日本の「参戦法」とアメリカの「報復戦争」についてのQ&A
−−−「日本の参戦法」編−−−

 

Q1.「参戦法」って何?
A1.
「参戦法」は、「テロ対策特措法」という新法制定と、自衛隊法改悪及び海上保安庁法改悪という旧法改悪の3つの部分から成り立っています。しかしこの3つのうち「テロ対策」に直接関係するのは前2者で、3番目の海上保安庁法改悪は、全くのどさくさ紛れ法案で、「不審船」などの領海侵犯に対して海上保安艦艇による船体射撃の基準緩和をするものです。それ自体攻撃的で危険なものですが、便乗としか言いようがありません。先日、米空母キティフォーク護衛に、海上自衛隊とともに海上保安艇が多数付いたことを想起します。
 「テロ対策特措法」だけがクローズアップされていますが、可決寸前になって自衛隊法改悪にも危険な部分が一杯あることが分かってきました。以下要点を見ておきたいと思います。
 第一に、「テロ特措法」は「テロ対策」の口実さえあれば、米軍支援の形で世界中どこへでも自衛隊を派遣することができる「海外派兵法」で、自衛隊法改悪は実際に海外でドンパチできるようにする「武器使用緩和法」です。つまり自衛隊を海外へ派兵し、そこで実際に戦闘できるようにする「武力行使法」と言って良いでしょう。この「テロ特措法」については特に重要なので次項以降に詳しく説明します。
 第二に、自衛隊法改悪の柱の一つは、在日米軍基地等の警護を警察から自衛隊に移管させることです。しかしこの「警備主体の移管」は我が国最大最強の武装部隊の重大な役割の変更につながる大問題なのです。一時、自衛隊の警備対象に首相官邸、国会、皇居も含まれようとしましたが、与党内からも反発が出て立ち消えになりました。自民党有力者は言います。もしそんなことが簡単にできれば「警備部隊が連携すれば簡単にクーデタを起こせる」と。別の有力者は「戒厳令のようになる」と反対しました。しかしこのような戦前・戦中を彷彿とさせるような法の改悪と自衛隊の権限拡大の恐ろしさを「クーデタ」と関連付けて真正面から非難した新聞・TVは皆無でした。私たちは警戒を怠ってはなりません。ちょっとした「警備対象範囲の拡大」で一瞬のうちに危険な状況が可能になるのです。一体このような恐ろしい絵を描いているのは誰なのでしょうか。
 第三に、ほとんど議論されず、どさくさ紛れに自衛隊法改悪に滑り込まされた「防衛秘密」漏洩に対する重罰化規定の問題があります。政府・防衛庁長官が勝手に「防衛秘密」を決め、それを漏らせば、自衛官・国家公務員・防衛産業社員、更にはそれを「教唆した者」と称してマスコミ関係者、ジャーナリストなど非常に大ざっぱな範囲の者までを厳罰に処す悪法です。「防衛問題」の報道が大幅に制限されたり自粛する傾向が出て来かねません。今回の参戦に関する自衛隊の数々の「クーデタ紛い」の独走等、自衛隊と防衛庁など軍隊の動向が秘密のヴェールに覆い隠される危険性が出てくるかも知れないのです。


Q2.「参戦法」のどこが、どう危険なの?
A2.今回の「参戦法」は、我が国軍事外交政策の大転換です。私たちはかつてPKO法に反対しました。しかしこれは国連活動という「制約」がありました。そして「周辺事態法」にも反対しました。しかしこれも「日本周辺事態」(朝鮮半島有事、台湾海峡有事等が想定されていました)という「制約」がありました。
 今回の「参戦法」はこれら過去の対米軍事協力とは質的に全く異なる新しい段階にエスカレートさせるものなのです。結論を先取りすれば、その特徴は、@自衛隊が、無制約な軍事目的、無制約な地域で、米軍の侵略戦争に参戦する、A大幅に緩和された武器使用が可能になることで武力行使ができる、この2点です。
 もう少し詳しくこの「参戦法」の危険性について考えてみましょう。4つのことを指摘しておきたいと思います。この4つの危険全部が、憲法違反ですし、戦後初めてのこと、軍事外交政策の大転換なのです。
 第一の危険は、戦争目的がアメリカに委ねられていること、アメリカが攻めたいと思った国や個人やグループ全部、つまり無制約ということです。PKO法は国連活動という「制約」がありました。日米安保条約は「日本の防衛」、周辺事態法は曖昧ですが「自衛権の延長」という「制約」がありました。しかし今回の軍事目的は「テロ組織の壊滅」「国際社会に主体的に協力」という非常に曖昧でどうにでもなる無規定なものです。先日のようにイラクやフィリピンへの攻撃範囲の拡大に際しても、首相や官邸は「その時に判断する」と、攻撃範囲の拡大にも同調する構えを見せました。これじゃブッシュ政権への「白紙委任状」ではないですか。
 第二の危険性は、自衛隊の地理的活動範囲が無制限になること、「テロ対策」という口実さえあれば、地球上どこへでも派兵可能になることです。インド洋・アラビア海・パキスタン等は、「日本の脅威」とは何の関わりもありません。一体小泉政権と自衛隊はどこまで米軍に付いて行くのでしょうか。危なっかしくてなりません。
 第三の危険は、武力行使に踏み切ることを決断したということです。米軍の手下として戦闘行為に踏み出す危険性です。「武器・弾薬の輸送」「武器使用条件の緩和」「自己の管理下に入った者を防衛する」「難民支援・野戦病院を防衛する」ために応戦する。等々。これら全ては戦場、あるいは準戦場地域で米軍の手下として様々な軍事活動を行いながら敵が攻撃してくれば「自衛」「防衛」と称して戦闘行為を行うものです。パキスタンやインド洋、アラビア海などに行き、戦場あるいは準戦場で、アフガンなどを毎日攻撃しタリバンや一般市民を殺戮している米軍と直接一緒になって軍事行動をすることは戦争挑発行為以外の何物でもありません。なのに攻撃されれば「正当防衛」「自然的権利」「自衛」の名の下に応戦することが現実のものになるのです。しかも「先制武器使用」(!!)までもが政府答弁で容認されると言う始末です。
 第四の危険は、自衛隊の対米軍事支援活動の期限が事実上無制限なことです。首相はいつまで続くのかとの質問に、「テロ組織を壊滅させるまで」と答えました。これじゃエンドレスじゃないですか。小泉首相は私たち国民をどこへ連れていこうとしているのでしょうか。


Q3.「事前承認」をするしないで大問題になっていますが、何が起こっているの?
A3.私たちは「参戦法」の危険性が何か「事前承認」の有無だけであるかのような報道に強い反発を感じます。民主党は、米の「報復戦争」を「理解」し、「参戦法」の中身にも基本的に賛成です。自民・民主の党首会談決裂後、鳩山氏は「協力したかったのですが」と困惑した顔で語っていました。「武器・弾薬輸送」から陸上を外す件については取引ができていました。「最後の一線」(実は"唯一の一線")が「事前承認」だったのです。小泉首相との間で裏取引できたとでも勘違いしたのでしょう。ばかげた議会主義の茶番劇です。
 しかしこうした野党第一党の堕落と自民・民主の野合で、一番被害を被ったのは国民です。対米軍支援は賛成というのがベースになったものですから「参戦法」の危険性がほとんど議論されず、わずか数日の弛緩した馴れ合いの質疑応答、首相の開き直りで、問題の本質が見事にはぐらかされごまかされてしまったのです。民主党の責任は重大です。
 とはいえ政府与党が「事後承認」に固執したのは、軍隊の独走を制限するシビリアン・コントロールにとって非常に危険なことです。「テロ特措法」は一般的な規定に過ぎません。どの位の兵力を、いつ、どこへ派遣するのか、そして何をするのか等、具体的規定は全て「基本計画」に記されるのです。この「基本計画」を国会審議の対象にし、ある程度縛るものこそ「事前承認」なのですが、政府はこれも拒否したのです。このままでは小泉首相とこの間次々と違憲・脱法行為をエスカレートさせてきた連中の好き放題、「基本計画」の白紙委任状になります。政府与党の暴走を何とかして止めなければなりません。


Q4.「集団自衛権行使」って何?なぜダメなの?
A4.「集団自衛権行使」とは一般に同盟国(今回は米国)が攻撃されたとき、自国(今回は日本)が攻撃されていないのに、自国が攻撃されたものと見なし、「自衛権」を行使することです。別のQ&Aで取り上げるように、米国はこれまで「自衛」と称して世界中に武力干渉や侵略を行ってきました。不用意に我が国がこの「集団自衛権行使」を認めれば、自衛隊を世界中に派遣しなくてはならなくなる、もちろん憲法に違反するのは明白等々の理由で、歴代自民党政権でさえ、この一線を越えるのを躊躇してきたのです。それ自体憲法違反の「個別自衛権行使」を認めさせるために、あえて「集団自衛権行使」を否定してきたという事情もあります。
 しかし今回、小泉政権は「集団自衛権行使」の事実上の容認に踏み切りました。しかもこれまで「集団自衛権行使」を禁止してきた憲法解釈、様々な公約や法解釈を全て否定しごまかして、一足飛びに「集団自衛権行使」をも超え出るような侵略行為そのものに踏み込もうとしているのです。
 今回の議論は従来の議論とは2つの点で大きく異なります。第一に、従来の議論はあくまでも「日本の防衛」「日本の脅威」が問題になって、「日本領土」や「日本周辺」で米軍が攻撃を受けたときに、自衛隊が出動するというものでした。(もちろん実際は米の先制攻撃に対する相手側の反撃を一緒に叩くということなのですが)しかし今回は「日本の防衛」や「日本の脅威」とは全く関係がないのです。パキスタンやインド洋・アラビア海等、米軍が軍事行動をする全世界が対象になってしまうのです。地理的な無制限性が際立った特徴です。 しかもいきなり「他国の領土」で武器使用を行う、「犠牲もいとわず」という好戦的な態度で戦場に出向くのです。
 第二に、米国は、今回の軍事行動を「個別自衛権行使」としていますが、今回のようなテロ犯罪の場合、国際法上「自衛権」そのものが成り立たないはずです。別のQ&Aで述べましたように自衛権行使云々の問題、国家と国家の間の戦争の問題ではないものを戦争と称して、なし崩し的に国際法を無視してばく進しているのです。(国際法無視については別のQ&A参照)だから今回の場合、「集団自衛権行使」の前提要件である米国の「自衛権」が成り立たないのです。「集団自衛権行使」とは全く別の次元の問題、単なるアメリカの傍若無人な侵略行動に参加し支援するという問題、侵略行為そのものなのです。


Q5.「参戦法」は、どういう意味で日本国憲法と相容れないの?
A5.とにかく憲法第9条の条文をもう一度見て下さい。「戦争放棄」と「交戦権の否定」は憲法の平和主義の根本原則なのです。まるで今回の小泉政権の暴走を予想して書かれたかのような、そのものズバリの規定だと思います。憲法は「戦争はいかなる理由があろうとしてはならない」と言います。逆に小泉首相は「ともかく戦争がしたい」と言うのです。

 第九条【戦争放棄、軍備及び交戦権の否認】
1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 憲法施行後、歴代自民党政権は、@米ソ冷戦と朝鮮戦争をきっかけに再軍備を行い「陸海空軍その他の戦力を保持」し、A「日本の防衛」「日本の脅威」の名の下に対ソ戦略を軸に日米軍事一体化を強化してきました。Bソ連崩壊後、1990年代に入ってからは朝鮮半島有事、台湾海峡有事等「日本周辺事態」を想定して、米軍との軍事一体化を更に推進してきました。これらを通じて憲法は空洞化させられ、解釈改憲という状況に陥れられてきました。
 しかし今回の「参戦法」はこうしたこれまでの枠組み、解釈改憲の限界をも一挙に取っ払おうというのです。一言すれば、世界中で毎日戦争をしている米軍の一部、一支隊になって、どこへでも出かけて米軍と一緒に、「武力威嚇または武力行使をする」「交戦する」というのです。まさしく憲法を破棄するに等しい行為です。


