注 : 被害者の氏名は、一人ひとりの墓碑銘を私たちの心に深く刻むために、書籍等に掲載された氏名をそのまま使用させていただいています。ただし、加害者や担当教師名等については、個人に問題を帰すよりも、社会全体の、あるいは学校、教師全体の問題として捉えるべきではないかと考え、匿名にしてあります。 また、学校名については類似事件と区別するためと、隠蔽をはかるよりも、学校も、地域も、事実を事実として重く受けとめて、二度と同じ悲劇を繰り返さないで欲しいという願いを込めて、そのまま使用しています。 |
S.TAKEDA |
S080503 | 2013.7.新規 | |||||||||||||||
2008/5/3 | 神奈川県の横浜商科大学高等学校の柔道部のKくん(高1)が、神奈川県の団体戦に応援に行った際、投げ込みの相手をさせられ、意識不明の状態になる。急性硬膜下血腫により遷延性意識障害(植物状態)になる。 Kくんは高校に入学してから柔道部に入り、柔道を始めた。当日は荷物番をしていたが、ウォーミングアップなしでいきなり、投げ込み相手をさせられた。大外刈りで投げられたあと、ふらふらの状態で、払い腰で投げられ、意識不明になった。 |
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経 緯 |
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診 断 | 手術の際、静脈洞に注ぐ架橋静脈がいたるところで断裂。多量の出血が頭蓋内に認められ、血腫の量も多量であり脳ヘルニアを起こしていた。 受傷は、急性硬膜下血腫を原因とするものであるが、その急性硬膜下血腫は、4月16日、柔道部の練習中に投げられることにより架橋静脈に微小な損傷を負うことで架橋静脈が脆弱化し、その損傷に加え、大会前の練習において投げられた際に頭部に加えられた回転加速度によって引き起こされたもの。 |
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背 景 | 左組みのAくんと、右組みのKくんとでは利き手が異なるため、受け身を取ることが困難な喧嘩四つの態勢をとらざるを得なかった。 喧嘩四つとは、右組みの選手と左組みの選手が組んだ場合の組み手のことをいい、通常の組み手に比し、受け身を取ることが難しくなる。 |
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被害者 | Kくんは当時、身長164センチ、体重52キロ。 高校で柔道を始める。それ以前には柔道の経験はなかった。 |
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行為者 | Aくんは当時、身長170センチ、体重105キロ。 中学年生から柔道を習い始め、中学生の頃には高校生を相手に乱取り練習をしていた。 当時、初段相当の実力を有しており、大会には同校柔道部の大将として出場する予定だった。 Kくんが入院中に両親と一度見舞いに来ただけで、その後は来ない。 |
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学校・教師の 対応 |
学校関係者は当初は見舞に来ていたが、6月になると2回しか来なくなり、その後ぱったりと来なくなる。 Aくんが両親と一度見舞いに来ただけで、他の部員は一度も見舞に来ない。学校から見舞いには絶対に行くなと言われたという。 事故から2週間後に学校から「今回の事故は一切責任がないので医療費は払わない」という内容証明がKさん宅に送られてきた。 |
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裁 判 | Kくんと両親が同校に逸失利益や介護費など約2億5600万円の損害賠償を求めて、提訴。 | |||||||||||||||
被告の主張 | 「Kくんは受け身を完全にマスターしていて、柔道の基本技術には差がない」「柔道で脳震とうはよくある当たり前のことで、何ら問題はない」と主張。 | |||||||||||||||
判 決 1 | 2013/2/15 横浜地裁で、原告の請求を棄却。 小川浩裁判長は、事故発生がKくんの入部後1カ月足らずだったことについて、「最初の6日間は受け身の練習をしており、Kは受け身を取る技術を有していたと推測される」と指摘。 体重が2倍以上ある同級生と打ち込み稽古をさせた点についても「高校柔道部では、体重差がある者同士の練習はままある」と危険性を認めなかった。 また、Kくんは事故の約2週間前に脳振とうを起こしていたが、「当時、どのような手順で復帰させるかについては一般的な指導が普及していなかった」とし、学校側に「注意義務違反があったとはいえない」と結論付けた。 |
