イラク戦争劣化ウラン情報 No.24      2005年3月22日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局 吉田正弘

ウラニウム医療研究センターUMRCのアサフ・ドラコビッチ博士が
京都の同志社大学経済学部主催の公開講演会で
“放射性戦争による環境と人体への深刻な影響”を告発

 2005年3月9日に、ウラニウム医療研究センターUMRCのアサフ・ドラコビッチ博士が京都の同志社大学経済学部主催の公開講演会で講演しました。博士は「放射性兵器の環境と人体への影響」という演題で話し、平日の夜にもかかわらず150人が参加し、熱心に聞いていました。通訳はNODU広島プロジェクト代表の嘉指信雄さんがされました。京都、大阪だけでなく岐阜や神奈川など遠方から参加された人もいました。講演で博士は次のように話しました。

 「1991年に人類の新たな暗い歴史が開かれました。従来の核・生物・化学(NBC)戦争の危険に加えて、新たに放射能戦争の危険が付け加わった化学・生物・放射能・核(CBRN)戦争の時代が始まったのです。湾岸戦争から放射能戦争が始まり、環境と人体に大きな影響を及ぼすことになりました。地球規模の放射能戦争が起こった場合、人類と地球上の生命は生き残っていくことができるのだろうか。放射能戦争というのは考えられないくらい膨大な放射性物質が放出され、それが人体に影響を与えるのです。私たちが直面しているこの危険について警告を広げなければなりません。今日の私たちの議論が、この危険に対する無知という岩に穴をうがつ水の一滴になることを望んでいます。」

 「私たちUMRCは放射能戦争による人体と環境の汚染調査を行う唯一の科学的団体です。私たちとは比べものにならない予算を持つ他の国際的な機関はなぜ調査をしないのでしょうか。さまざまな学術的な会議で、国際原子力機関IAEAや世界保健機構WHOになぜあなた方が調査をしないのかと聞いてきました。答えは現地で調査をするには危険すぎるというものでした。しかし、私たちはアフガニスタンやイラクで現地調査をしています。豪華なホテルに泊まるのでなければ調査はできないとでも言うのでしょうか。現地の人々と同じ生活をすれば調査をすることはできます。武器を持った人々も目的が分かれば危害を加えてきません。「煙にあたるのをいやがれば火の暖かさはわからない」のです。」

 「アフガニスタンではたくさんの子どもたちが理解不能な血液の病気にかかっています。私たちは彼らを招いて治療をしようとしてきました。専門医に治療を頼んだりしました。これらの子どもたちはどんな罪を犯したというのでしょうか。広島で中身が黒こげになった弁当箱をみましたが、これを持っていて殺された中学生と同じです。彼らには何の罪もないのです。このような子どもや住民の人体に重大な危険をおよぼす放射能兵器の使用を許してはなりません。」

 「私たちの研究は1991年に27人の湾岸戦争帰還兵を診察・調査し、彼らから劣化ウランを検出したことに始まります。しかし、研究は6年間中断しました。軍が研究することを認めなかったのです。劣化ウランの研究に関係したものはすべて職を失うことになりました。私自身も1997年に18年間勤めた米軍の軍医の地位を失いました。そこで、独立のUMRCという研究所をつくって研究を続けることになったのです。1999年以降本格的に研究を発表するようになりました。私たちの研究活動はさまざまな科学者、専門家、市民の支援に支えられています。その中には署名事務局をはじめとする日本の市民からの支援があります。」

 「われわれが明らかにするのは数字だけです。政治的な主張ではありません。しかし、この数字は変えることも消すこともできません。数字は明らかに汚染と危険性を示しています。
 私たちは、アフガニスタンで4度にわたる現地調査を行いました。アフガニスタンの患者は非常に高い濃度のウランに汚染されていました。第1次も、第2次も通常の人の数十倍の異常な濃度のウランを尿から検出しました。一人の少年は羊の世話に出ていた時に家を爆撃され、噴煙の中で家族を捜しました。この少年の尿からは通常の200倍の、1リットルあたり2047ナノグラムものウランが検出されました。アフガニスタンで住民の尿から発見されたウランは、天然ウランと同じ同位体の組成でしたが、2次調査の14サンプルのうち7サンプルからは人工でしかできない(原子炉の中でしかできない)ウラン236を含んでいました。私たちはこれを非劣化ウランと呼んでいます。彼らは米軍による爆撃地点の近く、あるいは風下側に住んでおり、彼らのウラン被曝が米軍の爆撃によるものであることは明らかです。また土壌のウラン濃度も爆撃のクレーターの中心ほど高く、数キロ離れると通常値に戻るのです。」

