子どもに関する事件・事故【事例】



注 :
加害者や担当教師名等については、個人に問題を帰すよりも、社会全体の、あるいは学校、教師全体の問題として捉えるべきではないかと考え、匿名にしてあります。
S.TAKEDA
060300 いじめ事件 2011.2.15 
2006/3/ 兵庫県神戸市の市立小学校で、7人の同級生らから精神的、肉体的暴力や56万円余り恐喝される等のいじめを受けて、男子児童Aくん(小5)が転校を余儀なくされた。
主な経緯 2005/4/25 文房具を買いに行ったときに、金を持たずにSがついてきた。Aくんがレジで精算しているところに消しゴムを持ち込まれて、一緒に精算した。
また、好きな女子の名前をばらされたくなければ万引きしろと言われて、Aくんは消しゴムを万引きする。

5/ Sから万引きをネタに、再び消しゴムを万引きさせられる。
Sに加えて、M、Tからも、自然学校に持っていく菓子を万引きさせられる。

6/ 自然学校のとき、SとTがAくんに、好きな女子のことを何度も言い、万引きしたことを担任にばらすぞと脅して、1000円をもって来させ、4人で山分けした。

6/ 水筒に入った冷たいお茶を勝手に飲まれる。(10月頃まで続く)

7/21 遊びに参加できないペナルティとして、5人の児童が金を要求。Aくんは翌日、5人にそれぞれ1000円を渡した。

8/ Sのグループ4人がジュース代として、Aくんから、1000円を受け取る。
バッティングセンターやボーリングセンターで遊ぶ金をAくんに何度も出させた。

9/ 4人が、ゲームセンターで遊ぶ金3000円をAくんに出させた。
9/ それまであまり親しくなかったKが教室で、「1000円でいいから、金を分けてくれ」と言い、恐喝に加わるようになった。

9/6 回転寿司にM、K、T、U(Sは習い事のため、一緒に行けなかった)と行き、Aくんに2万円を払わせ、釣を4人で分けた。

9/13 M、S、Tと再び回転寿司に行き、Aくんに1万円を払わせ、釣を3人で分けた。
寿司屋から出るところを偶然、教頭に見つかる。金の出所を聞かれて、自販機に置き忘れていたのをAくんがとり、Aくんが誘って寿司屋に行ったことにした。

9/ M、S、Kにそれぞれ菓子代として金を要求され支払う。その後も続く。

11/ Kが多くの児童がいる前で、Aくんに対して、「お前をいじめてやる」「お前はきしょいし、ノリが悪い。死んでほしいから」と発言。グループを中心に、周囲にいた児童らがうなずき、拍手した。
この頃から、クラスでAくんをいじめることが一種の流行になった。

12/ K-1ごっこと称して、集団リンチを受ける。

12/ Mからゲームソフト等を購入する費用として、5万5000円を要求され、渡す。
Aくんは「これで最後にしてくれ」と頼むが、その後も続く。
この頃から、恐喝金額が万円単位になる。

2006/1/ 暴力がエスカレートし、殴る、蹴るなどの暴行が日常化。

1/  Mから少なくとも5万円を脅し取られる。

1/末 Sは他の児童とともに、それぞれ1万5000円ずつ要求。

2/1 学校で掃除の時間に運動場の石拾いをしているとき、Mは「Aからは15万円以上はもらったな」と発言。

2/3 Sは他の児童とともに、AくんとBくんに5万円を支払うよう、再三要求。

2/4 恐喝がAくんの父親に見つかって、発覚。担任に調査と指導を依頼。
その後、何度も自宅に電話がかかってきたが、母親に出ないように言われて、Aくんは出なかった。

2/8頃 Aくんは給食時間に、いすを移動しようとして、そこにいた女子児童に「のいてくれ」と言ったが、どいてくれないので「のけ」と言って机をけったところ、女子児童から殴られて、口から出血した。
そのことをAくんは担任教諭に話していたがとりあってもらえなかった。

2/9 AくんがKからのドッチボールの誘いを断ったところ、「ドッチボールせんかったら、1億円な」と言われる。

2/10 5年生の学年集会で、Aくんの両親が、Aくんが「いじめられて、死んだら楽になるなと思いマンションの上から下を見た」という手紙を読む。
担任教諭は、児童間において、「きもい」などの言葉を言ったり、ボールを集中攻撃するなどのいやがらせがあったこと、これらがいじめであり、許されるものではないこと、多額の金員の授受があったことなどを説明した。

2/ 加害児童らにより、Aくんが家の金を盗んだから野球部をやめさせられたとする噂が流され、下級生や地域まで広まる。
Aくんは野球部をやめた。
Aくんや家族が近所のひとにあいさつをしても、無視されるようになった。
野球部の保護者からAくんや家族も避けられるようになった。

加害児童やその取り巻きに道で会うと、指をさしたり、声高に話しだしたり、すれ違いざま小声で、「バカ」「死ね」などと言われた。

2006/4/ Aくんと妹が転校。

転校後も、塾でいろんな噂がばらまかれたり、新しい野球クラブで練習中、加害児童らが集団で罵ってきたことがあった。
いじめ態様 「お前をいじめてやる」「お前はきしょいし、ノリが悪い。死んでほしい」「死ね」「うざい」「消えろ」などと言う。
Aくんが好きな女子生徒とキスをしろと言う。「『結婚してくれ』と言え」と言う。
ばい菌扱い。仲間はずれ。

学用品(筆箱、ノート、連絡帳など)や机などに、悪口などの落書きをする。
持ち物を投げる。隠す。壊す。
修正テープで机を真っ白にする。消しゴムをちぎる。
ジャンパーを足で引きずりながら、ごみ箱のそばに持って行く。
ランドセルをサッカーボールのように蹴りまわす。
ランドセルに「うんこ」「きしょい」などと書かれた紙を入れる。
給食時に、机を蹴られ、おかずがこぼれたりした。パンを投げる。給食を食べられないこともあった。
水筒のお茶を勝手に飲む。「お前の家の茶はまずい」と机に書く。

あてご(ボールを当てる遊び)で一人集中攻撃をする。顔面や腹部に至近距離から当てる。チャイムが鳴ると、わざと遠くにボールを蹴って、Aくんに拾いに行かせる。(そのために授業に遅刻して、Aくんは教師から怒られた)
野球をして遊んでも、加害児童たちはボールを持ってこず、Aくんのボールを使用。ボールをわざと紛失させたり、犬の糞や溝に向かって投げるなどした。
廊下を引きずる。いきなり足を出してひっくり返す。わざと押す。
Aくんが門限に自宅に帰ろうとしても、持ち物や自宅のカギを隠して、帰らせない。
K-1ごっこと称して、殴る、ける、ひっかくなどの集団リンチ。

