2008/12/26 | 千葉県浦安市養護学級わいせつ裁判判決。一部、認容。 | |
2008年12月24日(水)、13時15分から千葉地裁405号法廷で、千葉県浦安市養護学級わいせつ裁判の判決があった。 裁判長は三代川三千代氏、高橋彩氏、飯塚素直氏。 前日にTBSの「イブニング5」で報道されたこともあって、傍聴券を求めて長蛇の列ができた。私は、12時35分の抽選時間までにぎりぎり間に合わず、法廷に入ることはできなかった。テレビカメラが何台も来ていた。 支える会の方からの伝言で「一部勝訴」が伝えられた。被告浦安市と被告千葉県に対して、連帯して60万円(A子さんに対する慰謝料50万円、弁護士費用10万円)の支払い命令が出た。 裁判所が認めたのは次の3つ。いずれも平成15(2003)年。 (判決要旨から引用。ただし、実名については伏せ、カッコ内は武田付記) ア.(2003年)6月27日ころプール授業後、(被告Kが)原告A子(当時小6・11)の頭を殴打した事実。 この事実については、原告A子とその妹が6月27日に帰宅後、原告母にその旨を説明している。両者の説明は、体験したその日にされていて事実関係を混同しているおそれがないこと、妹の目撃状況が客観的状況とも整合すること、この時期に被告Kと原告ら家族との対立関係が生じていたことは窺われず、あえて両名が体験しないことを述べることは考えられない等から、信用できるものと判断した。 イ.原告A子の手が眼鏡に当たった際に拳骨で原告A子の頭を叩いた事実。 この事実は、程度はともあれ被告Kも見止めるところである。被告Kは、軽くこづく程度であったとか、すぐ謝罪した等と主張するが採用できない。原告A子の手が眼鏡に当たり感情的になって叩いたと考えられる。 ウ.7月4日に原告A子の乳房を触った(掴んだ)事実(刑事事件における起訴事実に対応)。 この事実については、原告A子が7月4日に帰宅後すぐ、原告母に「今日Kにおっぱいぎゅうされた」と訴えている。そのときの原告A子の態度や訴えまでの時間的経過は、被害を受けた者の行動として自然であるし、申告内容も具体的で迫真性があること等から、原告A子の上記の訴えは十分信用できる。なお、この日の原告母とのやりとりから、胸を掴まれた場所はM学級内のカーテンスペース付近と認められる。他に教師や児童がおり、カーテンが開いていた状態であったとしても上記行為は可能であったと考えられる。 K元教師の暴行とわいせつ行為の一部は認められた。 しかし、K元教師本人に対する請求は、公務員の職務行為に基づく損害ということで、個人として被害者にその責任を負わないとして、棄却された。(代わりに県と市が賠償責任を負って支払う) 浦安市の事後対応義務違反については、原告夫婦から具体的な被害申告を受けて、その都度、さほど間を置かずに、同じ学級の教師・補助教員らから事情聴取を行った、原告夫婦からも相談を受けるなどしたとして、事実調査に問題があったとは認めなかった。 また、浦安市は、加害行為の有無が確認できない段階から、K教師をA子さんの担当からはずし、その後、学級担任からも外して教育センターで研修を受けさせるなど、被害再発防止のため迅速に対応したと認めた。 千葉県については、市に事実調査の義務違反があったとは認められないから、市に対する指導義務違反や自ら調査を行う義務違反があったとは認められないとした。 また、県教委が、被告Kに対し、懲戒処分を行わなかったからといって、これが裁量権を濫用する違法なものであるとまでは認められないとした。 ******** 裁判後の報告会で、 Aさん一家は、納得いかないところはたくさんあるものの、刑事裁判で認められたKのわいせつ行為が認められたことはうれしいと話した。 とくに、「おっぱいぎゅうされた」というのは、A子さんがいちばん初めに訴えた被害だった。そして、刑事裁判で証言時に、被告弁護士に「(証言を)練習してきたんじゃないの?」などと質問されて、深く傷ついた。 刑事裁判で無罪判決を受けて以来、Kは法廷で堂々と「冤罪」を主張してきた。少なくとも、それは覆された。 そして、刑事裁判の、「他の教諭や児童がいた教室のカーテンで覆われたスペースで、犯行に及んだなどとする事実経過は不自然で不合理」という判断に対して、「他に教師や児童がおり、カーテンが開いていた状態であったとしても上記行為は可能であったと考えられる」と、刑事裁判での判断を覆している。 弁護団は予め話し合いのなかで、性的虐待がひとつでも認められたら勝利と考えてよいということを決めていたという。 そういう面では、いちばん勝ち取りたいものは確保することができた。 一方で、知的障がいのあるA子さんの証言の信憑性について、 認められたのは、その日に被害を訴えている内容。妹が目撃していたり、K元教師自らが認めている内容に限られた。 民事裁判は、刑事裁判に比べて、水戸アカス事件の判決例からも、日時に多少あいまいな部分があっても認められやすいという期待があったが、だめだった。 