のじれん・通信「ピカピカのうち」
 

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排除に抗して


湯浅誠

*二つの排除――北九州・浜松



 八月十一日、福岡県北九州市が局長レベルの会議で同日夕方から市庁舎東側広場で予定されていた「北九州越冬実行委員会」(奥田知志事務局長)(以下、越冬実)主催の夏祭りを実力で阻止することを決定した。市側の用意した表立った理由は、1)広場での集会開催は、原則として許可していない。2)広場は市民の憩いの場であり、集会は一般の利用を妨げる。3)「街の美観上、問題がある」と地域住民から苦情が出ている、というものだが、紫川に面する広場の対岸に七月下旬に建てられた複合飲食・観光施設「紫川's(しこうず)」(井筒屋と北九州市が建設)の集客への影響に対する懸念から発していることは朝日新聞の報道などでも指摘されている(実際、市は越冬実の同広場での炊出しを二年間黙認しつづけてきた)。

 そして約一月後の九月六日、今度は静岡県浜松市の田町駐輪場(約十名の野宿者が寝泊まりしている)に、「田町駐輪場で寝起きしている方は直ちに退去するとともに所有荷物を撤去するよう警告します」という「警告書」と、「管理の都合により、九月十九日から当分の間、開場時間を午前七時から午後十時までとさせてただきます。午後十時から翌朝七時までは出入りできなくなりますので、ご注意ください」という「駐輪場利用者の皆様へ」が市役所土木管理課によって掲示された。後日の交渉で明らかになったことだが、こちらの排除も根拠は薄弱。駐輪場の利用率回復のために駐輪場の夜間閉鎖を決めたというのだが、主に商店街利用客のために作られたこの駐輪場に夜間の利用客はおらず、夜に来て朝撤収する野宿者と駐輪場利用率との間に相関関係はない。

*自らの地域の問題として


 なぜ、こうした事態になったのか。

 実は、二つの自治体には「前科」がある。北九州市は今年五月に市内の勝山公園に住む一人の野宿者を行政代執行令によって排除したし(このときは、一人の野宿者を排除するのに、市役所職員・警察百名を動員するというものものしさだった)、浜松市は六月にやはり同じ田町駐輪場の野宿者排除を画策している(当事者ら五名の中止要請により断念)。しかし、「そういう自治体なのだ」という割り切り方は表面的にすぎるだろう。

 第一に、いまいましいことだが、こうした排除を行っている自治体はおそらく他にもたくさんある。誰にも知られず、誰もともに闘ってくれないままで人知れず追出されている野宿者は、悔しいが、もっともっと大勢いると思われる。北九州や浜松の事態が表面化したのは、そこに運動があったからに他ならない。のじれんが活動している渋谷だって、ホンのちょっと前までは同じような状態だったのだ。

 第二に、ここが今回の事態の深刻さだと思うが、浜松市に至っては当事者の抵抗によって一度断念しているにもかかわらず、したがって当然同様の事態が予想されるにもかかわらず、再度排除の意志を明確に押し出してきている。そこには、当事者らの抵抗をある程度予想しつつも、それをねじ伏せて排除を強行しようという自治体側の強い意向がうかがえる。

 第三に、そして同様の事態は、今後各地で頻発するおそれがある。
 野宿者が全国各地、とりわけ地方都市で激増している。これまで野宿者問題を、何か遠い大都会の話と思っていた人は、早目にその考えを改めた方がいい。寄せ場(日雇労働者街)のある東京・神奈川・名古屋・大阪・福岡を結ぶ「太平洋ベルト」の線上にある地方都市はもちろん(これはそのまま野宿者全国行脚のルートでもあったわけだが)、それ以外の地方都市でも野宿者増加は著しい。たとえば、札幌・仙台・新潟といった雪深い地域でもかなりの勢いで野宿者が増加しており、札幌では昨年十一月の五十三人が今年七月には一〇五人(前号『ピカうち』で「札幌の路上生活者たち」をレポートしてくれた「北海道の労働と福祉を考える会」の調査による)、仙台でも昨年三月の約五〇名が十月には約一〇〇名と(正確な数字を記した資料が今手元にないが、これは行政調査による)、それぞれ半年間で二倍という勢いである。野宿者問題は、すでに誰にとっても身近な問題、自分の地域の問題なのだ。

