都の紹介した建設業者(われわれが把握している19業者)のなかで「雇用保険」 「健康保険」「厚生保険」「年金」「退職金」等のある業者は1社たりともな い.何年,何十年働こうが退職金もなく,失業保険もなく,病気になっても医 者にもかかれない.年金など別世界のこと.これがまかり通っている.建設業 界は自浄努力もせず,労働行政は法的罰則規定がないのをいいことに何ひとつ 指導もせず,野放しにしている.今回の都の紹介業者もご多分にもれず無保険 の違反業者が大手をふるっており,無権利労働がつらぬかれている.
そもそも今回の求人はすべて,常用労働者として雇用するのか日雇・臨時労働 者として雇用するのか曖昧にしている.無保険では「常用」とは口が裂けても 言えないだろうし,日雇であれば日雇雇用保険が前提となるため,雇用形態に 言及できなかったというのが実情だろう.
そこからは「就職」したが「就労」すら保障されない無権利状態がはびこる. 基本給の提示すらせず,日額しか提示されないことがその実情を示す.
野宿労働者が急増する原因は,なによりも労働実態---労働条件と,労働行政 による労務政策にある.
労働行政(職安)では,バブル崩壊以降,年齢制限求人が当たり前となっている. 50歳あるいは55歳以下という制限を行なっている.労働行政が50歳以上の中高 年労働者から就労の機会を奪っている.
1960年代から働いてきた労働者は,退職金も,失業保険ももらえず簡単に放り 出され,就労の機会を奪われ,野宿に追い込まれる.
65歳以上,あるいは病気の11名は,野宿に追いやらず生活保護を適用して施設 に入れると発表された.しかし考えてみてほしいのは,なぜ65歳以上になって, あるいは病気になって野宿していたのかということである.
そもそも生活保護法には年齢 制限はない.生活に困窮している者はおしなべて適用できるし,それが福祉行 政の社会的義務だ.だが23区内の福祉事務所は,厚生省や都の福祉局の指導の もとで「居宅保護は65歳以上しか適用しない」という窓口指導を行なっている. 労働から排除される50歳以上で,福祉行政から排除される65歳以下の労働者は 野宿せざるを得なくなる.
福祉行政は73年オイルショック以降,生活保護を適用せず,安上がりな「法外 保護」を増やし続けている.
法外保護とは,法律に基づかない「恩恵」であり,短期間の施設収容と,乾パ ン,カップ麺,食パンなどの「給食」が中心の施策である.生活保護が適用さ れず,隔離・収容を短期間適用され,また野宿に叩き出される.これが都の言 う「福祉」の実態に他ならない.
こうして,この越冬期,二十数名が新宿で行路病死=野垂れ死にを強いられた.
65歳を超える高齢者6名,病気の者5名,こうした人々が野宿していた現実を恥 じることもなく,発表する都の厚顔無恥は許し難い.
1月24日の叩き出しは,野宿労働者の排除と野垂れ死にを強権的におし進める 都の姿勢をあらわにした.そして芝浦収容所開設も,その実態は大量に野宿労 働者を作り出す労働行政・福祉行政の本質を示すものである.
1996年3月25日