注 : 被害者の書籍等に掲載された氏名は、そのまま使用させていただいています。ただし、加害者や担当教師名等については、個人に問題を帰すよりも、社会全体の、あるいは学校、教師全体の問題として捉えるべきではないかと考え、匿名にしてあります。 また、学校名については類似事件と区別するためと、隠蔽をはかるよりも、学校も、地域も、事実を事実として重く受けとめて、二度と同じ悲劇を繰り返さないで欲しいという願いを込めて、そのまま使用しています。 |
S.TAKEDA |
000930 | しっ責自殺 | 2008.3.16 更新 |
2000/9/30 | 埼玉県新座市立第二中学校の大貫陵平くん(中2・13)が、学校でお菓子を食べたことを指導された翌日の夜10時過ぎ、自宅のあるマンションの10階から飛び降りて自殺。 | |
遺 書 | 「死にます/ごめんなさい/たくさんバカなことをして/もうたえきれません/バカなやつだよ/ 自爆だよ/じゃあね/ごめんなさい/陵平」 |
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経 緯 | 2000/9/29 昼休み、3年生の生徒指導担当教師が、2年5組の生徒からお菓子のに匂いがすることに気づき聞いたところ、「ハイチューを食べました」と答えた。 生徒を職員室に連れていき、2年5組の担任I教師と一緒に、他に誰か一緒に食べた生徒がいるか聞いた結果、他のクラスの生徒を含めて6人の名前が上がった。また、ライターを学校に持ち込んで遊んでいた生徒がいたことも判明。 各担任にも連絡が回り、他にも関係する生徒がいたら知らせ合うことになった。 2年5組の帰りの会で、担任のI教師が、「放課後みんなで叱られなきゃいけないんだけど、他にも知っている人や食べた人がいるんじゃないの」と聞いたところ、陵平くんは、すでに名前の上がっている生徒からもらって食べたと自己申告をした。 会議室で、最終的には12人の教師が、9人の生徒らから、お菓子を食べたかどうか、他にも食べた者はいないかなど、一人ひとりに事実確認がされた。 その場にいない生徒の名前も何人かあがり、部活中の生徒を教師たちが呼びに行くなどした。 教師たちは、 「以前、学年集会で話しをしたにもかかわらず、このようなことになってしまった」 「学年委員や部長も多い」と言って、該当者に手を挙げさせた。 「このままでは学年がだめになってしまう」 「以前、陸上部の生徒が大会中にお菓子を食べたことで大会の途中で帰ったことがあった。反省をして奉仕活動を行った。たかが、お菓子と思うかもしれないが、たいへんなことなんだよ」 「選抜高校野球などでは不祥事で出場できないこともあるんだよ」 「明日からすぐできることがあるね、掃除なんか、すぐに取りかかれることだよね、やってね」 などと指導し、 1.事実を具体的に書く 2.他に反省すべき点があれば書く 3.今後、クラス・学年など、これからみんなに対して貢献できることを書く などを作文に書いて提出するよう生徒たちに求めた。 9/30 以前から決まっていた検査で病院に行く必要があり、この日、陵平くんは学校を休んだ。 夜9時10分頃に、担任のI教師から陵平くんの母親に電話があった。 「陵平くんが学校でお菓子を食べ、9月29日にその件で学校で指導しました。来週の学年集会の場で、(学級委員などの)リーダー格の生徒には、みんなの前で決意表明をしてもらうかもしれないので、その準備をするように伝えてください。また、陵平くんが学校にライターを持ってきていたようなので、その点もお母さんから確認してください。ライターの件に関しては該当する生徒すべての保護者に学校に来てもらうようになると思います」 などと話した。 母親は、別室でテレビを観ていた陵平くんに電話の内容を伝えた。 「学校でお菓子を食べたんだって?」と聞くと、「うん。ごめんなさい」と謝り、「ライターを持っていったって先生がいってたけど、本当?」と聞くと、「ごめんなさい」と答えた。 しばらく陵平くんは自室にこもっていたが、午後10時を回った頃、靴を履いて玄関から通路ら出て、そのままマンションの10階から飛び降りた。 |
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反省文 | 「2年5組 大貫陵平 ぼくは9月29日に昼休み中に○○君たちとベランダに出て話をしていました。 その時○○君がハイチューを食べていて、僕も食べたくなってハイチューをもらって食べてしまいました。 今思えば本当にバカな事をしてしまったなと思います。 お菓子を食べている人は二学期に入ってから少し見かけていましたが、1度も注意をしませんでした。 議長で中央委員で部長で班長でみんなにたくさんの仕事をまかされている自分が注意一つできなくて、つい自分自身が食べてしまったのが情けないです。 またI先生(担任)が一人一人確認をとっていたとき(帰りの会)全員大丈夫です。と言っていたけどそんなわけないのもわかっていました。その時なにも言えなかった事を今ではなにをやっていたんだろうと思います。 本当にすいませんでした。 ライターをもってきたのは僕です。 スプレーとかにはつけてはいないけど持って来てしまいました。 その時はかるはずみ気持ちでした。(原文のママ)別に何をしようとか考えず持ってきました。 今後どのように罪をつぐなうか考えた結果、僕は2−5の教室を放課後できるかぎり机の整とんとゴミひろいをします。 また合唱祭の練習をたくさんなって(ママ)みんなをリードして一生懸命がんばります。これからは自分に注意できるようにします。 今回は先生方の貴重な時間をたくさん使ってしまって本当にすみませんでした。今後ぜったいこのような事がないように気をつけて学校生活を送ります。 すいませんでした。」 |