万引きをさせる。

好きな女子のことをばらす、油性ペンで相合傘を落書きする、万引きを先生に言いつけるなどと言われて恐喝され、約56万円余りと親のクレジットカードを渡していた。
「お金ちょうだい」「お金くれる?」などの言葉をかけられることもあった。
金は学校のトイレや公園で手渡し、加害者のランドセルに入れる、Aくんの上着のポケットに入っているのを抜き取るなどの形で取られた。
Aくんが要求された金を持ってこないと、「はー、きしょい。死ね。近寄るな」などと罵った。
金を「忘れた」と言うと、Kは「家に取りに帰れ」と命令し、Aくんの自宅近くまで来て、金を受け取った。
被害者 Aくんは5年生になって、家の収入などを気にするようになっていた。
必要な買い物や参加していた行事も断り、できるだけ出費を抑えるようにしていた。

Aくんは、父親の旧札コレクションや財布からお金を持ち出していた。
筆箱などを頻繁にとられたため、休み時間には隣のクラスの友人に、預かってもらっていた。

2005年11月から2006年1月にかけてたびたび、Aくんは自宅マンションから飛び降り自殺をすることも考えた。しかし、1階フロアが血だらけになり、住民に迷惑をかけてはいけないと思い、断念したという。

2005/12/ Aくんは体調を崩し、急に吐いたり、朝、起きられなかったりした。しかし、休めば次の日、何を言われるかわからないと思い、学校を休むこともできなかった。

恐喝が発覚しても、仕返しが怖かったので、ほとんど覚えていない、忘れたと答え、名前や金額が言えなかった。
恐喝金額も少なめに話していた。安心できるようになってようやく、少しずつ事実を話せるようになった。
いじめのリーダー格のKの名前も、恐怖感から、一番最後にようやく話した、

Aくんは、誰から、どのように要求され、いつ、どこで、誰に、いくら渡したか、札の種類まで詳しく記憶していた。

いじめの精神的な傷を治すためにカウンセリングに通った。
被害者の親の認知と対応 5年生の1学期に持ち物に頻繁に落書きをされたり、なくなったりしたことから、母親が担任教諭に相談。
Aくんがよくズボンを破いたり、服をひどく汚して帰ってくるのを心配して、担任教諭に相談していた。
SとTより家のカギを隠されることが2度ほどあり、母親が加害児童らを叱った。
いじめの兆候を発見するたびにAくん本人や、教師、加害者の親に聞いても否定され、確信を得ることができなかった。

野球遊びをするたびに、頻繁にボールがなくなるので、母親は一緒に遊んでいる子どもたちに、「交替でボールをもってくるなどのルールづくりをしたら」とアドバイスし、なくしたときにはみんなで探しているのかを聞いた。しかし、改善された様子はなかった。

2005/9/13 二度目に寿司屋に行った際、教頭に偶然会って、家庭に連絡が入る。金の出所を問われて、自販機にとり忘れの1000円があったのでAくんがとったと嘘をついたことから、父親がAくんと一緒に酒屋に1000円をもって謝りに行った。

2006/2/4 Mから金の催促の電話がひんぱんにかかるのを不審に思った父親が、Aくんが自宅に訪ねてきた同級生らに、金を渡している場面を見つける。
その場は、「AくんからDS(ゲーム機)を買ってきてほしいと頼まれて、金を受け取りに来た」「今日の午後、母親と買い物に行くことになっている」とうまく言い逃れをした。
しかし、午後になって父親がUとMが道を歩いているところに偶然、遭遇。Mは「急に母親が行けなくなったので、友だちと遊んでいる」と言い訳するが、Mの親に電話をして事実を確認した結果、Mのうそが発覚。
担任に電話をして、調査と指導を依頼。 

警察に被害届を出したあとは、報復を心配した両親が、Aくんと妹を登下校時にできるかぎり送り迎えをした。

2006/4/4 Aくん両親と弁護士が、Aくんと妹の「就学校指定変更申立理由書」を校長に提出。
加害者 加害者のうち、SとMは同じ野球部だった。恐喝をしていた7名のうち6名は同じクラスだった。

加害児童らはAくんに、家の資産や車の値段、海外旅行の有無や旅行の回数などを何度もしつこく聞いていた。

加害児童らは、Aくんからとった金はゲームセンターなどで使っていた。

「お金くれる?」「お金ちょうだい」と言ったら、Aくんがくれたので、もらったと言う。
金額等、ほとんど覚えていないと言う。
他のいじめは、やっていない、覚えていない、誰もがやったりやられたりしている、やられたからやり返したと言う。


SとTは、NがAくんからとった金をさらにとっていた。(校長がAさんに報告した内容から)

2/ いじめ発覚後、MとUがAさん宅に来て、Mは「金を借りているのを思い出した」と言って、500円玉を出した。
「借りている額に思い違いはないか」と聞いてもとぼけていたので、Aくんの母親に怒鳴られて帰って行った。

2/7 MはAくんに、「脅し取った金でDSを買っていたのが親にばれたので、Aが親の金をとって買ったDSを借りていることにしてくれ」と言って来た。また、「おれ、そんなに金もらったっけ?」と尋ねた。

2/9 KはAくんに「ドッチボールに参加せんかったら、1億円よこせ」などと言っていた。

加害者の親の認知と対応 2005/7/ SがAくんの自宅のカギを自分のポケットに隠し持っていたことから、Aくんの母親が注意したところ、Sの母親から「カギをなくしたのを教えてやったのになぜ叱るのか」「もしも隠したとしても、ちょっとしたふざけ」と抗議の電話がかかってきた。
「Aくんがいじめられていると勘違いしているのではないか。単にいじられキャラなだけ」とも話していた。

2006/2/5 SとTの保護者が、「Aくんからお金をもらったので返しに来た」と言って、1万円を持ってきた。
また、「いじめられたと思ったら、それを跳ね返せばよい」という内容を発言。
(Aくんの母親は、SとTの親に対して『もらった』は事実とまったく違うから、子どもにきちんと話を聞きなおして、改めて来てください」と言う)