Q6.小泉首相は「憲法の枠内で考える。日本は武力行使をしない」と言っています。だから問題ないのでは?
A6.問題大ありです。論争の核心と言っていいでしょう。小泉首相の最大のごまかし、「殺し文句」がこの言葉なのです。ここでは2つのトリックについて述べます。
 (1)彼の最初のトリックはこうです。第一に「武力行使」を「空爆と直接攻撃」に狭く限定する。第二にそうした切り縮められた「武力行使」を「憲法違反」と自己流に解釈する。第三にそうすれば「空爆と直接攻撃」以外は全て「武力行使」でなくなり、「憲法違反」でなくなる。まさに言葉の遊びです。上で述べた憲法では「武力行使を放棄する」と明確に述べていますので、その条文に真っ向から反するために、ごまかしているのです。
 こんな馬鹿なことはありません。武力行使や戦争は、何も空爆や砲撃や直接攻撃だけではありません。それだけでは成り立たないのです。「参戦法」が想定している「武器・弾薬の輸送」も「燃料の補給」も、戦争で最も重要な兵站部門であり、「野戦病院の設置」も戦場で負傷した兵士への医療サービスであり、これら全てが武力行使の不可欠の一部なのです。「兵站をまず叩く」というのは軍事作戦のイロハです。政治家や軍事専門家の間ではあまりにも常識に属するものです。こうした議論は国民向けにただごまかしのためだけにやっているのです。
 現に政府はこれまでの答弁で「武力行使との一体化」活動も「武力行使」につながり違憲と認めてきました。内閣法制局のれっきとした正式の法解釈です。だから「戦場での武器・弾薬の補給や医療活動」「米国艦艇の防衛」等はやらないと明言してきたのです。しかし今回の「参戦法」に「武力行使との一体化」活動の一部を公然と盛り込みました。従来の政府公約を破棄してまでも武力行使に踏み切る姿勢を打ち出したのです。
 (2)もう一つ彼は武器使用に関するトリックを使っています。武器使用の緩和による武器使用を憲法の「武力行使」に当たらないと強弁しているのです。古今東西、侵略や軍事衝突の常套手段であったあの「自衛」や「正当防衛」という口実です。それを「武力行使」に該当しないというのです。これじゃまるで戦前の日本軍のやり口じゃないですか。
 兵站を担う自衛隊が攻撃される可能性、戦場・準戦場へ送り込まれた自衛隊が武器使用をする危険は非常に高いと考えるべきです。「自衛」「正当防衛」「自然権的権利」との口実で武器を使用すれば歯止めがかからなくなるのは当然です。要するにドンパチやるのを覚悟して派遣するということなのです。
 「武力行使」をめぐるこうした論争をしたくないために小泉首相はまず逃げ回り、次に開き直りました。所信表明では「具体的なことを申し上げるのは困難」「なぜ具体的なことを言えないか。法案が出ていないから」と言い逃れしていたのですが、法案が国会に提出された後、今度は一転して公然と開き直りを始めたのです。「憲法前文と第9条とのすき間」「あいまいさは認めますよ」「すっきりした、明確さ、一貫性を問われれば、答えに窮しちゃいますよ」「神学論争は止めましょう」「線引きは常識で判断する」等々。こうしたこんにゃく問答の核心が「憲法第9条が禁じた武力行使」に関する論争であることはすでに述べた通りです。
 国の将来像、国のあり方を決定付ける重大な転換点で、こんなふざけた議論を許して良いのでしょうか。日本はアメリカのように、いつでもどこでも世界中で侵略戦争や武力介入し続けてきた国のような「侵略国家」になっても良いのか、それともあくまでも「平和国家」を目指し続けるのかという国家のあり方の重大な選択をする時に、こんなふざけた議論、開き直りを許して良いのでしょうか。憲法と現行法との一貫した明確で論理的な説明が出来ないというなら撤回すべきです。


Q7.「テロ特措法」は国連活動? それとも米軍支援活動? 混乱して分からないのですが。
A7.露骨な米軍支援活動、米軍との一体活動です。国連活動ではありません。まさにご質問のように混乱させることが狙いなのです。ごまかしは112文字の途轍もなく長い名称の中そのものに出ています。本質である「自衛隊」と「米軍」が一言も出ていないのです。
 それは、米軍を支援して一緒に侵略戦争=武力行使の一端を担う活動であり、アメリカの侵略戦争に参戦することです。PKO(国連平和維持活動)としての難民支援、医療支援、停戦監視などではありません。小泉政権は、上記のような非常に危険な新法を通すために、全く性格の異なる2つの軍事行動−−米軍支援と国連活動を意図的にすり替えごっちゃにして国民の目をごまかそうとしているのです。われわれはこの2つともに反対ですが、新法はPKO国連活動より格段に危険なものです。


Q8.武器使用を認めなければ自衛隊員が危険にさらされる?
A8.危険にさらされるのなら自衛隊を派遣しなければ良いのであって、だから武器を使用させよというのは、本末転倒、盗人猛々しい議論ではないでしょうか。まず「戦場への自衛隊派遣ありき」から話を始めるから、そういう議論になるのです。議論の出発点そのものを議論しなければなりません。「なぜ自衛隊を戦場へ送らねばならないのか」と。
 歴史的にも戦争というのは「侵略するぞ」ということから始まった戦争などありません。廬溝橋事件などの日本の侵略戦争にしても、朝鮮戦争やベトナム戦争などアメリカの侵略戦争にしても、全て「自衛」「居留民保護」(今回ならさしずめ「難民保護」「正当防衛」ということでしょうか)を錦の御旗に侵略を繰り返してきたのです。だからとにかく軍隊を戦場へ送ってはならないのです。


Q9.緊急事態なのだから一度くらい良いのでは?時限立法なら良いのでは?
A9.別項でも言いましたが「緊急事態」こそがブッシュ大統領や小泉首相の「殺し文句」なのです。それを理由に「参戦法」は10月5日上程、10月18日可決という超スピードで強行されました。衆院の審議はわずか4日です。かつてのPKO法や周辺事態法でもこんなデタラメなやり方はありませんでした。わずか4日で我が国の運命が決められたといっても過言ではないでしょう。
 そもそも「緊急事態」「非常事態」を作り出したのはブッシュ政権です。「21世紀の戦争だ」「新しい戦争だ」と戦争を煽ることで、何でもありの状況を作り出しているのです。小泉首相や「参戦法」の裏で蠢く日本の戦争屋が「チャンス到来」とばかりに、憲法や現行法や従来の政府答弁等を一気に切り捨てようと企んでいるのです。そんな手に乗ってはなりません。
 一度でも認めるとそれは既成事実、実績になります。それを知りながら政府は歯止めにもならない「時限立法」を誘い水に法案の成立を狙っているのです。例えば次の局面で同様の事態が生じれば国内の好戦的な連中はまずこう言うでしょう。「あの時はOKしたのに。なぜ今回はダメなのか」と。同じ要求は米国からも突き付けられるでしょう。しかも「テロとの戦い」はいつ終わるか分かりません。民主党の言うように「1年」で区切っても、政府案のように「2年」で区切っても、時期が来れば再び「更新」されるのですから、結局は歯止めにならないのです。
 現に福田官房長官は10月15日、「テロ特措法」とは別に「テロ対策恒久立法」が必要だと表明しました。政府与党は、来年1月からの通常国会で、国内戦時体制作りの基本になる「有事立法」を上程しようと目論んでいます。これに、この「テロ対策恒久立法」を絡ませようと言うのです。この際何でもあり。懸案の軍事関連、治安弾圧関連立法を全部やってしまえという勢いで、あれもこれもぶっ込まれようとしています。非常に危険なことです。私たちはこの有事立法にも警戒していかねばなりません。


Q10.「参戦法」は現地パキスタンの事情、難民・医療等の事情は考慮されているの?
A10.ノーです。この「参戦法」は、主権国家パキスタン政府の意向や国民感情、難民の安全を全く無視したものです。その象徴的な出来事が、10月6日パキスタンへの自衛隊機派遣で、小銃の機外からの持ち出しをパキスタン側から拒否された件です。当然のことです。考えても見て下さい。他国の軍隊が勝手に武器を持ってズカズカ入り込もうとしたのですから。一体「平和ボケ」とは誰のことを言うのでしょうか。全く傲慢な行為です。
 しかもこの10月6日の自衛隊機派遣の名目は「援助物資空輸」だったのですが、早くて積載量が多い民間機を使わずに、わざわざ遅くて積載量が少ない自衛隊機を強引に押し通したのです。政府が一体何のために動いているのかがよく分かる実例だと思います。
 政府は「相手国の承認」を得た上でと言いますが、今回の「報復戦争」では米側が無理やりパキスタンを屈服させ、タリバンの支援を止めさせ、基地使用を認めさせているのは公然の秘密です。「相手国の承認」とは「承認」の強制に他ならないのです。パキスタン国内の反米デモの中に、「日本はアメリカの犬だ!」との声が上がり始めているのも当然でしょう。
 だから米軍と一体となった「難民支援」そのものが非常に危険になるのです。難民支援・医療支援で米軍側の日本軍がプレゼンスをすれば、逆に攻撃対象になりかねません。国連団体、NGO団体はやめて欲しいと言っているのです。
 なぜこんな転倒した法案が出てきたのでしょうか。それはパキスタンの実情から出た法案なのではなく「まず自衛隊派兵ありき」から出た法案だからです。


Q11.今回の「参戦法」制定過程で「クーデタ紛いのことが起こった」、「文民統制が崩れた」という話を聞きましたが本当?
A11.本当です。非常に恐ろしいことなので真剣に議論しなければなりません。何度もあります。
 まず第一は、各紙で9月末に報じられた米空母キティホークに海自艦隊と海上保安庁艦隊が護衛・随行した事実がそれです。これは我が国でシビリアンコントロールが崩れた瞬間でした。キティホーク護衛の一件は小泉首相と官邸(福田官房長官)も全く知らないところで決定され、米海軍当局の依頼を受けて日本の制服組=海自が独断で動いたのです。米軍が首相も国会も抜きに日本最大最強の武装部隊を直接動かしたということです!!自民党有力者でさえ、この異常事態を「クーデタ」と呼んでいます。 
 与党内部の警告から私たちも知ることになったのですが、新聞やTVは未だに事の重大性に警鐘乱打しないということ自体も恐ろしいことです。戦後初めて自衛隊が政府が全く知らない指令系統で勝手に軍を動かしたのです。60年安保の時もなかったような重大事なのです。自民党亀井氏が記者クラブでの会見で警告したのですから間違いないでしょう。彼のような軍国主義者・タカ派までもが「国家が危うくなる」事態だと懸念を表明するほどの重大な事件が起こっていたのです。なぜ野党はこの問題を追及しないのでしょうか。
 第二は、その後調子に乗った制服組が「9月27日には"調査・研究"と称してインド洋にイージス艦など自衛隊艦隊を送る」と更に暴走を始めようとしたことです。これも独走寸前段階で、先のキティフォークの一件もあったので批判を受け、一旦中止されました。(これは「参戦法」可決が確実視される中で再浮上しています)
 第三に、これに代わって、何が何でも軍を出動させたい制服組は、今度は10月6日のパキスタンへの自衛隊機派遣を要求し、即実施させたのです。これ自身が極めて危険な違法・脱法行為であることも新聞・TVで黙殺されました。なぜならPKOに基づいて派遣するなら「停戦合意」が不可欠の条件だったはずだからです。
 第四に、10月上旬、自衛隊は佐世保基地で4隻の自衛艦が弾薬を満載させ、いつでも出撃できる体制を取り、軍事演習の名目で法律の可決を待たずに出航させようとしました。とんでもないことです。
 「参戦法」が通過する前からこんな状況なのです。通過すれば一体どこまで制服組は暴走するのでしょうか。批判活動、監視活動を一瞬たりとも怠ることはできません。