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学校その他の対応 | 学校長は、陵平くんが亡くなった当日、遺族に「臨時全校集会を開き、生徒に命の大切さを伝えたい」と言い、両親の言葉を集会で棒読みした。 遺族は事件直後から、校長や教育委員会に対して、お菓子事件の指導の詳細を知りたいと申し入れたが、出張や多忙を理由に引き延ばされた。 10/12 遺族は学校に、最初の「質問状」をFAXで流す。 10/31 学校長と数名の教員、教育委員会が出席して、ようやく話し合いの場をもつ。 この席で、父親が、陵平くんの死の理由とは特定できないが、指導が何らかの要因であることは認めるか、と質問したが、数人が頷くだけで大方は黙ったままだった。 12/ 学校は対応策として、3週間、授業と部活を公開。その間に訪れた保護者は十数人。半分近くはPTA作品と文化部の生徒の展示作品を見に来たついでに立ち寄っただけだった。 |
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担任の対応 | I教師は、臨時全校集会の後、「学校やクラスで何かあったのでしょうか」と両親に尋ねた。 それに対して両親は、「それは私に聞く質問ではない。それを聞きたいのは私です」と答えた。 陵平くんが亡くなって21日後に大貫家を20日ぶりに訪れたI教師は、「私の片腕をなくしたようで悲しくてしかたがありません」と話した。 母親に対して出した手紙のなかで、自分の言葉の無神経さについては詫びているが、ただ「悲しい」「悲しい」と書くだけで、自分も加わった集団指導については一切記述がない。 |
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教育委員会その他の対応 | 新座市議会で取り上げられ、5人の議員が学校の責任を問うたが、教育長は、「指導に誤りはなかった」と答えた。 | |
親の対応 | 両親は臨時全校集会で、陵平くんの「遺書」と「反省文」を読み上げた。 父親は「嫌なことがあったら、嫌だと言おう」と呼びかけ、母親は「陵平を含めて、子どもはたくさんの大人の応援団がいるけれど、その代表は親です。きっと自分の命を断とうとした瞬間、陵平はそのことを忘れていたんだと思う」と話した。 陵平くんの両親は学校に対して、 1.多数の教師による少数の生徒に対する指導 2.反省文を書かせること 3.生徒に他の生徒の行動を密告させるような人権無視の指導 を改善すること。 ・全校生徒と保護者に対して、学校への要望をアンケートにすること(希望者のみ記名) ・学校のホームページを開設して、情報開示を行うこと などの要望を申し入れた。(学校側はすべてを拒絶) |
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調 査 | 両親は独自に、同級生や卒業生などから学校の様子について聞き取り調査を行った。 その結果、体罰をしたり、生徒間の監視を指示する教師の存在が明らかになった。 |
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関 連 | 陵平くんは1年生の時に野球部に所属していたが、顧問教師から、「1年生の部員や親の中におれが体罰をしているという噂を流しているやつがいる。だれがそんな噂を流しているのか、一年生全員に聞いてこい」と命令されたことがあった。 それを陵平くんから聞いた母親は、「そんな指示は人間として間違っている。従う必要はない」と言った。この件はそのままうやむやになった。 |
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その後 | 事件後、地域で遺族を中心に卒業生や在校生、その親たちが定期的に集まり「生命の応援団」を結成。陵平くんの死の意味を考える。学校を擁護するものもいるが、一方で、第二中の教師は誰も参加してこない。 | |
参考資料 | 「教師失格」/藤井誠二/2001.4.20筑摩書房発行、月刊ニコラ1月号、Hakubun-マンスリーガイド2001年3月号、 「13歳の絶望 陵平はなぜ死を選んだのか」 http://www.2nd-gate.com/ryohei.html |
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サイト内リンク | 「生きていてほしいから」 陳述書(井田将紀くんの裁判に提出) | |
TAKEDA私見 | この事件のことを聞いたとき正直言って、たかがお菓子を食べたくらいで死ぬなんて、よほど繊細で真面目な少年だったのだなあと思った。しかし、事件の詳細を知って、「たかがお菓子を食べたくらい」という考え方を、教師たちから許されなかったことを理解した。 世間の一般常識からすればささいなことが、学校の規則のなかで、教師たちの手によって絶対化させられる。これはけっして大げさなことではなく、実際に、修学旅行で禁止されていたドライヤーを借りて使ったというだけで体罰を受けて殺された、雨の日に禁止されている傘をさしての自転車登校をして骨折させられた、修学旅行で柄物のパンツを全て没収された、頭髪が規則に沿っていないということだけで卒業式に出してもらえない、あるいは卒業間際に退学になるなど、枚挙に暇ない学校の現実を考えれば、ある程度想像がつく。 頭の先からつま先まで、髪の色から傘の色まで、こと細かに指定したがる学校。なぜ禁止されるのか理由を考える以前に、決められたことに無条件で従う、大人にとって扱いやすい子どもたちを作ろうとしている学校、教師、そして親たち、政府。その学校に素直に洗脳されてしまった子どものことを、どうして私たち大人が非難することなどできるだろう。陵平くんの姿は、私たち大人が彼に求めた結果なのだ。わが子に自殺された親たちは、真面目に育てたことを後悔する。他人に迷惑をかけない人間に育てたことを後悔する。問い直されるべきは、亡くなった子どもの価値観ではなく、私たち大人の子ども観、価値観ではないだろうか。 そして、生徒にはあれほど、自分のしでかしたことに対して厳しく具体的な反省を求めながら、自分たちはけっして反省をしようとはしない、形にあらわすことをしない教師たち、学校、教育委員会。かれらにこそ、子どもたちに求めたように、1.事実を具体的に書く 2.他に反省すべき点があれば書く 3.今後、生徒、社会など、これからみんなに対して貢献できることを書く などを作文に書いて提出するよう求めたい。 |
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