ヨーロッパのホームレス支援団体を訪ねて

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2 月 5 日より 3 週間,大学の春季休業を利用して極寒のヨーロッパ旅行にでかけた. 特にこれといった目的があるわけではなかったが,できればフランスかイギリスで増 え続けるホームレス支援をしている NGO をまわってみようかという気持ちがあった. 事前にインターネットを利用して イギリス国内の NGO の住所は入手しておいた.

フランスで

パリはいたるところに地下鉄がある.その入口 (アルファベットで METRO と書かれて いるのがそれである) の階段をおりた所のドア付近あるいは,プラットフォームのベ ンチで男性のホームレスの姿をよく見かけた.全体的に高齢者が多かったように思え るが,詳しいことはきちんとした統計がないのでよく分からない.女性の姿もちら ほら見かけた.私の片言のフランス語の能力では,彼,彼女らと直接的な交流はでき ず,現状況の把握はできなかった.この時期のフランスは本当に寒く,私は分厚いコ ートとセーターを着こんでいたが,吹き付ける風が氷のように冷たく,とても観光な んて気分になれなかったのだから,ホームレスのおかれている状況は言わずもがな であろう.

パリの街角を歩いている時に アムネスティーインターナショナル パリ支部を見つけ, そこでホームレスの支援をしている団体の名前と住所を教えてもらうことが できた.その日は,運が悪いことに,次の目的地への出発日前日の夕方 で,大急ぎでそこの事務所に行ってみたがすでに閉まっていた.もしフラン スに行くことがあ り,ホームレスの支援団体を訪ねてみたい人がいれば,下記の所に行ってみればいい かもしれない (私自身,すでに説明したようにそこに実際行っていないので,どう いう内容の支援を行っているかなど詳しいことは全く分からない).アムネスティー インターナショナルパリ支部のスタッフによれば,そこはフランスで非常に有 名な NGO で,規模も大きいとのことである.

SECOORS POPOLAIRE FRANCAIS
     7 RUE FRAISSART PARIS 3
     TEL   42 78 50 48 
地下鉄 REPUBRIQUE あるいは FILLES DU CALVAISE 下車徒歩 5 分位である. また,フランスにはホームレスを対象とした食堂があちこちにあるというのを,フ ランス人の友人から聞いたことがある.

イギリスのホームレス支援団体について

フランスを出てからルクセンブルグ,ベルギー経由でドーバー海峡を船で越え,イギ リスに入国した.入国審査は思っていた以上に厳しく,さまざまな質問をされた. いわゆる「不法就労」目的の外国人労働者の入国を取り締まるためらしい.日本での 職業から大学での専攻,授業の開始日などパーソナルな質問をされた.日本に入国す る外国人もきっと同じような目にあっているのだろう.日本を出発する前にイギリ スのホームレス支援団体の住所を調べておいたので地図を見ればすぐに分かるだろう と思っていたが,ロンドンに初めて行った私には地図から場所を割り出すのは予想 以上に難しかった.ちょうど困っているところに,あるきっかけがもとになって「シェ ルター」という名の支援団体を訪ねることになった.

イギリスでは,ホームレスが The Big Issue (ビッグ・イッシュウ) という週刊 誌を売る姿をよく目にする.私がロンドンの繁華街を歩いている時に,一人の男性が その雑誌を差し出し,「いらないか」と声をかけてきた.まだ読んだことがなかった のでとりあえず買ってみると,彼が私の手に感謝のキスをしたあと,親しげににっ こりと笑いかけてきた.彼にホームレス支援団体について質問すると,彼は「たぶん 知っていると思う.ついてこい」といって,ホームレスのためのシェルターにつれて いってくれた.ちなみに The Big Issue は ホームレスの手によって 70 ペンス (約 120 円) で売られ, そのうち 40 ペンスは彼,彼女らの収入となる.ホームレス関係の記事 以外に娯楽要素を含むバラエティーにとんだものが多く掲載されている.

そのシェルターの受け付けで働いていた女性が,「ここには資料はないが,あなたの 知りたいことを教えてくれそうなところを紹介してあげる」といって上記の支援団体 「シェルター」の行き方を教えてくれた.

「いのけん」の事務所のようなところを想像していた私は,翌朝そこを訪ねてみて, あまりの規模の大きさにびっくりした.9 階建てくらいのビル全体が本部となって いる.その中で各セクションが分かれている.私が受け付けを通して案内されたのは 出版セクションだった.担当のスタッフに「資料が欲しい」旨を伝えると,目録を見 せてくれた.この団体は,毎年ホームレスに関するさまざまな資料を出版している. 膨大な量の出版物の中から自分の欲しい資料をさがすだけでも相当の時間を要する. 「シェルター」が発行している年間報告によると,イギリスでは 18から 25 歳まで の若者のホームレスが増えている.また高齢者のホームレスも増加している.中に は家族ごと家を失い,B & B (Bed and Breakfast) と呼ばれる イギリスの民宿を家族で 転々とすることもあるという.最近ではこの種の宿が高くなリ,またその数も減 少してきている.

この団体はホームレスに対してシェルターを提供するのを主な活動としている.抱 えているスタッフは本部の事務所だけで約 80 人.各地にある支部をあわせて 300 人くらいが働いているそうだ.規模が大きいだけあって動いている資金も中小企 業並みである.年間の活動資金だけで,一つの支部で 10 万ポンド (1700 万 円) 以上になるところもある.

「シェルター」で購入した資料は,以下の通りである.

  1. The end of bed and breakfast
  2. Who's Homeless Now
  3. Urgent Need For Homes
  4. Homelessness What's the problem
これらの資料には現代イギリスのホームレス事情およびイギリス政府の住宅問題に関 する政策とそれらの問題点などが掲載されている.活動内容およびイギリスのホーム レスの直面している問題等に興味のある人は,いのけんの方までぜひお問い合わ せ下さい.

今回は,いずれの都市の滞在も一週間と短かったため,実際ホームレスの人たちが 利用しているシェルターの運営などの話を直接,スタッフから聞くことはできなかっ たのが残念である.イギリスで入手した資料は,日本で資料として利用できる よう,なるべく早く翻訳等して発表したいと思う.


いのけん通信第 11 号(Mar. 30, 1996)
(c) 1996 清末愛砂,渋谷・原宿 生命と権利をかちとる会
inoken@jca.ax.apc.org

$Date: 1997/08/12 14:52:05 $ 更新

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