Q12.「難民支援」なら良いのでは?
A12.政府が言う「難民支援」とは自衛隊が行う政府主導のものです。第一に、私たちは「難民支援」を自衛隊派遣の口実に使うことに大反対です。非常に汚い手口です。政府与党が自衛隊を何が何でもパキスタンに派遣するため持ち出した口実なのです。「難民支援なら仕方がない」との「国民の理解と善意」を逆手にとって事を運ぼうというのです。騙されてはなりません。
 第二に、日本が参戦すれば「中立国」でなくなります。タリバン政権にとって敵になるわけです。当たり前です。そんな中、日本の自衛隊が「難民支援」をやれば一体どうなるか。その「難民キャンプ」は攻撃対象になって非常に危険な状況に追い込むことになるのです。NGOはそんな自衛隊に「難民支援」などやって欲しくないと主張しています。ここでも日本政府は、現地の事情を全く考えずに、米側だけを見て判断していることが見え見えなのです。政府の狙いは「難民支援」そのものではなく、対米追随と自衛隊派遣だけなのです。
 第三に、アフガン軍事包囲と空爆で大量の難民を出しておいて、「難民支援」とは本末転倒です。空爆を即刻中止して、難民を出さないようにするのが一番大事なことではないでしょうか。最大の「難民支援」は戦争の中止なのです。
 第四に、よく考えると「難民支援」自身、何か本質的なことを見過ごしていると思いませんか。そうです。難民よりも圧倒的多数の国内に残された農民や都市民衆がスッポリ抜け落ちているのです。彼らは貧困のため、あまりにも国境から遠いため、老人を抱えているため等々の様々な理由で難民にもなれずに国内に残っているのです。まるで政府やマスコミは「難民支援」さえすれば事が片づくかのような言い口です。これも典型的な世論操作に他なりません。アフガン国内に残った人民の救済こそ先決のはずです。しかしそのためには戦争を中止するしかないのです。


Q13.日本は「タリバン後」の「受け皿」作りに参加すべき?
A13.絶対参加すべきではありません。ブッシュ政権が画策する「受け皿」は名実ともに「傀儡政権」に他ならないのです。一方的にアフガンを支配していたタリバン政権を打倒しておいて、外から人為的に新政権を作ろうというのです。こんな勝手な話がありますか。これはアメリカ、パキスタン、北部同盟、その背後にいるタジキスタンとウズベキスタンとロシアとイランの政治的思惑が先行して外野によって机上で作成された画餅に過ぎません。元国王を飾りにするとかしないとか、北部同盟がメインになるとかならないとか、タリバン穏健派を含めるとか含めないとか。今から収拾がつかなくなっているではありませんか。連中は一体何様なのでしょうか。うまく行くはずがないでしょう。再び内戦が始まるのは目に見えています。
 ブッシュ政権はアフガンの民衆を殺し国土を滅茶苦茶にした後は、後処理を他に押しつけて逃げるつもりです。だから「復興支援」は日本や国連の仕事だと言い回っているのです。調子乗りの小泉首相だけがはしゃいで飛び付こうとしています。全く無責任です。結局は再び膨大な死者と犠牲者を生み出し南西アジアと中央アジアを不安定にさせることになるのです。


Q14.「復興支援」と関連したPKO法の改正なら良いのでは?
A14.確かに最近「復興支援」参加がブッシュ政権側からも日本政府に要請されているようです。自衛隊派遣に反対する人々の中からも、「人的貢献」に流行るあまり「これなら良いのではないか」との声が聞かれます。
 しかしこの「復興支援」とは別項で述べた「傀儡政権」とワンセットです。この事実をブッシュ大統領も小泉首相も隠しています。しかも経緯からして日本がブッシュ政権の指図でカネを出し繰り人形のように動くだけのことです。「参戦法」で米側に立った「トゥゲザーUSA」の今の小泉政権に「中立」的対応はあり得ないのです。
 この「復興支援」をカンボジアの復興支援との関連で語られていますが、フンセン政権という権力主体がしっかりしており、別に日本が敵陣営に立ったわけでもなく、停戦後の監視を任務としたカンボジアPKOのケースと同じだと言うのはごまかし以外の何物でもありません。
 「参戦法」可決のメドが出てきたのでもう一度PKO法の改悪が浮上してきました。タリバン政権崩壊後の「傀儡政権」を軍事的に維持するために、その政権の軍事力の一端を担おうというのです。こんな危険なことはありません。同法改悪の柱は「他国軍隊の防護のための武器使用」と「PKF本体業務の解除」です。前者はまさしく「危険すぎる」「集団自衛権行使」に当たるとして「テロ対策特措法」でも除かれた規定で、「特措法」の危険を一段とエスカレートさせたものです。後者は「武力紛争停止の順守状況や武装解除の監視」「緩衝地帯での駐留・巡回」「武器搬出入の検査・確認」等、武力を背景に軍事活動を行うものです。米軍の意向に添った「傀儡政権」を軍事的に「防衛する」ことは、新たな内戦の当事者になるということです。毒を食らわば皿まで。政府与党はどこまで行くつもりなのでしょうか。


Q15.軍事以外の我が国の「国際貢献」はないの?
A15.上で政府の「難民支援」や「復興支援」等を取り上げましたが、今の小泉政権が自衛隊以外の関与をすることなど不可能でしょう。彼の頭にはブッシュべったりの発想しかなく、軍事支援や自衛隊を動かすことしかないのですから。
 現時点で実際にアフガン人民に「国際貢献」しているのは、小泉政権やブッシュ政権など西側諸国の政府機関ではありません。むしろこれら政府機関は戦争でアフガンの市民を殺戮し国土を破壊しまくってているのです。真の意味で「国際貢献」をしているのは、小泉政権の参戦に反対し難民支援や医療支援をしている小さなNGO市民グループだと思います。私たちも頭が下がる思いです。
 それでは私たち自身ができる「国際貢献」は何のでしょうか。色々考えてみましたが、私たちに出来る最大の「国際貢献」は、やはりブッシュ政権の「報復戦争」をやめさせること、小泉政権の参戦をやめさせること、もっと言えば私たちの署名運動で世論を喚起することだと思います。そして、小泉首相によって空洞化させられズタズタにさせられた世界でも希有の存在である「平和憲法」をもう一度徹底的に擁護すること、今こそ我が国の憲法の平和主義原則の重要さ、大切さを世論に訴えることではないでしょうか。


Q16.アメリカは今現在、アフガン以外にどの国と戦争し、どこに軍隊を派遣し配置しているの?
A16.事実は雄弁です。1980年以降だけをとっても、アメリカが行ってきた戦争と軍事介入の数々はざっと以下の通りです。(朝鮮戦争、中南米への介入、中東への介入等々、ベトナム戦争以前にも多くの侵略行為をしてきたことは言うまでもありません)文字通り「世界の憲兵」として振る舞ってきたことが一目瞭然です。ほとんど途切れることなく、常に世界のどこかの国・地域に対して、アメリカが戦争をしかけていることが分かると思います。特に冷戦終焉後、湾岸戦争以降アメリカはその軍事的覇権を一段と強化し、侵略行為はますます頻繁になっています。このような常時戦時状態を維持するために、アメリカは約20万人の兵員を世界の40近い国・地域に常時駐留させているのです。
 @イラン大使館員救出で特殊部隊侵攻(1980年)
 Aレバノン派兵(1982〜1984年)
 B第一次グレナダ侵攻(1982年)
 C第二次グレナダ侵攻(1983年)
 Dリビア空爆(1986年)
 Eパナマ侵攻(1989年)
 F湾岸戦争(1991年)
 Gソマリア軍事介入(1992〜1993年)
 Hハイチ侵攻(1994年)
 Iボスニア空爆(1994〜1995年)
 Jリベリア米等居留民撤収作戦(1996年)
 Kスーダン・アフガニスタン空爆(1998年)
 Lイラク空爆(1998〜1999年)
 Mユーゴ戦争(1999年)
 Nイラク空爆(2001年)
   Oアフガン侵攻(2001年)
 米軍は今世界中のどこで戦争や武力干渉や破壊工作をしているのでしょうか。大きなものだけでも以下の6地域があります。
(1)まさに現在、米軍は空母機動部隊をインド洋、アラビア海に集中させ、パキスタンを脅し、ロシアと中央アジア諸国を買収して基地使用を認めさせ、西側先進諸国の支持・協力を取り付け前代未聞の「国際翼賛体制」のようなものを作り上げ、世界でも最悪の最貧国アフガンに襲いかかっています。その戦争目的の一つは明らかにオマル氏という国家元首の殺害なのです。独立主権国家の指導者の殺害を何の理由もなくやろうとしているのです。
(2)10年の前湾岸戦争以降イラクに対する軍事的・経済的制裁と空爆は日常茶飯事になっています。そしてこれら中東地域ではサウジアラビアを筆頭に、クウェート、カタール、バーレーン、オマーン、アラブ首長国連邦といった湾岸王政諸国に米軍を駐留させ、ディエゴ・ガルシア島と併せて、アフガンとイラクへの空爆・軍事干渉の発進基地となり、中央アジアからアラブ、北東アフリカ地域一帯への前進基地となっています。
(3)バルカン地域では、99年に「人道的介入」と称してユーゴを空爆しセルビアをめちゃくちゃに破壊しました。しかしその結果今度はコソボでセルビア系に対する「民族浄化」が起こり収拾がつかなくなっています。米・NATO軍が民族紛争の片一方に加担したからです。米・NATOはボスニア・ヘルツェゴビナでも同様の加担をしたために、軍を撤退できなくなってしまっているのです。旧ユーゴのこれ以上の空中分解を恐れて米軍はマケドニアからも兵を引けなくなっています。
(4)ヨーロッパではドイツに大規模な軍を駐留させており、冷戦終焉後その規模は縮小したとはいえ、5万人の規模を維持し続けています。さらに米軍はイタリアにも基地を持ち、バルカン地域・中欧地域への前進基地として利用しています。
(5)アジアでは米軍は、北朝鮮を最大の「仮想敵」「ならず者国家」として「東アジア10万人体制」を維持し続けようとしています。96年に「核疑惑」をでっち上げ米朝危機が一触即発の危機にまで緊迫化しました。台湾海峡危機にも米艦隊を派遣し戦争を挑発しました。この2つの緊張の源泉になっているのが、在沖・在日米軍基地であり、在韓米軍基地なのです。
(6)中南米では、今なおキューバが米国最大の「仮想敵」です。厳しい軍事的経済的制裁が加え続けられているだけではありません。カストロ首相が米CIA等によって無数の暗殺未遂を受けてきたことは公然の秘密です。キューバ政局が危機に陥れば直ぐさま政権転覆に介入できるように、キューバ国内に米軍のグアンタナモ基地があるのをご存じですか。
 そして現在アメリカは、「麻薬撲滅戦争」と称して、コロンビア政府に対して大々的な軍事援助を行い、左翼ゲリラ掃討作戦を直接指揮指導しています。あろうことかベトナム戦争で甚大な被害を引き起こし世界中から非難された枯れ葉剤をここコロンビアで散布しているのです。枯れ葉剤のみならず、遺伝子操作の生物兵器も投入されているといわれています。
 11月にはニカラグアで大統領選挙があります。かつてレーガン政権の軍事的経済的封鎖と反革命軍(コントラ)テコ入れにより政権を転覆させられたサンディニスタ左翼政党の復権が焦点になっています。ここでも早速ブッシュ政権は選挙妨害工作に乗り出しています。アメリカが何をするか、米系マス・メディアが何を伝えないか、ぜひ注目しておいて下さい。


Q17.「参戦法」の先にある日本の姿は?
A17.前項で見たように、米軍は世界中に軍隊を派遣し世界中で戦争をしています。我が国は「世界の憲兵」アメリカの手下になろうというのでしょうか。
 私たちが恐れるのは、このまま新法が国会を通過し、「日本の防衛」や「日本の脅威」とは何の関係もない遠いパキスタンやインド洋など、「他国の領土」「危険なところ」へどんどん自衛隊を送り込んだり武器使用をしていけばどうなるかということです。軍隊は「自衛」「正当防衛」を口実に戦闘を繰り返したり、殺戮行為を繰り返す中で、凶暴になっていくものなのです。軍隊の本来の性格、本質である「侵略軍」に変貌していくのです。もはやそれは名実ともに「自衛隊」とは言えなくなるでしょう。戦後世界中で武力介入し侵略に次ぐ侵略を繰り返す中で米軍自身が、凶暴になってきたのと同じ道を辿ることになるのです。
 現地で「自衛隊」が攻撃されれば我が国の国民はどう反応するでしょうか。それも心配です。政府与党やマスコミは、反撃や懲罰を要求するでしょう。今回のアメリカのような翼賛体制ができないとも限りません。国民も好戦的になり傲慢になるのでしょうか。そんな中、政府与党内部の改憲論者が勢いを増し、集団自衛権行使などの憲法を否定する様々な議論が巻き起こるでしょう。いよいよ改憲が政治日程に乗せられる極めて決定的な事態が訪れるかも知れません。
 軍国主義と民族主義が扇動されるでしょう。軍国主義者が我が物顔で政治の世界を闊歩するでしょう。制服組が発言権を増し、シビリアンコントロールが効かなくなり、防衛庁は昇格し、軍需産業が栄えるかも知れません。等々。等々。皆さんもよく聞くと思いますが、自民党や右翼的保守的政治家達が言う「普通の国」「国際社会の一員」とはまさにこういう「戦争国家」のことです。
 「参戦法」はこうした新しい軍国主義日本の最悪のコースの第一歩となるのです。だから私たちは、こうした将来の日本の行方を左右する非常に危険な「参戦法」を廃案にしなければならないと考えるのです。
 もちろん上で述べたような「戦争国家」への道は一直線ではありません。自衛隊が実際に派遣された後、彼らが殺戮行為を働いたり、自らがタリバンや親タリバン派に殺されたり、危険な目に遭ったり、色々な場面があるでしょう。逆に戦闘から逃げ回って米軍等からひんしゅくを買うかも知れません。そのたび国内世論は揺れ動くでしょう。反戦運動はその時に本当の出番が来るかも知れません。しかし悪法は芽のうちにつみ取らねばならないのです。今の闘いを闘い抜いてこそ、それ以後のチャンスをものにすることができるでしょう。


