2002年7月21日
大学等高等教育機関・研究機関におけるセクシュアル・ハラスメント防止への取り組みは、いま、セカンド・ステージへ向かおうとしている。多くの大学で事件が表面化しているが、大学等の対応は、依然として加害者の処分に偏り、被害を受けた人の権利回復の視点が欠如しているといえる。セクシュアル・ハラスメントの被害を受けた人は、加害者からの二次加害行為のみならず、相談や調査などの大学の対応過程および大学関係者、報道機関、司法機関等からの二次被害を受けており、二次加害・二次被害により被害はさらに拡大し深刻化している。
被害を受けた人が大学を去り、加害者が処分を受けるだけでは、もはや問題解決が図れないことは明らかである。大学等高等教育機関および研究機関は被害の深刻さと影響の大きさを真摯に受け止めて、被害を受けた人にとって良好で安全な学習・研究・就労環境を保障するために、真剣に取り組まなければならない。
セクシュアル・ハラスメントの被害の未然防止が、もっとも重要なことは言うまでもない。しかし、それでもなお被害が起きたときには、被害の拡大・再発と深刻化を食い止め、二次加害・二次被害の防止に努めなければならない。被害を受けた人の学習・研究・就労環境を回復するためには、二次加害・二次被害の防止が決定的に重要である。大学や研究機関は、組織をあげて、二次加害・二次被害防止のための努力を行わなければならない。
従来、大学等の取り組みには被害を受けた人の権利回復の視点が欠落していたことから、二次加害・二次被害は軽視されてきた。だが、本来、大学等のセクシュアル・ハラスメント被害への対応の目的は、被害を受けた人の権利保持と権利回復にある。セクシュアル・ハラスメント防止対策にとって、二次加害・二次被害の防止は極めて重要な課題である。大学等高等教育機関や研究機関だけではなく、国の関連機関、学会、司法、マスメディア医療機関等においても、問題を直視し、真剣に取り組むべきである。とくに、国の責任機関として、文部科学省の責務は重大である。
キャンパス・セクシュアル・ハラスメント全国ネットワーク第8回全国集会は、「被害を受けた人の権利保持と権利回復」をテーマにかかげ、2日間にわたり、さまざまな角度から検討を加えてきた。
私たちは、セクシュアル・ハラスメントの被害を受けた人の権利回復が十全に保障されることを求めて、下記の点を要望する。
(1) 文部科学省は、大学・短期大学・高等専門学校・研究機関に対して、第一次被害であるセクシュアル・ハラスメント加害行為の外形的判断にとどまらず、被害者の学習・研究・就労継続が困難になっている状況やPTSDなどの精神的被害および身体的健康への影響、相談や調査など大学の対応および加害者等の報復、脅迫、プライバシー侵害行為等によって被った二次被害・二次加害を考慮に入れた、セクシュアル・ハラスメント防止に関する指導を行うこと。
(2) 文部科学省は、大学・短期大学・高等専門学校・研究機関のセクシュアル・ハラスメント対応が、加害者の処分のみに偏向しないように、加害者の被害者への二次加害禁止や指導教員の変更、職場配置転換など、被害申立の段階での被害者の安全確保と学習・研究・就労環境確保のための緊急対応の必要性について指導を行うこと。
(3) 文部科学省は、加害者への処分あるいは措置が行われた後、被害がどれだけ回復されたか、被害者の学習・研究・就労環境が改善されたかについて、各大学に報告を求め、改善されていない場合には必ず徹底した指導を行うこと。
(4) 文部科学省は、二次被害・二次加害防止、被害者にとって安全で良好な学習・研究・就労環境を回復する権利およびそれらについての大学の責務について、ガイドラインあるいは防止規程等に必ず規定し、適切な運用を行うように、大学等に指導すること。
(5) 文部科学省は、厚生労働省の取組みを参考にして、大学等高等教育機関におけるセクシュアル・ハラスメント防止対策自主点検表を作成し,「自主点検と改善のポイント」といったパンフレットを全国のすべての大学・短期大学・高等専門学校・研究機関に配布し、実効性ある防止策の実施について指導すること。
(6) 文部科学省は、大学等高等教育機関におけるセクシュアル・ハラスメント実態調査を定期的に行うこと。その際、セクシュアル・ハラスメント行為が被害者の心身の健康および学習・研究・就労に及ぼす影響および二次被害・二次加害の実情と被害者への生活全般にわたる影響について考慮した調査を行うこと。ただし、調査の企画、実施、調査結果の公表に関しては、プライバシーの保護、安全の確保等、被害者の人権を尊重するとともに、調査を行う際には,倫理上の問題に十分配慮しなければならない。調査の企画・実施にあたっては、当事者および支援者、援助機関の意見を必ず聞くこと。
