わたしの雑記帳

2009/4/28 神奈川県横浜市奈良中学校、柔道部顧問による傷害事件 と 福島県須賀川市の須賀川(すかがわ)市立第一中学校事件判決

2009年4月14日(火)、午前10時から、横浜地裁503号法廷にて奈良中学校、柔道部顧問による傷害事件の民事裁判(平成19年(ワ)第4884)が行われた。裁判長は三代川俊一郎氏。

民事裁判の裁判長は今まで、被告教師の刑事事件での処分がどうなるかを待っており、この3月にも刑事事件の結果が出る予定だった。しかし結局、4月に新たな担当者のもと、継続審議されることになったという。
奈良中事件が起きたのは2004年12月24日。2007年7月に警察は顧問教師を傷害容疑で書類送検している。それから1年半。まだ結論は出ない。すぐに結論が出ないということは、刑事事件として顧問の責任を問うのが難しいのかもしれない。

しかし、一般常識からしても、中学3年生の12月、部活動をすでに引退しているはずの部員を、帰宅しようとしているところをわざわざ呼び止めて練習に参加させること自体、極めて不自然な行為だ。
大会前の強化合宿中ならいざ知らず、強烈な技を一方的にかけ続け、気を失ってなお、ビンタで覚醒させて、休息も与えずに技をかけ続けるなど、どう見てもリンチ(私的制裁)にしか思えない。
実際に、学生、社会人を問わず、格闘技においては練習の名のもとに私的制裁が行われることがよくあるのは、周知のことだ。
しかも、Kくんは死に至ってもおかしくないほどの重傷を負い、今も重い後遺症をかかえている。

これがもし不起訴になるなら、そのことのほうが由々しき問題だとさえ思ってしまう。
警察とマスコミの腐敗を描いた映画「ポチの告白」(2009/3/25付け雑記帳参照)を思い出す。
神奈川県警は柔道に長年、力を入れてきた。柔道での功績が認められて教師になったという顧問。柔道を介して、何らかのつながりがあったとしても不思議はない。
あくまで個人的な推測にしかすぎないが、刑事事件の結論がなかなかでないことで、心配していた。

3月に出るはずだった結論。それが、持ち越されたことの背景に、須賀川事件の判決が影響を与えたのではないかと推測する。
須賀川事件では生徒対生徒だったが、奈良中事件では教師対生徒。より、教師の責任は重いはずだ。
長年、柔道をやってきて、指導者という立場にある顧問が、事故を予測できなかったなどという言い訳は通らない。
柔道の力量差は一目瞭然。顧問には、いかようにもコントロールできたはずだ。
須加川の男子生徒の行為が、練習の範囲を逸脱した暴行と認められるなら、奈良中の顧問の行為もまた当然、暴行と認められるべきものだと思う。