Q18.米軍基地が集中している沖縄の現状が大変だと聞いていますが、どうなっているの?
A18.この署名運動には最初の段階から米軍基地に反対する多くの沖縄の女性達が主導的な役割を果たしていると聞いています。HPにも沖縄からの現地報告が掲載されています。詳しくはそちらの生の声を見ていただきたいのですが、掻い摘んで申し上げます。
 ブッシュ政権による「報復戦争」が始まる以前から沖縄の基地は異常な緊張に包まれています。事件から1週間で嘉手納基地からトルコへ空軍が出撃しました。アフガンにグリーンベレーが侵攻したと言われていますが、沖縄から出撃した可能性があります。沖縄の基地では特殊訓練が繰り返されています。今の沖縄の現状を見ていると、沖縄の米軍基地が「日本の防衛」や「日本の脅威」等のためではなく、中東など世界中にアメリカが侵略していく拠点であることが改めて証明されたと思います。
 また米軍基地が二重三重の厳重警戒態勢の下におかれ、米兵と並んで日本の警察が市民の方に銃を向けているとのことです。一体何を、誰を守ろうとしているのでしょうか。沖縄の市民、女性達が怒るのも当然です。
 沖縄県民は、アフガン侵略への出撃基地となっているやり切れなさ、フル回転する米軍による事件・事故の危険、「テロの恐怖」で不安が一杯だと聞きます。観光客や修学旅行生の激減で沖縄経済は大打撃を受けています。しかし「本土」の私たちは他人事のような顔をしていないでしょうか。基地が集中する沖縄の現状をどこまで理解しているのでしょうか。
 今後小泉政権が実際に参戦すれば、米軍基地の犯罪的な役割と沖縄県民の不安は更に一層高まるでしょう。しかし、それは「沖縄の問題」だけではなくなります。佐世保や、横須賀、三沢などの在日米軍基地、自衛隊基地、米軍が「新ガイドライン」で使用を求めている民間空港、港湾施設などもアメリカの戦争と一体のものになっていくはずです。今の沖縄基地問題は、小泉政権の参戦を放っておけば近い将来の「本土」の姿でもあるのです。
 私たちは沖縄県民と連帯しながら、小泉政権の参戦と闘っていきたいと思います。そして米沖・在日米軍基地からのアフガン侵略戦争への出撃に反対し、米軍基地の全面撤去のために闘っていきたいと思います。


Q19.「国際社会」が一致して対アフガン戦争を支持しているのだから従わねばならないのでは?
A19.確かに新聞やTV等日本のマスコミでは「国際社会」という言い方がされています。しかし「国際社会」とは一体何でしょうか。アメリカでありイギリスであり欧米の西側先進諸国であって、圧倒的多数の途上諸国ではありません。ましてやアフガンやパキスタンなどの当事者や、今回の「報復戦争」で緊張が高まる中東地域諸国のことではありません。突き詰めると「国際社会」とは親米の先進諸国のことであり、もっと突き詰めれば「米国」のこと、もっと有り体に言えば「ブッシュ政権」ということです。「長いモノに巻かれろ」という諺がありますが、要するにブッシュ政権の言うことを聞くのか聞かないのか、ということです。そんな必要がどこにあるでしょうか。
 だから政府・マスコミが好んで使ういわゆる「国際社会」の中には、米国内や欧州各国内の「報復戦争」反対の世論、反戦運動が一切含まれていません。全くふざけた言葉です。実際には「国際社会」は二分され分裂しているというのが真実でしょう。「国際社会」がどう考えるかが問題なのではなく、私たち自身がどう考えるかが大切なのです。


Q20.異常でヒステリックな「報復戦争」の大合唱と「国際的翼賛体制」にブレーキをかけることはできないの?
A20.米の対アフガン侵略が暴走し止まらなくなっている理由は、ブッシュ政権そのものの軍事的性格や米国民の報復感情だけではありません。日本や西側諸国全体が支持したり、参戦表明したり、とにかく「国際翼賛体制」とでもいうような煽り立てをやるからでもあります。
 とりわけ小泉首相の軽薄な対米追随とそれを我が国の世論が支持するからです。私たちの課題は、小泉政権の参戦をやめさせること、「参戦法」を廃案に追い込むことです。我が国の参戦を阻止することによって「国際翼賛体制」に決定的な打撃を与えることです。「参戦法」は国会通過が確実視されています。しかし通過しても、その矛盾が露呈するのは、むしろ通ってからです。私たちは参戦そのものに反対し続けながら、「国際翼賛体制」を揺さぶり続けていきたいと思います。
 先日米政権は国連に対して、イラクを含めたアフガン以外の国々にも攻撃を拡大する警告を出しました。戦争目的をビンラディン氏からアルカイダ・ネットワークへ、そしてタリバン政権打倒へ、更にはイラクなど他国へ、どんどん拡大させようとしているのです。また、米が「報復戦争」を開始した10月7日以降、西側先進諸国の間で参戦や軍事協力に一層拍車がかかっています。我が国がその典型的な事例なのですが、政府与党は「参戦法」可決を加速し始めました。フランスやドイツなどEU諸国でも同様のことが起こっています。非常に危険なことです。これらも、誰もどこもブッシュ大統領を止める者がいないがためです。
 とはいえその「翼賛体制」も一皮むけば同床異夢、政治的思惑と打算でドロドロです。「集団自衛権の発動」と勇ましい決定をしたNATO諸国でも、領空通過、補給艦の派遣、AWACSへの搭乗など限定的なものがほとんどです。あれだけ露骨に対米支援を表明したロシアでも領空通過だけで、軍を派遣しません。面従腹背、誇大広告が横行しているのです。イギリスだけが突出しているのです。日本で「参戦法」が強行されれば、イギリスに次ぐ規模の米侵略行動への参戦ということになるでしょう。「翼賛体制」は、局面が変わればバラバラになることが不可避です。小泉政権はこのような対米「翼賛体制」にどこまで付いていくというのでしょうか。


Q21.「報復戦争」に反対する反戦運動が殆どTV・新聞などで報道されませんね。どうなっているの?
A21.そうです。まるで報道管制を敷いているかのような状況です。しかしインターネットでは様々な情報が世界中を飛び回っています。同時多発テロ事件後初の一大反戦行動となった9月29日緊急行動は、ワシントンを初めとする全米で2万〜2万5千人を集めましたが、米国内はもちろん、我が国でも殆ど報道されませんでした。それ以降米国や欧州では毎日のように反戦運動が組織されていますが、これもごく限られた報道しか行われていません。
 ブッシュの侵略戦争をストップするのは米国内でどこまで反戦運動が高揚するかにかかっています。私たちが注目するのは、米国内の反戦運動がベトナム反戦運動の時よりも立ち上がりが早いということです。戦争が長期化したり、一般市民を広範に巻き込んだり、ブッシュ政権が調子に乗って他の国々に戦線を拡大したりすれば、必ずや米国民の多数から反発を買うでしょう。
 事件直後の米議会でただ一人「報復戦争」に反対票を投じた人物がいます。バーバラ・リー議員という黒人の女性議員です。非常に勇気ある行動だと思います。運動の先駆者の一人は間違いなくこの人でしょう。嫌がらせや脅迫が絶えないということですが、次第にその行動を支持する人々も増えているとのことです。往々にして真実や正義は最初はごく少数の人々によって訴えられ守られるものです。彼女自身、反対演説の中で、ベトナム戦争を拡大するかつての米ジョンソン政権に対して2人の議員が反対票を投じた先例を引き合いに出して、自分もそれと同じ様な行動を決意したと言います。ベトナム戦争が間違いであり、どれだけ甚大な被害をもたらしたかは、あますことなく歴史が証明しています。彼女の行動は必ずや歴史に残るでしょう。
 欧州でも反戦運動は活発化しています。特徴は1万人、数万人、10万人など、規模が大きく、米国や日本ではまだ見られない労働者の参加が積極的だということです。
 これら先進国だけではなく、アフガン、パキスタン、イラン、エジプト等のアラブ諸国、インドネシア等のアジアのイスラム諸国で、多くのイスラム教徒が反米闘争を強化し拡大しています。とりわけ世界中が注目しているのは、哀れなほどブッシュ政権に対する屈従的な態度に終始しているパキスタンです。いつ国内のイスラム教徒の不満が爆発するのでしょうか。


Q22.中学生・高校生・大学生等の若者達が署名運動を積極的に支持してくれると聞きますが?
A22.そうです。今回の私たちの署名は、過去の戦争を体験した高齢者の方々、憲法違反と侵略戦争に危機感を持つ多くの中高年の人々に協力を頂いているだけではなく、多くの若者達にも支援してもらっています。
 まだ署名運動は始まったばかりですが、その僅かな経験からしても若者達の署名への反応が良いのではないかと意を強くしています。上で述べたように、今回の参戦と参戦法は現在と将来の我が国のあり方、その道筋を決めるほどの重要な事柄なのです。小泉首相や今の政府与党の政治家達は「後は野となれ山となれ」で良いかも知れませんが、「戦争国家」の危険と重圧を受けるのはまさに今の若者達なのですから。若者達が不安を持つことは当然です。ユーゴ空爆の時も、湾岸戦争の時も、今回ほど良い若者の反応はなかったのじゃないでしょうか。
 小学校高学年、中学生、高校生などは非常に率直な意見を出しています。「なぜTVはアメリカ側の意見しか伝えないの」「日本は"ぱしり"にだけはなって欲しくない」「僕たちが大人になったら徴兵制になるの」等々。
 このHPでも紹介していますが、アメリカやヨーロッパでも、高校生・大学生を中心とする若者達が積極的に反戦運動に立ち上がっています。もしかすると新しい時代の予兆なのかも知れません。
 我が国では、反戦運動はまだ非常に小さいことが特徴的です。しかし全国各地で、まるで雨後の竹の子のように群生しています。数十人、数百人、1千人規模の集会やデモが毎日のように起こっています。かつてのような中心センターが欠如しているために、分散的で散発的になっており大規模な闘いになっていないだけで、エネルギーは決して小さくはないと思います。
 私たちも、危機感を持つ年輩者の皆さん、動き出した若者達、様々な階層・様々な職業の方々と一緒に学び闘いながら、小泉政権が始めた「参戦体制」作り、「戦争国家」作りに精一杯頑張って反対して行きたいと思います。



日本の「参戦法」とアメリカの「報復戦争」についてのQ&A
−−−「アメリカの報復戦争」編−−−

 