(7) 文部科学省は、二次加害・二次被害の防止を徹底するため、大学に対して研修教育を強化するよう指導をおこなうこと。
(8) 大学評価・学位授与機構における大学評価の項目に女性教員比率および「セクシュアル・ハラスメント防止施策」を導入し、定期的に評価を行うこと。私立大学に関しては、現在検討が行われている第三者評価・適格認定機関の認証を申請した評価機関の評価基準に、セクシュアル・ハラスメント防止対策および女性教員比率についての評価が含まれているかどうかチェックすること。
(9) 文部科学省は大学等におけるセクシュアル・ハラスメント防止のための財政的措置を行い、各大学等において必ずセクシュアル・ハラスメント防止予算を計上するように指導すること。
(10) セクシュアル・ハラスメント被害を理由とした休学の延長、有給休暇制度等を実施すること。
(11) セクシュアル・ハラスメント被害およびセクシュアル・ハラスメントに起因する被害を労働者災害補償保険法にいう業務災害と認め、適切な保険給付を行うとともに被害者の職場復帰の促進および適正な労働条件の確保を行い、労災認定に協力することを大学等に指導すること。
(12) 文部科学省は、各大学における被害者の権利回復のための取り組みの現状と課題?大学内部での運用上・制度上の障害および問題点、あるいは法制度上の問題点?について、大学および被害当事者または援助機関・団体などへの調査を早急に行うこと。調査結果をもとに、いずれの大学においても被害者の権利回復措置が取れるように、国としての施策を講じること。
(13) 文部科学省は、1999年通知以降のセクシュアル・ハラスメント被害実態および大学等の対応実態を分析し、当事者や関連NGOおよび大学等の意見を聞いた上で、大学等におけるセクシュアル・ハラスメント問題解決に有効な施策を行うことを目的として、「文部科学省におけるセクシュアル・ハラスメントの防止等に関する規程」を全面的に改訂すること。改訂にあたっては、規程の目的に被害者の権利回復とセクシュアル・ハラスメント防止を明記し、被害実態に即したセクシュアル・ハラスメントの定義の見直し、被害者の権利の明記、学習・研究・就労環境の保障、相談機能と問題解決機能の分離などに留意すること。
(14) 文部科学省セクシュアル・ハラスメント防止規程6条に基づく苦情相談への対応について、国立大学のみならず、私立大学等の学生・教職員(元職員・元学生および職員から被害を受けた者を含む)などからも苦情相談を受付け、当該大学に対する適切な指導を迅速に行うこと。
(15) 文部科学省は、大学等の相談窓口を担当できる専門性を持った相談員の人材育成のプログラムを開発し、要請に応じて大学等への相談員供給を行うこと。
(16) 文部科学省の責任において、大学外に独立した相談機関を設置し、学外でも安心して相談できる相談機関の整備について検討すること。相談機関の相談員は、セクシュアル・ハラスメントおよびジェンダー問題についての十分な専門性を有していなければならない。
(17) 文部科学省の責任において、すべての大学が利用できる独立の調査権限を有する調査機関の設置を検討すること。調査機関の調査委員は国および大学から独立し、公正な調査を行うことができる者で構成され、大学におけるセクシュアル・ハラスメントについての専門的知識を有する者でなければならない。調査機関が設置されるまでの間は、各大学の調査に対して、要望がある場合は、国による弁護士の派遣や弁護士費用負担などの援助を行うことを検討すること。
(18) 文部科学省の責任において、すべての大学等の対応に関する苦情申立を行うことができる苦情処理機関の設置を検討すること。二次被害などの苦情が申立てられたときは、前項の調査機関で苦情について調査するものとする。二次被害が認められたときは大学名を公表し、文部科学省から当該大学に対して是正勧告を行うものとする。
(19) 大学院間における院生の移籍・移動制度を早急に検討すること。
(20) 学部卒業後に被害申立を行った場合、卒業後に教職免許、実習の単位取得を可能にする制度を検討すること。
(21) 文部科学省は、加害者に対する教育プログラム・方法および出講・指導停止、研究室の配置換えなど、教育上・大学運営上の措置についての調査研究を推進すること。