また、須賀川以外の過去の判例でも、投げた生徒の責任や顧問の責任が認められている判決はある。

事件概要 判 決 参 照
1986/9/
愛媛県松山市の市立中学校の体育の授業での柔道練習中に、体育教師の指示を受けた生徒に投げ技をかけられた宮崎祐一さん(当時中3)が、受け身に失敗して後頭部を打ち、授業終了後に意識不明になった。
病院に運ばれ、開頭手術を受けたが、後遺症で控えめに見ても労働力の10%が失われた。
1993/12/8 (民事裁判判決)
松山地裁は、「柔道の練習には一般的に生命や身体に対する危険性が内在している。教師には生徒の技能を正確に把握し、力量に応じた練習を指導する注意義務があるのに、それを怠った」などとして、松山市に慰謝料などを含め約1892万円の支払い命令。
1993/12/8朝日(大阪)夕刊
(月刊子ども論1994年2月)
1991/7/2
大阪経済法科大学の日本拳法部で、上級生(21)が、退部を申し出た川勝一男さん(20)に防具をつけさせ、一対一で練習。川勝さんの顔を続けて2回殴り、1週間後に脳挫傷で死亡させた。
1992/7/20 (刑事裁判判決)
大阪地裁で、今井俊介裁判長は、「退部届けを出した被害者に対する制裁であり個人の意思を尊重しない短絡的、悪質で危険な行為」として、懲役1年6月(求刑同4年)の判決を言い渡した。
また、「日本拳法二段の被告が初心者の川勝さんに着けさせた防具は衝撃が伝わりやすいことなど、スポーツの練習とは認められない」と判断。
「一部の大学の運動部では、退部の申し出に対し、練習に名を借りたいわゆるしごきが行われている。同部でも退部する場合、坊主頭にし退部金10万円を支払う慣行があったが、一般社会常識とかけ離れている。川勝さんは勉学に専念するため退部を届けたもので、個人の意思を尊重すべきだった」と指摘した。
1992/7/20京都新聞
(月刊子ども論1992年9月)
2003/10/18
福島県須賀川市の須賀川(すかがわ)市立第一中学校の女子生徒(中1)が、柔道部の練習中倒れ、今も意識不明の状態が続く。
2009/3/27 (民事裁判判決)
見米正裁判長は「顧問らが監督責任を怠ったことが事故を招いた」と認定し、市と県の責任を認め約1億5600万円の支払いを命じた。また、元部長の男子生徒は女子生徒が重大な障がいを負う結果は予測できなかったとしたが、事故のきっかけは元部長の練習の範囲を逸脱して少女を投げた暴行にあると認定。損害賠償額のうちの約300万円は元部長を含む3者に連帯して支払うよう命じた。(確定)
(031018 参照


須賀川の事件では、被害者の女子生徒は今も意識不明の植物状態で、法廷で証言することも叶わなかった。
奈良中の被害者の男子生徒もまた、障害を負って、証言することは難しい。だからこそ、両親は息子に何があったのかを知り、二度と同じことが繰り返されないためにも、裁判を起こした。

刑事事件の結論が出ないなか、顧問は今だ教師を続けている。子どものいじめや非行と同じで、責任が問われなければ、また同じことを繰り返してしまう。新たな犠牲者が出るかもしれない。それを心配する。
大人たちの都合ではなく、子どもの安全を第一に考えてほしい。

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文部科学省は、学習指導要領の「生きる力」や「我が国の伝統的な運動文化」として、中学校での武道必修化を決めた。
2012年度完全実施を目指し、2009年4月から一部の学校で武道の必修化が取り入れられ始める
文部科学省のサイト http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/jyujitsu/1221013.htm には以下のような文言が並ぶ。

文部科学省では、平成20年3月28日に中学校学習指導要領の改訂を告示し、新学習指導要領では中学校保健体育において、武道を含めたすべての領域を必修とすることとしました。  武道は、武技、武術などから発生した我が国固有の文化であり、相手の動きに応じて、基本動作や基本となる技を身に付け、相手を攻撃したり相手の技を防御したりすることによって、勝敗を競い合う楽しさや喜びを味わうことができる運動です。また、武道に積極的に取り組むことを通して、武道の伝統的な考え方を理解し、相手を尊重して練習や試合ができるようにすることを重視する運動です。」

武道の素晴らしさを強調するが、一方で重大事故の多さ(me080726参照)については触れられない。
教師用の指導マニュアルも技術面が中心で、事故の多さや具体的な事故事例をあげずに、安全な指導を心がけるようにとさらりと流されている。
「日本の文化」を大切にするために、未整備な設備環境と未熟な指導者のもと、生徒の安全、ひいては命が軽んじられようとしているように、私は思う。

国はいつも、新しい施策を行うときに、よいことばかり強調する。考えうるリスクについてはほとんど触れようとしない。
さまざまな団体が要望しても、一応形式的に聞く形はとるものの、真剣に耳を傾けようとはしない。
子どもとその家族の将来を奪ってしまったら、その責任をだれがとれるというのだろうか。



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