Q23.今度の「報復戦争」が国際法的に何の正当性もないというのは一体どういう意味?
A23.まずブッシュ政権の「報復戦争」は2つの別々の部分から成り立っていることを言わなければなりません。ブッシュ大統領も小泉首相もマスコミも私たちを混乱させています。そしてその2つともアメリカは国際法の原則を踏みにじっているのです。
 第一に、アフガニスタンという主権国家に対する戦争、アメリカという国家のアフガンという国家に対する戦争についてです。10月7日、米英はアフガニスタンを空爆し、ついに戦争を始めました。しかしこの国際法的根拠、正当性は何一つありません。アフガンがアメリカに戦争を仕掛けたでしょうか。ノーです。アフガンがテロをやったでしょうか。ノーです。アフガンがビンラディン氏を匿っているというのは理由になるでしょうか。ノーです。米英の行為は侵略戦争そのものなのです。
 アフガンは20数年にわたる長い長い内戦の中でGDPの統計もなく、経済基盤が破壊されてしまった最貧国です。だから何をしても良いというのでしょうか。もし先進国ならこんな非道なことはできなかったでしょう。貧しい国だから、貧しい民だから、虫けらのように扱っているとしか思えません。アメリカこそ野蛮です。
 第二に、ビンラディン氏に対する「戦争」についてです。私たちがわざわざ戦争を括弧でくくるのは、国際法上、テロリストに対する戦争など認められていないからです。いくら犠牲者が多いといってもテロは「犯罪」であり国際法に基づいて司法的な解決を目指さなければなりません。絶対、「戦争」や武力で解決してはならないのです。
 テロリストを「戦争」で片付けようとするから、アフガンの国家と民衆に多大な犠牲を強いなければならなくなるのです。国際テロリストは必ずどこかの国(今回はアフガンと言われています)にいます。複数の国や地域にまたがってもいます。とすればテロリストを捕らえるために、彼らが住む国々全てを侵略をし続けなければならなくなるのです。
 もっとあります。復仇はしてはならない、まず平和的手段を徹底して追求すべき等、国際法的には上記の他、戦争を食い止めるための様々な約束事があります。ブッシュ政権はこれらをことごとく踏みにじっているのです。
 米英を初め、ブッシュ政権を支持する日本を含む西側諸国は、第一次世界大戦、第二次世界大戦など、過去の悲惨な戦争と途方もなく甚大な犠牲を代償にして、やっとのことで作り上げられてきた戦争を防止する国際的な法秩序を根底から覆し、世界全体を無法状態、国際法の停止状態に陥れようとしているのです。世界最大の軍事大国だから、世界最大の経済大国だから、好き勝手に侵略をしたり国際法秩序を破壊しても良いとでも言うのでしょうか。どの国もアメリカの顔を伺い、支持したりけしかけたりするから止まらなくなっているのです。全く異常としか思えません。この暴走を止めるのは私たち市民一人一人の声、それらが集まった国内世論、国際世論しかありません。


Q24.なぜブッシュ大統領は、「新しい戦争」「21世紀型の戦争」という言葉を使っているの?
A24.まず第一に、一種のショック療法です。戦争なのだから、戦時体制なのだから、非常事態なのだから。等々。「戦争だから何をやってもいい」という体制や雰囲気を作り出そうとしているのです。国際法や既存法秩序の蹂躙をやりまくる「殺し文句」にしているのです。私たちはこの言葉にごまかされないようにしなければなりません。
 第二に、元々米政権とペンタゴンは、冷戦後、ソ連と社会主義世界体制と共産主義が壊滅してから、これに代わって前に出てきた敵は「イスラム原理主義」等の「国際テロリスト」だと狙いを定め、「国際テロを戦争で撲滅すること」を軍事外交戦略の目的の一つに据えようとしてきました。多少政権内の意思統一が後手後手にまわり、ごたごたしていますが、「新しい戦争」とは、想定していた「対テロ戦争」の戦略発動の側面があるのです。
 第三に、今のブッシュ政権が中東石油と中東支配、ペンタゴンの強化拡大に特別な利害を持つ政権だということです。「石油=軍産複合体」政権とも言われています。ブッシュ一族自身がテキサスで石油企業を持っていますし、大統領選の最大の支援者が石油=エネルギー業界でした。パウエル、ライス、チェイニー、ラムズフェルド等政権の中心は全てペンタゴン出身者かその関係者です。要するに戦争がしたくてたまらない戦争屋からなる政権なのです。
 しかし私たちが繰り返し言うように、戦争ではテロを解決できないばかりか、余計に次なる報復を生み出し「報復の連鎖」の口火を切るのです。すでにアメリカでは報復テロだとして炭疽菌騒ぎが全米を恐怖の渦に巻き込んでいます。「テロ対策法」は市民権等の民主的権利を抑圧し、治安体制の強化、「警察国家」体制が確立されようとしています。
 ブッシュ大統領と米政権は「21世紀の戦争」「新しい戦争」などといった扇動的キャンペーンで世界全体をそうした「報復の連鎖」や「警察国家」体制、「暗い時代」へ引きずり込もうとしているのです。そして小泉政権は全面的にブッシュ政権を支持し同調しているのです。一体、彼らのどこに人類全体を危険極まりない時代に導く権利があるというのでしょうか。許し難いことです。


Q25.オサマ・ビンラディン氏が犯人なの?
A25.そこが大問題なのです。私たちも分かりません。まず本人は繰り返し否定しています。タリバンも重ねて「確実な証拠」をアメリカに対して示すように求めてきました。しかし米側はただビンラディンを差し出せと言うだけ。「証拠」を一切示さないまま、問答無用と、ついに「報復戦争」に踏み切りました。こんな滅茶苦茶なことはないでしょう。 西側同盟諸国の政府には「証拠」と称するものを示したそうですが、私たち国民には何一つ示されていません。にもかかわらず「テロリストの側に立つのかアメリカの側に立つのか」(9月20日のブッシュ大統領演説)と世界中を脅して「踏み絵」を踏ませているのです。ごちゃごちゃ言わんと黙って従わんかいと凄んでいるのです。
 10月7日にビンラディン氏、10月9日にはアルカイダが声明を出しました。確かにこれらは「対米テロ継続宣言」とも受け取られるものです。しかしここでも直接の関与を明言しているわけではありません。(一部ではこれは事実上の「犯行声明」だとして「自白」に当たるような扱いをし、これまでの姿勢を転換し「国連制裁」を叫び始めました)
 変な話、先日イギリスから「証拠」なる報告書が出されました。しかも物的証拠は全くなし、全て状況証拠、それも驚くばかりのいい加減なものです。公表されたのは次の3つです。@「自爆」「組織的」「長期計画」などの「テロの手口」が同じ。Aハイジャック犯3人がアルカイダとのつながりがある。Bそれ以上は言えない。
 もっと変な話は10月12日の小泉首相による「証拠の開示」でした。あの国も、この国も皆ビンラディンが犯人だと言っているから犯人なのだ、というものでした。(もちろん出所は全てアメリカなのですが)「皆が"あいつが犯人"だと言うから、きっとあいつは犯人に違いない」(しかも言い出しっぺは一人なのです)という議論ほどデタラメなものはないでしょう。
 あるTVで「決定的物的証拠の謎」と題して2つの検証が紹介されていましたが、ここでも@「自爆指令書はビンラディンの筆跡と違う」、A「ビンラディンの電子暗号は事実上解読不可能」というものでした。小泉首相やブレア首相など西側指導者が口裏を合わせたように言う「決定的証拠」は今のところないのです。
 アメリカには「前科」があります。1995年に起こったオクラホマ州連邦ビル爆破事件で米捜査当局はビンラディン氏を犯人と断定しましたが、実際には米国内の白人右翼が真犯人と判明して大恥をかいたのです。米捜査のずさんさは他にもあります。1986年のパンナム機爆破事件で米側はリビアの2人を名指ししました。両国の間でもめた結果、結局は第三国オランダで裁判するとなりリビアは2人の身柄をオランダに引き渡しました。しかしそのうち1人は無実であることが判明したのです。残る一人の裁判は今も続いています。等々。等々。・・・もうこれ以上必要ないでしょう。


Q26.米政府は「限定的空爆」「一般市民の犠牲は最小限」と言っています。犠牲者が少なければ良いのでは?
A26.これほど人をバカにした言葉はないでしょう。中国や中東諸国までもがこの言葉でブッシュ政権を容認しています。米への支持と国民への言い訳、この両方を満たすための呪文のようです。この言葉を言えば後は何をしても良いかのようです。
 ブッシュ政権は空爆に当たっての演説で「アフガン民衆のことを考えて目標を限定している」「アメリカの寛大さ」などとうそぶいています。しかしこんな白々しいウソがあるでしょうか。10月9日にはカブールにある国連の地雷撤去NGO事務所がピンポイントで爆撃され4人の死者が出ました。またまた「誤爆」という言葉が新聞紙面を飾っています。病院、赤十字倉庫等々、民間施設や民間人の犠牲者は増え続けています。これを虐殺と言わず何と言うのでしょうか。
 ブッシュ政権や日本政府は今では「少々の犠牲はやむを得ない」と開き直っています。湾岸戦争の時、ユーゴ戦争の時と全く同じです。一般市民の被害が出るまでは「最小限に」と言い、被害が出てしまえば、まずは「それはタリバン側の宣伝だ」と否定し、否定できなくなれば、「仕方がない」です。こうした言い方は戦争屋の常套手段なのです。爆撃初日には20名の市民が殺され、10月10日までに空爆による死者は少なくとも300人前後になると言われています。これから武装ヘリによる対地攻撃が始まり特殊部隊が、北部同盟と連携して侵攻します。市民の犠牲者は急増するでしょう。
 犠牲者は空爆で殺される人々だけではありません。ほとんど黙殺されているのは、ここ数年の国連制裁で増え、今年の制裁強化で更に増え、ここ2〜3週間のアフガン封じ込め・包囲網の中で増え、開戦で一挙に増えた、膨大な難民の問題、更には難民にもなれないアフガン国内に残る圧倒的多数の民衆の飢餓と餓死、窮乏の問題です。すでに数十万人、一説では100万人が死にました。700〜800万人が飢餓線上で生死の境を彷徨っています。これでも「最小限の犠牲者」と言うのでしょうか。米日の政府やマスコミに騙されてはなりません。


Q27.米側は空爆と同時に「食糧投下」を行い人道にも配慮しているのでは?
A27.第一に、特に戦争中の「食糧投下」は「人道」ではなく「戦略」です。戦争で食糧援助の道を断ち切り米軍だけから供与することで、民心を惑わしタリバン政権を切り崩そうとするものなのです。投下された食糧の中には、ラジオが含まれています。カブールのタリバンの放送局爆撃大破とワンセットのものなのです。パキスタンのパシュトゥーン語BBC放送を聞かせようというのです。また盗聴器も入っていると軍事評論家は言います。これらが「人道」なのでしょうか。
 さすがに我が国でも、「前代未聞 空爆と並行食糧投下 米軍 アフガン飢餓回避へ」(読売新聞10月10日)というような米軍べったり、恥知らずの記事はごく僅かです。しかし3〜4万食で「飢餓回避へ」などと書く報道姿勢はもはやデマゴギーの領域です。
 第二に、ブッシュ政権の露骨な差別意識の表れではないでしょうか。まるで犬や豚のようにエサを投げ与える−−私たちは、何よりもこのような非人間的なことを平気でやるブッシュ政権の差別意識丸出しのやり口に我慢できません。それをそのまま支持し批判しない日本政府や日本のマスコミの対米迎合と堕落にも我慢なりません。制裁で飢えさせておいて恩着せがましくエサを与える汚いやり口。あえてアフガン民衆に屈辱を味わわせ、それを見て喜んでいるとしか思えません。NGOは「食糧支援をやるなら陸上から国連やNGOを通じてやるべきだ」「食糧投下は地雷犠牲者を増やすだけだ」との声をあげ批判しています。
 第三に、膨大な飢餓状況を創り出しておきながら、たった3〜4万食で「人道」でもないでしょう。アメリカが戦争をやっている今は、まさにアフガンでは来年の穀物の収穫に向けた種蒔きの時期なのです。数少ない農地を破壊し、農民を殺し、あるいは難民化させ土地から引き離しておいて、従って食糧自給の基盤を破壊しておいて、何が「食糧支援」、何が「人道」なのでしょうか。怒りを抑えることが出来ません。
 また9月11日以降のタリバン包囲網と国境封鎖、その前段階の国連制裁、そして10月7日以降の空爆による戦争開始で国内の飢餓状態が一挙に促進され、難民も急増しています。空爆を行い市民を殺戮しておきながら、そして何の罪もない市民を空爆と生命存続の恐怖のどん底に突き落としながら「人道」と言えますか。戦争と封じ込めで700〜800万人もの難民を生み出しておきながら「人道」と言えますか。