(22) 文部科学省は、厚生労働省および法務省等に働きかけ、加害行為を行ったものに対する処罰規定および大学等の使用者に対する罰則規定を有するセクシュアル・ハラスメント禁止法(防止法)の制定に努めること。
(1) 相談員の系統的・継続的な研修を行い、二次被害のない安全で信頼できる相談窓口を整備すること。また、できるかぎり、第三者性のある学外の専門家を配置すること。NPO・NGOなどと、可能な限り積極的に連携・協力を行うこと。
(2) ガイドラインにおいて相談機能と問題解決機能の分離を明記すること。
(3) 相談、調停・調査等の手続きにおいて、相談マニュアル、調査手続き規則等を設け、被害申立人の秘密保持とプライバシー保護及び二次加害防止の徹底を行うこと。
(4) 二次被害防止、加害者からの報復や嫌がらせの禁止、被害申立を理由とした不利益扱い禁止をガイドラインあるいは防止規程に明記すること。
(5) 大学等は、セクシュアル・ハラスメントの被害拡大防止には、二次被害・二次加害防止が不可欠であることを認識し、防止対策は大学の責務であることをガイドライン等に明記すること。すべての構成員に対して研修・教育を系統的・継続的に行い、徹底的な二次被害・二次加害防止に取り組むこと。とくに、管理職および防止対策委員会委員および関係職員への研修は徹底して行うこと。
(6) 大学等は、セクシュアル・ハラスメント被害の温床になっている、研究室やゼミの運営・指導体制の見直しを図ること。
(7) 大学等はカリキュラムにセクシュアル・ハラスメントおよびジェンダーを必ず含めること。
(8) 大学はセクシュアル・ハラスメントを認定した場合は、直ちに被害者に対して謝罪を行い、被害者が望んだ場合は、謝罪を行ったことを公表すること。ただし、公表に際しては、被害者のプライバシーを最大限尊重しなければならない。
(9) セクシュアル・ハラスメント被害申立が行われた場合で緊急対応が必要なときは、加害者による被害者への二次加害禁止など、被害申立人の安全確保を優先して行い、二次被害防止、学業・研究・就労上の配慮、精神的ケアなどの措置を紛争処理手続きに先立って行うこと。それらの措置は、必ず、被害申立人の意思を尊重して行うこと。
(10) 学業上・研究上の配慮として、指導教員の交替や所属の変更、補習などの学習支援、単位の代替措置、セクシュアル・ハラスメント被害を理由とした休学期間の延長などを行うこと。単位互換制度を利用した他大学での単位取得等を保障すること。教職員が被害を受けた場合にも、被害者が安心して研究・教育・就労できるような措置を取らなければならない。
(11) 大学の対応によって就学環境が侵害され、事実上、同一大学等で就学継続が不可能になった場合および学位の取得が困難になった場合は、授業料返還を行うこと。
(12) 学生など他の構成員に対する被害拡大防止のために、授業担当者・指導教員交替などの教育的措置を行うこと。
(13) 大学等は、セクシュアル・ハラスメントの被害を認定した場合で、被害者が求めるときは、被害者および加害者の所属する学会に対して、被害の認定を通知し、学会内での対応についての要望を行うこと。
(14) 調停・調査手続きにおいて、被害者の意思に基づき、弁護士、カウンセラーなどの同席を認めること。
(15) 大学等は、被害者のセクシュアル・ハラスメントを理由とする労災認定に資料を提供するなど、積極的に協力すること。
(16) 大学等は、症状、医療機関および治療方法の紹介、薬の副作用など、セクシュアル・ハラスメント被害による心身の健康侵害に関する適切な情報を提供すること。
(17) 被害者から二次被害及び二次加害の申立があった場合は、大学は直ちにセクシュアル・ハラスメント手続きによる調査を行い、二次被害及び二次加害行為の禁止および被害拡大防止など、適切な措置を迅速に行うこと。
(18) 大学等は、被害者の権利回復措置を実現するにあたっての障害要因を明らかにし、大学内では解決困難な問題について、文部科学省など関係機関に働きかけること。
(19) 加害行為を申立てられた人に対しては、被害申立人への報復・脅迫、嫌がらせ、プライバシーの暴露などの禁止などを行い、被害者の安全確保と人権擁護のための措置を取ること。
(20) 大学等は、相談窓口の対応等、二次加害・二次被害の実態およびセクシュアル・ハラスメント被害の影響・実態を把握できる調査項目を含むセクシュアル・ハラスメント実態調査を定期的に行い、調査結果を大学等のセクシュアル・ハラスメント施策に反映させること。