 その場合、近々に予想される反応は二つある。一つは、野宿者問題を自らの問題として野宿者と真摯に向き合おうとする人々が新たに活動を始めることである。現にこの一二年の間に全国各地で調査・パトロール・炊出しといった自主的活動が開始されている。これは、言うまでもなく喜ばしいことだ。しかしもう一つは、全く逆のベクトルを持つ、排除圧力の高まりである。かつての新宿や渋谷もそうだったが、みるみる膨れ上がる野宿者の存在に対して、地元商店街や地方自治体は冷静な対応をとることができない。軒並み、もっともありがちな最初の「対策」は排除だということになる。たとえば、先日訪れた新潟で野宿者に聞いたところでは、JR新潟駅周辺に雪を凌げる場所が三箇所あったが、そのうち二箇所からはその場所を管理する企業から追出されたと言う。今年の冬は残り一箇所に市内五〇人以上の野宿者が集中することになるが、そのとき集中して目立つ存在となった野宿者に対して地元住民や新潟市がどのように対応するか、まったく楽観はできない。

 つまり、地方自治体と野宿当事者およびその支援者とは、排除する側とされる側として今後各地で対立を生む可能性が強い。それはもちろん望ましいことではないが、かつてそうだったし、現にそうである。そして、来年再来年にそうならないという見通しは残念ながら、ない。

 北九州市や浜松市の「暴挙」は、したがって、個別北九州市・浜松市の「特別な非人道性」のみに帰せられる問題ではない。野宿者問題がすでに足元の地域の問題であるということは、かなりの確率において北九州・浜松の問題が自分たちの問題にもなる、ということである。他人事ではない。

*仲間の力で


 では、どうするか。
 一言で言えば、団結して負けないようにするしかない。これは、新しいとか古いとかいった問題ではなく、黙っていては追出される以上、逃げても逃げても追っかけてくる以上、どこかで踏みとどまり闘うしかないのだ。

 そして、北九州、浜松の仲間は闘った。

 詳しい経緯は表に譲るが、たとえば北九州市では、問題の広場に越冬実の車を入れるか入れないかでもめていた十一日夕方、元野宿者で今年三月に越冬実の支援を受けアパート設定をしたUさんは自ら職員に詰め寄り「市は、何もしてくれ無かった。ここで車を入れないということは、支援活動をさせないと言っているのと同じだ。この人(越冬)たちがいなかったら、私は今でもホームレスだった。何もしない市が、唯一活動しているこの人たちの邪魔をするのはおかしい」と詰め寄った。また浜松では、田町駐輪場で寝泊まりしていた約十人の野宿者のうち、六名が十三日の浜松市との団体交渉に出向くなど強い団結を示し、田町駐輪場自治会を結成して、抵抗の意志を明らかにした。

経緯
北九州市 浜松市
8月10日 市役所で越冬実排除の話合いがなされいていることが発覚
   11日午前 局長レベルの会議で「排除」が最終決定
      13時 越冬実が予定通り夏祭り準備に入る
      17時半 庁舎前到着。市の職員約50名と対峙
      18時半 公園内で炊出し用のテント設営開始。
      19時 一時間遅れで夏祭り開催
8月25日20時 職員約20名が車両の広場進入を阻止。50分、手作業で物資搬入開始。
      21時 職員約30名がそれも阻止。
      21時45分 炊出し中止を決定。
      22時 市内約70箇所を弁当配布。
8月26日以降 市側と交渉の末、野外音楽堂での炊出し継続を確保
9月6日 田町駐輪場に「警告書」と「駐輪場利用の皆様へ」が掲示
   7日 浜松の支援者が市に団交の申し入れするも、拒否。
  13日 田町駐輪場の野宿者6名とともに、マウス・ウニダス、エスペランサ(浜松市)、野宿者のための静岡パトロール(静岡市)が浜松市に要望書提出、および団体交渉。
  18日 要望書の回答受取の席で、浜松市が撤去の断念を表明。田町駐輪場の掲示を撤去。
       駐輪場自治会メンバー一人が生活保護申請。
  19日 残りの駐輪場自治会メンバー5名も生活保護申請。


