のじれん・通信「ピカピカのうち」
 

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悪くないぞ!のじれん弁当
(弁当隊活動報告)



 7月20日、野宿者人権科センター。シンポで「衛生上問題はないんですか?」「手袋ははめてるんでしょうね」「よりによって弁当とは……」最初はずいぶん言われたものだった。

 野宿者が自らの収入を得るための手段として弁当を作る――。安易と言えば安易だったかもしれない。しかし! 弁当隊は回を重ねて、今日までやってきた。「どうにかこうにか」といった控えめなものではない。回を重ねるごとに売上を伸ばしてきてもいるのだ。それもそのはず。弁当隊の隊長はこれまで何度か代替りしてはいるものの、初代も二代もそして今の三代も、いずれも過去に調理師の仕事をやったことのある経験者。味付けのほうは任せてほしいね。しかも脇を固めるのは、数ある炊き出しの中でも「うまい」と評判の渋谷の共同炊事を日ごろから担当している猛者たちだ。手順のほうはバッチリさ。さらに押しの強さだけが取柄の何人かのメンバーが適当な時期を見計らって「仕事」を取り付けてくる。脅しだって泣き落としだってなんでもやるヨ。――とくれば、うまくいかないはずがないじゃあないですか、あなた!

 これまでの弁当隊の記録を挙げてみよう。

4月17日 野宿者人権資料センター・シンポジウム(渋谷勤労福祉会館)。
4月25日 のじれん結成一周年記念総会(渋谷勤労福祉会館)。
5月29日-30日 寄せ場学会(横浜・寿)。
6月13日 JUBILEE2000集会(代々木公園野外音楽堂)。
7月20日 野宿者人権資料センター・シンポジウム(日本キリスト教会館)。
9月26日 大田区・共生競走マラソン(予定)。

 なあんだ、挙げてみればたったの6回か。半年で6回。月あたり1回。ま、こんなもんかな。というのはいつもいつもむやみやたらと忙しい現場のめまぐるしさの中で、さらに弁当隊が出動するというのは容易な技ではないのだ。なにせ昼飯用の弁当を用意するには始発が動き出す頃から準備を始めなければならないのだから。そのためには前の晩に買物を済ませておかなきゃならない。夜遅くまで会議なんかがあるときには、その合間に買出しをして、会議が終わってからホンのちょっとの仮眠をとって、朝っぱらから準備をする。それはそれは面倒な作業なのだ。寄せ場学会の時なんて、昼休みの「出番」を待ちつつも、後ろの方でコックリコックリ。「最近の野宿者を取り巻く社会状況は……」とかって一生懸命報告してくれる発表者の人には本当に申し訳なかったけど、でも悪気があったわけじゃあないんだ。しかも! 弁当隊が活躍するのは何も売るときばかりじゃない。全都実の行動でメシが必要なときなんかも「やっぱり弁当隊でなきゃ」とかなんとか言われて出動する羽目になる。割にあわない仕事なのだ。

 割にあわないと言えば、弁当隊には最近まで一切「給料」は出なかった。売上は全部そのまま「児童会館資金」へ。その金をみんなは面接や日雇い仕事の交通費とかに使う。それはもちろん労賃の中から返してもらう仕組みになってるけど、しかしどうしてもだんだん減ってっちゃう。そうすると「また弁当隊やるか」という話しになる。弁当隊は児童会館資金の動力源、ぶっちゃけて言えば「ドル箱」なのだ。ごくろうさまです。しかし「ごくろうさま」だけじゃねぇ、というわけで、7月のシンポジウムからは純益の中から労賃を出すことにした。千円。ほとんど丸一日、時には丸一日以上働いて千円。7月のシンポジウムのときには四万の売上があったから「ボーナス」を出したけど、それでもプラス千円。都合二千円。これを労働の対価として考えれば、ケタオチどころの話じゃない。どんな暴力飯場も顔負けだ。だからそうした事情を知ってるあるジャーナリストは言った。「のじれんの野宿者たちはたった千円の報酬で働いている。こりゃ驚きだ」と。なるほど。言われてみればその通りだ。実際に働いている弁当隊のみんなはどう思ってるんだろう? 今度聞いてみよう。

 言われてみればその通り? じゃあ言われる前はどう思ってたんだろう? 活動の延長だって思ってた。のじれんは野宿者の生活を良くするために、野宿者が気持ちからして自立するためにやっている。野宿者はみんな金がないのを知ってやっている。野宿者も金が儲からないのを承知でやっている。じゃあその活動は何のため? 金を儲けられるような生活をするためか? そうじゃないけど、でもやっぱり自分の屋根と寝床を持つくらいの収入は欲しい。仲間はみんなそう言う。「そうじゃないけど、でもやっぱり」っていうところが難しいところだ。野宿者運動の難しさは、この「そうじゃないけど、でもやっぱり」ってところに尽きるかもしれない。

 ちょっと前だが、『インパクション』ていう雑誌の座談会でのじれんのことが引き合いに出されていて、「彼らは尊厳の回復のためにやっているんだろう」と書いてあった。じゃあ尊厳はどうやったら回復できるんだろう? 「屋根と寝床はあこがれだ」と多くの仲間はそう言っている。じゃあ屋根と寝床さえあればあなたの「尊厳」はそれで「回復」されるの、と聞いたらどうだろう? やっぱり「そうじゃないけど、でもやっぱり」って言われるような気がする。

 話しがそれた。とにかく、弁当隊は安い報酬を驚かれながらも生き生きとやっている。9月26日は八百人からの参加が見込まれる大イベントへの出動だ。ホルモン丼、磯辺焼、はるばるシンガポールから届いたカンパのインスタントラーメンに若干のアルコールと、もはや「弁当」隊の域を超えたメニューを用意していて、早くも売上十万!の掛け声が飛び交っている。多くの団体が参加するそのイベントを足がかりに、様々な団体との交流も深めていきたい。こう書いていると、実際に自分が作ったり売ったりするわけじゃなくても、なんとなくウキウキしてくる。そう。てんやわんやで作業したり、売上に一喜一憂する弁当隊の活動にはどこかお祭り的な要素がある。いくら売れるか、買ってくれるか、という「命がけの飛躍」にはギャンブル的な要素もある。このお祭り的・ギャンブル的なところが、報酬目当てだけにしては割に合わず、仲間のためというキレイゴトだけにしてはシンドすぎる弁当隊の活動を支えているのかもしれない。ふざけた語り口でふざけた結論を言うな、と言うなかれ。書いてるほうは大マジメなのだ。

 今後とも、弁当隊の活動にご注目・ご支援いただきたい。



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(CopyRight) 渋谷・野宿者の生活と居住権をかちとる自由連合
(のじれんメールアドレス: nojiren@jca.apc.org