Q28.タリバン政権も間違っているのでは?
A28.今この「タリバン悪玉論」を持ち出すのは米の「報復戦争」を正当化するためです。世論誘導の一環なので気を付けなければなりません。日本や欧米のTV・マスコミの報道は完全に偏っています。「タリバンは野蛮だ」「処刑しまくっている」「麻薬を栽培している」「女性に教育をさせていない」等々。「だから戦争をしても仕方がない」と扇動しているのです。
 「タリバン悪玉論」は開戦に踏み切るまでもありました。タリバンは様々な戦争回避の提案やシグナルを送ったのですが、「証拠の開示」「第三国への差し出し」等、至極当然な条件を付けたため拒否されたのです。開戦後も同様の「和平提案」を繰り返し提示しています。しかしブッシュ政権はなぜ「証拠の開示」に応じないのでしょうか。対話を一切拒否しているのはブッシュ政権の側なのです。にもかかわらず米欧日の西側マス・メディアは、ブッシュが和平派、タリバンが主戦派と、正反対に描き出しているのです。卑劣極まりない情報操作です。
 開戦後も同じです。空爆被害に関する報道に関してアメリカとタリバンとどちらが正しいかと言えば、間違いなくタリバン側の報道の方が概ね正しいということを言わなければなりません。空爆による市民・民間施設への被害を丹念に見ていくと、タリバン側発表を後日米軍当局が記者会見で認めるといった例が多いのです。
 もう一つ「タリバン悪玉論」の中にはアフガンに「テロリスト・キャンプがある」という議論があります。しかしこれほど馬鹿なことはないでしょう。だからといって「報復戦争」が正当化されないことはすでに述べました。それは別としても元々そのキャンプを作りビンラディンらテロリストの一群を育て上げたのは米CIAなのですから。自分達の過去の「闇の仕事」や「破壊工作」や「政権転覆工作」を反省もせず、彼らが逆らったからといって抹殺するのはギャングのやり方です。「知りすぎたやつは殺せ」とでも言うのでしょうか。私たちは、ビンラディンらが司法的に処理され一番困るのは、アメリカ政府そのものではないかと勘ぐるのです。過去の汚いやり口をべらべらしゃべられたりしたらそれこそ大変なのだから。
 いずれにしても、アフガン人民の中に根強いタリバン批判があるのは事実です。しかしタリバンの圧政を打破するのはアフガンの人民そのものです。アフガンの民衆自らが自分の力で政治を変えて行かねば本当にアフガン人民のための政権は生まれないのです。外部からの介入は断じて許されない行為です。


Q29.米国などでアラブ系アメリカ人、イスラム教徒に対する差別事件が多発していますね。
A29.全く許せません。なぜ我が国では報道されないのでしょうか。現地報道を丹念に見ていくと想像を絶する深刻さです。ヘイト・クライム−−アラブ系アメリカ人とイスラム教徒への嫌がらせ事件−−は、モスクの破壊や放火事件、殺人事件、その他様々な脅迫や暴力という形で今なお増え続けています。
 マスコミでは「特定人種の乗客をチェックすることは必要不可欠」「アラブ系を集め、テロ組織との関係がはっきりするまで収容所に入れろ」「アラブ系を乗せるな」等の驚くべき意見が堂々とアナウンサーやコメンテイターから出ています。「外国からの留学生へのビザ(査証)発給の半年凍結」「写真や指紋押なつ制度の導入を含む規制強化」という法案が準備されています。学校では愛国心教育、星条旗への忠誠の強制などが広がっています。アメリカの民族排外主義は、世界最大最強の侵略主義と重なるため、特に危険です。
 全米200大学から留学生が退学し米国を脱出したことが明らかになりました。退学者の大半がイスラム教徒かアラブ系、東南アジア系の学生といいます。民族衣装を剥ぎ取るなどイスラム教徒、アラブ系の学生に対する嫌がらせが激増しています。嫌がらせや脅迫や暴力は東南アジア系、ラテン系やアフリカ系等、有色人種全体に広がっています。
 しかしこれら全体の責任を負わねばならないのはブッシュ大統領と捜査当局とマスコミです。「報復戦争」自体が人種差別を煽っているのです。また捜査当局はアラブ系アメリカ人やイスラム教徒をことごとく容疑者扱いし、全米で一斉に何の証拠なく多数の無実の人々を逮捕・拘禁しているのです。
 米国内の反戦運動は、「報復戦争」阻止だけではなく、人種主義的スケープゴート阻止、アラブ系アメリカ人・イスラム教徒・中東出身者を人種差別的攻撃から守れを統一スローガンにしているほどです。


Q30.米国を中心とする炭疽菌騒動をどう見れば良いの?
A30.炭疽菌テロの犯人はまだ分かりません。米当局もビンラディン氏とはまだ言いかねているようです。しかし「報復戦争」を始めたときから予想されていたことです。ブッシュ政権はどれだけ犠牲者を出せば気が済むのでしょうか。私たちの考えでは、まずは空爆をやめ「報復戦争」を中止すること、事態の沈静化を図ることです。
 それにしても何かおかしいとは思いませんか。ブッシュ大統領や小泉首相や西側の政治指導者達は、一方で「テロを撲滅する」として「報復戦争」を始めたり、それに参戦したりしながら、他方で「テロは100%起こる」「テロに備えるため国家保安局を創設する」「テロ対策法を制定する」「厳戒態勢をとる」等々と大騒ぎしているのです。しかもこの「テロとの戦いは2〜3年はかかる」「テロ組織壊滅まで続く」「終わることのない戦いだ」と意気込んでいます。−−「テロを撲滅するからテロが起こる」??これじゃ自家撞着(じかどうちゃく)そのものではありませんか。
 ブッシュ政権は「報復戦争」とこの炭疽菌騒動を利用して「警察国家」体制作りに躍起となっています。自ら「報復の連鎖」の口火を切りながら、全米・全世界に向けて毎日のように炭疽菌報道の大洪水で溢れさせ、人々に恐怖心と不安感を煽り、民主的権利を制限する国内の締め付け体制を強化しているのです。「農薬散布」「天然痘」等々、当局から次々と恐怖心が植え付けられています。警察に前例のない盗聴権限を与えるテロ対策法を作り、移民に対する人権侵害を合法化しようとしています。
 戦争や非常態勢は一時的には政権にとって非常に都合が良いのです。非常態勢ということは政府批判を許さないということです。新聞・TV等マスコミも政府批判を自粛しています。ブッシュ政権は今夏には米国経済が事実上リセッションに入り始めていたために、その経済政策をめぐって窮地に陥ろうとしていました。今回の「報復戦争」と炭疽菌騒動でそんなことはとりあえず吹っ飛んでしまいました。


Q31.ブッシュ大統領が呼びかけた「反テロ国際連合」に反対なの?
A31.大反対です。ブッシュ政権が強行している今のようなやり方、戦争で叩き潰そうというやり方、武力至上主義は百害あって一理なしです。なぜ「まず戦争ありき」なのでしょうか。まず第一に私たちが言いたいのは、ブッシュ大統領を先頭に日本やヨーロッパなどの先進諸国がまるで「翼賛体制」のように突っ走っている「反テロ国際連合」は、かえって戦争の火種を世界中にまき散らす以外の何物でもないということです。何でもかんでも戦争で対処しようという態度に大反対です。平和的解決がなぜ切り捨てられたのでしょうか。きな臭さがぷんぷんします。
 ブッシュ大統領は、事件2日後9月13日には、犯人をビンラディン氏と断定し、彼を匿うとしてアフガニスタンに戦争を仕掛けると示唆しました。犠牲者の数もまだはっきりせず、捜査も始まったばかり。証拠もまだありません。司法的手続きも国連も抜きにして「まずビンラディンありき」「まず戦争ありき」で突っ走ったのです。
 ブッシュ大統領は、米国民の衝撃と放心状態、怒りと復讐心という複雑な心理状況、意外と世界が同情的なのを逆手にとり利用して、政治的野心と軍事的本能を前面に出して一気呵成に勝負に打って出たのです。「善か悪か」−−まるで世界中が二流、三流の西部劇、単純明快な勧善懲悪もののハリウッド映画に乗せられているようです。とにかく私たちは、軍事的解決、戦争による解決が何か当たり前のようになっている異常でヒステリックな現状に呑み込まれないことが大切だと思います。


Q32.そもそも「テロリズム」とは何?色んな種類があるのでは?
A32.テロリズムの定義は決まったものがあるわけではありません。政治的目的を持っている、組織的集団的計画的、非戦闘員を対象にする、社会的に心理的影響を与える等々の暴力行為のことを指すようです。しかし政治的立場によって見方が全く違うのです。ここでは今回の事件に即して限定して述べたいと思います。
 まず第一に、「無差別大量テロ」。今回のNY等で起こったような一般市民を未曾有の規模で犠牲にする「無差別大量テロ」はいかなる政治的理由があろうとも許されません。これまでの数々のテロの常識をも超える残虐さです。私たちもこの犠牲者にどう向き合い、この悲劇をどう捉えれば良いのか、どうすれば二度と同じ悲劇を繰り返さずに済むのか、真剣に考えなければならないと思います。
 第二に、カルト集団のテロ。しかし今回のテロは、因果関係が全く予想も付かないカルト集団のテロとは根本的に違います。「いつ、何をするか分からない」という表面的な共通性で、政府や新聞・TVはこれらを一緒くたにして、原因の究明や背景についての真剣な議論抜きに恐怖感を煽ったり、問題を混乱させています。しかし今回のテロは攻撃対象から判断すればアメリカの軍事外交政策、金融的経済的政策を憎悪していることが明らかなのです。つまり原因と背景がはっきりしているのです。ここに問題解決の糸口があるのですが、米政府も米のマスコミも、それに追随する日本政府や日本のマスコミも異様なほど口をつぐんでいるのです。なぜでしょうか。この問題を問い詰めていけば、アメリカ自身の過去の所業とその軍事外交史、侵略史が俎上に乗るために、誰も避けようとするからです。
 第三に、「国家テロリズム」。ブッシュ政権の「報復戦争」は侵略戦争であり、「国家テロリズム」そのものだということです。開戦後のパキスタンやアフガニスタン、アラブ諸国やパレスチナ、インドネシア等のイスラム諸国の人民大衆は、「アメリカこそ国家テロだ!」というスローガンを口々に叫んで抗議しています。しかしアメリカの「国家テロリズム」を誰も非難しとがめようとはしていません。こんなひどい「二重基準」はないでしょう。
 これまでも同じでした。過去にもアメリカは世界中に侵略戦争を仕掛けてきましたし、イスラエルは中東諸国を侵略し続けてきました。しかし国連やマス・メディアから両国は一度も「国家テロリズム」と非難され、今回のビンラディンやアルカイダのようにその軍事力の破壊・壊滅を迫られたことはないのです。それこそ両国は「甘やかされ」続けてきたのです。この両国に対する「甘やかし」こそ、今回の同時多発テロの悲劇の背景なのです。このことを誰も語ろうとしないことに私たちは腹立たしさで一杯です。(アメリカが第二次世界大戦後どれだけの侵略を行ってきたかは別のQ&Aで答えたいと思います)
 第四に、武装闘争。民族解放闘争の極限的な形態であるテロも存在するということを忘れてはなりません。例えばイスラエルは長い間PLO(パレスチナ解放機構)をテロ組織と決めつけてきました。またかつて南アのアパルトヘイト体制=白人独裁政権は、現在の政権党であるANC(アフリカ民族会議)をテロ組織を決めつけました。しかし強大な軍事力で植民地支配を強行しようとする帝国主義者に対して、あるいは血の弾圧を繰り返す独裁政権に対して武装闘争の形で熾烈な抵抗闘争が生まれるのは当然のことなのです。
 10月初めに国連で開かれた「国際テロ問題集中討議」でも、まさに今ここで議論している「テロの定義」をめぐって大論争になりました。アメリカやヨーロッパの西側先進諸国は、かつて自らが支配した植民地や占領地域で、旧宗主国である自分達に刃向かう運動全部を「テロ」と呼んできました。しかしそうした旧植民地諸国である途上諸国から、民族解放闘争、反政府闘争などの正当な人民大衆の権利を「テロ」と決めつけたり否定してはならないとの抗議が出たのです。またイスラエルの「国家テロ」をテロリズムと認めるよう抗議があったのです。両方とも至極当然のことです。


