「ONマークで日本中を占拠する!」
Tシャツ製作・販売担当者座談会
文責:編集部
のじれんは今年の夏、弁当隊・フリマ隊に続く仲間の自助努力の第三弾として、Tシャツ製作・販売活動に取り組んだ。発案提起がそもそも7月中旬という、「季節もの」の企画としてはあまりにも余裕のないものだったが、そこはふだんの活動で鍛えている追い込み力の見せ所、なんとか8月14日の夏祭りでの販売に間に合わせた。通信発行の狭間に落ち込んでしまったこともあり、「ピカうち」読者へのお知らせは遅れてしまったが、まだ一定の在庫があるので、ぜひお買い求めいただきたい。(購入方法等は、「のじれんTシャツ販売」のお知らせページ参照)
さて、今回の企画には特筆すべき点が一つあった。それはのじれん外部から本職のデザイナーの協力を得られた、ということ。これは別に専門家をそれだけでありがたがるという権威主義的な発想から言っているのではない。野宿者の発案に非野宿者が自分の専門技術を生かす形で関わるというその関わり方に、今後発展させるに値する意義があると思うのだ。しかもその関わり方は、今回、単にのじれんの外側に止まるというものではなかった。企画段階から折衝を重ね、発注から製作段階まで、そのすべてがのじれんとデザイナーとの共同作業だったと言っていい。たしかにこれまでも、たとえばホームページの製作や翻訳などでその道の熟練者に協力を仰いだことはあった。これはこれで極めて重要なことで、今でものじれんはそうした協力者の登場を熱望してはいるのだが、しかしそうした場面では野宿者との生の関わりが生まれることはなかった。また、様々な運動に八面六臂の活躍を示す人が野宿者運動にも協力してくれる、ということもあった。それが野宿者にどれだけのチャンスと希望を与えてくれたか、それには計り知れないものがあるけれども、そうした「活動のプロ」との関わりには、多くの前提を共有することの安心感がある一方で、戸惑いに満ちた新鮮味に若干欠けるところがある。今回はそのいずれとも異なるケースだった。
金を払えば専門技術者を雇うことができるだろう。しかし、野宿者にも野宿者運動にも金はない。野宿者は金の変わりに何を 「対価」 とできるのだろうか。日々の活動それ自体がすでにそうであるように、資金的にも精神的にも野宿者運動は野宿者だけでは、非野宿者との関わり抜きでは、発展できない。私たちはどのようにして非野宿者との結びつきを、何を接着剤として非野宿者との結び目を作り上げることができるのだろうか。その意味で、Tシャツ製作・販売自体がそうだったが、今回は非野宿者との関わり方そのものにも試験的な要素が多分に含まれていたと言っていい。
道のりは遠い、まずは関係者の意見の掘り起こしから、ということで、9月12日、デザイナーの事務所に関係者が集まった。これはその際の簡単な「座談会」の記録である。
参加者:
ぐっちゃん(野宿者)
岩城(野宿者)
ブラン・グラフィック(デザイナー)
ビーグル・ベーグル(編集者)
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――ぐっちゃんのほうからTシャツ製作・販売の提起があったのが、7月中旬。その後、一度会っただけのビーグル・ベーグルさんにいきなりぶしつけなお願いをして、本職のデザイナーであるブラン・グラフィックさんを紹介してもらって、最初にみんなで会ったのが7月21日でした。まずはその前後のことからでも……。
ぐ:Tシャツ製作を思いついたのは、メーデーのために作ったTシャツの延長線上で、またみんなでやらないかという軽い気持ちだった。その時には、外部の協力を得るつもりは自分にはなかった。だけど、みんなからいろんな意見が出すぎてワケがわかんなくなって困っていたところに外部協力者の話しが出て、これはぜひお願いしたいな、と。
ビ:野宿者に興味がなかったわけではないが、実際に関わることはなかった。それがTシャツの話しを聞いてそれぐらいは手伝えるかな、と。強い使命感とかがあって手伝ったわけではない。もともと自分はブランさんの奥さんと知り合いで、自分たちでTシャツを作ってみたいという話しは前々からしていた。そこで、最初に話しを聞いたときにブランさんに話してみた。ブランさんなら面白がってやってくれるんじゃないか、と。