2/10 加害者の親たちは学年集会に参加して、初めていじめの事実を知ったという。

3/1 PTA会長とともに、恐喝加害者7人の保護者とAさん宅を訪問。Aくんの母親からいじめの内容を初めて聞く。父親が不在のため、後日話し合う。

3/15 AくんとKは、それぞれの両親同伴で、学校で面談。
その時、Kはいじめを認めるが、Kの両親はAくん側に謝らない。

3/ 警察に呼び出されたあと、Sの母親はAさん宅に電話をかけてきて、「万引きの常習犯!」と罵り、Aくんを電話口に出せと大声をあげた。(眠れず起きていたAくんにも聞こえ、ショックを与えた) 
 
担任教師・ほかの対応 2005/6/ 母親が筆箱にマジックで落書きされているのを発見、相談したことから、担任教諭が授業のときに、「誰がこんなひどいことをするんや」みんなに怒鳴った。しかし、誰も答えず、そのまま終わってしまった。

2006/1/ 担任教諭は、Aくんの筆箱をとった児童らに「いじめというゲームをするな」「君らがしているのは、いじめというのだ」と叱った。
その後かえって、言葉の暴力、肉体的な暴力、恐喝がエスカレート。

休み時間、担任教諭がいる前で、加害児童らがAくんの筆箱を投げ合っていたが、何も言わなかった。
(担任は「見ていなかった」と弁明)

2/4 担任教諭はAくん宅で、Aくんに「なんで言うてくれなかったんや。先生は知らなかった」と話した。(だが、上述の通り、1月に「君らがしているのは、いじめというのだ」などと加害児童らを叱っている。)
Aくんが仕返しを恐れて、被害を少なめに話したことから、担任教諭は恐喝金額を20万円と思い込み、この金額をもとに各児童が恐喝した金額を出してきた。

2/8 Uと両親が5万円を持って突然Aさん宅を訪問。「御宅の坊ちゃんから金を貰いまして」と謝罪。やったのではなく脅し取られたのだと言うと、「学校からはそう聞いていない」とUの父親が答えた。
そのことについて、事実か否か担任と生徒指導係教諭に確認すると、生徒指導係教諭は即座に「もらったとは言ってない」と否定した。そして「あのお父さんは○○屋(職業差別用語)で、我々とは違う世界の人ですから、まともなことは言わないですよ。服装だって、あんな格好ですしね。ですから、あのような人の言うことは気にしないでください。」とUの父親を誹謗中傷した。
さらに、他の加害者親らの誹謗中傷もはじめた。そして、しばらく加害者の親とは会わないようにと、Aくん両親に言った。

2/8頃 Aくんはクラスの女子児童に殴られて、口から出血し、担任教諭に話したが、担任は「口はよく切れるものだし」「口を切って、その後治療といっても、中に薬を塗ることもできないから」として、放置。

2/9 担任教諭と生徒指導係教諭は2人で1時間にわたり、Aくんに対し、「なぜいじめを早く打ち明けなかったのか」と執拗に問いただした。「お母さんが怖かったからか? 親が怖かったからか?」と何度も聞いた。
Aくんは「よけいにいじめられるのが怖かった」と繰り返し答えたが、両教諭は聞き入れなかった。
また、Aくんに対し担任教諭は、「いじめを早く両親や先生に言わなかった君が悪い」「いじめられるほうにも責任がある」などと言った。
Aくんは、ドッチボールの誘いを断ったところKから「1億円払え」と言われたことを話したが、担任教諭は「仲間に声をかけてもらえることはありがたいと思わなければ」「1億円だのなんだの言うより、ちゃんと友達になってくれたということに気持ちを切り替えて、ドッチボールをしなさい」というようなことを言われた。

いじめが発覚後、教師が全体遊びなどを計画したが、Aくんはクラスの女子から「いじめなんか、うちらには関係ないし。あんたのせいでなんや迷惑」などと言われた。

2/14 担任教諭は、Aくんの父親に対して、加害者から聞き取りをした結果、いじめがあったことを認める。(校長、教頭、生徒指導係教諭も同席)

3/6 担任教諭と生徒指導係教諭がAくんに説教した(2/9)という内容を否定し、Aくんの勘違いだろうと両親に説明したことに対し、納得がいかないAくん同席のもと、校長、教頭を交え、担任教諭と面談。担任教諭は「はっきり覚えていない」「たとえ話である」などと言い訳をした。校長は「無理なたとえ話である」と発言する。

学校ほかの対応 2006/2/22 校長と教頭が調査報告一覧を作成し、Aくん両親に手渡す児童生徒の面談記録やアンケート内容について説明をする。
その際、校長は「本当に私、まとめながら涙が出てきまして、本当に許されへん」と話した。
「謝罪する意思を持ってもらうためにも(加害児童らに)カウンセリングを受けさせたい」と話していた。

学校は、Aくんの家族には「いじめ・恐喝を認める」発言をしながら、加害者側には「いじめ・恐喝はなく、金は配られたものである」と正反対の説明をしていた(加害者の親3名が証言。Aくん両親が確認したときには、加害者の両親には「お金を脅し取った」と伝えたと校長は答えていた)。

加害者の親には、事実関係がはっきりするまで、Aさんに連絡しないように言っていた。

生徒指導係教諭は加害者の親に、「Aくん本人と話ができないので、恐喝の確認はとれていない」「対応に困っている」「Aくんの両親には何を言っても受け付けられない」などと言う。

Aくん側が、風評の調査と、噂を広めている児童に指導しやめさせること、全校保護者に事実を説明することを要望したが、「そのような噂は全くない」として、校長は拒否。
一方、生徒指導係教諭は、「3/7に児童に聞き取り調査をした結果、風評をいじめの加害児童らが広めているということが実際に確認できたと、3/7時点で校長に報告した」と、校長、教頭、Aくん両親、弁護士同席の前で明言。

2/下旬 Aくんの両親が、学校に転校の申し入れをするが、校長はいじめを否定し、内諾を拒否。

3/3 教育委員会に転校の件を相談するが、「校長は優秀なので心配ない」と言って、取り合わなかった。

3/16 Aくんは、ある児童より「Aは何でも先生にばっかり言う」と嫌味を言われたため、教頭(校長が不在のため)にそのことを告げに言った。すると教頭は「いちいちそんなことを言いに来るから、言われても当然だ。言ったら余計にいじめられますよ。もし、いじめられても教頭先生は知りませんよ」と言った。
Aくんは「でも先生に言わなければ、何も前には進まないでしょ」と言い返すと、教頭は「そうですね。そんなことばっかり言うと、もっといじめられますよ。もし、いじめられても教頭先生は知りませんよ」とさらに突き放す発言をした。