(21) 各大学で実施している自己点検・自己評価において、セクシュアル・ハラスメント防止対策の実施状況に関する項目を設けること。ファカルティ・ディベロップメントにおいてもセクシュアル・ハラスメント防止に配慮した教育指導方法の実施に向けて取り組むこと。
(22) 大学等は、セクシュアル・ハラスメント防止のための予算措置を行い、防止施策への財政的裏づけを確保すること。
(23) 大学等は、加害者が人事院・人事委員会に不服申し立てを行った場合あるいは裁判所に処分無効確認を求めた場合は、被害者の安全とプライバシーの尊重を最優先すること。
(24) 被害を申立てた人に対しては、相談から調停・調査、処分などの措置決定での間および措置後までの、系統的な支援やケアの体制を整備すること。被害者が希望する場合は、学内外を問わず、大学は適切な「支援者」を用意し、その費用を負担すること。
(25) 大学等は、セクシュアル・ハラスメントおよび二次被害に基づく被害に関する医療費、カウンセリング費用について負担すること。
(26) 大学等は、学生が実習先でセクシュアル・ハラスメントの被害を受けたとき、あるいは二次被害・加害を受けた場合には、責任をもって対応すること。実習先でのセクシュアル・ハラスメント防止に努め、学生が被害の申し出を行った場合に、不利益な扱いを行わないように、実習先等に事前に周知徹底させること。
(27) 大学等は、学生がアルバイト先、留学先等でセクシュアル・ハラスメントの被害を受けたとき、あるいは二次加害・二次被害を受けたときにも、学生を支援し、問題解決のための適切な努力を行うこと。
(28) 大学等は、学生間のセクシュアル・ハラスメント防止にも努めること。大学近辺など、学生居住地域での学生の安全確保とセクシュアル・ハラスメント防止にも留意すること。
(29) 大学等は、加害行為再発防止のために、加害者への教育・再教育体制の整備を検討すること。
(1) 学会は、学会活動および学会に関連する研究・教育活動におけるセクシュアル・ハラスメント防止ガイドラインを策定し、安全で信頼のおける相談窓口の設置および問題解決制度を整備すること。
(2) 学会は、学会規則等にセクシュアル・ハラスメント防止と問題の適切かつ迅速な解決を図ることを明記し、セクシュアル・ハラスメントのない学会活動を保障すること。
(3) 学会のガイドラインは学会事務局職員を対象に含み、職員に対するセクシュアル・ハラスメントに適切かつ迅速に対応すること。被害の申し出を行ったことで、嘱託などの雇用関係にある職員に対して、雇い止めなどの不利益を与えないこと。
(4) 学会においてセクシュアル・ハラスメントが認定されて処分等措置が行われた場合は、学会誌などに被害者の同意を得た上で公表し、大学等の本務先に必ず連絡すること。
(5) 学会員を当事者として大学等で生じたセクシュアル・ハラスメントの被害が大学によって認定されたことが、被害者もしくは大学から通知された場合は、すみやかに学会内の活動への波及について検討し、被害が拡大されないように対策を講じること。
(6) 学会では、心理学、臨床心理学、法律学等専門領域に応じて、セクシュアル・ハラスメントの被害および影響、権利回復保障の手段等についての専門的な研究を促進し、司法・行政および大学等の施策に反映させること。
(1) 人事院・人事委員会においては、大学等教育機関におけるセクシュアル・ハラスメントが、性暴力であり、大学などで優位な地位や立場を利用して行なわれる学習・研究・就労の権利の侵害という特質をもつことを十分理解した上で、公平審査を行うこと。公平審査の実施によって、被害申立人が学習・就労環境を侵害されることがないように十分配慮すること。
(2) セクシュアル・ハラスメント事案の場合は、被害申立人の安全とプライバシーの確保を公平審査実施の基本原則とすること。
(3) セクシュアル・ハラスメント事案の場合は、請求者が公開の口頭審理を求めた場合も、被害申立人の安全とプライバシーの確保の観点から、公開審理を認めないこと。
(4) やむを得ず、公開審理を行う場合は、被害申立人の安全とプライバシー確保の観点から、被害申立人への証人申請を認めないこと。
(5) やむを得ず、被害申立人への証人申請が審理に不可避であると判断されたときは、匿名での取り扱いを行うこと、請求者と被害申立人との直接対面を行わないことなどの配慮を必ず行うこと。
(6) いかなる審理方式をとる場合においても、被害申立人を請求者および請求者代理人とは直接対面させず、公平委員が別室で被害申立人から聴取を行うこと。
