さる 12 月 8 日,東京都は新宿西口地下道への「動く歩道」設置に関する 計画を初めて公式に発表しました.明らかにされた計画は (1) 工事着工は 1 月中旬,(2) 路上生活者の臨時保護施設を設置する, (3) 日本宝くじ協会からの寄付金ではなく独自財政で行う,というものでした.
私たちは,東京都が公表したこの計画に対し,深い憤りを持たざるを得ません. そして東京都に対し改めて抗議の声を挙げていきます.
問題の第一は, 計画決定に際し,工事着工に伴って不利益を被る当事者の声を 全く聞こうとしていない点です. 「港区芝浦に建設される施設に 200 人を収容する.ただし期間は 3 月中旬まで」 と,一方的に決められた対策に,当事者が納得し,立ち退きを了承するはずが ありません.
対策とは,対策を受ける側の具体的なニーズに基づいて実施されるのが 当たり前です.当事者の声も聞かず,勝手に決めた「対策」を押しつける, 東京都のこれまでの姿勢は全く変わっていないのです. それも冬の寒い中,最も厳しい時期に「工事をやるから施設に入れ!」では, 選択の余地すらない強制手段としか言い様がありません.
問題の第二は, 対策の中身です. わずか 2 ヶ月間,施設に入ったからと言って,仕事がなく住む場所がない 現実の問題を解決することはできません. 都は「入所中,健康相談や就労相談を行う」と,さもすばらしい対策で あるかのように宣伝しています. しかし,実施計画の主体に労働経済局が入っていない以上,就労の斡旋は 事実上不可能です.職安に行って仕事を探すくらいしか手立てはないのです.
なぜ仕事が見つからないのでしょうか.住所がないことと高齢者が多いことが 最大の原因です.住所が書け,仕事に通える,長期入所可能な施設の設置, 高齢者にもできる軽作業の求人開拓 --- これらは最低限の条件です. しかし 2 ヶ月の収容政策=その場しのぎの一時的な対策で, 春になったら後は自分でどうにかしろという代物では,お話にもなりません. 94 年 2 月 17 日の強制撤去事件がどれほどの社会的非難を浴びたか 忘れたわけではないでしょう. 東京都はまた同じことを繰り返そうとしているのです. 不利益を受ける当事者をカヤの外におき,頭から「対策」を押しつける. その目的は,新宿から野宿者を一掃することなのです.
さらに問題の第三は, 都の独自財政でまかなうという点です. 逼迫した都の赤字財政から,13 億ものムダ金を出す余裕があるのでしょうか. 野宿労働者の増大に何ひとつ対策を打ち出さなかった東京都が, その結果生みだされたダンボールハウスを撤去するために 10 億以上の 金を支出する. 都民の税金をこんなことの繰り返しに使っていいはずがありません.
私たちは今一度「動く歩道」に反対の意思を表明します. 一時しのぎの「対策」を断固拒否します. そして話し合いの場をつくることこそが問題解決の唯一の方法であることを 再度東京都につきつけます.
1995年12月10日