Q33.「テロ根絶」の方法論をまず議論すべきなのでは?
A33.ブッシュ大統領が「報復戦争」を起こしていなければ、そういう議論が意味を持ったかも知れません。しかし10月7日には現に対アフガンの侵略戦争を始めたのです。私たちは、何は差し置いても、まずはこの戦争を中止させることが第一義的で最優先の課題であると考えます。今まさに私たちの前に突き付けられているテーマは「テロ根絶」ではなく、「報復戦争」の即時中止なのです。私たちは「テロ根絶」の方法論に議論を逸らせることには反対です。
 ブッシュ政権が率いる「反テロ国際連合」が主導権を握っている限り、「テロ根絶」を口実にして世界全体を戦争に引きずり込み戦争を煽るような雰囲気の中では、まともな形で「テロ根絶」の道や方法などを議論できるような状況にはないのです。結局、今「テロ根絶」を中心に据えれば、対アフガン「報復戦争」の渦の中に、戦争の大合唱の中に呑み込まれてしまうのです。こんな状況の下で方法論を議論すれば、「報復戦争」に躍起になっている連中の思うつぼです。相手の土俵に乗るような真似はしてはなりません。


Q34.どうすればテロをなくせるの?
A34.これも非常に難しい質問です。正直言って「テロ根絶」を一朝一夕でなくす妙案などないのではないでしょうか。まず問題を厳密に議論するために、「テロ犯の逮捕」と「テロの源泉の根絶」を区別しなければならないと思います。ブッシュ政権も日本政府も、この両者を意図的に混乱させ、ごまかしています。前者も非常に難しいのですが、後者はもっと難しいのです。米国や我が国の人民大衆は、政府側の宣伝やマス・メディアの報道によって、前者が「戦争」で簡単に片付くと思わされるだけではなく、後者もついでに片付くかのように錯覚させられているのです。
 ブッシュ政権が「テロとの闘い」「テロの撲滅」と言っているのは前者だけです。今回の場合、ビンラディン氏、アルカイダ、そしてタリバン政権とアフガン国家、更にはイラクやフィリピンなど「匿う国」にも攻撃対象が拡大されようとしています。どれも「テロ組織」の壊滅です。もちろんこれ自体アメリカのこれまでの侵略戦争と軍事冒険主義が生み出したこと、「戦争」で決着など付かないことは、すでに述べました。
 しかしブッシュ政権や日本やEU諸国は、もっと難しい問題、つまり後者の「テロを生み出す根源」には一切踏み込もうとはしていないのです。全く無責任ではありませんか。テロの源泉とは一般に「差別と貧困」なのですが、具体策になると気が遠くなる闘いと時間がかかることなのです。
 なぜブッシュ政権や日本政府は、後者の問題に触れようとしないのでしょうか。それはアメリカを盟主とする先進国が世界経済全体を支配するという従属的資本主義的で植民地主義的な構造そのものが批判の対象となるからです。現在、先進国と途上国、富と貧困の経済格差は、途方もなく両極端に拡大し続けています。先進国による途上国の収奪体制を構造的に変革し根絶することなしには解決へ向けて前進することは難しいと思います。


Q35.「テロ犯の逮捕・テロ組織壊滅」を「戦争」で解決するのはダメなの?
A35.戦争で解決することはできません。解決のためには、何よりもまず第一に、米英がアフガンに対する侵略戦争を即刻中止することです。アラブ民衆(アラブの政治指導者ではなく)、イスラムの民衆の目線から今起こっている事態を見ればどうでしょう。アフガンという小さな国に、世界全体が襲いかかる光景はまるでブッシュを先頭に最新鋭の兵器で武装した世界中のごろつきが弱い者をいじめ集団リンチにかけるようなものです。いくら小さくったって、いくら貧しくったってアフガンは主権国家です。しかもタリバンとムジャヒディンは人一倍独立心、自尊心が強いといわれています。理由もなくビンラディン氏を差し出すのを拒否したことが、国家そのものを壊滅させられる理由になるのでしょうか。
 世界有数の最貧国一国に、世界中がよってたかって襲いかかる構図は、それ自体が異常な姿としか思えません。鬼の首を取ったように毎日世界中の記者を集めて大げさな戦況報告です。「対空能力は撃破した」だの、「制空権を確保した」だの、「第二段階に入る」だの、「地上軍を送る」だの、「タリバンは内部で分裂している」だのの大騒ぎ。ブッシュ大統領やパウエルやラムズフェルドは鼻高々です。滑稽だとは思いませんか。制空権など最初からゼロに等しいのです。軍事的にあまりにも格差がありすぎて話にならないのです。何を自慢しているのでしょうか。恥ずかしいとは思わないのでしょうか。
 ますますアラブの民衆、イスラムの民衆の復讐の炎を燃え上がらせるでしょう。とにかく戦争でテロを撲滅することなどできない。不可能なのです。
 第二に、対アフガン戦争のみならず、アメリカが現に今世界中で繰り広げている侵略戦争と対外干渉、武力による威嚇や支配を即刻やめることです。特にアラブ諸国やイスラム世界で行っている侵略行為を即時中止し、中東から軍隊を全面的に撤退させることです。
 間違いなく、テロ根絶の第一歩は、米の過去の中東政策、軍事外交政策を根本から改め反省することです。イスラエルの侵略や武力支配、植民地拡張をやめさせ、パレスチナ民衆に平和と安定、何よりも真の独立国家を創設することです。そのためアメリカが行っている膨大な対イスラエルへの軍事的経済的支援をやめること、国連などですでに決議されているパレスチナ人民の自決権を実現させ、アメリカが拒否権を行使するのをやめること、先の南アのダーバンで開かれた「国際人種差別反対会議」でもあったように、パレスチナ人民の権利を守りイスラエルの侵略に抗議する国際的な合意を潰すことをやめることです。また主権国家イラクに軍事境界線を勝手に引いて我が物顔で領空を侵犯し、逆にイラク側がレーダーを向ければ、「眼を切ったな」と爆撃をする、そんなヤクザのようなやり方を即座に中止すること、湾岸戦争終結以来何十万人とも言われる乳幼児死亡者、国土の破壊・荒廃と産業基盤、医療・社会基盤の破壊をやめることです。


Q36.「甘やかせばテロリストが増長する。だからここで一気に戦争と武力で叩き潰さねばならない」という人もいますが?
A36.間違っています。まず第一に、この議論は歴史的事実に反します。イスラエルによるパレスチナ民衆の「自爆テロ」がなぜなくならないのか、なぜ戦争と「国家テロ」が「自爆テロ」をなくせないのかについては別のQ&Aで議論します。
 第二に、これは、アメリカの今の対アフガン「報復戦争」を正当化したい人、とにかく戦争がしたくて仕方がない人、とにかくどさくさに紛れて自衛隊を海外に派兵したがっている人、「平和国家」を憎み「戦争国家」への転換を目指す人の議論です。
 第三に、このような議論をする人の中には、米国の軍事力に依存して中東の石油を確保したいと目論んでいる我が国の政治家や財界人もいます。中東において、平和的で善隣友好外交、平等互恵の経済交流などの方法で石油を確保しようというのではなく、アメリカのやり方、つまり武力や陰謀で中東を支配し石油を支配する傲慢なやり方を支持する人達です。米は自国の石油メジャーの地位や石油利権が危うくなれば、「死活の利害」と称して軍隊を送り込み威嚇したり、言うことを聞かねば直接侵略してきたのです。米との軍事的経済的な結び付きを強めた反動的な王政を支持したり、中東諸国が民族主義的社会主義的な方向へ行けば、イスラエルという中東の侵略国家を使って武力でそれら諸国をねじ伏せてきました。私たちはそういうこれまでのやり方自体がテロを生み出してきたと考えています。


Q37.やはり5千人以上の犠牲者を出したのだから「報復戦争」は仕方ないのでは?
A37.第一に、この議論は「これ以上犠牲者が出ても仕方がない」という議論と同じです。確かに前例のない痛ましい事件でした。私たちも衝撃を受け戦慄を覚えるような事件でした。しかしだからこそ、もうこれ以上犠牲者を増やすようなやり方、すなわち戦争で犠牲者をどんどん増やすようなことだけは避けなければならないのだと思います。現にNYの犠牲者の親族の中には、「息子の死を戦争で汚してはならない」とブッシュ大統領に抗議をした父親がいます。また、あれだけ圧倒的なブッシュ支持の世論調査の中でも、矛盾した傾向、つまり戦争は支持するが、「犯人が特定されれば」「出来る限り市民の犠牲者が出ないように」等の限定がついていたりします。
 ブッシュ大統領と小泉首相、西側諸国の政治指導者の責務は、これ以上一人たりとも犠牲者を出さないことのはずです。なのに「多少犠牲者が出てもやむを得ない」「テロを撲滅するには犠牲は付き物だ」等という発言を平気でしています。「報復」を口実にしてただ戦争をしたがっているだけだとしか思えません。私たちは、国民の生命をないがしろにするようなことを見過ごすことはできません。
 第二に、この議論は「仇討ち」「復仇」を認めるということです。そのような議論をする人は国内でも「仇討ち」や「復仇」を認めるのでしょうか。きっと認めないはずです。なぜですか?なぜ国内では認めないのでしょうか?−−「仇討ち」を認めるということは近代法と近代裁判制度を否定することであり、暴力と殺人を認めることであり、社会全体を法的な無秩序のどん底に突き落とすでしょう。国内ではそんなことを認めないが、国際的には認めても良いということになるのでしょうか。そこにはアフガンや途上国とその民衆に対する露骨な差別がありませんか。
 第三に、この議論ではアフガンの民衆のことが一瞥もされていないことです。皆さんは、国連が1999年と今年、アフガンに制裁を課したのをご存じでしょうか。マスコミは一言も触れようとはしていません。しかしこの制裁が、アフガン民衆を苦しめ、膨大な難民を生み出し、飢餓状態を作り出しているのです。いいですか。すでにこの間の制裁でアフガンの罪なき民衆は5千人どころか、何十万人、一説によれば100万人も死んでいるのです。制裁を強引に押し通したのは他でもなくアメリカです。アナン事務総長が反対したにもかかわらず、です。制裁の理由は、やはり「ビンラディンの引き渡し」なのです。引き渡さないからという理由で、アフガン民衆を飢えさせ餓死に追いやってきたのです。
 NY等で5千人もの犠牲者を出したのだから「報復戦争は当然」という人は、一度立ち止まって考えて下さい。アフガンの民衆とニューヨーカーのいのちを、知らぬ間に差別していませんか。NYの現場に、あるいは世界中の米大使館に手向けられた花束や哀悼の言葉が、同じようにアフガンの罪なき民衆や飢えに苦しむ子ども達に手向けられているでしょうか。アフガンの民衆も子ども達も人間です。虫けらではありません!
 私たちはNYの犠牲者を犠牲者にふさわしく丁重に哀悼の意を表さねばならないと考えています。同じように、あるいはこれまで虐げられ抑圧や収奪の対象とされてきたアフガンの民衆や子ども達は、NYの犠牲者以上に特別に丁重に扱われなければなりません。もし人間は差別や尊卑なく同等に扱われなてはならないとすれば、アメリカの「報復戦争」は決して許されないものです。
 第四に、米国民は、今回の事件をきっかけに、自国政府のあり方、その軍事外交政策のあり方を真剣に考えるべきだと思います。私たち日本国民が過去の侵略戦争と植民地支配を反省し戦後これを放置してきた戦後責任をも自らに問い詰めるべきであるのと全く同じです。
 NY等の五千人以上の犠牲者は、テロリストの犠牲者であるだけではなく、自国の歴代政権とその軍事外交政策、中東外交の犠牲者でもあります。ビンラディン氏を育成しテロ組織に仕立てたという意味ではCIA・ペンタゴンによる直接的な犠牲者です。NY等の犠牲者を本当の意味で弔うには、怒りの矛先を海の向こうの遠い貧しい国にいるテロ組織に向けるのではなく、自分達の足元、すぐ前にいるブッシュ大統領とその政権と過去の自国政権に向けるべきではないでしょうか。