ブ:最初に話しを聞いたときに、面白そうだと感じた。のじれんについては「ピカうち」の話を聞いていたくらいで、野宿者運動について詳しく知っていたわけではない。その意味では、ビーグルさんとの信頼関係の中で、この人が薦めるなら、といったところで引き受けた面が強い。また職業柄、その広告の内容を知りすぎていると言いたいことが多すぎてかえって言えなくなる、という面がある。自分たちの仕事はシンプルにわかりやすく、がモットーだから。それでも最初に面白そうだと感じたのは、Tシャツというグッズとのじれんの正式名称から窺えるメッセージがうまく合致する、と直感的に感じたからではないか。たとえば最初に渋谷から始まって「居住権」とか「かちとる」とか「自由連合」とかつながっていく。その語感が、今の若者たちのモヤモヤしたストレスとその裏返しであるある種のラディカルさに対する憧れに訴えかけるものがあるのではないか、と感じた。
――最初に会ったときには、両者の間にかなり発想というか意気込みのずれがありましたよね。
ブ:最初から、500円くらいのパジャマにしかならないようなTシャツは作りたくない、という意向はあった。いろんなものを手がけてきたが、他社がそうしたものを作るのを見て、自分はこんなものだけは作りたくない、と常々思っていた。
ぐ:実は最初はその程度のものしか考えてなかったんですよね。何回か洗濯したらヨレヨレになっちゃうような生地でも、安く上げればいいや、と。しかし最初にただ作りたい、売りたい、だけではダメで、コンセプトがしっかりしてなくてはいけないとか、メールやホームページでも当然宣伝するとかっていう話しがあって、正直大変なことになりそうだ、とビビった。そもそも自分には「デザイナー」って聞くとそれだけでオーッと思うようなところがあったし。でもそこで自分の考えが変わって、デザイナーっていうもののイメージも変わったけど(笑)、今思えばこれでよかったと思う。
ビ:私は両方の意見を見て、のじれんにお金がないことは知っていたし、ブランさんのプロ意識もよくわかったし、その両者が今後どう折り合いをつけていけるんだろうと少し不安でしたよ。
――結局、ブランさんとビーグルさんから35000円ずつ出資してもらったことでなんとか資金繰りの目処がついたわけで、その面ではおんぶにだっこでしたよね。
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その後デザインの製作・決定と実際の製作作業に移ったわけですが……。
ぐ:7月末にいくつかのデザインを出してもらった後、その決定を木曜日ののじれんの事務局会議で行いました。
ブ:ONマークと英字の2パターンで、英字はステンシルで手作業で作る。ステンシルを作ったのは、やはり印刷屋に頼むだけでなく、みんなで手作業でやる方が付加価値がつくのかな、と思ったから。芝居とかで演出家よりも役者のサインが喜ばれるように、野宿者自身がやることに価値があると思った。
――野宿者と一緒に作業するのは、お二人とも初めてだったと思いますが、なにか感想はありますか。
ブ:自分たちにしたところで、デザインだけならともかく、実際にTシャツ製作に携わったのはこれが初めてだったから、それに集中していた。野宿者と一緒に作業することにも別に何も不安はなかった。のじれんメンバーの支援者もいたけど、むしろ誰が野宿者かわからなかったくらい(笑)。
ぐ:でも自分たちにはありましたね。のじれんメンバーの支援者と一緒に作業するときには、仲間と一緒に作業するときのような気安さがある。しかし、あの時はやっぱり構えたな。飯場とかでもそういうプレッシャーは感じない。やはり正直言って、接し方がよくわからなかったというところはあったんじゃないか。
岩城:自分はステンシルの作業にしか関わらなかったけど、別にそういうプレッシャーは感じなかったよ。むしろぐっちゃんが「今回の作業できっちり手順を覚えてもらう」と言うから、そっちのプレッシャーのほうが大きかった(笑)。
ビ:最初は打ち合わせをする喫茶店を選ぶときに、いくらぐらいの店がいいのかとか考えましたけどね。
岩城:それは打ち合わせに行く仲間も気にしてました。
ブ:しかし途中でやめた。その時々で「これは高すぎる」とか言ってもらえばいいじゃないか、と。変な遠慮や気遣いはせずにそういう段階からコミュニケーションをとるべきだし、そっちのほうが風通しがいい。
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――今の時点で、100枚製作したうちの52枚の売上ということですが(編集部注:9月日現在 枚)、この売れ行きについてはどう見ますか。
ぐ:予想以上ですね。何枚売れるか全然わからなかったから。
ブ:販売できたのが夏祭りとメールを通じてだけだったということを考えれば、予想以上と言っていいと思う。ただ、惜しむらくは夏の間にフリマとかで売る機会がなかったこと。やはり作り手としては、これが一般の人に通用するものであるかどうかという点が気になる。
――Tシャツに同封した呼びかけ文のレイアウトも気が利いてましたね。
