子どもたちは二度殺される【事例】



注 :
被害者の氏名は、一人ひとりの墓碑銘を私たちの心に深く刻むために、書籍等に掲載された氏名をそのまま使用させていただいています。ただし、加害者や担当教師名等については、個人に問題を帰すよりも、社会全体の、あるいは学校、教師全体の問題として捉えるべきではないかと考え、匿名にしてあります。
また、学校名については類似事件と区別するためと、隠蔽をはかるよりも、学校も、地域も、事実を事実として重く受けとめて、二度と同じ悲劇を繰り返さないで欲しいという願いを込めて、そのまま使用しています。
S.TAKEDA
991126 いじめ自殺 2000.9.10、2001.1.7、2001.8.1 2002.1.13 2002.2.13、 2004.6.132005.10.20 2006.7.5 2007.9.24更新
1999/11/26 栃木県鹿沼市立北犬飼中学校の臼井丈人(たけひと)くん(中3・15)が、自宅の押入の取っ手にタオルをかけて首吊り自殺。
遺書・他 なし。
経 緯 1999/4/ 教室内で同級生2人にズボンや下着を無理矢理ぬがされた。
5/中旬 うち1人に顔にアイシャドーを塗られた。
9/ 「肩パンチ」というゲームにかこつけて肩を殴られていた。
11/ 学校を休んでいたため、担任や学年主任らが家庭訪問をするとともに、いじめていた同級生2人の指導をしていた。
両親が同級生から聞かされていじめの事実を知ったのは、自殺の前日だった。
担任の対応 担任は、同級生2人からズボンを下ろされるなどのいじめにあってたことを知っていたが、丈人くんが「遊びだから大丈夫」「大事にしないでほしい」と頼んだことから、男子生徒たちに注意するなど具体的な対策はとらなかった。
担任は下着の件を同級生から聞いて「本人と話し対応した」と言うが、両親には知らせていなかった。

丈人くんの死後、担任は「自殺の話がもしその場で聞こえていたら、私のほうももっと真剣に対応したはず」と両親に話した。
学校の調査と報告書 11/27-28 学校は、クラスの一人ひとりの生徒を家庭訪問し、聞き取り調査。
※学校は当初、「学年全員から聞き取りを行った」としていたが、実際は一部の生徒にしか行っていなかったことが判明。担当したのは養護教師で、事実調査というより、「心のケア」を目的とした内容だった。

11/29 確認作業をした結果、下記の内容が判明。(1999/12/10学校の報告書=A4 1枚)
学校は、7件のいじめが2年生の後半から3年生の夏までに確認されたと伝えた。いじめが継続的であったことは書かれていなかった。


1.4月23日の6校時終了後、3年○組教室で、A・B2人が臼井丈人君に対し、Bが後ろから両腕をおさえ、Aが
ズボンとパンツを下げた

2.5月中旬頃、理科室において理科の授業中に、Aが友人のサインペンのようなものを借り、臼井丈人君の
腕および目の上にそのペンでいたずら書きをした。

3.2年生の頃から、ジャンケンで負けると肩をパンチされるというゲーム(
肩パンチ)が男子間で行われるようになり、特に3年の1学期に多く行われていた。3年1学期は、A・Bが臼井丈人君とたびたび肩パンチをやっていた。肩パンチというゲームではあるが、AやBが強くたたいても、臼井丈人君は強くたたけなかった。夏休み以降、確認できたのは、9月の1回のみである。

4.6月上旬の昼休み、Aが1週間ぐらい臼井丈人君の買ったばかりの新しい靴を借りてサッカーをやり、
靴を汚してしまった

5.3年の4月から、臼井丈人君を
「ドリル」と言ってからかった生徒がいた。主にからかった期間は、1ヶ月程度である。

6.5月頃、理科室において、Aが臼井丈人君の
布製の筆入れを流しに落としたり、筆入れに水を入れて洗ったりしたことが2回あった。
Bもそれに1度加わった。

7.2年の頃、何人かの友人がテレビゲームで遊んだ。その中で、Cが臼井丈人君の
ゲームソフトを投げて壊した
親の調査 学校側の調査に納得のいかない両親が、同級生ら約50人に聞き取り調査をした結果、いじめが日常的にあったという証言が相次いだ。

・肩パンチ、
プロレス技、背中を叩かれるなどしていた
・廊下であったら
殴られる
・「罰ゲーム」として1分間殴られる続け
、それを何回も繰り返された
顔や体へのいたずら書き
・髪を不ぞろいに切られた
など

