収容攻撃をはね返した李さん---判決とこれから

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中国大使館前で逮捕され,公務執 行妨害で起訴された李松さんに,九月十六日,懲役一年・執行猶予三年の 有罪判決が出された.事件の原因となった警察の不当な取り締まり,手続きを 無視した暴力的な逮捕行為を訴えてきた李松さんの主張はほぼ全面的に退けら れてしまったのだが,たった一つ素晴らしかったのは,李さん自身がこの判決 を獄の外で迎えられたということだ.

六月二五日の起訴の直後から弁護側が出してきた保釈願いが,第一回公判後の 八月四日に許可された.翌五日には保釈されたが,そのまま一旦は北区にある 東京入管第二庁舎へ収容.しかし八日には仮放免されて,二ヵ月ぶりのお帰り なさい!となった.起訴された外国人がオーバーステイである場合,保釈が認 められる可能性は限りなくゼロに近いと言われる.入管としても,たとえ難民 申請者であって逃亡など考えられない場合でも,資格の確定していない人を通 常仮放免させていないので,仮に保釈されても入管収容は免れないのではと思 われていた.李さんはこの二つの壁を破った.ずっと明るさを失わなかった李 さんの強さと,弁護士さんたちの並々ならぬ尽力と,幅広い友人たちの思いの 強さがあってできたことだろう.とりわけ,震災後のボランティアとしての彼 を知る神戸の人たちからのたくさんの嘆願書,申し入れ書や裁判での証言が大 きく状況を動かした.でも大切なのは,これを例外させることなく,前例とし て生かしていくことだろう.

それでも,このような微罪容疑で二ヵ月もの獄中生活を強いられた李さんには ご苦労様と,警察・検察にはひどい!と言いたい.警察の代用監獄,東京拘置 所,入管収容所と経験してきた李さんの詳しい体験談は,あらためてたっぷり と聞かせてもらって,この通信にもぜひ載せたいものである.

判決について李さんは,「考えられる中で一番重い判決で,一瞬悔しかった. 自分の国(中国)が民主的になることが私の目的なのだから,裁判よりそちら に時間を使いたいので,これ以上争わない(控訴しない)ことにした.」と気 持ちを述べた.

李さんには,難民としての認定を得るという目の前の大きなハードルがある. これはほかに二十二人の方が同時に申請している,彼らにとっての大きな運動で もある.

また,同じ行動の際逮捕された林国輝さんは,不起訴とされて,六月二五日に 釈放されているが,逮捕のときにひどい暴行を受けている.取り調べでも,暴 行や恐喝などの不当な人権侵害を受けた.これらの精神的,肉体的被害に対す る損害賠償請求訴訟を現在準備中である.

この事件をむしろこれから生かしていくのは,鏡の反射光のように,日本社会 に生きる多くの人にインパクトを与え,疑問を投げかけていく契機として.そ んな方向性でこれからも関わっていきたい.


いのけん通信第 16 号(Sep. 27, 1997)
(c) 1997 渡辺 舞子,渋谷・原宿 生命と権利をかちとる会
inoken@jca.ax.apc.org

$Date: 1997/10/08 04:29:10 $ 更新

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