ブ:呼びかけ文については、内容的に過激すぎるという意見もあった。しかしTシャツが出来上がったら、その仕上がりがわりとかわいかったので、それとのギャップがかえっていいかもしれない、と思った。だから、あれには「不法占拠万歳!」という過激なタイトルがついていたけど、あれぐらいラディカルで良かったのかもしれない。
ぐ:のじれんメンバーはみんな堅すぎる、と批判的だったんですけどね。
ビ:文章だけを見るとちょっとわかりにくいと思うけど、全体で捉えてみると、それなりにしっくり来るかな、と思える。
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――まだ「総括」と言うには早すぎますが、とりあえず今の時点で反省点などありますか。
ぐ:なんと言っても期間が短すぎた。そのわりにはうまくやれたと思うけど、もうちょっと準備期間が欲しかったと思いますね。
岩:実際にモノを見たときとイメージしていたものとのギャップがあったのはたしか。意外に柔らかい仕上がりだな、と思った。今回はサンプルを確認するという余裕がなかったから、それを含めて準備期間が不十分だったということなんでしょう。
ビ:あとサイズの問題もありましたね。Sを作らなかったけれども、実際には小さいTシャツをピチッと着たい、という要望もあった。
ブ:ただ今回の企画はあくまで試験的なものであって、そこにはリサーチという要素も含まれていたから、かなりいろんな色の組み合わせを作ったことも含めて、あれはあれで良かったのではないか。
ぐ:あと郵送の態勢。仕事に行くとき注文のあった品を持って行ったりしていたけど、郵便局による時間がなかったりして注文してもらってから発送まで、かなり遅れてしまったものがあった。注文してくれた人には、ずいぶん迷惑をかけて、申し訳なかったと思ってます。
ブ:あと窓口の問題かな。途中でいろんな人のいろんな意見が耳に入ってきたんだけど、のじれんの内情を知らない自分としては、どれが個人的な意見でどれが全体の意思なのか判断がつかないというところがあったから、それがちょっとやりにくかった。もちろんのじれん内で議論は活発にやってもらえばいいんだけど、窓口を一本に絞ってもらえるとありがたい。
――のじれんは代表とかをおいてない組織ですからね、そういうところが苦手なんですよね。
ブ:逆にそこが面白いところだとも思いますけどね。
ビ:そうそう。
岩:あと、作業が終わってから、事務局会議や労務班会議で今どれくらい売れているとかいった報告がない。
ぐ:たしかに必要だとは思ってたんだけど……スンマセン。
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――さて、最後に今後の展望などといかがでしょう。
ぐ:occupationのマークで日本中を占拠する! 歩くやつはみんなそれを着てるとかっていう状態にして、マークの通り占拠する!……エー、具体的には来年がんばって、もっと売上を伸ばしたいですね。
ブ:めっちゃ楽しかった。自分はこれでのじれんやONマークが普及すればいいと思っている。自分にはもう来年のプランもありますよ。Tシャツだけじゃなく、トートバッグとか。
ビ:来年やるんだったら、マイパブ(宣伝)をきっちり打つようにしたらいいと思う。そうすれば自分は編集の仕事をしているので、そういう点でも協力できると思う。のじれんのTシャツにはコンセプトがあるので、宣伝のしがいがある。
ぐ:宣伝の期間も考えたら、来期のTシャツは4月には出来上がっているようにしたいですね。
――そうすると、2月くらいから始動か。越冬活動と重なるからシンドイよぉ。
ぐ:……。
岩:……。
――最後に、野宿者にとって「自立」ってなんだと思いますか。
ビ:野宿者だから、働いているから、という問題ではないと思う。誰かが親の援助を受けて生活しているとして、それは他人から見れば自立していないように見えるかもしれないが、本人は自立していると思うかもしれない。他人が決める問題ではないのではないか。
ブ:自分も、自分がどう考えるかが大事だと思う。たとえば企業に勤めている人から見たら、野宿者はそれ自体自立していない状態と思うかもしれない。しかし自分はいろんな職場を転々としてきたから、野宿という状態を他人事とは思えない。そりゃ自分だって家がなくなると困るけど、「ああなったら終わりだ」とか言われるとドキッとする。
ビ:日本はやはり「敗者復活戦」が難しい社会だと思う。外国ならもっといろいろな可能性がある。そこが野宿者を他人事と思う原因の一つとしてあるのではないか。
――ありがとうございました。
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