 寝泊まりする場所はもちろん、炊出しの場所も長く続けばそこは野宿者の生活に組み込まれた一つの生活場所である。

 野宿者にも生活はある。彼らもそこで何かしらの収入を得、メシを食い、寝起きをし、隣近所とつきあい、時には助けあい時にはケンカしながら生きている。言ってみればそこに根差しているのだ。それは言わずもがなの、当然のことのようであるが、意外と実感としては理解されていない。ブルーシートのテントは仮の宿で、路上ならどこでも一緒、と思われてはいないか。

 「違法」だから。排除する側はこの一言ですべてを片付けようとする。私たちはそれに対して、勢い強制排除こそ「違法」であることを強調しがちだ。実際、ホームレスの強制撤去は国際的には違法とされ、強制撤去の手続も多くの場合は適正な方手続を踏まずに行われているのだから、その主張には根拠があるし、それは大いに広められなければならない。しかし、野宿状態・占拠状態を問答無用で強制撤去する側こそが違法だ、と国際的に認めさせたものは何なのか。その内実が併せて理解されなければ、この議論は形式的な合法性の争奪戦と化してしまう。裁判闘争ならば、それでよい。しかし、社会運動はそれだけでは済まぬ。

 なぜ、強制撤去こそ違法なのか。強制撤去は、何よりも第一にそこにある「生活」、コミュニティを破壊するからだ。そこに「生活」があるがゆえに、強制撤去しても屋根と寝床さえ与えればいい、ということにはならないのだ。それは自分たちの生活を考えてみれば明らかだろう。「屋根と寝床」は「生活」の一部でしかないではないか。「屋根と寝床」は野宿者が求めるものの象徴である。しかし、「屋根と寝床」さえあれば、それ以外のすべてを差し出す、ということには当然ならない。野宿者の多くは、人間関係(人付き合い)において失敗してきた。その彼らが、ようやくにおいて築き上げてきた人間関係が路上にはある。それを問答無用で破壊しようとすることは「不当」ではないか? そのことに気づいた者たちが強制撤去を「不法」としたのであって、その逆ではない。そして、そのことに気づかない者たちが、依然として強制撤去を「合法」と言い張っているにすぎない。自分たちが築き上げてきた「生活」を破壊しようとするものに対して抵抗すること、少なくともこれは「わがまま」などではないはずだ。

*全国のネットワークで


 北九州・浜松の仲間が闘った、と言った。しかし、一地域の問題は一地域だけの問題ではない以上、そして強圧的に出てくる自治体に対して、総体の力量においてこちらが上回らなければ実際問題として排除を止めることができない以上(しかも短期決戦)、そこの仲間たちだけに「お任せ」というわけにはいかない。
 そのため、北九州市に対しては、夏祭り阻止計画が発覚した八月十日以降と、ついに炊出しを阻止した八月二十五日以降の二度にわたり、そして浜松市に対しても呼びかけのあった九月十二日以降、主にメールとファックスを駆使して、全国的な抗議行動が取組まれた。
 のじれんも、現場から発信される情報を適宜全国・海外の支援者に転送するとともに、北九州の件に関しては名古屋「野宿労働者の人権を守る会」、大阪キタ「釜ヶ崎パトロールの会」とともに「野宿者全国行脚実行委員会」として北九州市への要求書への賛同署名を募り、浜松に関しては、他の多くの諸団体と同じく、浜松市への「警告文」を作成・提出した(囲みの中に全文)。
北九州市
北九州市市長 末吉興一殿
北九州市建設局局長殿 北九州市がこの間「北九州越冬実行委員会」に対して行っている行為に対し、以下の呼びかけ文によって要求書への賛同署名を集めたところ、わずか一週間の間に末尾にあるような広汎な賛同署名が寄せられた。北九州市がこの事実を厳粛に受け止めるよう望む。

「持たざる我らに権利を!」失業と排除に反対する野宿者全国行脚実行委員会
150-0011 東京都渋谷区東1-27-8-202
TEL&FAX 03-3406-5254