(7) 上記いずれの場合も、カウンセラーあるいは医師を公平委員会で用意し、被害申立人が希望する場合は、付添い人の同席を認めること。
(8) 公平審査に提出する証拠および調書に記載する被害申立人の氏名は匿名とし、住所も記載しないこと。被害申立人以外の証人の場合も、請求者からの脅迫・報復のおそれなど合理的な理由がある場合は、住所記載の省略を行うこと。
(9) 公平委員会は、公正な審査を行う観点から、審理手続きにおいて、請求者側の被害申立人に対する人格攻撃やプライバシーの暴露を意味する発言を禁止し、二次加害の防止に努めること。
(10) 処分者側である大学当局は、公平審査において必ずしも被害申立人を守る立場を取るとは限らない。公平委員会は、審理手続きにおける被害申立人の権利保障に関する情報提供を被害申立人に直接行い、また、審理に関する被害申立人からの相談および苦情を受け付ける機会を提供すること。その場合、被害申立人の安全を最優先すること。
(11) 人事院・人事委員会公平審査においては、被害申立人が被害内容の詳細な証言を求められることやプライバシーの暴露などによって二次被害を受けないこと。公平審査において被害内容がつぶさに明らかにされ、請求者による被害申立人に対する誹謗中傷が行われるなど、公平審査が大学内における二次加害・二次被害の発生を誘発する場とならないように、被害申立人の人権に十分配慮して審査を行うこと。
(12) セクシュアル・ハラスメント事案の手続きについて、被害者の安全とプライバシー確保の観点から検討を行い、セクシュアル・ハラスメントの特質を考慮した独自の公平審査手続き規程を作成すること。その場合、被害当事者や援助機関および大学関係者から十分情報提供を受けること。
(13) 人事院は、平成13年7月31日「『懲戒処分の指針について』の一部改正について」(人事院事務総長通知、総参−593)において、別紙第2の1に付加された(10)のイおよびウの文言「相手の意に反することを認識した上で」を削除すること。
(14) 人事院同通知においては、セクシュアル・ハラスメント事案の懲戒処分においては、懲戒処分の対象となる職員に対して「十分な弁明の機会を与える」とあるが、被害者に対しても反論や主張の機会を保障し、被害者についても適切な手続きを行うこと。
(15) 人事院同通知においては、性的関係の強要およびわいせつ行為などの刑法違反に該当する身体的暴力については量定が重くされ(免職または停職)、言葉などの性的言動については量定が軽減されている(繰り返しの場合は停職または減給、繰り返しでない場合は減給または戒告)が、言葉によるセクシュアル・ハラスメントの場合も被害者の受ける損害は甚大な場合があることを考慮し、被害者が受けた影響や損害を重視した量定に改訂すること。「懲戒処分の指針」第一基本事項に、具体的な量定の決定にあたっての考慮事項として、被害者の被った損害や不利益、被害の心身および学習・研究・就労環境、生活への影響を加えること。
(1) 司法機関において、大学等教育機関におけるセクシュアル・ハラスメント事案を審理・捜査する場合は、セクシュアル・ハラスメントが性暴力としての特質と大学等での優越的な地位や立場を利用して行なわれる学習・就労・研究環境の侵害としての特質をもつことを十分理解した上で、審理・捜査を行うこと。
(2) セクシュアル・ハラスメント事案においては、被害者の安全とプライバシーの確保を最優先し、被害者の人権を尊重した対応を行うこと。
(3) セクシュアル・ハラスメント事案において、裁判官、検察官、警察官ならびに弁護士はセクシュアル・ハラスメントおよび被害者に対する偏見や無理解、社会通念に囚われた固定的な被害者像に基づく対応の現状を正確に認識し、改善すること。
(4) 裁判所は、和解による解決が表面的には両当事者の合意に基づくものであるように見えながら、実際には、被害者の救済を放置したまま、加害者の責任をあいまいにし、慰謝料を減額するなど、加害者に実質上有利な結論を導き出す結果になりかねないことに十分留意し、和解による解決に安易に頼らないこと。
(5) 裁判所は、公正な審理を行う観点から、審理手続きにおいて、加害者側からの被害者への人格攻撃やプライバシーの侵害を認めず、二次加害の防止に努めること。
(6) 民事裁判において、被害者のみに負わせているセクシュアル・ハラスメントの立証責任を転換した運用を行うこと。加害者がセクシュアル・ハラスメント被害のないことあるいは合意であることを主張した場合は、被害がなく、合意であることの立証責任を加害者に負わせること。