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判 決 2 | 2013/7/4 東京高裁で、一部勝訴判決。 (確定) 難波孝一裁判長は、学校法人横浜商科大学高等学校に約1億7000万円の支払いを命じる。 顧問の注意義務違反について、「控訴人(Kさん)らが主張する、 @自ら練習状況を監視・指導すべき義務、 A練習状況を指導すべき安全配慮義務、 B生徒が脳震盪様の症状を呈した場合に重篤な頭部外傷の発生を回避する安全配慮義務 等は、いずれも本件注意義務の具体的内容をなす注意義務として、柔道指導教諭に認められるものということができる。」と認定。 「一般論としては、約束稽古は、乱取り練習と比較した場合、相手方から繰り出す技とタイミングを予想することが可能であることから比較的安全な練習方法であるとはいえる。しかしながら、他方で、試合前の練習では全力で技をかけることが多いところ、Aは、1年生ではあるが、本件大会で大将に任ぜられていたのであるから、その試合を前にした本件練習において、試合に準じた態度で臨むことは想像に難くない。しかも、AとKとは、技量差、体格差(体重差)が大きい上、両者が組み手をした場合、いわゆる喧嘩四つとなって、通常の組み手に比べて受け身をすることが難しくなることを勘案すれぱ、本件練習により、Kが何らかの傷害を負う危険性が高いことは、X教諭に十分予見可能であったというべきである。 加えて、X教諭は、4月20日に、Kから、同人が病院でその前日に脳震盪と診断された旨を聞いていたのであるから、X教諭としては、Kを本件練習に参加させないように指導するか、仮に、参加させるにしても、Kの安全を確保するために、練習方法等について十分な指導をするべきであり、これによりKの受傷は回避可能であったといえる。」 「しかるに、X教諭において、上述したような指導をした形跡はなく、本件大会当日も、本件練習を見ることができない場所におり、Kが準備運動すらしないまま本件練習に参加することを見逃した結果、同練習において、KがAから全力で投げられて、受傷(急性硬膜下血腫)したのであるから、X教諭は、本件注意義務に違反したといえ、かつ、当該注意義務違反とこれによるKの受傷との間には相当因果関係が認められる。 「既に、平成12年又は平成15年ころからスポーツ指導者に向けた文献で、一見大きな衝撃がなかったと思われる状況にもかかわらず、重症の脳損傷をきたした例やいわゆるセカンドインパクト症候群といわれる事例があることから、脳震盪後の競技への復帰については適切な判断をする必要があるといった趣旨の指摘がされていたところであるから、(中略)セカンドインパクト症候群について柔道界で広く認識されていなかったとしてもそれらによって、X教諭の予見義務が否定され、ひいては本件注意義務違反がないということにはならない。」 として、予見性と顧問の注意義務違反を認定した。 一方で、「Kは、4月20日、X教諭に対し、頭痛について病院を受診し、医師の診察を受け、脳CT検査を施行したが、異常所見は認められず、脳震盪と診断されたので、大丈夫である旨の報告を行い、(中略)頭痛、吐き気、食欲不振の症状が出てもこれを本件高校に知らせなかった、また、Kの両親らにおいても、Kの上記症状が自宅でも発生していたことに照らせば、これを認識していたといえるところ、父らも、上記症状を本件高校に知らせなかった。 控訴人らにおいて、Kに頭痛等の症状があることを本件大会前に本件高校に知らせておけば、X教諭において、Kを本件練習に参加させない旨の指示を事前に出すなどの対応策がとられ、本件事故が回避された可能性もあった」として、それぞれ10%の過失相殺をした。 両親の損害にについて、「Kが死亡した場合に比肩すべき精神的苦痛を被った」として360万円ずつ認定(10%過失相殺)。妹についても精神的苦痛を被ったとして、慰謝料として110万円を認める。 |
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参考資料 | 2010年11月27日学災連シンポジウム記録集「中学校武道必修化で子どもは安全か」/学校安全支援ネットワーク準備会、判決文、ほか | |||||||||||||||
日本の子どもたち (HOME) | http://www.jca.apc.org/praca/takeda/ | ||||
いじめ・恐喝・リンチなど生徒間事件 1999年以前 | 子どもに関する事件・事故 1-1 | ||||
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