・不登校になるまで続いた
・教師の目の前で行われたいじめもあった
学校・ほかの対応 市教委は、「いじめが不登校になった要因のひとつと考えられるが、それが自殺の直接の原因であるかどうかは不明」「いじめ行為があったことは確認しているが、いじめが自殺の直接的原因ではない」と主張。

学校側は事件を知る生徒を皆推薦入学にし、自分たちに不利な証言をさせない。

両親は、鹿沼市に「いじめが自殺の原因」として説明を求めるが、市は「中学校の教師に過失はなく、市に賠償責任はない」と回答。
背 景 第2学年は生徒が授業中に離席して騒ぐなど授業崩壊。また、多くの女子生徒が授業を受けずに保健室や図書室にたむろするなどしていた。
生徒間にいじめも認められた。
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1999/4/ 授業崩壊やいじめの対策として第3学年進級時、通常実施されないクラス替えを実施。
PTAほかの対応 PTAからは、「個人の調査に協力するのは適当でない」と協力を断られた。
加害者 県警は元同級生の男子生徒(15)2人を暴行容疑で宇都宮地検に書類送検。
宇都宮家裁は、いじめと自殺の関連については判断を留保し、2人を暴行の非行事実で保護観察処分
裁 判 2001/7/27 「事実を知りたい」として、宇都宮地裁に提訴。
「執拗ないじめが行われていることを知りながら、学校はこれを防止措置を講じなかった」「自殺はいじめが原因だった」として、鹿沼市や木県>、いじめていた生徒2人と両親を相手取り、総額1億1千万円の賠償金を求める裁判を起こした。
被告側の主張 元同級生側は、「友人関係における遊びや悪ふざけであり、丈人くんを狙ったいじめではない」と主張。
市側も、「丈人くんの自殺はいじめの結果ではなく、学校側に過失はなかった」と主張。
証 言 元同級生2人を証人尋問。「面白いからやった」と証言。
1審 2005/9/29 宇都宮地裁で一部認容。両親控訴。

岩田真裁判長は
、「継続的で陰湿ないじめがあったが、学級担任などは安全配慮義務を怠った」として、元同級生2人と市、県などに計240万円の支払い命令。同級生1人の両親にも賠償責任を認めた。
いじめと自殺との因果関係については認めなかった。


いじめと自殺との因果関係を否定した理由について、
・丈人くんが不登校になり自殺した11月頃は、激しいいじめが行われた1学期から長い期間が空いていた
・丈人くんが自殺前、「勉強が嫌になった」と話していた
などを挙げて、「不登校を続け厭世(えんせい)的な心情に陥り」「臼井君は進学への意欲と生きる意欲を失い自殺したと認めるのが相当」などと結論づけた。
2審 2006/7/5 東京高裁で、江見弘武裁判長のもと、元同級生2人の親と和解。
継続していじめたことを謝罪し哀悼の意を示す、120万円を支払うなどの内容。


2007/3/28 東京高裁で、市と県に860万円の支払い命令。

江見裁判長は、1審同様に
いじめを防げなかった学校側に「安全配慮義務違反」を認め同義務違反と自殺との間には事実的因果関係を認めたが、相当因果関係は認められないとして、いじめにより受けた肉体的・精神的苦痛に対しての慰謝料1000万円及び弁護士費用100万円の損害のみを認めた。
(賠償額は1100万円と認定し、生徒との和解で受け取った240万円を差し引く)

2審
判決要旨

●丈人くんの受けたいじめについては、
暴行を加えた者だけでなく、被害者が陥った状態を放置した級友の卑怯な態度も、いじめの大きな要素であり、敢えて言えば、被害者以外の級友のすべてが加害者と言ってよい事例である」と言及。

●「いじめでうつ病を発症し自殺した」との遺族側の主張をに対して、
「将来への希望を全く失っていることを示す発言をし,表情から生気が失われるなど,うつ病の典型的な症状として指摘されている症状を示し,遅くと 登校しなくなった時点で,うつ病にり患していたと認められる。」と、丈人くんがうつ病にり患していたことを認定。

また、 「自殺の念慮や自殺の行為は,うつ病の典型的な症状の一つに挙げられており,うつ病患者の自殺率は, 一般人口に比して少なくとも数十倍高いと報告されており,Aの自死は,うつ病によるものであると認めるのが相当である。」とうつ病と自殺の因果関係を認定。

Aがうつ病にり患した主な誘因は,中学校において長期にわたって人格を否定されるようないじめを受け,クラスで 孤立無援の状況に置かれ,極めて強い精神的負荷を受け続けたことによると認めることができる。」と、うつ病といじめの因果関係を認定。

