女子学生の就職難.バブル期に急成長した大東京商事は,面接に来た女子学生に セクハラ質問をして追い返してしまうので有名でした.怒った学生たちはマスコ ミに実態を暴露.ところが取材に来た記者に対し,大東京商事の青島社長はこう 言いました.--- 「最近の女子学生は独特な人生観と哲学をお持ちで,雇ってや ろうと言っても放っておいてくれと言うんだよ.」
いじめ問題で揺れる学校.A 君はクラスのみんなから.「くさい,くさい」と言 われ,いじめられていました.A 君は担任の青島先生に「何とかしてください」 と相談.ところがある日,青島先生は教室でみんなにこう言いました.--- 「A 君 にはみんなから『くさい』と苦情が出ている.A 君はみんなに嫌な思いをさせているのだから,責任を感じてほしい.」そう言って青島先生はみんなと一緒に A 君を 教室から追い出してしまいました.
こんな社長や教師がいたら,みんなあきれかえり,「とんでもない!」と言うに 違いありません.でも,こんなとんでもない人物が東京の一番エラい立場にいるの です.なぜこんな発言が許されてしまうのか? 理由は,彼が侮辱した人々が家を 持っていないから,しか考えられません.
10 月 20 日,青島東京都知事は記者会見の席で,100 人以上の「ホームレス」の 人々が暮らす新宿西口地下通路に「動く歩道」を作る意向を表明,その上で 「ホームレス」について,「あの方々は独特の人生観と哲学をお持ちで,職を 紹介しよう,仮の住まいを提供しよう,と言っても,放っておいてくれと言う」 「通行人に嫌な思いをさせていることに,それなりの責任を感じていただきたい」 等と述べました.この青島都知事の発言には,「ホームレス」の人々の実情に 少しでも触れたことのある人ならばすぐにおかしいと判る,重大な事実誤認や 一方的なレッテル貼り,この問題に対する悲しいまでの無理解が見られます.
この発言に対して,新宿に暮らしている「ホームレス」の人々が怒っている のは,当事者に話もしたことがないのに「独特の人生観...」と決めつける独善 ぶりもさることながら,なによりも,職や住まいに関して都知事が当事者の声を 全く無視し,その上,事実と異なる偏見を都の最高責任者が述べたからでした.
青島発言を聞くと,あたかも東京都が充分なホームレス対策をしているかのように 聞こえますが,実際には「ホームレス」の人々を対象に就労対策をしたことは 一度もありません.「仮の住まい」も,冬の間にひとり 2 週間だけプレハブに 収容するのを除けば何もしていません.その越冬施設も昨年度 2 名の病死者が 出て,施設のズサンさが問題になっています.
「ホームレス」の人々は,「放っておいてくれ」どころか,行政に対して「何とか してくれ」という声をずっと挙げ続けてきました.そうした当事者の生の声を 拒絶し続けてきたのは東京都の方です.
都知事は,自分が「(『ホームレス』が)通行人に嫌な思いをさせている」と 明言してしまったことの意味を理解しているのでしょうか.
この知事発言の 2 日前,大阪・道噸堀で「ホームレス」の男性が 3 人の 若者らに川に投げ込まれて殺されるという痛ましい事件が起こっています. また新宿でも,ダンボールハウスに一部の通行人が空き缶や火のついたタバコを 投げ入れるという嫌がらせが日常的に起こっています.都知事の発言は,こうした 事件の背景にある,市民社会の「ホームレス観」---「あいつらは好きでやっていて, 通行人に迷惑をかけている」という偏見を助長する危険なものです.
現在,路上で生活している人は都内だけでも 3300 人 (新宿周辺で約 600 人, 渋谷に約 70 人など) いると言われています.その多くが 50, 60 代の高齢者 です.構造的な不況の中,職と家を奪われ,路上での生活に追い込まれていく 人の数は年々増加しています.
私たちは,東京都をはじめとする行政に,追い出しではなく,「ホームレス」の 人々を援護するために必要な施策を求めるとともに,家がないからといって 差別されることのない,殺されることのない社会を作っていきたいと考えています.
これから寒い季節がやってきます.ぜひ皆さんに,冷たい路上からの 切実な声を受け止めていただきたいと思います.
冬は,路上で暮らす人々にとって最も厳しい季節. 今いったい何が問題で,何が求められているのか?