される年となるであろうことを予期している」。2月17日、下院歳出小委員会において統合参謀本部の議長リチャード・マイヤーズ将軍はこのように証言した。海兵隊はこの10年間ではじめて、1 月の月間新兵募集に欠員が生じた。

陸軍は、より経験豊富な兵士によって組織が維持することができるが、若者が新兵募集にサインをしなければ、その兵力は老化し始める。さらに、現役陸軍の高い残留率は、すでに問題が生じている陸軍州兵と予備役の兵員の流れの先細りとなって現れている。

陸軍高官は、現在の困難はいまだに危機的状況にはないと主張している。1月31日現在、会計年度2005において陸軍は、22246人の現役の勧誘担当官を数える。過去一年間に100人以上も拡大している。

かつてならば、これほど多くの志願制の兵士たちが、多方面に、長期間にわたって戦場に派遣されるようなことはなかった。1991年の湾岸戦争以来、全兵力は30万人も削減され、28の現役と予備役の師団数は18にまで削減された。今や陸軍は、2009年までに30000人の兵士を追加しようとしている。海外派兵用の15の新たな戦闘旅団のために、現役兵士を48万2000人から51万2000人へと拡大しようとしている。しかし、水準を下げることなく多くの新兵を刈り取ることは、たいへん困難なことである。このように、陸軍の指揮官は語っている。

「仮に30万本の木を刈り取ろうとすると、たしかに素早く実行することはできる。しかし今は、3万本を育てなければならないのだ」と陸軍最高司令官のピータ・シュメーカー将軍は2月9日の下院歳出小委員会において語った。「質の良い兵士を育てるために、誰もが知っているように, 時間がかかる。」

時間  しかしながらそれは、陸軍に無いものである

毎年の通常の補充を越えるペースで陸軍は、3500−4000人からなる新たな旅団を充たすための強引な時刻表を実現するために加速した新兵募集を実現しなければならないとある高官は語っている。現存する33の旅団の拡大と再編と並行して進めるなければならないのである。

新たに訓練された兵士は、原則的には配分される。それは陸軍高官が「蛇口の栓を開ける」と呼んでいるものであり、旅団がイラクやアフガニスタン、その他の場所に派兵される数ヶ月前に行われるものである。イラクにおける12万人の兵力を維持する軍事計画は、2006年まで継続される。

「派兵される部隊に対して最も優先的に満たさなければならない事柄は、海外に出る前に十分に定員を満たすことである」と、ケンタッキーのフォート・キャンベルにある第101空挺旅団の参謀に今月から就いたジョセフ・アンダーソン大佐は語った。

しかし逆に、新兵を獲得することはさらに困難になっており、時間のかかることが明らかになってきているとハンゲンバックは語っている。彼は、陸軍に対して、さらに100人の現役兵士を勧誘担当官として投入することを求めている。

「われわれに加わる若者たちは、右手を挙げる前に勧誘担当官と今まで以上に長い時間を過ごす」と彼は語っている。今日では多くの有望な入隊希望者は、インターネットを通してコンタクトを取る。そして、ネットで回答し、電話で対応するためにより多くの勧誘担当官を必要とする莫大な質問をぶつけてくるのである。

しかし、希望者が直接勧誘担当官に直接会い、多くの時間を費やすことなしに入隊ことはないであろうと彼は語った。「 彼らは最終的に、兵士、勧誘担当官と会うことを求め、 面と向かって話し合う」と彼は語った。その結果、「外出することができた、今週2人を集めた勧誘担当官は、そのような勧誘に忙殺されていたに違いない。」

新兵がサインするに至るまでに要する平均費用は、勧誘担当官の増員とさらなる広告、兵役服務期間におけるボーナス増などの結果、会計年度2001年の1万5265ドルから会計年度2004年の1万5967ドルへと上昇している。1月、陸軍は、推定1億ドルも費やして"leo Burnett USA"(会社名)と6ヶ月の広告契約を交わしたことを発表した。陸軍は、大学進学を望む者、優先順位の高い仕事へサインした者、訓練に直ちに入ることに同意した者への特別の金銭的インセンティブとともに、4年間の勤務に対して2万ドル近くのボーナスを支給している。

