新宿の「新たなる流れ」

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いのけん通信読者の皆さん,お元気ですか? 1997 年も後 1ヵ月.新宿でも 11 月 30 日 (日曜日) の炊き出し集会において,「一人の仲間の野垂れ死にも許 さない」97-98 越冬闘争突入宣言が発せられます. 今は昔,96 年の越冬突入時も同じスローガンを掲げました.しかし,11 月は じめから多くの仲間が野垂れ死にを強いられ,残った者は逝ってしまった仲間 の「無念」を抱きながらの越冬でした. 私らは厳しい現状にも諦めることなく,今回の越冬こそは仲間らみんなの力を 合わせて,みんなで春を迎えるために努力していきます.

話は変わりますが,今年も新宿連絡会は仲間のアツイつながりと皆さんのあた たかい支援を武器に,様々な闘いを続けてきました. そしてついにというか,漸くというか,東京都福祉局は私ら野宿の仲間の前で, 「暫定的自立支援事業」の説明会を実施しました. 7 月 30 日,西口地下広場で野宿を余儀なくされている仲間らが要求した,北 新宿問題の説明会を連絡もなしにボイコットし,8 月 25 日には何の説明も無 しにいきなり「暫定的自立支援事業」の街頭相談を実施するといいながら,当 日事業内容の説明を求めて詰め寄る仲間らにパニックに陥り,あわてて「中止 します」と捨てぜりふを残して逃げ去った,あの福祉局がです.

10 月 13 日 (月),たったの 30 分間とはいえ福祉局は 50 人の仲間らの前で 事業内容を説明し,仲間らの質問に対して誠実(?) に答えました.そして福祉 局と仲間らの間で以下のことが確認されました.

  1. 西口地下広場の強制排除は行なわない.
  2. 就職活動の便宜のため住民票を施設におけるようにする.
  3. 高齢などで就職先が見つからない人を路上に戻すことはせず,生活保 護を適用すること.
  4. 問題の多い施設の待遇改善の指導をすること.

短いながらも野宿の仲間らの「声」が,行政の「対話拒否」の姿勢を転換させ た歴史的な瞬間でした.

引き続いて街頭相談が行なわれ,用意された 25 人の枠に対して,説明会の内 容に納得した 16 人の仲間らが施設に入所しました(電話相談で2人,計18人). やはり裏切られ続けてきた仲間らの大半は,今度の事業が約束どおり実施され, 一定の成果がでてから考えようという慎重な姿勢です.

連絡会としては施設に入所した仲間らとのつながりを絶やさないために,週1 回施設に赴き仲間らの感想や不満の声を直接聞き取りに行っています.

施設の仲間らの話では,施設の待遇は少しは改善されたものの,福祉局と施設 との間の連絡調整に齟齬があり,それが入所者に皺寄せされている面もあるこ とがわかりました.

例えば,就職活動で公共職業安定所に行き,当日面接というような際の交通費 を施設側が仮払いする取り決めなのに,施設が仮払いしなかったり,福祉局か らの連絡事項を施設が入所者に伝言しなかったりということです.

私らはこれらの声を福祉局に伝え,直接入所者から不満の声を聞くように要求 しました.これに対して,福祉局の管理職は施設に赴き入所者の意見を聞く機 会を設け,入所している仲間らも堂々と意見を述べて改善の約束を取り付ける というふうに,双方の対話もそれなりに進捗しています.

ところが入所した仲間の中には病気を持っている仲間もおり,病院にいくため に新宿区の福祉事務所で生活保護の医療扶助を申請しに来たところ,相談員か ら「あそこは仕事を探すための施設だろう?なんでおまえが入っているんだ?」 などと罵られ,医療扶助の手続きは取れたものの精神的な苦痛を受けたという ことが起きました. そして,私らも当日福祉行動で福祉事務所に来ていたのにもかかわらず,たと え野宿の仲間の申請の手伝いに追われていたとはいえ,その場で対応が取れな かったという大きな失敗を犯してしまいました. 私らは自らの行動について猛省し,施設の入所者の申請についても手伝うこと を確認しました.

しかしそれ以上に重大な問題があります. 私らと福祉局との間では,通院加療が必要な施設の仲間については,医療扶助 で通院しながら就職活動を行なうことで話がついており,新宿区にも話が通っ ているということでした. ところが福祉局に問い合わせたところ,東京都と新宿区の間に亀裂が生じてお り,医療扶助の話どころか就職できなかった仲間の生活保護についても了解が 得られていないということがわかりました. 新宿区福祉事務所の今野課長に問いただすと,「生活保護の決定の条件は従来 通り.別の扱いになんかしないよ」と言い放ちました.課長が言った「従来通 り」とは 65 才以上の高齢者か,医療機関で就労不可の病状報告が出されたと きだけということです.この条件には法的な根拠は全くなく,数多い申請者を 機械的に処理し,相談窓口の効率を上げるだけのものとしか評価できません.

名古屋の「林訴訟」においても,結果は正反対とはいえ一審・二審ともに「稼 働能力の有無」だけでなく,「稼働能力を活用する場の有無」も考慮して保護 開始の決定をすべきであるという点では,一致しています. 現在の公共職業安定所における求人状況においても,55 才以上になると平均 で 0.3 倍以下です. このような過酷な状況化で 1〜2ヵ月という期間で就職先を見つけることがで きる仲間は,余程の幸運に恵まれた極く少数の仲間と思われます. 生活保護を受給しながら更生施設で就職活動を続けている仲間らでも,もっと 長い期間を必要としています. 私らは法的な面から見ても,現在の雇用環境の厳しさの面から見ても,新宿福 祉は生活保護申請者に対してより柔軟な対応を取るのが,地方自治体職員とし ての本来のあるべき姿であると思います.

また都の福祉局サイドからは,新宿区は都区検討会や特別区長会での合意事項 である都区一体の対策推進であるべき「路上生活者対策」を,4 月以降の北新 宿問題以降都の単独事業という形で独断専行したことについて未だに不満を持っ ており,今回の「暫定的自立支援事業」についても局外者の立場を取っており, 協力の取り付けが不調であるとの話もあります.

これがもし本当ならば,たまったものではありません.自治体間が険悪な情勢 だからと言って,私らに皺寄せするというのではガキのレベルとしか言い様が ありません.複雑に絡み合ってこんがらがっている行政内部で,足の引っ張り 会いであろうが中傷合戦であろうが勝手にしてくれですが,一般人に不利益を 押しつけるのなら「税金泥棒」と罵られても言い訳はできないでしょう.

私らはこれからも施設の仲間と協力しあって闘うと共に,これからの厳しい冬 を一人の死者も出さずに乗り切り,明るい春をみんな出迎えようと思います.

今後もご理解・ご支援・ご協力をよろしくお願いします.


いのけん通信第 17 号(Dec. 4, 1997)
(c) 1997 池田 大介(新宿連絡会),渋谷・原宿 生命と権利をかちとる会
inoken@jca.ax.apc.org

$Date: 1997/12/10 12:52:24 $ 更新

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