4/4 転校手続きのために、弁護士とAくん両親が学校に訪問したが、校長は検討すると言って、『就学関係届』(転校届)を預かるだけで押印しなかった。

4/6 Aくん両親(弁護士の同伴なし)が再度、押印を依頼していた『就学関係届』を転校申請のため受取りに行ったところ、『就学校指定変更申立理由書』(弁護士作成)記載の「事実」を全て書き直すようにと強要。さもなければ転校させないと迫った。例えば「人間関係のもつれ」などと書くように示唆した。
その後弁護士の電話説得により、校長は、副申書欄に、「保護者の申し出事由欄の別紙については、学校として見解の相違があり、別紙の内容(いじめ)を認めることはできない」と付記したうえで、ようやく転校が許可された。

加害者2人がいじめや恐喝の事実を認めて和解した後も、校長は「いじめがあったと判断できない」「再調査は困難」とAさんに回答。

作 文 2006/2/10 学年集会終了後、「学年集会を踏まえた作文」を全生徒に書かせる。
アンケート 2006/2/13 5年生の生徒全員に、「いじめに関する実態調査1」として、フォーマット用紙を配布して、本件いじめに関して知っていること、見たこと、聞いたことなどを記名式で具体的に書かせた。
その他の調査 2006/2/16 加害児童10名に対し、3、4年生当時の担任4名と校長で、いじめの聞き取り調査を行う。
(5年生時の担任は外す)
事故報告書 2006/3/5 校長は教育委員会に対し、「生徒指導に関する状況報告」に恐喝1件(加害児童は男子1人)、いじめ1件(加害児童は男子1人)と報告。
「補足説明」で、加害生徒の氏名を明記して恐喝やいじめの内容、指導経過を報告。


3/10頃 教育委員会は学校に電話で問い合わせて、「生徒指導に関する状況報告」の内容を、いじめ1件、恐喝1件。恐喝 男7名、いじめ 男9名、女4名と赤ペンで訂正していた。

※のちにいじめや恐喝を否定した校長や教育委員会は、報告書の記載について、「被害者からの訴えをそのまま記入しただけ」「脅しがなくいも金額が1万円を超えていれば『恐喝』欄に記入することとなっている」と、記載マニュアルに反した弁明を行う。
市教委の対応 2007/4/19 教育委員会は、学校からいじめや恐喝の詳細な報告を受けていたにも関わらず、マスコミに対して、「関係児童や教員に対する聞き取り調査を行ったが、いじめの事実は確認できなかった」と公式に説明。
誹謗・中傷・ほか 生徒指導係教諭は加害者の親に、「被害者の親が連日夜遅くに学校来て、『Mくんを殺したい』『家に火をつけてやる』『教師に辞表を書けと迫っている』などと言っている(すべて事実なし)」と言っていた(加害者の保護者より、Aさん代理人弁護士が聞いた話)。
Aさんが学校に抗議をするが、Aさんがこのようなことを言っていた事実がないことは認めたものの、関係児童の保護者に教諭が話したことも否定。

加害者らによって、「Aは家の金を盗んだ」「家の金を盗んだから、野球部をやめさせられた」「ありもしないいじめ被害を訴えて、嘘がばれたので転校した」などのうわさを広められる。
警察の対応 2006/2/末 Aさん側が、学校に恐喝の再調査を依頼したが拒否されたため、学校の了解を得たうえで、警察に被害届を提出。

女性警官が、保護者同伴で金をとった子どもに話をきくが、どういう理由で、どのように金を受け取ったのか、どこで使ったのかを聞いた。金を受け取ったことに対して、恐喝やいじめ等の指摘はなかったという。「お寿司屋さんに子どもだけで行ってはいけない」などとのみ、注意されたという。
(加害者親の発言)

2008/2/22 一審で、裁判所が警察署に処分結果等を調査嘱託。
警察は、被害届を受理していないこと、処分結果については、現金授受の事実があったことが認められ、金額は約22万円であるが、児童らが脅迫または暴行によって金品の交付を受けていた事実は確認できなかったことや児童らの年齢が14歳未満であったことから、訓戒指導を与えたと回答。
人権救済の申し立て
2007/4/19 Aくんを申立人として、兵庫県弁護士会の人権擁護委員会に人権救済を申し立てた。
相手方は、校長、教頭、生徒指導係教諭、担任教諭、神戸市教育委員会。

申立内容:
2006/2/4 いじめ発覚後、学校と教育委員会が行った以下のいじめ隠蔽行為による人権侵害を申し立てた

@ 学校は、Aくん両親には関係児童への聞き取り調査やアンケート調査の結果として、「やはりいじめ・恐喝だった」との説明を行ないながら、一方で、加害者側には「いじめ・恐喝はなく、カネは任意で配られたものである」などと正反対の説明を行なった。
A 校長はいじめの事実を認識しているにもかかわらず、「いじめは確認できない」と虚偽の理由を述べ、転校を妨害した。
B 校長は生徒指導係教諭より、風評が実際に確認できたとの報告を受けたにもかかわらず、Aくん父に対しては「そのような噂は全くない」と虚偽説明を行ない、風評被害を黙殺し拡大させた。
C 教育委員会はいじめの事実を把握しているのもかかわらず、加害者に対してなした訴訟において、いじめの存在を否定する虚偽文書を提出した。
※学校がいじめを見過ごしていたとする安全配慮義務については、申し立てていない。


2009/1/29 Aくんの申立に対して、人権擁護委員会は「不措置」決定。


2009/3/10 Aくん側が不措置決定の理由開示請求を行い、「不措置決定理由書」が届く。
それによると、Aくんの申立内容については調査がなされていなかった。
Aくんの申立主旨は、「学校はいじめを認知しえたかどうか」の判断を求めるものではなく、学校・教育委員会の対応のあり方を問うものであった。しかし、「学校はいじめを認知しえたかどうか」に調査の主旨が変えられ、それに沿いながら、時系列で学校の外形的な行動を評価しているのみであった。
教育委員会の裁判所への虚偽報告も、一切調査がなされていない。


※後日、教育委員会に対し行なった情報公開請求で、人権擁護委員会は、相手方である校長・教頭・生徒指導係教諭・担任教諭の4名の教師に対して、直接調査を行なっていなかったことが判明


