のじれん・通信「ピカピカのうち」
 

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           要 望 書

内閣総理大臣   小泉 純一郎 様


 「ホームレスの自立支援」に関するいくつかの法案(以下、「自立支援法」という。)が既議員立法として衆院厚生労働委員会に上程され、ないしは上程予定とされておりますが、法案の審議においては、以下の点にご留意いただきたく、要望いたします。
 また、「自立支援法」の制定に当たっては、法文または付帯決議等に以下の諸点を明記するよう併せて要望します。
 
1、野宿者の人権尊重と尊厳確保を第一の目的とすべきである。
 「自立支援法」は、何よりもまず住居もないほど困窮しているがゆえに、就労が困難で、生活保護をはじめとする福祉サービスさえも受けられずにいる野宿者の人権保障を目的としたものでなければなりません。野宿者に対するあらゆる差別、とりわけ行政による差別的扱いを禁止することを「自立支援法」に明記する必要があります。

 2、「ホームレスの自立の支援等に関する施策」は強制を伴うものであってはならない。排除は重大な人権侵害であり、決して許されないものである。
 「自立支援事業」は野宿者自身の自己決定権を尊重して進められるべきです。野宿者自身の意に反して野宿場所である公共施設等から野宿者を排除したり、また施設入所を強制したりしてはなりません。排除は、憲法および国際人権法によって保障された人権を侵害する許されない行為です。
 地域住民と野宿者との間で軋轢が生じるというのであれば、国や自治体はまず野宿者の人権に関する啓発活動を積極的に行い、地域住民の理解を得るように努力すべきです。
 
3、施設管理は野宿者の人権尊重を第一とすべきである。
 現在、野宿者が「自立」のために収容される施設では、多くの場合、野宿者各個人が二段ベッドの一床とロッカー一棚しか利用できないなど、設備・空間・プライバシー確保に人権上の多くの問題点を残しています。そうした中で、実際に「施設よりはテント」を選ぶ野宿者がいても不思議ではありません。「自立」のため施設入所を強要するようなことはあってはならず、ましてや「自立支援」の諸施策が排除の受け皿であってはなりません。人権の尊重と尊厳の確保を第一の旨とすることを確認してください。
 また、施設管理においては入所者自身の自己決定権を尊重し、入所者の施設管理参加権を保障する制度的仕組みを確立してください。
 
4、「自立」のあり方、「自立支援」のあり方の多様性に留意すべきである。
 多様な価値観・生き方が受け入れられ、広がっている現在においては、「自立」に至る経路および「自立」のあり方も多様な形が認められるべきです。
 十分な住環境や安定的雇用の確保が困難な現況においては、野宿を強いられ続ける人々も残らざるを得ません。野宿者が日々の糧を得るための雑業等の多様な就労形態やテント生活を含む多様な居住形態を、地域住民が受容しうるように理解を求めていくことがまず必要です。
 その上で、野宿者個々人が無理ないペースで徐々にそして着実に「自立」に至るための多様な経路を整備すべきです。
 すでに一部の都市で開始されている「自立支援事業」を無批判に踏襲するのではなく、野宿者の実態と既存「自立支援事業」の実績を客観的かつ詳細に把握するところから施策を構想してください。
 
5、生活保護法との十全なる連携に留意すべきである。
 「自立支援法」は、健康で文化的な最低限度の生活を保障する生活保護法に野宿者のための特別施策を加えるべきものであり、生活保護法を下まわるものであってはなりません。
 無理ないペースで野宿者各個人が「自立」へと至るためには、その過程の要所要所で生活環境の不安定さを補完する生活保護法の柔軟かつ迅速な適用が不可欠です。「自立支援法」と生活保護法の密接な連関、生活保護法の柔軟かつ迅速な活用に十分留意してください。
 
6、保護実施機関による生活保護法の違法な運用を禁止し、即刻是正させるべきである。
 保護実施機関の多くは、職も住居もなく、日々の食にもこと欠くほど生活に困窮した野宿者に対して、「住所(住居)がない」とか「65歳未満で稼働能力があるから」といった理由で生活保護を適用しないという、甚だしく違法かつ差別的な運用を行っています。これは生活困窮者に対して無差別平等に最低生活を保障することを定めた生活保護法に違反するものです。
 また、居宅で生活することに特に支障のない野宿者を、居宅ではなく救護施設や更生施設に入所させるといった収容主義をとっている地域もありますが、これは生活保護法30条の居宅保護の原則に反するものです。
 これら保護実施機関による違法で差別的な生活保護法運用を禁止することを「自立支援法」に明記すべきです。

 7、住居保障のための実効的施策をとるべきである。
 野宿から脱するために第一に必要なことは住居の保障です。生活保護法上の宿所提供施設の増設整備、公営住宅への野宿者の優先的入居保障や住宅賃貸契約における公的保証などにより入居支援政策の実施を行うことを「自立支援法」に明記すべきです。
 
8、野宿者が安定した稼働収入をあげ得るような就労を保障すべきである。
 野宿を強いられている多くの人々は就労を希望しています。
 国には、就労を希望するすべての人に自らの稼働収入で生活を支えていくための安定した就労の場を提供する義務があります。野宿者が望む就労の形態に応じた多様な支援を行うと同時に、職業訓練や技能修得のための機会を提供し、かつ安定した収入を得られるような就労の場を創出することを「自立支援法」に明記してください。

 9、大都市だけでなく地方においても野宿者の生活保障や「自立支援」のための施策を行うことを義務づけるべきである。
 東京都特別区や横浜市、名古屋市、大阪市などの大都市に限らず、それ以外の地方においても少なからざる人々が野宿を余儀なくされています。
 大都市部においては「自立支援事業」などが推進されていますが、地方では「自立支援事業」も行われていない地域がほとんどです。また、大都市に比べ地方では野宿者への生活保護法の適用が厳しく、より甚だしい違法な運用が常態化しています。
 大都市だけでなく、地方でも野宿者の生活保障と「自立支援」のための施策を積極的に行うよう義務づけることを「自立支援法」に明記すべきです。
 
10、「自立支援施策」の事前手続と不服申立て手続きを整備し手続的権利を保障すべきである。
 「基本方針及び実施計画」等によって「ホームレスの自立の支援等に関する施策」が具体化していく中で、野宿者の人権が蹂躙されることのないように、事前手続と不服申立て手続きを整備し、野宿者の手続的権利を保障することを「自立支援法」に明記してください。
 また施設の閉鎖的な管理・運営によって入所者の人権が侵害されたり、不服申立ての権利が奪われることなどを防ぐためにも、独立した第三者機関による客観的なチェックが制度的に保障される必要があります。 
                           以上。二〇〇二年五月二二日
【野宿者団体・野宿者支援団体】 27団体連名
【個人賛同者】 51名連名

 


(CopyRight) 渋谷・野宿者の生活と居住権をかちとる自由連合
(のじれんメールアドレス: nojiren@jca.apc.org