渋谷で炊き出し ・ パトロールを行なうということ

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この間,渋谷で野宿する人々をめぐる環境は大きく変化した.具体的に 何が起こったかは別記事にゆずるとして,炊き出し・パトロールに関わっ てきた立場からいくつか思うところを述べてみたい.

と言っても,新しい命題がある訳ではないのだ.以前からずっと引っか かっていて,そして答の出ていない命題 ---いのけんは何を目指してきた のか,何を為すことができた・できなかったのか,これからどうするの か--- が今も横たわっている.

何度かここにも書いてきたとおり,僕らはずっと (隔週ではあるが), 渋谷での炊き出し・パトロールを続けてきた.そこに暮らす人々とも二, 三度続けて出会えないと心配する程の顔見知りになった.

さて僕らはその段階からなかなか抜け出せないでいる.いや抜け出そう にも,僕らはいったいどんな関係を目指しているのだろうか.いつも目の 前に「炊き出し・パトロール」という行動予定があり,それをこなすだけ になって,その意味や本質をややもすると置き去りにしてはこなかっただ ろうか.

「その段階」をもう一度整理してみよう.なるほど僕らは顔見知りに なった.お互いに顔を覚え,「元気だった?」と声を掛け合う程になった. ときどきは「最近体の具合がよくなくって」とか「宮下で追い出しがある らしいよ」とかの相談や情報を話すくらいの関係にはなった.しかし頼り にされているかというと,そうでもない.センパイたちも僕らの力量を 知っており,まあ信用はできるけれども自分たちをとりまく状況を大きく 変えるようなことができる奴らではないと思っているようだ.ここまでの 関係を作ってきたことだけでも,それなりに評価することもできるだろう が,それでなんなのと言われればそのとおりなのである.

では僕らは何を目指してきたのか?いのけんは「個の集まり」とでも 言うか,全体の意志統一など行なわないところだから,参加する個々人に よってそれは違う.この記事に書いていることは僕個人の思いであること に注意していただきたい.

ひとつは,「仲間」_人と人が出会う場の創出を目指しているはずだ. 越年・越冬まつりを行なうのも,なるべくセンパイたち同士が出会い,力 を出し合える場面を作ろうとしたからである.

やはりきっかけが必要なのだと思う.ほっておいても他人に積極的に関 わろうという人は多くはないのだから,僕らこそがそのきっかけになるべき ではないだろうか.直接関係のなかったセンパイたち同士が僕らを媒介に して知り合い,そのうち僕ら抜きでも助け合って共に生きていく関係に発展す る,それが僕らの望むところだろう.越年まつりなど瞬間だけをみればう まくいっているかのようにも思えるが,長期的にみるとそうとも言えな い.去年の夏頃,炊き出しを定点で行ない,センパイたちに集まってもら おうと試みたが,数回行なった後に僕ら支援にかかる負担が大きすぎて尻 すぼみ的に元の形態に戻ってしまった.

みんなが集まれる場を!という思いは強いのだが,それを実現する工夫 が不足しているのだろうか.まず僕ら支援の態勢が整っていないという 感は拭えない.数が不足している.新しくいのけんに興味を持って訪れる 人を受ける態勢も整っていないから,ますます苦しくなるという悪循環に陥って いる.

これは,渋谷の炊き出しに当事者である渋谷のセンパイたちが参加する ということの実現をも阻んでいる.「手伝いたいと思ってるんだけどねえ」 と言ってくれるセンパイがいるにも関わらず,だ.「与える-与えられる」 関係からの脱却を目指すと言いながらも,それを受けとめる態勢がとれな いのだ.

もうひとつ僕らの目指すものは,センパイたちをとりまく状況を変える ことだ.これには二つあって,直接センパイたちが接する福祉など行政の 態度を変えさせたい,もうひとつは「ホームレス」を差別的な目で見るよ うな社会構造そのものをなんとか変えたいということだ.宮下や 246 号 での追い出しの件で対福祉交渉などに取り組み,渋谷のセンパイたちも参 加して,それなりの成果を挙げている.これを今後どう定着させていくか が課題となるだろう.

紙面の都合でこれ以上書けなくなってしまったが,いずれにせよ,支援 の人数や金や時間の制約の中でできることを模索していくことになる.何 やら悲観的な話になってしまったが,もちろんこれで終りではなくて,ま た明日からも試行錯誤しながら何かを変えていくように,渋谷に関わって いきたいと思う.


いのけん通信第 13 号(Nov. 23, 1996)
(c) 1996 町田ナツオ,渋谷・原宿 生命と権利をかちとる会
inoken@jca.ax.apc.org

$Date: 1997/08/12 14:52:27 $ 更新

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