2009/10/14 Aくん側の再調査申立が受け入れられ、再調査開始が決定。

2009/11/12 人権擁護委員会が2年間もの調査期間を要したにもかかわらず、申立内容について調査がなされなかったことから、Aくん側は再調査においても大きな懸念を抱いていた。そのため、申立内容と申立主旨の確認、及び「不措置決定理由書」の事実誤認15項目を文書で提出。
加えて、次の通り追記。「貴委員会の人権救済とは、いったい『誰』を救済することを第一義としているのでしょうか。まず申立人であると考えるのが通常です。ならば、申立てから何年も経過して、『措置すべき』との結論が出たところで、申立人は本当に救済されるのでしょうか。申立て以降、すでに3年近くになろうとしています。裁判でも『いじめ』の判断が示されました。速やかな結論を求めることを申し添えます。」

2010/4/26 再調査に対して、「不措置」決定。

2010/7/22 Aくん側が不措置決定の理由開示請求を行い、「不措置決定理由書」が届く。
その内容は、初回の調査よりさらに酷く、申立内容は全く無視されていた。
なぜか再調査の対象項目が、「申立人の転校は、相手方らの指導義務の懈怠によるものか。相手方らの指導義務の懈怠によって転校を余儀なくされたと認められる場合、過失による人権侵害であっても、人権侵害として措置すべきと判断すべきか」などという内容に、勝手に変えられていた。
教育委員会の裁判所への虚偽報告は、再調査においても結局調査がなされなかった。

加害者と親の対応 2006/10/26 Uが他の児童とともに行ったいやがらせ、金銭の要求等の行為があったことを認め、謝罪。Aくんから受け取った金銭として、11万6150円を支払う。

2006/12/11 Tが他の児童とともに行ったいやがらせ、金銭の要求等の行為があったことを認め、謝罪。受け取った金銭として2万3401円を支払う。
裁 判 2007/9/11 Aくんと両親が、いじめを否定する同級生3人の保護者に計約390万円の支払いを求めて、提訴。
原告側の主張 Aくんと両親は、被告児童3人を含む5人からいじめが始まり、集団化。精神的、肉体的に苦痛を受けた。現金も要求され、3人に総額37万円を渡したと主張。
両親は「いじめがあったのは明らか。一刻も早く事実を認め、直接子どもに謝罪してほしい」とした。
被告側の主張 被告側は、いじめを否定。
故意ではない、ふざけ、互いにやりあっていた、承諾を得た、Aくんが任意に金を払った、仲良くしていた、Aくんが親を嫌っていた、銀行のカードを子どもに渡していた(事実なし)などと主張。
(恐喝が発覚したときに)Aくんが「犯罪者だ」と言ったことに子どもが傷ついた。いじめではなく、けんかだと主張。

2006年2月の原告からによる被害申告以前に、学校から児童らの言動や対人関係についての注意や指導を受けたことがないから、予見可能性はない。学校からきちんとした説明を受けていなかったので、学校の責任だという。
また、神戸市教育委員会や警察署がいじめや恐喝行為を認めていないことをもって、いじめ行為を否定。
Aくんの陳述書
(抜粋)
 Aくんは裁判の陳述書で、次のように述べていた(抜粋)。

 僕自身が体験したことから「いじめ」とは何かについて考えてみた。
 それは、相手に自分の意見が通らず、スケジュールを管理されて自由を奪われ、身動きできなくなってしまった状態のことだ。長期間、いろんな暴力で脅されていく中で相手の機嫌を取ることが生活の中心になり、自分の意思がなくなってしまう。これは単に「悪口をいわれた」とか「ケガをさされた」とか、そんなレベルじゃない。挨拶代わりに「きしょい!」「うざい!」「死ね!」「消えろ!」と罵られたりしているうちに、自分が本当にどうしようもなく、世の中に居てもいなくてもいい存在に思えてくるのだ。この気持ちは、同じ目にあった人でなければ、わかりにくいと思う。

 教室にも、遊び場にも、野球部にも、安心して居れる場所はなかった。
 でも、いじめが発覚して親から言われた「別に学校なんか無理していくことないよ」という言葉に救われた気がした。転校ができると聞いたときは、おおげさでなく、夢のようだった。逃れられない場所と思っていたのは錯覚で、自分の意思一つで変えられる世界と分かった。当時は、幼すぎてそれに気づかなかったのだ。
 多分、この世の中には、自分のように「いじめ」で苦しんでいる人がまだまだいると思う。その人たちには、「その場所からとにかく逃げろ!隠れろ!」と教えてあげたい。
 そして、加害者の屁理屈が通らないことを、その人たちのためにも、証明したいと思っている。それが終わらないことには、僕のいじめ問題はまだ解決しない。

※「その場所からとにかく逃げろ!隠れろ!」とは、「まず学校を休んで、いじめを理由に校区外の学校に転校しなさい」という意味です。
学校・教育委員会の対応 2008/2/20 裁判所からの「調査嘱託書」に神戸市教育委員会は下記のように回答。


                         調査委託書に対する回答書

1 学校の取組
 学校側は、金銭のやりとりが発覚した平成18年2月4日以降、いじめや恐喝があったのではないかと考え、原告の立場に立ち、関係児童から聞き取りをし、同時にいじめをなくすための取組も始めた。

2 原告側の主張と学校側が調査できた内容との齟齬
(1) いじめについては、双方からの聞き取り内容に関する報告では、下記の例のように、必ずしもいじめであると断定できない状況がある。
例 ・子どもたちはお互いの立場を入れ替えながら「きしょい」等を言っていたこと。
   ・原告の方から「おまえは犯罪者になりやすいタイプだ」と言われて傷ついた児童もいたこと。

(2) 恐喝についても、下記のように、必ずしも恐喝であると断定できない状況にある。
例 ・被告側の児童をはじめとした関係児童からの聞き取りによると、当初原告の「お金やろか。」といった発言に対して「本当?」と答える形で始まり、その後、「なんぼかもらえるか。」「ええで。」といったやりとりが続いたこと。また、聞き取った中では、脅し取ったと答えた児童はいなかったこと。
   ・被害届に基づいた○○警察署の取り調べ結果も恐喝とは判断していないこと。