陸軍は現役兵士をとどめるために、さらに支出を増やしている。再入隊時のボーナスを受け取る現役兵士は2003年には39%であったが、今では50%にもなっている。


学内から軍を追い出せポスター
http://www.objector.org/index.html

サンフランシスコにおける数千人の反戦、新兵募集反対デモ
http://www.campusantiwar.net/


紹介記事2
黒人陸軍新兵の急激な落ち込み。
  データはイラク戦争を映し出している。

By Josh White  Washington Post Staff Writer  2005/3/9
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A18461-2005Mar8.html

新兵に占める黒人の割合は、この5年間を通して劇的に減少している。陸軍の研究者、軍事専門家、勧誘担当者によると、本国におけるより魅力的な選択肢を提供してきた経済状況と合わせて、イラクとアフガニスタンでの戦争におけるアフリカ系アメリカ人へのサポートの欠如を反映していると言う。

アフリカ系アメリカ人の陸軍新兵の割合が23.5%を占めた会計年度2000以降、この数は今会計年度の14%に至るまで急激に落ち込んでいる。同様の傾向は、女性の陸軍新兵にも見られる。2000年の22%から今年は約17%に落ち込んでいる。

なぜこのような落ち込みが起こったのかを指摘することは難しいことではあるが、2001年9月11日以来、繰り返し戦場に派兵される志願兵軍隊の新兵募集と維持に対する陸軍の取り組みの弱点を、この数値は反映している。陸軍は1990年以降、新兵募集目標を達成してきたが、今年ははるか彼方へ落ち込むことになった。

アフリカ系アメリカ人は、いまだに全陸軍のおおよそ1/4を構成している。歴史的には、その他の職場では得られない経済的、社会的な機会をもたらしてきたことによって、黒人は数多く入隊してきた。

しかしこのような人種統計に依拠するまったく新たな新兵募集の落ち込みは、陸軍がその他の場所を探さなければならないことを意味している。ヒスパニックは、2000年の10.4%から2004年には13%と増加した。白人は、2000年の61%から2004年には65%へと増加している。アジアあるいは太平洋諸島の人々は2000年には1%以下だったのが、2004年には約5%にまでなっている。

陸軍の研究機関と専門家は、アフリカ系アメリカ人の減少の一つが、当局が言うような全グループの中において新兵募集が困難になってきている事実をも考慮すると、黒人の中でのイラク戦争への不人気の原因にあると結論付けている。海外への長期派遣といった実質的保証。よく知られている数多くの負傷者。

陸軍によって昨年の10月に行われた新兵募集に関する研究は、入隊に魅力を感じなくなっている理由として、「さらに多くのアフリカ系アメリカ人が、彼らが支持しない大義のために闘わなければならないことを認識している」点を明らかにした。一方、すべてのグループ(訳注:様々な人種)については「死と負傷への恐怖は、今日では入隊する主要な障害である」。

「私は、その主因がイラク戦争にあると考えている。イラク戦争は、白人社会以上に黒人社会において関心を集めているのである」とオースチンにあるテキサス大学の公共問題教授であり、人員・準備担当国防次官(undersecretary of defense for personnel and readiness)でもあるエドウィン・ドーン氏は語った。「白人は、侵略を強く支持している。黒人はそうではない。入隊する白人数が増えているが、一方では入隊する黒人数は減少すしていることに現れている。」

世論結果が、米国の半数以上がイラク侵攻は誤りだと考えていることを示しているように、ドーン氏は、陸軍がその問題に直面していることを指摘している。「このことは、数ヶ月以内に白人の入隊にも影響を及ぼす」と。

米陸軍新兵募集司令部のダグラス・スミス氏は昨日、陸軍当局は、アフリカ系アメリカ人が歴史的に募集の1/4近くを占めているために達成率が低下することを懸念していると語った。陸軍が入隊時の支給金と奨学金特別手当を引き上げ、新たな勧誘担当官の一団を送り出そうとしていると語った。

「私たちはそのことを率直に認めなければならない。極めて厳しいリクルート環境にある。完全な志願制の陸軍が長期にわたる軍事作戦におかれているのは、初めての事態であるからだ」とすスミス氏は語った。「客観的には、そのことを懸念するいことは偏りのないことだと私は思う。私たちが直面している危機をおおいに懸念している。私たちは軍をうまく取り扱いたい」。アフリカ系アメリカ人新兵募集人数の減少は先週、"Military Update"のコラムに報告された。