(呼びかけ文)

すべての皆さん

 北九州市役所は(福岡県)は、8月25日、「北九州越冬実行委員会」(以下、越冬実)が定期的・継続的に行ってきた野宿者(いわゆる「ホームレス」「路上生活者」)に対する炊出し行為を実力で阻止しました。理由は、「町の美観が損われる」というものです。

 越冬実は、この12年間、市内に在住する野宿者(1999年冬時点で278名。1997年冬の二倍に当たる)を対象に、パトロール(夜回り)、炊出し、アパート入居による自立支援(95年以降で60余名。成功率100%)を行ってきた団体です。

 北九州市役所はこれまでも、市内に在住する野宿者の生活と福祉を支える有効な措置を何一つとってきませんでした。それどころか、今年6月には市内の勝山公園に住む一人の野宿者を追出すために、100人の市役所職員と警察官を動員するなど、冷静な判断力や行政としての責任感を欠いたヒステリックな暴力的排除を行ってきています。
 越冬実は、そのような形で行政から見捨てられた生活困窮者である野宿者の露命を支えてきたグループです。その越冬実を、市役所は組織的に排除しようとしています。

 生活困窮者の最後の命綱であるべき行政組織が、自らの責任を放棄するだけでなく、民間によってささやかながらも繋げられている生命線を自らの手で暴力的に断ち切り、野宿者をさらなる困窮へ、そして死へと押しやろうとしている。北九州市役所のこの間の行為は、そうした意味を持っています。

 北九州市の今回の暴力的排除は、町の再開発を直接の引き金としています。炊出しの行われている公園の近辺にレストランなどの入った複合ビルが建設され、そこでの集客力を懸念する企業が圧力をかけ、それら企業と癒着した市議会議員が議会で「美観」を問題視し、公園を管理する市の建設局が「市内のどの公園の使用も許可しない」と恫喝するという、ごくありふれた、そして最も醜悪な構図の上に野宿者の生存権が踏みにじられようとしています。

 私たちは、このような北九州市役所の暴挙を見過ごすことができません。そこで、以下の要求を北九州市役所に提出したいと思っています。北九州市役所は、いまだ自分たちがどれほど恥知らずなことをしているのか、理解していません。幅広い人たちの広汎な賛同署名を連ねることで、北九州市役所が全国で顰蹙をかっている事実を明確に示していきたいと思います。

 ご協力、よろしくお願いします。

 2000年8月30日

********
 要求書

北九州市市長 末吉興一殿
北九州市建設局局長殿

 一、北九州市は、「北九州越冬実行委員会」の活動妨害行為を直ちに止めよ。
 ニ、北九州市は、野宿者の生存権と居住権を守る行政措置を行え。
 三、北九州市は、町の美観よりも人命の方が尊重されることを認識せよ。


署名:
浜松市
警告

浜松市長 北脇 保之
FAX:053-457-2028

のじれん(渋谷・野宿者の生活と権利をかちとる自由連合)
150-0011 東京都渋谷区東1-27-8-202
03-3406-5254(TEL&FAX)


 私たちは、東京都渋谷区において、約500名の野宿者とともに、炊出しや行政交渉などを行っているグループである。

 今回、浜松市が田町駐輪場の野宿者排除を計画していることを聞いた。私たちは、浜松市による「排除のための排除」に、強く抗議する。

 かつては、渋谷区においても自治体による撤去が繰り返された。しかし、渋谷区はいくら排除しても野宿者問題は何ら解決しないこと、解決しないどころかより一層野宿状態を劣悪化させるだけであること、そして野宿当事者の意志を無視した撤去が、多くの野宿者の怒りを買い、自らを窮地に貶める行為である、という当たり前のことをようやくに学んだ。現在、渋谷区は「対策なき撤去は行わない」旨を明言している。

 しかし、その当たり前のことに気づかない者がいつの世にもいる。渋谷区内にある東京都の施設である「東京都児童会館」は97年末と98年末に野宿者排除のための工事を強行した。数人の野宿者を排除するために強行した工事は、東京都庁を巻き込む「大事件」に発展し、結局、「東京都児童会館」正面玄関前は、冬場に30人以上の野宿者が寝泊まりする、野宿者のための場所となった。誇張に誇張を重ねた「住民の苦情」などを理由とする強制排除に何の正当性もない以上、それは当然の結末である。

 浜松市のために警告する。すでに不当性が明らかな強制排除を強行して全国に、そして世界に恥をさらすことのないように。自らの無知と非人道性を自らアピールする必要がどこにあるのか、私たちは理解できない。
 後で後悔しても始まらない。今、精一杯の知恵を絞り、事態の収拾に努めるべきではないか?