 「イラクでは2種類のウラン兵器が使われた可能性があります。一つは南部の地上戦で使われた対戦車用の劣化ウラン弾です。もう一つはバグダッドなど都市部で使われた貫通型の爆弾で、これはアフガニスタンと同じ非劣化ウランでできている可能性があります。自衛隊の送られているサマワはちょうど中間地域で、両方が使われた可能性があります。イラクでは、2003年の9月から10月にかけて現地調査を行い10都市の住民を調査しました。バグダッド、バスラ、ナッシリアで集めた20サンプル中5つから劣化ウランが検出されました。また、サマワから帰還した米軍兵士9人の内4人から劣化ウランが検出され、人工のウラン236が7人から検出されました。彼らは憲兵であり直接戦闘に加わっていたのではありません。この調査を行ったUMRCのスタッフ3人のうち2人がやはり劣化ウランに被曝しました。これらの被曝はすべて劣化ウランの粒子を吸い込んだことによって生じたと考えられます。このように、イラク全土が深刻な劣化ウランによる汚染を受けており、危険に晒されているのです。」

 「日本は米軍兵士が被曝したサマワに自衛隊員を送っています。サマワは米軍兵士が被曝し、オランダ軍が汚染地がひどい米軍のキャンプに入ることを拒否した場所です。日本人は原爆で放射能の恐ろしさを知っているのにどうして兵士をサマワに送るのでしょう。自衛隊員の健康と被曝が非常に心配です。是非とも彼らの調査を行うべきです。もし、体調のおかしくなっている人がいれば診察・検査したいと思います。」

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同志社大学での講演に先立って、博士は3月8日に京都市内で環境問題研究会のセミナーで「15年間にわたる放射能戦争」というタイトルで話しました。この講演の中では15年間にわたる博士の放射能戦争に対する取り組みと最近の活動について話されました。
 博士の講演の中で、UMRCが極めて激しい嫌がらせにさらされていることを聞いて驚いています。昨年夏まではUMRCのウェブサイトが攻撃されました。10月にはカナダ警察がトロントの博士の自宅を「地下室に放射能爆弾を隠している(!!)」という容疑で、11台のパトカーとヘリコプターで包囲し家宅捜査しました。もちろん、警察は何も発見する事ができませんでした。UMRCはこの件で警察を告訴しました。今年に入って、ワシントンの事務所が何者かによって荒らされました。また、博士の車のフロントガラスが何者かに割られたり、スタッフが乗って停車中の車に大型車がつっこんで衝突し、逃走するという事件も起こっています。

 今年に入ってからの事件は、昨年末以降博士とUMRCがカナダのポート・ホープという町の議会の要請に応えて、近くにある核燃料工場からでたウランによる住民の被曝調査を始めたことによるのではないかと博士は考えています。博士の活動に対して、原子力産業の側も手を出すなと嫌がらせを始めているようです。
 しかし、このような状況の下でも博士とUMRCはウラン汚染調査に対して強い熱意を燃やし続けています。放射能兵器を使い続ける人々への怒りは押さえることができません。京都での講演を通じて私たちが一番感動させられたのは、この博士の人間性と不屈の熱意に対してでした。

 私たちは引き続きUMRCのイラク調査に支援を継続したいと考えています。UMRCはイラクから100以上の調査サンプルを持ち帰りました。これは現在イラクのウラン被曝の全体像を分析できる唯一の資料です。しかし、この分析は費用上の問題(人の尿サンプル分析は1人あたり10万円近くかかります)があって、まだ半分くらいしか分析が済んでいません。市民からのカンパで何とか分析を進めたいと考えています。皆さんに引き続きカンパをお願いする次第です。(1口1000円、郵便振替 00950−5−264696 口座名 UMRCイラクウラン被害調査カンパ事務局)
 また、同志社大学での講演の内容を詳しくお知りになりたい方は、その大半が私たちが最近発行した「初めて明かされる!サマワ帰還米兵、イラク住民の劣化ウラン被曝−イラクウラン被害調査緊急報告集会・記録−UMRCアサフ・ドラコビッチ博士講演会 in OSAKA 2004,4,14 」に収録されています。あわせてお読みいただければと思います。
(A4判77ページ 頒価:700円 (+送料)お申し込み、お問い合わせは署名事務局まで。e-mail: stopuswar@jca.apc.org )

参考;講演については以下のマスコミで紹介されています。
『毎日新聞』大阪版:
http://www.mainichi-msn.co.jp/chihou/osaka/archive/news/2005/03/11/20050311ddlk27040456000c.html

『週刊京都経済』:
http://www.kyoto-keizai.co.jp/1890.html




関連:

 「UMRCイラク・ウラン被害調査カンパキャンペーン