のじれん・通信「ピカピカのうち」
 

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「ホームレス特措法」についての立場表明

2002年9月1日

釜ヶ崎パトロールの会
高齢者特別就労組合準備会
長居公園仲間の会

1.はじめに
 2002年7月31日、参議院本会議において「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」が成立した。
 我々は、現在すでに展開されつつあり、今回の法制化によってさらに拡大されるであろう
「自立支援対策」がきわめて問題にみちたものであると考え、以
下にその立場を表明する。(なお、この法律における「自立支援」
の問題性をかんがみると、「自立支援法」ではなく「特措法」と
略すのが適切だと思われるので、そう表記する)

2.野宿者問題とは
 資本主義の発生以降、底辺下層で搾取を強いられる労働者はつねに存在してきた。各地の「寄せ場」においては膨大な数の日雇労働者が「景気の安全弁」としてプールされ、劣悪な労働条件のもと使い捨てられてきた。
 一方で、野宿者に対するたびかさなる襲撃・虐殺事件にみられるように、社会からはその存在自体すら否定されてきたのである。

 バブル崩壊以降、失業の結果野宿を余儀なくされる労働者はか
つてなく増えつづけている。根本原因は、政府・資本が推進する
新自由主義的経済再編である。
 リストラ・首切り・不安定就労形態の増加による労働者の切り捨て・流動化と、「自己責任」原則による福祉コストの削減がその基調であり、グローバリゼーションの名のもとに世界の至るところで吹き荒れている同一の暴力である。
 この流れを止めない限り失業者は増えつづけ、野宿に至る労働者もまた増大しつづけることになる。

3.特措法の問題性
 特措法の問題点は以下の通りである。

(1)野宿者を生み出している根本原因にまったくふれず、国と資本
の責任を隠蔽している(1・2条)
(2)野宿者を「公園などで故なく野宿している」と差別的に定義し
「野宿者本人が選択した」かのように問題をすりかえている(2条)
(3)野宿者を定義があいまいなまま「自立できていない」とし(1・
2・3条など)、「施策を活用し自立すること」を強制する(4条)
(4)多くの問題をはらむ「自立支援事業」を拡大させる(8条2項な
ど)
(5)野宿者の居宅での生活保護受給を不当に制限する危険性がある
(8条4項)
(6)公園などの管理者に「適正化」=野宿者排除を義務づけている
(11条)
(7)民間団体の「活用」についての問題(12条)
(8)実施計画を定める過程から当事者が排除されており、施策に対
する異議申し立ての手続きも定められていない

 野宿者を生み出し、放置してきた国の責任を不問に付したまま
で、施策を講じることを国の責務として法制化するということは
はなはだ欺瞞的であり、破綻を運命づけている。

 特措法における「ホームレスに関する問題の解決」とは端的に
言って、野宿者を路上・公園に存在させなくするということであ
る。「自立」は本人の意思やありように関係なく「野宿からの脱
却」によって定義され、施策すなわちシェルターや自立支援セン
ターへの入所を受け入れるか、さもなくば排除されるかの二者択
一をせまる。このような隔離収容/排除の合法化こそが国家・行
政の意図するところであるということはこれまでに行われてきた
排除の実態を見れば明白である。

 特措法における「自立」とは、あくまで国家・行政のレールの
上での「自立」であり、当事者の主体性・自己決定にもとづく本
来的な自立とはまったく異質なものである。ましてや、強要され
る自立などというものはありえない。

4.施設収容の「自立支援対策」批判
1)長居シェルターその後
 自立支援事業は特措法に先だって展開されてきた。自立支援セ
ンターとシェルターへの収容がその根幹である。
 国内で野宿者がもっとも多い大阪市においては、公園などからの排除と自立支援施設への収容が、全国のどの自治体よりも強力にリンクさせられてきた。
 2000年末に開設された長居公園シェルターは全国ではじめての公園内シェルターであり、「公園適正化=全テント排除」が目的として明文化されていた。
 行政代執行による強制排除こそなされなかったものの、公園事務所職員による執拗な連日の「説得」により480人の仲間のうち100人以上が公園を追われ、シェルター入所を選んだのはそれ以下の人数であった。林立していたテント村は数張にまで減らされ、コミュニティは大打撃を受けた。

 シェルター以後に野宿を強いられた新しい仲間たちは、公園事
務所の監視強化によってテントを張ることもできず、ダンボール
や毛布のみでの露宿を余儀なくされている
 。仲間総体の生活環境はまぎれもなく悪化させられたのであり、緩慢に野垂れ死にを強いる行政の以前からのやり口にほかならない。

 テント排除に成功をおさめた大阪市はその後2001年末に西成公
園シェルターを開設し、2002年9月現在大阪城公園シェルターを建
設中であり、収容計画を拡張しつづけている。名古屋市も同様の
公園内シェルターを白川公園に建設中である。