3 .調査続行の困難
 さらに調査を進めようとしたが、事案発覚直後から、原告保護者の要望により、原告本人からは直接事実関係の確認ができず、原告が話したとされる内容を原告の両親から関節的に聞くにとどまった。
 また、2月中旬以降、被告の一人から「子どもから事情をきかないでほしい。」といった趣旨の申し出があったことで、被告側の児童の一人からは事情を聞くことが困難になった。
さらに、2月末に原告が被害届を出して○○警察の取り調べが始まってからは、被告側の児童を含めた関係児童から事情を聞くことは困難となった。
 4月には、原告本人が指定外通学を申請し転校することになり、原告からの事情聴取ができない状態が続いた

4 判断結果
 以上のように、原告側の主張と学校側が調査できた内容との間に齟齬があったが、その溝を埋めるところまでは調査できなかったことから、いじめ・恐喝の事実があったかなかったかは断定できない。
判決1 2009/6/26 神戸地裁の栂村明剛裁判長は、いじめ・恐喝の事実を認定。

同級生3人の親に、計約50万円の支払命令。
(Mの保護者に42万円、Sの保護者に5万9900円、Kの保護者に4万3700円の支払い命令。
ただし、慰謝料は、Mが9万円、Sが1万5000円、Kが1万円。)
控 訴 原告側は、「いじめ・恐喝を認定しておきなが、1万や1万5000円といった慰謝料は、いじめを実質容認した判決である」として、誤った判決を正すために控訴した。

一方、被告側もいじめを否定して附帯控訴した。
判決2 2009/12/18 大阪高裁の永井ユタカ裁判長は、「対等な関係にある子供同士のふざけあいではなく、いじめと評価すべきことは明らか」として、いじめ・恐喝(Mが25万7450円、Sが3万3450円、Kが2万8000円と認定)の事実を認定。

1審の慰謝料を増額して、同級生3人の親に計約110万円の支払命令。(Mの保護者に60万7450円、Sの保護者に25万3450円、Kの保護者に22万8000円の支払い命令。)
ただし、「3人による共同不法行為とはいえない」とし、「個別に評価するのが相当」とした。

担任教諭と校長の発言によっても、いじめと評価すべきものがあったことは明らかであると認定した。
争点
(判決文引用)
注: 控訴人=1審原告・Aくん 被控訴人=1審被告・MSKの保護者


3 争点(1)について

(1)  金銭交付行為について

 小学生は,通常,自身に稼動能力がなく,所持する金銭も親から交付される範囲の少額にすぎず,金銭価値についての理解も十分でない。このような小学生同士で金銭の交付が行われること自体,本来は厳に慎むべきである。
 金銭交付行為の不法行為性を検討するに当たっては,(3)で後述する他のいやがらせ行為等と同列に行うべきでない。

 被控訴人児童らが相互に意思を通じて控訴人に対し金銭を要求したことや被控訴人児童らが相互に金銭を受け取ったことを認識していたことを認めるに足りる証拠はなく,いずれも被控訴人児童らが個別に控訴人に要求し,個別に控訴人から受け取ったものと評価することができるから,本件たかり行為は,被控訴人児童ら各自の控訴人に対する個別の不法行為を構成すると解するのが相当である。
 なお,本件たかり行為は,各金銭要求行為を一連のものとして把握するのが相当であるから,その一部である上記3件の金銭要求行為がたまたま他の児童と意志を通じて行われたとしても,その部分のみを捉えて共同不法行為と見るのは相当ではなく,上記3件の共同で行われた金銭の要求及び受領についても,被控訴人児童らがそれぞれ受領した金額を被控訴人児童ら各自の不法行為による損害と評価すべきである。


(2)  金銭交付行為に関する被控訴人らの反論について

ア 被控訴人らの主張する金額について,受け取った日時場所等が明らかでなく,たかり行為により金銭を交付した場合,金銭を受け取った者と比較して金銭を交付した者のほうが当該被害事実を非日常的な体験として記憶に残りやすいのに対し,金銭を受け取った者は,何の労力もなく利益を得ているのであるから,印象的な体験とはいえず,回数を重ねるごとに他の出来事と混同したり,忘れたりすることもあり得ることは想像に難くない。
 一方,控訴人の供述及びその前提となる甲27の1,2においては,金銭を交付した際の日時,場所,経緯,金額等が具体的に述べられている。
 したがって,この点に関し,被控訴人児童らに金銭を交付した控訴人の供述及び甲27の1,2の記載は基本的に採用できる一方で,控訴人から金銭を受け取った被控訴人児童らの供述する金額は,忘れてしまった部分も相当程度あるというべきであるから,被控訴人児童らの供述を採用することはできない。

イ 被控訴人らは,控訴人の金銭交付行為について,被控訴人児童らが控訴人に対して暴行又は脅迫により金銭を要求したことはなく,控訴人から交付してきたものであるから,任意の交付であったと主張し,被控訴人児童らは,これに沿う供述をする。
 しかし,控訴人から被控訴人児童らに高額の金銭を交付する合理的理由が何ら認められないことは前記のとおりである。

 また,被控訴人児童らか控訴人に対して金銭を要求する際,脅迫と受け取れる文言を用いずに,「お金ちょうだい。」「お金くれる?」などの言葉をかけただけだとしても,前記認定のとおり,被控訴人児童らが控訴人に対して,当時,日常的に諸々のいやがらせを行っていた上,学校生活は基本的にクラスを中心として営むものであり,控訴人が登校を続ける限り,当時,同じクラスメイトであった被控訴人児童らと完全に関係を絶つことは極めて困難であったことも勘案すれば,被控訴人児童らの「お金ちょうだい。」などの言葉は,控訴人が被控訴人児童らの要求に応じなければ,日常的に身体的・精神的苦痛を与えることを暗に意味するものであると認めるのが相当である。
 控訴人の立場としても,被控訴人児童らの言葉は,控訴人が被控訴人児童らの要求を断った場合には,「キモイ」,「うざい」,「死ね」などの罵声を浴びせる,無視する,休み時間に遊ぶ際に集中攻撃するなどの行為を控訴人に対して行うことを意味するものと理解していたと認めるのが相当である。
 したがって,被控訴人児童らが控訴人に対して発した言葉をもって,控訴人から被控訴人児童らへの金銭の交付行為が任意の交付であるなどということはできないから,この点に関する被控訴人らの主張は採用できない。

