マザリシャリフ大虐殺の続編−−−−−−
コンテナに詰め込み窒息死させる「安上がりの大量処刑」が新たに発覚
●タリバン兵捕虜1000人以上が脱水・窒息死
●仕組んだのは北部同盟ドスタム派と米特殊部隊第595部隊
●捕虜の扱いに関するジュネーブ条約違反。ブッシュ政権の責任は重大

「人権のための医師団」(PHR)のHPより
http://www.phrusa.org/research/afghanistan/report_graves.html


タリバン兵が殺される謂われはない
 私たちは、アフガニスタンの民間人犠牲者の数をカウントし続けるヘロルド教授の研究と調査に注目し、折に触れて紹介してきた。しかしそれはタリバン兵の実態と死傷者数のカウントが困難だからである。私たちの考えでは、タリバン兵が攻撃され虐殺される謂われは一つもないし、捕虜にされ虐待される謂われも全くない。それはアメリカの対アフガニスタン侵略戦争が徹頭徹尾、国際法を踏みにじった不法なものであり、微塵の正当性もないからである。

「人権のための医師団」が告発−−1000人以上が脱水・窒息死
 8/19発売のアメリカの『ニューズウィーク』は、「アフガニスタンにおける死の護送」(The Death Convoy of Afghanistan)と題するスクープ記事を掲載した。日本版は8/28号(8/21発売)で、邦字紙各紙の国際面で衝撃を持って扱われた。
★ニューズウィークの原文全文は下記のアドレスで読むことができる。残念ながら日本版のウェブサイトには全文の翻訳がない。
"The Death Convoy of Afghanistan"( http://www.msnbc.com/news/795153.asp)

 その特集記事は、昨年11月、北部同盟に投降したタリバン兵を収容所までコンテナで移送する間に大多数が死亡していたことを明らかにした。同誌の報道は「人権のための医師団」(PHR、Physicians for Human Rights )の告発に基づくものである。PHRが今年1月シェバルガン収容所を訪れ、飢え、凍え、泥水を飲み、狭い収容所に詰め込まれた捕虜の過酷な待遇について調査していたときに、捕虜達自身の口から恐るべき虐殺事件の断片が漏れ、発覚したものであった。医師達は遺体を埋めたとされる場所の一部を試掘し、15ほどの遺体を見つけた。犠牲者は収容所近くの砂漠に大量埋葬されており、PHR調査や国連の内部報告書によると、犠牲者の数は1000人、あるいはそれ以上とされている。コンテナ移送による大量死については、地元住民やNGO関係者により以前から噂されていたが、同誌はPHRとともに改めて生存者やコンテナの運転手などから証言を集めて確実な証拠を示すことで事件の重大さと信憑性を内外に訴えることになった。
 しかも衝撃的なことは、後述するように、この「コンテナ詰め」が、意図的組織的に「安上がりの処刑」であったという事実である。単なる「移送中の事故」「偶然起こった不慮の事故」ではなく、大量処刑であったのだ。
★今年1月の調査報告については、特に予備的評価と題して「Preliminary Assessment of Alleged Mass Gravesites in the Area of Mazar-I-Sharif, Afghanistan:January 16-21 and February 7-14」に写真入りで詳細な報告がなされている。
http://www.phrusa.org/research/afghanistan/report_graves.html
★「人権のための医師団」(PHR)のHPに関連するニュース・リリース及び調査団の調査記録が掲載されている。
http://www.phrusa.org/research/afghanistan/report_graves_082202.html

コンテナ内で起こった地獄絵
 記事が伝えるトラック運転手の証言によると、北部のクンドゥズで降伏したタリバン兵をトラック13台でシェバルガンまで移送した。途中から荷台のコンテナに1基200人ほどずつ詰め込み、収容所まで約24時間走った。到着後、前の車のコンテナを開けると全員が窒息死していた。「死体が魚のようにバラバラと飛び出した」(運転手)。証言した運転手のコンテナは命令を無視して空気穴を開けたため、全員無事だったという。
 また同誌は、シェバルガンに収容された生存者にインタヴューし、コンテナに詰め込まれた捕虜たちが陥った事態を明らかにしている。24時間、水もなく空気の入れ換えもなく「家畜のように」詰め込まれていた。空気と水を求めてコンテナを蹴っていた者たちが、やがて互いの汗をターバンにしみこませて吸い始め、さらに何人かは気が狂い、ついには水気を求めて相手の指や腕や足にかみつき、そして「水をくれ」と叫びコンテナをかきむしりながら死んでいった・・・・そういう生々しい様子を克明に描いている。生き残った者たちも死者とともに死臭のする暗闇のコンテナの中でひたすら到着を待っていたのである。死亡したほとんどは若者だった。