2000.9.18


 とりわけ、全国行脚実行委として呼びかけ、集約した賛同署名に対しては、わずか一週間の間に海外五カ国を含む十五団体、一五八個人(二十一都道府県)からの署名が寄せられ、北九州市を非難し、越冬実の行動を支援する広汎な声があることを示した。

*とりあえずの結末


 結果は、浜松では九月十八日に見事撤去を阻止し、駐輪場の仲間たちが生活保護を集団申請、それを受理させるという快挙を勝ちとった。北九州でも、炊出し継続を最優先させて問題となっていた広場からは引き上げたとは言え、炊出し行為そのものの妨害を試みる北九州市に対する反撃を現在準備している。
 浜松の件で市との交渉と全国への呼びかけで中心的に活躍した「野宿者のための静岡パトロール」笹沼弘志氏が常日頃から指摘していることだが、これまで野宿者問題に直面してこなかった地方自治体の知識は乏しく、それだけに無謀なことを平気でやろうとする。私たちは、全国のネットワークを活用し、各団体の特性を生かした硬軟取り混ぜたプレッシャーを自治体にかけ、彼らがいかに無謀なことをやろうとしているかを彼ら自身にわからせていかなければならない。こうした営為の積み重ねが、ことが自らの地域の問題となった時に、相手により多くの圧力をかける材料とネットワークとなって結実する。

*そして……――大阪市長居公園問題


 大阪市東住吉区「長居公園」。現在ここには約四八〇張りのテントが林立している。一万とも一万五千とも言われる大阪府内の野宿者(行政調査では、九八年八月段階で八六六〇人)のうち、この二年間で最も野宿者増加の著しい地域の一つである。
 この長居公園に、現在大阪府がシェルター(一時避難所)建設を計画している。千坪の敷地を使って、三年間の期間限定を行い、野宿者を収容しようというものだ。厚生省も、後追い的に「東京・大阪の二箇所でシェルター設置」という方針を打ち出し、来年度以降補助金をつける方向で動き始めている。
 シェルターについて、問題になると思われる点を列挙すれば以下の通りである。
1)シェルター設置計画は、二〇〇二年サッカーW杯と二〇〇八年オリンピック大阪招致を睨んで作られたもので(来年二月にオリンピック委員会の視察がある)、野宿者の生活改善や人権擁護の発想に立ったものではない。シェルター建設の発想それ自体は、「臭いものに蓋」という伝統的な隔離―収容政策の域を脱していない。
2)そのことを裏付けるように、敷地は鋼板塀で目隠しし、利用者の出入りを二十四時間「厳密に」監視することが謳われている。
3)シェルター設置に当たっては、長居公園内のテント撤去が前提となっている。大阪市民生局は「強制撤去も視野に入れる」旨明言し、新たなテント建設を含めて実力で阻止する姿勢を明らかにしている。
4)長居公園に住む野宿者に対しては、建設計画発覚以来一言の相談もなく、かつ、長居公園内の野宿者の九〇%以上がシェルター建設に反対し、入所を拒否している。