 2002年8月1日現在、長居シェルターには30人の仲間しかいない。
 そもそも「自立支援センターへのつなぎのための施設」というタ
テマエだったが、退所していった176人の仲間のうち自立支援セン
ターに移ったのは35人、自力で就労できた仲間は11人にすぎず(残りは100人近くが入院や更生施設へ入所)、ひとりひとりがその後どうなったかの追跡調査も行われていない。

2)「適正化」に利用される居宅保護
 一方、長居公園を管轄とする東住吉区福祉事務所は、シェルター開所前後の期間、2000年秋から2001春にかけて野宿者に対する居宅保護受給の基準を大幅にゆるめていた。
他の地域においては不当にも受給が認められることのすくなかった65歳以下の稼働年齢層の仲間も、長居公園にテントを張っているといえば入院や施設入所をへて、スムースに居宅保護を受けることができ、結果として200名以上が居宅に移行することになった。同様の対応が現在、大阪城公園シェルターの建設がすすむ中央区でもおこなわれている。
 「野宿者対策のメインは公園適正化」と公言する大阪市は、居宅保護の認定すらもテント排除とコミュニティ破壊のために恣
意的に利用しているのである。

3)「活用」される運動体
 「特措法」では「民間団体の能力の積極的な活用を図ること」
(12条)が条文化され、「そのための財政上の措置を講じる」(10条)
とされている。
 しかし、排除と収容のために「活用」されるのは「民間団体(運動体)」の側であって、その逆ではない。大阪市が三ヶ所の公園シェルターにそれぞれ億単位の予算をつぎ込んでいることからわかるように、行政の意図に沿った「事業」については今後ますます大規模に予算が投下されていくことだろう。
 失業と野宿を生み出す根本原因が解決されない限りはそうした事業の対象となる野宿者が減ることはなく、アメリカなどですでに進行しているように自立支援事業は「失業と貧困を糧とする産業」と
して成長していく可能性が大きい。
 だが、そこで真に利益を得るのが誰であるのかを問う必要があるのではなかろうか。釜ヶ崎の「自彊館」などをはじめとする施設収容主義は、すでに一世紀近くにもわたって仲間を食い物にしつづけてきているのであり、この歴史を考えるとき、収容施設の拡大がどのような未来を生むかは容易に想像がつく。

4)収容主義に抗して
 そもそも、「失業対策」と「施設収容」には何らの関係もない。
排除と分断を生み出す収容施設ではなく、野宿からでも就労でき
る公的就労対策をこそ大規模に拡大実施すべきだ。生活保護においても施設や入院を経由してしか居宅保護が受給できない現状をあらため、公園や路上における現在地保護こそが行われるべきだ。

5.解放のために
 くりかえすが、野宿者問題の根本原因は新自由主義グローバリ
ゼーションであり、それをおしすすめる国家・資本に根本責任が
ある。施設収容主義を抜きにしたところで、自立支援対策は本質
的に失業の原因を個々人の資質や不運に還元し、自力での求職活動や技能習得支援といった「自助努力」を通じて労働市場への復帰をうながす、という「敗者リサイクル」の装置である。

 しかし、その労働市場は再編、縮小をつづけている。ひとりが
就労すれば、ひとりが追い出される。残されているのは劣悪な底
辺労働である。

 対策が「人権に配慮」され、全国津々浦々で十全に展開された
として、その結果かつてテントや路上にいた仲間たちがみなひと
りのこらずシェルターに入ったり、自立支援センターに入ったり、
 タコ部屋に「就職」したりしたとして、それはなんなのだろうか。
個別バラバラに路上と収容施設と底辺労働市場のループを果てし
なく回らされる無数の仲間たち。すべての公有地が「適正化」さ
れ、もはやテントを張ることもゆるされない。「野宿もゆるさな
い社会」というのはおぞましい管理社会ではないだろうか。住民
基本台帳ネットによる民衆管理や精神障害者に対する「保安処分」
攻撃、そして有事体制づくりといった国内治安管理体制の強化も
その線上にある。

 我々は、そのような社会を望まない。コミュニティは自律空間
であり、交換不能な価値を持つ仲間の財産だ。不法であろうとな
かろうと仲間には野宿する、占拠する権利があり、現にそうして
いる。世界中の持たざる仲間たちと同じように。強いられた状況
だが、現実総体をそこからこそ変革していくのだ。

 いまある我々はあまりに小さいし、これまでやれてきたことも
きわめて不十分でしかない。それでも、今後も全国各地そして、
全世界のこころざしをおなじくする仲間たちとともにたたかって
いくつもりだ。

 我々は、常に仲間たちとともに在る!



 


(CopyRight) 渋谷・野宿者の生活と居住権をかちとる自由連合
(のじれんメールアドレス: nojiren@jca.apc.org