安上がりの大量殺戮手段−−「コンテナ詰め込み」
 炎天下でコンテナに兵士を詰め込み虐殺するというやり方は「安上がりの大量殺戮手段」としてアフガニスタンの内戦でしばしば使われてきたらしい。しかも、この事件が起こったのは、11/25のマザリシャリフの大虐殺−−捕虜収容所へのCIAの関与に対してタリバン兵捕虜達が暴動をおこし、米軍による収容所丸ごとの空爆などによって400人とも800人とも言われる捕虜達が虐殺された事件−−の直後である。劣悪な移送条件の中で不手際から捕虜達が死んだのではなく、暴動に対する報復として、また暴動の防止策として、そして安上がりの処刑手段として密閉されたコンテナ移送が仕組まれたのは間違いない。
★私たちは米軍が関与したアフガニスタンでのタリバン兵に対する虐殺事件を継続してフォローしてきた。
「マザリシャリフの虐殺 これは米英軍の戦争犯罪だ!アムネスティが調査を要求」

大量殺戮を黙認し証拠隠滅したアメリカの責任は重大
 8月18日、PHRは「戦争犯罪と人道に対する罪につながる可能性のある証拠を隠匿、または無視している」として疑惑解明に乗り出さない米政府と国連を批判し、本格調査を求める声明を発表した。言うまでもなく米政府も国連も動く気配はない。極度に不安定なカルザイ政権の維持を最優先しているためだ。
★「タリバン兵 1000人窒息死疑惑 国連 対応に苦慮」読売新聞2002.08.23
★8/20付ロイターによれば国連は調査を中断したという。
「国連、アフガン捕虜死亡の調査を中断」(ロイター)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20020821-00000025-reu-int

 しかし単にそれだけだろうか?米軍の「関与」があったはずだ。当時、収容所には米特殊部隊のアドバイザーと米情報機関員が派遣されていた。主力は北部同盟ドスタム派との共同作戦で“成功”(??)を収めたという特殊部隊第595部隊である。ドスタム派は最も悪質、残虐、無慈悲といわれる軍閥だった。しかも米軍は事件後、調査を妨害した。なによりも、ラムズフェルド国防長官は、タリバン兵は捕虜ではなくジュネーブ条約の捕虜の人権保護規定は適用されないこと、つまり早い話が「虐待し殺しても良い」という姿勢を再三強調していた。米軍自身のタリバン兵に対する基本方針自体が今回の事件を招いたのは明らかである。国連の極秘内部メモは、これまでに集めた情報は「正式な戦争犯罪捜査を実施するのに十分」としているという。本格調査をすれば米軍の「関与」が明らかになるだろう。米軍と国連に逆らうことなしには本格調査など困難である。この大量殺戮を組織し(?)、あるいはけしかけ、黙認し、証拠隠滅を図ったアメリカの責任を徹底して追及しなければならない。

戦争犯罪の免責を画策するアメリカ−−国際刑事裁判所(ICC)設立を妨害
 アメリカや国連とは対照的に、欧州ではこのタリバン兵窒息死疑惑が反響を呼んでいる。欧州議会の左翼議員連合は、すでに今年6月、今回の疑惑でニューズウィーク誌がタリバン兵の移送先として報じたアフガン北部シベルガン近郊で、アイルランド人映像監督が遺体を埋葬した現場を撮影したビデオが公開された際に、真相究明を問題にした経緯があった。私たちもこの様子を報じた『ル・モンド』の記事を翻訳紹介した。今回の疑惑発覚はこの続編に当たるわけである。
アフガンで戦争犯罪を犯した征服者たちを非難する記録(Le Monde, 2002.6.14 より)

 先月に設立条約が発効した国際刑事裁判所(ICC)になぜアメリカは執拗に反対し妨害するのか?ベトナム戦争や湾岸戦争など、過去の戦争だけはない。まさに今回の窒息死疑惑がそうであるように、米軍兵士が戦争犯罪、人道に対する罪で訴追されるかもしれないこの国際裁判制度は、現に進行中のアフガン侵略そのものの遂行に邪魔になるからである。そして来るイラク攻撃に邪魔になるからである。7月1日、米軍機が結婚式場を計画的に「誤爆」して多数の犠牲者を出したが、この虐殺行為そのものも、その後現場で砲弾の破片・弾丸・血痕など証拠隠滅を図ったことも、米政府の圧力で国連調査は不問に付された。相次ぐ戦争犯罪が次々と闇に葬られているのだ。
 米ニューヨーク・タイムズ(2002/08/10付)は、米議会で最近成立した「米軍人保護法」により、ICCの刑事訴追から米国人を免責するために「米兵引き渡し拒否」を確約する協定を各国に強制し始めたことをスクープした。開いた口が塞がらないとはまさにこういうことを言うのだろう。どんどん戦争犯罪をやりなさい、もみ消しなさいと言っているのだから。NATO諸国と日本は対象から除外されているとのことだが、一部の新聞は日本にも二国間協定を迫っていると報じている。(産経新聞2002.08.23)協定を拒めば軍事援助を停止するらしい。
 とどまることを知らないアメリカと米軍の戦争犯罪をどうやって阻止するのか。どうやって国際法の俎上に乗せるのか。国際的な反戦平和運動の最重要の課題の一つである。 
★U.S. Ties Military Aid to Peacekeepers' Immunity(ニューヨーク・タイムズ)
http://www.nytimes.com/2002/08/10/international/10COUR.html?todaysheadlines
★EU、国際刑事裁問題で加盟候補国に同調求める(ロイター)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20020820-00000874-reu-int

2002年8月24日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局