わたしの雑記帳

2003/10/22 岡崎哲(さとし)くんの裁判(被告・加害少年側からの控訴審)判決

雨の降るなか、東京高裁で、岡崎さんが加害少年と保護者を訴えた裁判の控訴審判決があった。
霞ヶ関・東京高裁の建物入り口では手荷物検査が行われている。(以前は、大きな裁判があるときだけだったが、今は常時行われている)そこで、岡崎和江さんが持ち込んだ哲くんの遺影がひっかかった。
「事前に許可はとっているんですか?確認します」ということで、法廷担当者に電話した結果、袋から出さない、広げないという条件付きで許可された。
加害少年側は一度も法廷には姿を表していない。まして今日は判決で、心理的な影響を受ける証人がいるわけでもない。元々、哲くんの裁判なのだ。なぜ、遺影を持ち込めないのか、事前に裁判官の許可が必要なのか、遺影となった哲くんに何ができるというのか、割り切れない。

判決は同時に5件ほどあった。
ほかの裁判の関係者も含めて、34席はほぼ埋まっていた。
判決は主文のみ。一審の内容を変更し、控訴人は原告各人(父母)に2024万円の支払いを命じる。訴訟費用は控訴人(少年側)が5分の2、被控訴人(岡崎さん)が5分の3分担して支払うように、というものだった。

一審の判決(me020328)では裁判官は約5600万円の支払いを命じ、過失割合を加害少年8、哲くん2としていた。今回、2人で4048万円の支払い。過失相殺は4割5分(加害少年5.5、哲くん4.5)内容は明らかに後退している。ただ、死因は一審の内容を維持し、腹部への外力(暴行)が死因と認められた。

控訴審の第一回目に、裁判官が「過失割合に興味がある」と言った意味が今になってわかる。
岡崎さん夫妻は憤る。一審で腹部への暴行が死因として認められた。しかし、H少年は腹部への暴行は一切行っていないと供述している。(正確に言えば、初期の段階では腹も背も、めちゃくちゃに殴ったと言っていたのが、現場検証の頃から数発殴ったら倒れた。一回、起きあがって倒れた。腹は殴っていないに変わった。それが犯行態様として認定された)暴行だけを認めて、犯行態様をそのままにしている。
証拠としての遺体の状態と本人の供述とが明らかに矛盾しているにもかかわらず、加害少年を法廷に呼んで真実を明らかにしようとはしていない。

しかも、その他の部分については、一審で提出された同じ証拠文書を見た結果、一対一のけんかだったという少年の話を100%信じて、あるいは哲くんのほうから挑発したという話を信じて、殴り殺された被害者側にも半分近くの過失割合を課している。
「どういう攻撃がなされたのか、両方が攻撃したのか、一方的に加害者が被害者を攻撃したと認めるにたる証拠はない」と判決文には書いてあったという。しかし実際には、証拠はあった。哲くんの傷ひとつない手足の写真。むごたらしく抉られたいくつもの顔の傷。傷ひとつない加害少年の事件直後の写真。証拠提出された写真を見れば、素人にもわかることだ。

少年を証人として呼ぶこともせずに、一体、何を基準にして事実認定したのか。何を根拠に哲くんの過失割合を増やしたのかが、まるで見えない。
まして、加害少年側からは一度の謝罪も今だないこと、5600万円の支払いを不服として控訴したこと、加害者側の反省が被害者には一切感じられないこと、被害者遺族が金額などゼロでもいいから加害少年を法廷に呼んで話を聞きたいと言ったこと、それが無理ならせめて、和解の条件として直接謝罪を主張したこと、すべてを知っている裁判官が、なぜ、新たな証拠調べもせず、このような判決を出したのか、不可解だ。

支援者のひとりは「これでは敗訴だ!」と言った。しかし、もともとこの裁判は哲くんの死因を争うことから出発した。被害者は病死扱いされ、加害少年は少年審判で裁かれなかったことに対して、哲くんの名誉の回復のためにはじめられた裁判だった。大きなマイナスからのスタートだった。そのことを思えば、私自身は一審、二審を通して、暴行死として認められたことはなにより大きなことだったと思っている。そういう面では勝訴だと思っている。
もちろん、「一対一のけんか」という犯行態様には納得がいかない。一方的にやられたと思っているが。

哲くんのお父さん・后生さんが言った。私たちはこの裁判で、
1.どういうことがあったのか少年審判でわからなかったことを知りたい
2.日本では寡黙がいいとされ、被害者は泣き寝入りさせられてきた。しかし、一般のサラリーマンでも闘えるのだということを示したかったという。

はたして、目的はどれだけ達成されただろう。岡崎さん夫妻は現在、最高裁への控訴の意向を示している。(今後のことは改めて弁護士との協議となる)
岡崎和江さんが言う。「お金で命が買えるなら、5600万円、サラリーローンから借金したって揃えてみせるから、哲の命を返してほしい」と。
哲くんの名誉を守るためにも、この判決では、遺族は納得しない。


追記:
裁判の経過や遺族がどんな思いで裁判を起こしたか、高裁でどんな審議がなされたのかなされなかったのかの説明をはぶき、高裁結果だけを見出しに掲げた毎日新聞の10月23日付けの記事で、遺族は再びひどく傷付けられている。
「けんか認定 賠償減額」「東京高裁 元同級生に4048万円払え」の大きな見出しのこの記事を読んで、実際に遺族宅には、「けんかで死んだんだろう」、「いい気なもんだ、けんかを吹っかけて死んで、金を取るとはよ!」という内容の電話が入っている。
記事には、加害少年がついに一度も法廷に呼ばれることもなく、少年審判での証言のみが証拠採用されている不当性については書かれていない。これを読んだひとがどう受け取るか考えたことがあるだろうか。
岡崎さんは記者のひとにもわかってもらおうとして、どれだけの時間と労力を費やしてきたことか。ころころと記者が入れ替わるたびに、たくさんの資料を添えて、どこに不信感を持っているか、なぜ裁判を起こしたのかを説明してきた。記者はいったい何を聞いてきたのか。
判決文だけを並べるのなら、取材など一切必要ない。
この記事で、遺族は何日も眠れない夜を過ごした。誹謗・中傷の電話に怯える日々が再び続いた。事件直後の何の証拠もなく、、加害少年の供述だけを根拠とした、「哲くんのほうから一方的にけんかをふっかけた」という警察発表を鵜呑みにした報道でひどく傷つけられ、再び同じことが繰り返される。それとも、そのことに抗議した遺族への報復なのかとさえ勘ぐりたくなる。
遺族はいつまでも、どこまでいっても踏みにじられる。
なお、
岡崎さんは高裁の結果を不服として、最高裁に抗告した。




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