 そして、昨年以降の政府の野宿者問題対応、そして最近の地方自治体の動き、を大きな流れとして併せ見るとき、長居公園問題の持つ重要性と深刻さが浮かび上がってくる。
1)九八年二月、新宿駅西口での火災を契機に、それまで東京都の(まだこの段階で国は動き出していない)自立支援センター構想に反対していた「新宿連絡会」が百八十度の方針転換をし、センター設置を求める立場に回った。それは、近代日本の貧民政策においてほとんど不可分のものとしてあった「収容」と「排除」を切り離すことに東京都が合意したからである。その後二年間、東京を中心に進められてきた自立支援センター早期設置闘争は、その「分離」の上に初めて成り立つものだった。長居公園問題は、東京での取組みが形成してきた流れを、日本最大の野宿者の街・大阪で、もう一度大きく逆流させようとするものである。
2)一昨年以来、政府は厚生省などの関係省庁と新宿区や大阪市といった地方自治体で「ホームレス問題連絡会議」を設置し、昨年五月に中間報告を提出した。そこでは、野宿者を三つのカテゴリーに分ける「三分類」が提唱された。三分類とは、簡単に言えば、定職に就ける者には協力しましょう(住民票を置いて仕事探しのできる「自立支援センター」として現在具体化しているものを国として追認し、主要大都市で建設)、要保護者には生活保護をかけましょう、しかし、両方にあてはまらない者は「社会生活を拒否する者」として排除しましょう、というものだ。
 日本の野宿者の大半は、高齢であることを理由に仕事から排除され、そしてまた十分に高齢でないことを理由に(そこには何の法的根拠もない!)生活保護行政からも排除されて来た者たちである。野宿者はこれまで行政が自分たちに何をしてきたか/何をしてこなかったか、骨身に沁みて分かっている/分からされている。その反省や運用改善の努力が一切ないところで、形だけ整合性を保った三分類を突きつけられても、それを受容しろと言う方が無理と言う他ない。にもかかわらず、長居公園問題は「シェルターか(シェルターは自立支援センターの前段階と位置付けられている)、排除か」という形でこの中間報告を最も露骨になぞってきた。とすれば、長居公園問題が「東京と大阪の違い」などといったものとは全く違ったレベルの「意味」を孕んでいることは明らかである。
3)現に東京でも、自立支援センターの建設を目前に控えた台東区において、地元住民が「センター設置と平行して、上野公園内のブルーテントを段階的に撤去する方策を立てる」という項目を含む要望書を東京都知事と台東区長に提出し、それを受けて三者の間でセンター「近隣の公園等のホームレスに対しては、関係機関と連携をとり実行ある対策を進め」云々といった「覚書」が取り交わされている(七月二十五日台東区民新聞による)。

*おわりに


 長居公園問題の結末は、九六年一月二十四日の新宿西口強制撤去以来の全国的な波及力を持つものと思われる。八月の北九州市市庁舎東側広場の撤去問題、九月の浜松市田町駐輪場の撤去問題、そして大阪市長居公園問題。それぞれの自治体の行動は、野宿者が各地で急増し国が野宿者問題に乗り出すという大きな枠組の中での、それぞれの地方自治体の今後の姿勢を強く示唆している。様々な装いをまといつつ、撤去の嵐が近づいてきているのだ。野宿者および野宿者運動の全国的なネットワークがそれにどこまで抗し切れるか、その力量がいよいよもって問われている。

*補足)


 この原稿を書き上げてから印刷に至る間にも、事態は様々に展開している。長居公園では、九月二十六日と十月五日に野宿者らに対する「現地説明会」が開催された。第一回目では、市側が「実態調査や個別面接を実施し、排除を目的とした野宿者対策は行わない」と約束したが、その同じ時刻に磯村隆文大阪市長と太田房江大阪府長が会談を行い、その後の記者会見で磯村市長が「法的措置をとってでも(施設に)入ってもらうというぐらいの決意がないと解決しない」と述べる(九月二十七日毎日新聞より)、という「二枚舌」を駆使した。より一層の緊張感をもって臨まれた第二回目は、必然的に紛糾。長居公園仲間の会を中心とした野宿者らの強い追及に対し、「大阪市野宿生活者対策推進本部」は「(シェルターへの)入所を拒否したからといって行政代執行の手法をとることはしない。あくまでも粘り強く入所を勧め、説得し、皆さんとも一緒に対策を考えていきたい」と、役所現場サイドの責任部署として法的措置をとらないことを明言した。仲間が闘うとき、行政は譲歩する。
 しかし、磯村発言は依然として公式に撤回されておらず、安堵するにはほど遠い状況である。今後のご注目を乞う。

 


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