ウ Sは,控訴人に万引きを迫ったことはなく,逆に控訴人から万引きを迫られて万引きをしてしまったと陳述する。
 しかし,Sは,前記認定のとおり,平成17年6月にTが控訴人の鍵を隠した行為に関与し(控訴人が電話をかけたのがSの携帯電話であることからこのことを推認できる。),同年7月に,控訴人の自宅の鍵を隠すとのいやがらせをしており,この時点において,Sと控訴人との関係は,少なくとも対等の友達関係であったとみるべきでなく,Sが控訴人に対して優位に立っていたとみるべきであることからすると,同年4月の万引きについても,Sが控訴人に対して万引きをさせたものでSの控訴人に対する優位性のきっかけとなり得る出来事であったとみるのが自然であるし,この他に控訴人がSに対し万引き等の行為を要求したことをうかがわせる証拠は一切ないことからしても,この時だけで控訴人がSに万引きをさせたとみることは不自然であるから,この点に関するSの供述は採用できない。

エ 被控訴人らは,控訴人と被控訴人児童らとの交友関係,特に,控訴人が,平成17年12月ころまでSの自宅に遊びに行っていたこと,Sに年賀状を送ったこと,M,T,Sとともに写った写真があること(乙5の1〜7)などからして,被控訴人児童らによる本件たかり行為等の行為がなかったと主張する。
 しかし,前記認定の事実によれば,控訴人は,平成17年4月25日以降一緒に付き合いたくないと思うようになったことが認められるところ,控訴人と被控訴人児童らが一緒に遊ぶことがあったとしても,被控訴人児童らの誘いを控訴人が断ることができなかったことによるともみられるし,控訴人は,児童らによる仕返し等を恐れて平成18年2月になるまで本件たかり行為等を控訴人両親や今木教諭に知らせず,説明を求められても答えないなどしていたのであり,被控訴人児童らから本件たかり行為やいやがらせ等の行為を受けていたことを知られないように被控訴人児童らと仲良くしているように振る舞うことも十分に考えられるのだから,上記写真の存在により本件たかり行為の存在は否定できず,この点に関する被控訴人らの主張は採用できない。

オ 被控訴人らは,神戸市教育委員会及び兵庫県警**警察署に対する調査嘱託の結果では,いずれもいじめ行為ないし恐喝行為を認めていないことをもって,金銭交付に関するいじめ行為がなかったと主張する。
 しかし,神戸市教育委員会に対する調査嘱託の結果は,控訴人と被控訴人児童らの聞き取り調査では控訴人と児童らとの間にいじめ行為や恐喝行為があったかどうか判断できないとするものであり,兵庫県警**警察署に対する調査嘱託の結果は,刑法上の金銭恐喝の手段として暴行や脅迫と評価できる事実が確認できなかったとするもので,いずれも,いじめ行為や恐喝行為があったことを否定するものではない。
 したがって,この点に関する被控訴人らの主張は採用できない。


(3)  その他のいやがらせ行為や暴行等の行為について

 金銭交付と異なり,小学校の児童間における有形力の行使を伴わない落書き等のいやがらせ行為は,児童がふざけ合ったり,遊びの延長として行われるなどすることもあり得るし,これらの行為について直ちに不法行為が成立するということになれば,児童の学校生活を萎縮させる結果にもなり得るから,これらの行為が執拗かつ継続的に行われるとか悪質であるなど,その態様や程度を考慮して当該児童に対して大きな精神的・身体的苦痛を与えた場合に限り,不法行為が成立するというべきである。
 また,暴行等の有形力の行使を伴う行為についても,必ずしも直ちに不法行為となるものではなく,その態様や程度を考慮して不法行為に当たるかを判断すべきである。

ア いやがらせ行為について
 前記認定のとおり,被控訴人児童らは,控訴人に対し,控訴人のボールを遠くに投げる,犬の糞やどぶがあるところに向かって投げる,控訴人が持ってきた茶を飲む,控訴人のノートや筆箱等の学用品に落書きをする等のいやがらせ行為を行ったことが認められるが,ボールをわざと投げる行為は児童間におけるふざけ合いの域を超えたものとみることができないし,控訴人の茶を飲む行為についても,金銭要求とは質を異にし,前記認定の事実によれば,その態様や程度からして悪質とまではいえないし,控訴人のノートや筆箱等の学用品に落書きをする行為は,控訴人に対する中傷を伴うものであって,いやがらせがひどくなることなどを恐れていたのであるから,いやがらせ行為として相応の苦痛を伴うものであることを否定し得ないが,いずれの行為も,その態様や程度を考慮して控訴人に対して大きな精神的・肉体的苦痛を与えたものと認めることはできず,本件たかり行為とは別に控訴人に対する不法行為が成立するということはできない。

イ 暴行行為について
 前記認定の事実によれば,平成17年11月以降,Kが控訴人に対し,いじめ宣言をしたことをきっかけとして,被控訴人児童らは,他の児童とともに,あてごの際,控訴人を集中攻撃する,顔面を狙ってボールを投げるなどし,他にも日常的に,控訴人に対し,足を引っかけたり,わざと押すなどの暴行をしていたほか,MとKは,同年12月から平成18年1月に渡り,他の児童とともに,控訴人に対し,K−1ごっこと称して,殴る,蹴るなどの暴行を加えたことがあったほか,ひっかく,廊下で引きずる,ボールを顔面に強くぶつける,押す,足をひっかけるなどの暴行を加えたことが認められる(以下「本件暴行行為」という。)。
 本件暴行行為は,控訴人が被控訴人児童らに対し同様の暴行をしていたことを具体的に認めることができる証拠がない本件においては,控訴人に対して一方的に加えられたものであるということができるし,行為が継続した期間,控訴人が平成17年11月以降体調を崩していたなどの事情も考慮すると,控訴人に対する暴行行為は,控訴人に対して大きな身体的・精神的苦痛を強いるものであったと評価できるから,本件暴行行為は,いじめ行為に当たり,被控訴人児童らの控訴人に対する不法行為を構成するというべきである。(以下,本件たかり行為と本件暴行行為を合わせて「本件いじめ行為」という。)。


4 争点(2)について

 被控訴人らは,親権者たる地位に基づき,被監督者である被控訴人児童らの生活全般にわたって監督すべき義務を負うところ,本件のように子供が監視できる範囲にいない学校での加害行為等のように加害行為の危険が具体的に予見できない場合は,他人に危害を加えることのないように注意をするなどの一般的な教育やしつけをすることがその内容となるというべきである。
 本件において,被控訴人らが,被控訴人児童らに対し,このような一般的な教育やしつけを怠らなかったこと,又は被控訴人児童らの加害行為が被控訴人らの義務違反により生じたものでないことについて,立証がなされているとは到底いえない。
 したがって,この点に関する被控訴人らの主張は採用できない。