また、弁護団が今回、一番期待したのは、A子さんが被害にあった直後の夏休みに過ごした祖母宅での言動を祖母が日記に記載していたことだった(me080421 参照)。 裁判長も、真剣に耳を傾けてくれているように感じていた。創作では考えられない、あれだけの内容を結局は証拠採用されなかった。もちろん、裁判長の心象には大きく影響したのではないかと思われるが。 理由は、刑事裁判時に、証拠提出されなかったこと、その内容をA子さんの母親が知らなかったこと。 弁護団は言う。A子さんは、K元教師から、「親に言ったら、猫も家族もみんな殺す」「トイレに流して殺す」「カッターでお腹を切って、殺す」と言われていた。脅されて本気で、恐怖を感じていた。しかし、ひとつ話して、殺されないことを確認して、安心して話せるようになった。 また、一般のひとには、自分の日誌が裁判の証拠になるなどということは思いもつかない。 A子さんのPTSDの治療にあたっている医師は言う。今、性的被害について、海外の司法面接手法を取り入れようという動きがある。被害者の心理的負担を考えて、1回で済ませようという。しかし、現実に被害にあった人たちと接していると、1回で全てを話せることのほうがむしろまれだという。最初に軽いことから話して、大丈夫だとわかって少しずつ深刻な内容を話しはじめるという。 これは、いじめの被害者と同じだと私は思った。言おうか、言うまいか、被害者はとても悩む。最初に話すのは、証拠があげやすいことや軽い被害。相手の反応を見てもっと話すかどうかを決める。 また、親、とくに母親が話しを聞いて泣き出してしまったりするのを見ると、子どもは自分が親を悲しませたと罪悪感を感じて、口を閉ざしてしまう。知的障がいがあっても、A子さんには相手を思いやるやさしい子だという。思わず泣き出してしまった母親の姿を見て、それ以上、言えなかったとしても無理はない。 一方、祖母は、教師の経験もあり、障がい児を受け持ったこともあった。A子さんが気持ちを吐き出せるように、質問をしたり、大きく驚いてみせたりしなかった。だから、A子さんも安心して吐き出すことができた。 しかし、性的被害というのは、家族間でも触れたくない、触れれば傷つく。親子であっても、十分な情報交換がなされなかったのも無理はないと思う。 まして、刑事裁判で無罪判決が出るなどと、Aさん一家は考えもしなかっただろう。Kの自宅からは幼児性愛者であることを裏付ける児童ポルノのCD-ROMやもうひとりの被害者B子さんが目隠しをされたと証言したのと同じ柄のバンダナなどが押収され、K本人も犯行を認めていた。それが一転して無罪を主張し、刑事裁判は高裁まで争ったあげく、まさかの無罪判決だった。 Aさんは、刑事裁判の結果が余りにひどかったことに比較して、民事裁判でたったひとつでも、わいせつ行為が認められたことを素直に「うれしい」と表現した。 しかし、私が何より悔しいのは、市や県、独自の責任が一切、認められず、むしろ、再発防止に向けて適切に対応したと認定されたことだった。 どんなおざなりな調査であっても、最初から「わいせつ行為はなかった」ことを結論づけるための調査であったとしても、形だけ整っていれば調査義務を果たしたと認定されるいじめ調査と同じだと思った。 Aさんと、Bさんが、なぜ、刑事裁判に訴えざるを得なかったか。そして、民事裁判をたった一家族になっても、提起せざるをえなかったか。すべて、学校・教育委員会の対応にある。 学校がK教諭を担任から外したのは、わいせつ行為が問題とされたからではなく、指導力不足だと認定されたからだという。そして、刑事裁判で無罪判決が決まったときには、本人の希望があれば、また現場に戻すこともあり得るとした。 まして、今回、被害を訴えていたのは、A子さんだけではなかった。暴力行為やわいせつ行為を多くの子どもと親が証言していたはずだ。医師が診断を下したA子さん、B子さんのPTSDはなぜ生じたのか。 たった1回、胸をつかまれ、2回ほど叩かれただけで、今だに怖い夢にうなされるほどの心的外傷を受けるものだろうか。 学校が他の児童生徒や保護者に聴き取りをきちんとしていれば、違った結果になったのではないか。 知的障がい者の感情や能力をいちばん馬鹿にしているのは、教師たちではなかったか。 もし、この浦安市と千葉県の対応が認められるなら、日本全国どこでも、知的障がい児・者は被害にあい続けるだろう。声をあげても、無視されてしまう。 そして、司法の性的被害と、知的障がい者への理解のなさ。女性裁判官が2人も入っていて期待しただけに、裏切られた気持ちだ。祖母のあの証言は一体なんだったのか。あれが捏造だとでも言うのだろうか。 損害賠償額は50万円。金額の低さは、被害の認定の低さだ。A子さんのあれほどの心の傷が、50万円分しか認定されなかったことにも、怒りさえ感じる。 控訴期限は2週間。裁判の大変さを思えば、そして、せっかく認められた一部さえ高裁でひっくり返されるかもしれないリスクを考えたら、Aさんに控訴してくれとはいえない。Aさんと弁護団の判断を待ちたいと思う。 |
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