(7) セクシュアル・ハラスメント事案における損害賠償額の算定にあたっては、セクシュアル・ハラスメントの特質および大学等の対応や加害者の二次加害に起因する損害についても算定した上で判断すること。
(8) 警察は、ストーキング等のセクシュアル・ハラスメントについて、大学関係者から被害申立および相談があった場合は、適切かつ迅速に対応し、被害者の意思を尊重した上で、必要な場合は大学等に迅速に連絡を行い、大学と連携・協力すること。警察官の研修・教育を強化して、二次被害の防止に努めること。
(9) 検察は、捜査にあたって二次被害の防止に努め、被害者が希望する場合は、弁護士やカウンセラーの同席を認めること。検察官の研修・教育を強化して、二次被害の防止に努めること。
(10) すべての司法機関の関係者に対して、大学等高等教育機関におけるセクシュアル・ハラスメントの特質と構造に関する研修・教育を研修プログラムに基づき継続的・系統的に行うこと。研修プログラムには、ジェンダーおよび女性の人権についても含む。
(11) 司法研修所におけるカリキュラムに、セクシュアル・ハラスメントおよびジェンダーを必須科目として入れること。カリキュラム作成の際、被害者および援助機関,大学関係者の意見を必ず聞くこと。
(12) 弁護士会は、すべての関係者に対して、セクシュアル・ハラスメントに関する研修・教育を継続的・系統的に行うこと。
(13) 弁護士会は、セクシュアル・ハラスメント事案に適切に対応できる弁護士の養成・研修を早急に行うこと。また、弁護士の対応による二次被害の防止に努めること。
(14) 弁護士会においては、大学等との連携の要請に応え、大学におけるセクシュアル・ハラスメント問題の解決に積極的に援助を行うこと。
(15) 法律扶助協会においては、セクシュアル・ハラスメント事案について、大学等との交渉においても扶助を利用しやすいようにすること。
(16) 司法改革および法科大学院計画に必ずセクシュアル・ハラスメントおよびジェンダー問題を盛り込むこと。弁護士会は、法科大学院設置にあたって、司法におけるジェンダー・バイアスの是正を目的にかかげ、カリキュラムにはジェンダーおよびセクシュアル・ハラスメントを必須科目とするように、文部科学省および各大学に要請すること。
(1) 医療・保健機関は、すべての職種に対してセクシュアル・ハラスメントについての研修・教育を行い、外部の援助機関についての情報提供やカウンセリング機能の整備・情報提供などを行うこと。
(2) 医療・保健機関は、援助専門職による二次被害を防止するための研修・教育を徹底すること。
(3) 医療・保健機関は、被害者が被害申立を行う場合、意見書・鑑定書の作成など、積極的に被害者を支援すること。
(4) 日本医師会、日本精神病院協会、日本臨床心理士会、日本フェミニスト・カウンセリング学会においては、会員に対してセクシュアル・ハラスメントについての研修・教育を行うとともに、養成プログラムにセクシュアル・ハラスメント防止およびジェンダーの視点を盛り込むこと。
(1) 報道機関等マスメディアは、大学等におけるセクシュアル・ハラスメント手続きの目的が、被害者の安全で良好な学習・就労環境の保障という大学の責任を果たすことにあることを正しく理解した上で、報道を行うこと。マスメディアは、報道目的と報道の社会的意義を踏まえ、セクシュアル・ハラスメント報道に関するガイドラインを自主的に作成すること。
(2) 処分あるいは裁判の対象となった者の所属する学部や専門、年齢、学年など、被害者の特定につながる情報は、原則として報道しないこと。また、被害者が望まない詳細な事実の報道は行わないこと。
(3) 大学等の手続きが継続している間は、被害者の望まない報道は行わないこと。
(4) セクシュアル・ハラスメント事案については、被害者のプライバシーの暴露や固定的な被害者像に基づく報道による二次被害を起こさないこと。また、予断と偏見に基づく、興味本位の報道は絶対行わないこと。
(5) 取材や報道により被害者の安全や人権が侵害されてはならない。取材・報道による大学内外での被害者への影響等、被害者の安全を十分考慮し、被害者の人権を尊重して取材・報道を行うこと。
(6) 取材で得た情報の秘匿を厳守すること。
(7) メディア関係者は、セクシュアル・ハラスメントおよびジェンダーについて、十分理解と知識を得るよう研鑚に努めていただきたい。
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