軍の研究者は、減少は決して驚きではないと主張している。その一つの理由として、アフリカ系アメリカ人の軍に加わる傾向が過去十年間において減少し続けたことを挙げている。そのことは、黒人の新兵の割合が、2000年の調査における全人口に占める黒人の割合12.3%に接近するであろうことをある専門家が指摘していたことによって裏付けられる。

メリーランド大学の軍事組織研究センターの所長であるデービッド・R・シーガルは、同時に多くの社会的要因が存在する点を指摘している。その中には、経済成長、仕事の増加、大学進学の増加、戦闘によって殺されることへの恐怖などが含まれる。

「長期の流れの中では、陸軍にとって状況は良くないと考えている。アフリカ系アメリカ人の過大な存在に依拠してきたことわけであり、新兵募集がさらに厳しくなるであろうことがその根拠である」とシーガルは語った。しかし、「人口に応じた形で軍を構成することは良いことである。アフリカ系アメリカ人は高校卒業後の進路のために軍を選択するというよりもその他の選択肢を探し始めている」と彼は語った。
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ここ数年のナーベズの目標は、月に5人を入隊させることであった。今では、戦争に向けて兵員を増やし部隊に供給する計画を持つ陸軍における彼の任務は、月に約2倍の9人となった。先月、彼は4人にとどまった。

「私はこの地区の経済を見つめてきた」とナーベズは語った。「失業率は低下している。それは、(勧誘を)困難にしている。街にとっては良いことだが、しかし勧誘にとってはたいへんな難問だ。人々は、その他の(就職)機会を選択するようになっている。」

ミルフォード・ブラウン研究所による昨年の陸軍広報研究によると、女性はますます(軍に)加わらなくなっているという。その理由は、女性は、従軍が生命よりも大切なものと考えていないし、また戦闘を抑止力として見ているからである。

「長期にわたって、女性は陸軍に加わることに価値を見いだしてこなかったし、むしろ特に戦争に結びつく根拠として必要のないことと見てきた、とその研究は主張している。一般的に女性兵士は、戦闘部隊の最前線からは遠ざけられているが、イラクでは、前線と補給業務の違いが、無くなってしまっている。イラクでは、女性はしばしば戦闘に加わり、そこで33人の命が失われている。

ミルウォード・ブラウンの研究はまた、すべての集団において、戦争、負傷すること、アブグレイブのスキャンダルのような否定的な出来事を伝えるメディア報道への反発を報告している。「軍務を考えなくなった理由は、イラクの状況への反発と軍への嫌悪に基づいている」。


紹介記事3
州兵勧誘官にとって、説得が難しくなっている。
For Guard recruiters, a tough sell
By Dave Moniz, USA TODAY  USA today 2005/3/7
http://www.usatoday.com/news/nation/2005-03-07-recruits-cover_x.htm

バージニア・アレクサンドリア-すべての優秀な入隊勧誘官のように、一等軍曹ジム・オフェレルは、 どこにいても将来の兵士をかぎ分けることができる。

2年前、彼はバージニア州サタウトンのジィフィー・ルーブ駅に停車した。Dodge Stratusでオイルを交換しようとした。係員がフードの下を調べている間オフェレルは、その男が身構えた状態であることに気が付いた。そして彼はその係員に、かつて軍に居たのかどうかを尋ねた。

「海兵隊にいた」と彼は答えた。

二週間の間、オフェレルはバージニア州兵の新兵に登録するために新たな仲間を入隊させるべく探し求めていた。

その出会いから2年が経過した。オフェレルは今、我慢の時を過ごしている。12月、彼は初めて州兵入隊勧誘官を経験した。オフェレル42歳。「ドーナツをまいたような」、採用にサインすることなくまるまる一ヶ月を過ぎることを指す軍事用語である。

オフェレルと全国の4100人の陸軍州兵入隊勧誘官は、ベトナム戦争以来の気力を失うような困難に直面している。その一つが、テロリズムとの戦争におけるブッシュ政権の州兵と予備役部隊の使用の限界を特徴付けているだろう。

昨年、州兵募集は、56000人に兵士の目標に対して7000人近くもの欠員がでた。今年は、州兵募集の目標は、より野心的な63000人の兵士である。2004年の欠員を補うことも含まれる。しかし、二月には、10月以来の4ヶ月の採用実績において、州兵12821人の新たな兵士を採用した。目標に対してほぼ24%下回っている。