「しかし,Aは,1学期が終了した時点ではうつ病にり患していたとまでは認められず,その後の経緯を経てうつ病にり患したこと,Aに対するいじめは,暴行自体は深刻な傷害を負わせる程度であったとは認めることができず,いじめにより受けていた精神的な苦痛が他者からは把握し難い性質のものであったことを併せ考えると,Aが1学期中に受けたいじめを原因としてうつ病にり患し,自死に至るのが通常起こるべきことであるとはいい難く,いじめを苦にした生徒の自殺が平成11年以前にも度々報道されており,いじめが児童生徒の心身の健全な発達に重大な影響を及ぼし,自殺等を招来する恐れがあることなどを指摘して注意を促す旧文部省初等中等教育局長通知等が教育機関に対して繰り返し発せられていたこと(甲13,23,弁論の全趣旨)を勘案しても,甲中学校教員らが,第3学年1学期当時,Aがいじめを誘因としてうつ病にり患することを予見し得たとまでは認めるに足りないといわざるを得ない。
よって,甲中学校教員らの
安全配慮義務違反とAのうつ病り患及び自死との相当因果関係を認めることはできない」とした。

なお、1審で自殺の原因と認定した「受験に対する不安などは自殺に関係ない」とした。

●学校・教員の対応について、
「校内における生徒の生命,身体の安全は,後に見るように保護者の委託を受けて生徒を預かる学校が確保することを要し,教員も同様である。暴行等犯罪に当たるものはもとより,そうでないものも,いじめに当たる現象は,授業だけではなく,学校という共同社会の存立の基盤を脅かすもので,これが生じないようにし,生じた場合においても,害を小さくすることが不可欠で,教員の果たす役割は大きい。
生徒間のいじめは,教員に隠れて行われるのが通例で,いじめの現象を発見するのは容易ではなく,その発見や,これを発見したときの対処にはそれなりの準備と工夫を要する。
いじめは,本件におけるように,被害生徒が通報することがないのが通例で,他の生徒の通報が発見の契機となる。
通報を契機として,事情聴取しても,被害生徒すら事実を否定するものであり,それのみからいじめがないと判断するのは愚かの極みである。
被害生徒は,教員に期待することができないと判断するとき,通報を理由とする被害の拡大を避けるためにいじめの事実を否認するのであり,この見易い道理を踏まえ,教員は,教員同士,互いに足らざるを補い,事態に対処することを要する。
加害生徒側への謝罪の要求を受け,事態を的確に把握しないまま,加害生徒を謝罪させるなどは,いじめに対する対策の名にも値しない。」と言及。
いじめを防げなかった学校側に「安全配慮義務違反」を認めた。


しかし、「4月23日(パンツ下げ事件)から第3学年1学期終了時までの間にAが受けたいじめを甲中学校教員らが阻止できなかったことによりAが受けた肉体的・精神的苦痛に対し,被控訴人市は,国家賠償法1条1項に基づき,被控訴人県は,同法3条1項に基づき,連帯して損害を賠償する責任を負うというべきであるが,Aが第3学年2学期(平成11年9月以降)に甲中学校で被った苦痛,その後のうつ病り患及び死亡については,被控訴人らは損害賠償責任を負うと認めることはできない。 」とした。

「上記期間,毎日のように同級生から暴行を受け,また,人間としての尊厳を踏みにじるような辱めを受け,同級生は不当な被害を受けているAの様子を知りながら,傍観し,時には嘲笑したのであり,誰にも助けを求めることができず,いじめにひたすら耐え,その苦痛を誰にも訴えることができず,学校に通い続けたAの肉体的・精神的苦痛は甚大なものであったというべきである。」として、丈人くんの苦痛に対して慰謝すべき金額を1000万円と認定

※ 同判決文(平成17(ネ)5173)は、裁判所判例Watch (http://kanz.jp/hanrei/) のなかの平成19年3月東京高裁判例で、全文を読むことができます。

参考資料 1999/11/26毎日新聞、1999/11/27読売新聞、三多摩「学校・職場のいじめホットライン」資料・他、2000/8/21朝日新聞、2001/8/26「ニュースの森」/TBS2001/7/27産経新聞(月刊「子ども論」2001年10月号/クレヨンハウス)2001/11/15不登校新聞、2001/12/15不登校新聞、読売新聞(12年11月25日、2005/9/29毎日新聞、2007/3/28毎日新聞・夕刊 裁判の傍聴、裁判所判例Watch (http://kanz.jp/hanrei/  ほか
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