Q38.「国連主導の裁き」をすればテロを根絶できるの?
A38.私たちもイエスと言いたいところですが、残念ながらノーです。問題は国連を動かしている「国連安保理事会」にその最大の限界があります。やはりここでもアメリカやイギリスが強力な発言権を持っているのです。かつてソ連が存在していたときには、米英の暴走に若干の歯止めがかかったのですが、ソ連崩壊後は歯止めがかからなくなっているのです。今回のようにロシアと中国が、アメリカの対アフガン侵略戦争を容認するような状況の下では、事態は更に危険です。
 現にアメリカはアフガンを破壊し尽くした後は、「傀儡政権」樹立に国連を利用しようとしています。国連機関が、米英や西側の意向だけではなく、中東諸国、社会主義諸国、途上諸国全体の意向が大きく反映され「中立」の可能性があればまだしも、今の国連はあまりにもアメリカに傾斜しすぎです。アナン事務総長は武力行使決議でない「決議1368号」(9月12日)を勝手に「武力行使決議に準ずるもの」と認めました。そのご褒美かノーベル平和賞も受賞しました。
 ブッシュ政権は都合の良いときだけ国連を利用しているのです。旧ユーゴの時もそうでした。まず空爆をやって破壊し尽くしてから、「旧ユーゴ戦犯法廷」を開設したのです。だから「国連による制裁を」という声がありますが、仮に「法の裁き」「国連の裁き」になったとしても、それは「旧ユーゴ戦犯法廷」等のように米主導の見せしめ的な、それ自体がイスラム教徒やアラブ民衆にとって更なる屈辱となるようなものにしかならないことは目に見えています。私たちは、「国連主導の裁き」をあまりにも美化することには反対です。
 また繰り返すことになりますが、「国連主導の裁き」はあくまでも上述した、問題の捉え方、考え方の前者にのみ当てはまるものであり、今回の事件に即して捜査し証拠に基づいて裁判を行い判決を出すというもので、「テロの源泉の根絶」、後者の解決にはなりません。政治的目的を持った今回のようなテロには、アメリカが行ってきた中東支配・石油支配を背景とする非常に複雑で長きにわたる怨念と復讐心の蓄積の歴史があります。アメリカの侵略の歴史、アメリカの金融的経済的収奪の歴史、社会文化的な侵略の歴史があるのです。こうした現代世界の軍事構造、金融経済構造そのものを根本的に改めなければ、解決に向けた前進はあり得ないでしょう。


Q39.ブッシュ大統領が今回のテロの原因や背景に触れたがらないのはなぜ?
A39.ブッシュ大統領は、9月13日の演説でも、9月20日の演説でも「犯人はアメリカの自由を憎んでいる」「アメリカの自由を潰そうとしている」等、全く抽象的な説明しかしていません。なぜでしょうか。
 空爆開始後、ビンラディン氏はイスラムの民衆はアメリカの何に怒っているのかを述べています。第一にイスラエルの暴虐への米の支援、第二にイラクへの攻撃と破壊の2つです。別の所ではアフガンへの制裁も述べています。ビンラディン氏だけではありません。様々な人々が述べています。要するにアメリカの中東政策、中東の石油支配に名を借りた侵略と暴虐の歴史そのものなのです。
 今回のテロは、攻撃された対象が、軍事的な象徴であるペンタゴンであり、繁栄の象徴であるWTCであり、大統領官邸そのものだったのです。これほどハッキリした目的はないでしょう。アメリカの軍事覇権、金融的経済的覇権、政治的覇権の象徴そのものだったのです。今回のテロは、アメリカの「一極支配」「世界覇権」そのものを憎悪しているのです。
 2つの世界大戦の時も、戦後も、ベトナム戦争の時も、米本土が「戦場」になったことは一度もありません。米は世界中で侵略と武力干渉を続けてきましたが、「戦場」になったのも、5千人以上の市民がまるでミサイルを撃ち込まれたような状況に陥ったのも初めての体験なのです。(WTCの廃墟は「爆心地」という言い方がされています)初めての「敗北」なのです。米国民の中から「なぜ"敗北"したのか」「原因と背景は何か」「なぜアメリカはここまで嫌われ憎まれるのか」という素直な声が出てくるのは不可避だったのです。ブッシュ政権は、このように自国の軍事外交政策が真剣な議論の対象になること自体を恐れたのです。そんな声をかき消す特効薬が戦争だったのです。


Q40.今回のテロはなぜ起こったの? 原因と背景は?
A40.もちろん本当のことは犯人に聞いてみなければ分かりませんが、反米という強いメッセージからすれば、ある程度推測はつきます。ここでは中東を例にとって軍事的背景と経済的背景を考えてみたいと思います。
 まず軍事的背景についてです。テロは戦争と暴力の中で再生産されるものです。直接的には内戦や紛争や侵略行為によって日常的に多くの同胞が目の前で死んでいく状況、暴力が日常現象になっている現状があります。中東やアラブ諸国では、それらの暴力はアメリカやイスラエルが持ち込み、現に目の前で繰り返してきたものなのです。中東・アラブ諸国の民衆が考えているように、アメリカが中東地域で行ってきた戦争に次ぐ戦争、暴力に次ぐ暴力が、それこそテロの温床だったのです。
 次に経済的背景についてです。アメリカやイスラエルが持ち込んだのは暴力だけではありません。石油メジャーによる石油資源の略奪は軍事的にも経済的にも米の中東政策の基本なのです。OPECの力は凋落の一途を辿り、アメリカや西側諸国は石油価格の買い叩きに成功しています。安い石油が、アメリカとドル帝国の「繁栄」の最大の源泉なのです。
 更にはアメリカを中心とするグローバル資本主義、ドルを中心とする通貨的金融的収奪がここ10年で一挙に世界全体を支配し席巻しました。通貨・金融による収奪が付け加えられたのです。
 テロの根源の一番の背景には、こうしたアメリカナイゼーション=グローバリゼーションの下での飢餓や貧困、失業や産業の崩壊、内戦や紛争の蔓延等々、途上国全体に広がっている絶望的などん底状態があります。アメリカの一極支配の対極にあるものです。世界中の富がアメリカと西側先進国に集中する構造、反面途上国は富が全部吸い上げられ何一つ残らない貧困、この両極の格差が益々広がっていく差別構造があるのです。
 アメリカを筆頭にG7サミット参加国は中東を初め途上国の「飢餓と貧困」に一体どう対応したというのでしょうか。今回のようにアフガンに対する軍事攻撃なら、アメリカを先頭に瞬時に「反テロ国際連合」のような異様な結束を示します。我も我もと競ってアフガン攻撃に邁進しようというまるで翼賛体制のような不気味なほど異常でヒステリックな結束です。それならなぜアメリカや日本や西側諸国はその前代未聞の力とエネルギーを、これまで世界中の飢餓と貧困に苦しむ途上国とその人民大衆の救済のために投入してこなかったのでしょうか。ここ数年「ジュビリー」という途上国の債務帳消しを求める運動がサミットなどを包囲する形で盛り上がってきました。しかし米を初めG7各国は、事実上この要求を黙殺し、値切り、一向に耳を貸そうとはしなかったではありませんか。


Q41.今回の事件の背景にパレスチナ問題があるの?
A41.まさにその通りです。事件のあったその日にすぐに、ある「パレスチナ過激派」の名が世界中に流れました。その後それは「誤報」だとされましたが、おそらく事情を知る世界中の殆どの人々は、事件の第一報を聞いたとき、ついにパレスチナ問題が爆発したと思ったのではないでしょうか。実は私たちもそうでした。それほどパレスチナ問題は今も爆発寸前であり急迫しているのです。
 今回の米同時多発テロで、パレスチナ住民の闘いは更に困難な状況に追い込まれています。パレスチナの子供達は昨年9月から「インティファーダ」という手に石を持ってイスラエル兵や戦車などに向かって投げつける抗議行動を継続しています。文字通り「監獄」のような生活、奴隷のような状態に反旗を翻したのです。しかし今年春からイスラエルは中東地域最大最新鋭の軍事力を、あろうことかこうした子供達や少年達に振り下ろしました。すでに1年間で600人以上の犠牲者が出ています。しかし世界中のマス・メディアはイスラエルの肩を持って、イスラエルの殺戮と暴虐を全く批判しようとしません。石を投げるのがなぜ「テロ」なのでしょうか。戦闘機や戦車で殺戮するのがなぜ「自衛」なのでしょうか。理不尽極まりないと思います。良くて「どっちもどっち」という報道が支配的です。
 しかもアラファト議長とPLO指導部は、イスラエルや米欧の政府やマス・メディアに気を使い対イスラエル闘争や反米闘争を自粛し、住民の怒りを抑え込もうとしています。パレスチナ住民の反発や不満はますます鬱積し、いずれは爆発するでしょう。これは当然のことです。


Q42.「報復戦争」の誤りはパレスチナ問題の歴史を見れば分かる?
A42.「自爆テロ」と「国家テロ」という構図がそっくりなのです。パレスチナ住民、中でもイスラム原理主義といわれる組織はこれまで、長い間にわたって「自爆テロ」でイスラエルに抗議をしてきました。そしてこれに「国家テロ」で応えてきたのが歴代イスラエル政権だったのです。しかもせいぜい爆弾を身体に巻き付けた原理主義者が行った「自爆テロ」に、イスラエル側はいつも強大な正規軍で住民を大量に殺戮し居住地区を破壊し尽くしてました。「甘やかす」どころか、何十倍、何百倍もの制裁と懲罰を加えてきたのです。エジプトやシリアや中東諸国が「アラブの大義」の下に結束しパレスチナの側に立って戦った数次の中東戦争がことごとくアラブ側の敗北に終わってからは、ますます「自爆テロ」が増えたという事情があります。
 しかしそれでも「自爆テロ」は後を絶ちません。なぜなのでしょうか。それは「自爆テロ」の根源が、イスラエルの暴力支配、武力支配だからです。そしてエジプト、ヨルダン、PLO等が次々とイスラエルとアメリカの軍事力に屈服させられてきたからです。イスラム原理主義の「自爆テロ」はイスラエルの帝国主義的なパレスチナ支配の結果であって、原因ではありません。イスラエルの圧倒的な軍事力に抗議する最後の手段、イスラエルという「国家テロ」が横暴を極める下での「貧者の武器」こそが「自爆テロ」なのです。
 今やイスラエルは中東地域で支配者面をし傍若無人で好き放題にしている「怪物」です。そして軍事的経済的な全面的バックアップによってこの「怪物」を作り上げてきた者こそがアメリカなのです。しかも米系のマス・メディアは、イスラエルが正義でパレスチナ側は不正義、イスラエルは文明でパレスチナは野蛮という、国際的なイメージ作り、世論捜査を行ってきました。パレスチナ問題は、アメリカとイスラエルによって完全にねじ曲げて私たち日本などに伝えられているのです。全く許せないことです。
 いずれにしても、武力ではパレスチナ住民の闘いも「自爆テロ」も抑え込むことはできないというのが、パレスチナ問題の長い長い悲惨な歴史が指し示している歴史的教訓なのです。今回の同時多発テロ後、「アメリカのイスラエル化」という議論もあるほどです。アメリカは今回のアフガンへの「報復戦争」で、イスラエルと同じ道を歩みはじめたのでしょうか。
 アフガンへの侵略戦争は、更なる「自爆テロ」を生み出し、更なる悲劇を生み出すだけです。イスラエルが西岸やガザ地区から軍隊を引き揚げ、一切の占領地から撤退を始め、軍事的経済的封じ込めを完全に解除するのでなければ、イスラエルによるパレスチナの植民地支配という構造そのものを変えるのでなければ、パレスチナ問題は解決に向かって一歩も前進しないでしょう。全く同様に、アメリカによるアラブ・イスラム諸国に対する軍事力を背景にした支配と抑圧をやめるのでなければ、問題解決に向かって一歩も前進しないでしょう。


Q43.湾岸戦争後のアメリカの対イラク政策も、今回の事件の背景にあるというのは本当?
A43.これも確かなことは分かりませんが恐らく本当でしょう。イラクは別項でも述べたように、米英と国連により軍事的経済的制裁で封じ込められているのです。今なお懲罰的な空爆が行われ、まるで米英空軍の実弾演習場のようです。そしてイラク空爆の出撃拠点がサウジアラビアと湾岸諸国なのです。
 対イラク経済制裁は、唯一の輸出品である石油の貿易を抑え込み、経済・産業基盤そのものを破壊しています。食糧や医薬品の不足が慢性化し、乳幼児や児童の栄養失調や栄養不良が蔓延、イラクの人民大衆の生活はどん底状態に陥っているのです。
 それだけではありません。湾岸戦争で米軍が大量に使用した劣化ウラン弾に被曝した多くの住民が放射能被害に苦しんでいます。しかし米系を初め世界のマス・メディアは、「悪玉フセイン」の宣伝はしますが、制裁がどれだけイラク民衆を苦しめているか、民衆自体の悲惨な状態を全く無視しているのです。




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