(3) 慰謝料
 本件たかり行為は,交付金額が,控訴人が当時5年生であることからすれば,極めて高額であり,当該行為が行われた期間が約10月程度であり短くないことなどを考慮すると,その態様が悪質であるといえるし,本件暴行行為は,その内容や控訴人に対して一方的に,少なくとも約3か月に渡って行われたことを考慮するとその態様が悪質であると言わざるを得ない。
 その上,前記認定のとおり,控訴人は,本件いじめ行為に関連してSなどの関与により控訴人に対する噂が広まったことなどを理由としてから**小学校を通うことが難しくなり,平成18年3月に転校し,現在も学区外にある中学校に通学していることなど本件に現れた一切の事情を考慮すれば,本件いじめ行為により控訴人が受けた精神的苦痛を慰謝する金額は,被控訴人児童ら各人が受け取った金額,本件たかり行為を行った期間及びその回数,本件暴行行為を行った期間及びその内容などを考慮して,Mについて30万円,Sについて20万円,Kについて20万円であると認めるのが相当である。


7 控訴理由及び附帯控訴理由にかんがみ,若干補足する。

(1)  控訴人は,被控訴人児童らによる本件いじめ行為は,被控訴人児童らによる共同不法行為であって,被控訴人らは,控訴人が被った総損害を相互に連帯して負担すべきであると主張する。
 確かに,本件いじめ行為のうち,本件暴行行為については,被控訴人児童らを含む複数の児童らによって加えられたものも多かったと考えられ,その限りでは,共同不法行為が成立するとみる余地がないわけではない。
 しかしながら,本件暴行行為については,その具体的な態様や被控訴人児童ら各自の関与の程度は,本件全証拠によっても必ずしも明らかではない。

 また,本件暴行行為が複数で行われた場合であっても,被控訴人児童らの年齢,暴行行為の内容及びこれが行われた場所等を考慮すれば,その場の雰囲気に流されてはずみで暴行に加わった者もあった可能性が否定できず,これが控訴人に対する攻撃意思を共有して行われたものであったとまでは断定できない。

 そして,本件たかり行為が被控訴人児童ら各自の個別の不法行為と評価すべきことは,前記認定のとおりであるところ,本件いじめ行為は,本件たかり行為と本件暴行行為とが一体となったいじめ行為として捉えるべきものであり,これらを分断して評価するのは相当でない。

 このような点を考慮すると,本件暴行行為の中に被控訴人児童らが複数で加えたものがあったとしても,本件たかり行為と本件暴行行為を全体としてみた場合には,被控訴人児童らの行為に一個の共同不法行為と評価すべき程度の関連性・一体性を認めることまではできないというべきであり,したがって,これを被控訴人児童ら各自による個別の不法行為と評価し,その損害についても,被控訴人児童ら各自につき個別に算定するのが相当である。

(2)  被控訴人らは,当審においても,控訴人による被控訴人児童らに対する金銭の交付は,控訴人が任意で行っていたものであり,本件暴行行為も控訴人を含む児童らがふざけてお互いにやり合っていたもので,いずれも不法行為を構成するようものではないと主張する。
 しかしながら,控訴人による被控訴人児童らに対する金銭の交付は,その金額や回数等のほか,これらの大半が専ら被控訴人児童らにより個人的に消費されたと考えられることや,控訴人が両親の財布等から現金を抜き出してその原資を調達していたという態様に照らせば,これが控訴人の任意の意思により行われていたなどとは到底考え難いところである。
 また,本件暴行行為についても,それら個々の行為自体は,必ずしも激しい有形力の行使を伴うものではなかったとしても,これが主として控訴人を標的に日常的に行われていたことは,控訴人本人の供述(原審)のほか,甲33の2,甲64の2における**教諭及び**校長の発言によっても裏付けられており,本件たかり行為の存在をも考慮すると,本件暴行行為は,対等な関係にある子供ら同士のふざけあいの類ではなく,いじめと評価すべきものであったことは明らかである。

 なお,被控訴人らは,当審において,**教諭が本件いじめ行為があったことを否定するかのような発言をしている被控訴人M2らと同教諭との面談記録(乙13の1,2)を提出するが,同記録は本件いじめ行為が始まった平成17年4月から4年以上経過し,本件事案が当審に係属した後の平成21年10月に至って聴取・作成されたものであって,同面談の中での上記発言をそのまま措信することができないばかりでなく,同記録中の**教諭の発言も,本件で問題となった本件たかり行為や本件暴行行為等のいじめ行為をすべて具体的に否定しているものではない。

 さらに,被控訴人ら5名連名に係る平成21年10月30日付け陳述書(乙14)も,それぞれ我が子のことを信じたいという切実な親としての気持ちの発露として,また,本件いじめ行為の発覚後における控訴人父母の学校への対応や警察への被害届とこれによって被控訴人児童らが警察からの事情聴取等をされたこと等で,被控訴人らや被控訴人児童らが大きく精神的打撃を受けたことを訴えるものとして自然なものではある。
 しかしながら,同陳述書も,本件訴訟の核心部分をなす控訴人から被控訴人児童らへの多額の金銭の交付(本件たかり行為)を否定するものではなく,同交付が不法行為を構成するものであり,また,本件暴行行為もいじめ行為として不法行為に当たることはこれまで説示したとおりであって,上記乙13の1,2及び乙14によっても上記認定判断が左右されるものではない。

(3)  また,被控訴人らは,控訴人が,本件いじめ行為が行われていたとされる時期にも,被控訴人児童らと楽しく交流しており,特にSとは親しく交際していたこと,本件いじめ行為が発覚した後も,控訴人が自ら被控訴人児童らに対し遊ぼうと働きかけたりしていたことなどを指摘し,これらの事実は本件いじめ行為とは相容れないものであると主張する。
 しかしながら,本件いじめ行為に関与していた児童は,本件たかり行為を行っていた者だけでも7名に及び,うち6名は控訴人と同クラスの児童であるところ,控訴人としては,クラスを単位として営まれる学校生活においてこれらの児童との関係を絶つことは事実上不可能であり,たとえいじめられていたとしても,表面上児童らと良好な関係を保つために上記のような行動に出ることも十分に考えられることであって,被控訴人らの主張は採用できない。
参考資料 2007/4/20神戸新聞、2007/4/20神戸新聞夕刊、2007/4/20日経新聞、2009/12/19産経新聞、裁判資料、ほか





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