その他の軍組織は、同じように募集に苦闘しているが、陸軍州兵ほどではない。海兵隊は、二月と三月の基礎訓練キャンプに募集者を送り込む目標数を確保したが、しかし、10年間で初めてのことである。全体の新兵募集の目標に到達しなかったのである。その中には、後から基礎訓練キャンプに参加することに同意した採用者も含まれている。2月、現役陸軍兵は、この5年間の最初の期間の基礎訓練キャンプに送り込む採用者の目標の欠員が生じた。1900人程度の少なくなる。それはその年からデータによると目標を6%も下回るものである。

それとは対照的に海軍と空軍は、採用にあたっての問題はない。これらの組織は、イラクとアフガニスタンにおいては小さな部分を占めるに過ぎない。

陸軍州兵が欠員を逆転しない限り、少なくとも今後15年間はいたる組織で最悪の募集年の一つとなるであろう。

州兵と予備役の部隊は、イラク駐留米軍15万人の約1/3を占めている。州兵採用問題は、継続する戦闘を戦う十分な部隊を探し出すペンタゴンにとってより厳しくなるであろう。

死と疲労

通常の年では、州兵希望2005年募集目標はおそらく達成できるであろう。しかし、二つの大きな要因が、募集者の取り組みを阻害している。死と疲労である。

テロとの戦争が始まってからは、イラク、アフガニスタンにおいて、あるいは関連する任務において203人の州兵が殺された。その損失がわずかな州兵部隊の割合を示しているだけだが、世論は、パートタイム軍務を、お金稼ぎあるいは大学資金支払いの方法としてのおよそ危険性のないものとしてもはやみなしていない。

州兵の義務は、潜在的な志願兵を阻害している。この数十年、現役兵士は州兵にさかんに登録した。昨年までは、採用官は彼らを、一月間に一回の週末、一年間に二週間の訓練を受ける約束をもって−典型的な平和時の仕事−リストアップしていた。

今や州兵と予備役は、18ヶ月にものぼる作戦行動に招集されており、従軍から解き放たれた者たちは、参加することをためらっている。イラクにおけるハムビー上に書かれた陸軍州兵の落書き写真−兵士たちに広範に流布されている−は、その物語を伝えている。「二週間なんてくそくらえ!」と読める。

オフェレルは、世間は新た指令について知っていると語った。「かつては、正規軍は年中無休あった」と彼は語る。「今では、多くの選択肢を与えることはできない。」

高校海軍予備役将校訓練部隊のセレモニー
http://www.csmonitor.com/
2003/1219/p13s02-legn.html

米国州兵司令官スティーブ・ブラム准将は、2700人の現存要員にさらに1400人の勧誘担当官を投入した。完全志願制の軍隊の歴史上、最大の増員である。ブラムは、新兵募集減を回復させることを期待し、秋までにはその状況を解消するであろうと語った。しかし、さらなる採用官は十分ではないであろう。

かつて州兵は、「これまで従軍していた」募集者−現役陸軍と海兵隊からの−に数えられている。実際には、新たな軍人の半数近くがそうであった。いまでは、このような形態は、1/3に過ぎなくなっている。

減少にもかかわらず、州兵募集担当官は、それまで一度も制服に身を包んだことのない候補者のために従軍兵士と競う初めての試みに乗り出そうとしている。全国の高校や大学のキャンパスでは、オフェレルと彼のようなその他の者たちは、さらなる恩恵にを受けた軍人と肩を並べることになるであろう。

ブラムは語る。「魚はもはや、ボートの中に飛び込んでくるようなことはない。私たちの仲間は、脚を運び、どのように釣り上げるのかを学ばなければならない。」




[シリーズ米軍の危機:その1 総論]
ベトナム戦争以来のゲリラ戦・市街戦、二巡目の派兵をきっかけに顕在化した過小戦力、急激に深刻化し増大し始めた損害


[シリーズ米軍の危機:その2 イラク帰還兵を襲うPTSD]
イラク帰還兵で急増するPTSDと戦線離脱。必死に抑え込もうとする米軍の非人間的な“殺人洗脳ケア・システム” −−NHK・BSドキュメンタリー2004年12月11日放送:「イラク帰還兵 心の闇とたたかう」より−−


[シリーズ米軍の危機:その3 イラク帰還兵とイラク症候群]
イラク症候群:イラク帰還兵をめぐる諸問題の急速な顕在化


[シリーズ米軍の危機:その4 もうだまされない]
『華氏911』と『戦場から届いた107通の手紙 マイケル・ムーアへ』