渋谷区役所 路上対策検討委員会 関係各位
私たち渋谷・原宿生命と権利をかちとる会 (いのけん) は，主に渋谷・原宿に おいて野宿生活を余儀なくされた人たち (行政のいうところの「路上生活者」． 以下，野宿労働者という) に対して炊き出しやパトロール (夜回り) などの支 援活動を行なっている団体です．
私たちは，さる 9 月 25 日から渋谷区役所及び渋谷警察署によってなされた， 宮下公園入口 JR ガード下 (以下，ガード下という) に居住する野宿労働者の 強制撤去に対して抗議するとともに，渋谷区管内に居住するすべての野宿労働 者の生活保障を求め，以下申し入れます．
今回の撤去は，ガード下の歩道部分の「道路補修工事」着工に際し，そこに居 住する野宿労働者の住居，生活用品，荷物などを「道路不法占有物件」と して 9 月 17 日から 24 日までの間に自主撤去せよとの「警告」より始まり ました．いかに「事前」に通告したといっても，当事者の納得がいく形での話 し合いや合意がないままの撤去は，強制撤去というほかありません．ガード下 においては数人の野宿労働者が居住していましたが，彼らは皆なんらかの形で 生活費を稼ぎ，互いに助け合いながら生きてきました．行政によるこのような 追い出し行為は彼らの生活の破壊であると同時に，また路上に放り出すことによってさ らに生活状態を悪化させることになります．今回の撤去は，野宿労働者の唯一 の窓口である福祉部生活保護課 (福祉事務所．以下，福祉という) において， 追い出された人たちの生活や医療などなんらの対策も講じられないまま，土木部に よってなされました．野宿労働者に対する総合的な施策ももたず，住民の苦情 という名の下に，ただ追い出せばよいという渋谷区役所のやり方に憤りを禁じ えません，季節的にも寒くなっていく時期になされた，かかる一方的な「施策」 に強く抗議します．
1 月 24 日，新宿駅西口において東京都 (以下，都という) によりなされた野 宿労働者の強制排除・撤去は，そもそも都が当事者の意見になんら耳をかさず， 彼/彼女らや支援団体が求めた話し合いを無視して強行されたものです．当然 のようにマスコミをはじめ地元新宿区役所からも非難の声が集中しました．行 政にとって最も必要なものは，撤去とか保護云々の前に，何よりも当事者であ る野宿労働者の意見を聞き，話し合いによって解決させていく姿勢にあると考 えます．渋谷区管内においても今回の撤去以前に，国道 246 号線 JR ガー ド下，営団地下鉄渋谷駅構内など野宿労働者に対する追い出しが連続してなさ れています．私たちは貴委員会に対して，都がなした愚を繰り返さないよう， 問題解決に向けた当事者や支援団体との話し合いを強く求めます．
また貴委員会においては，7 月に路上生活者対策都区検討会の「最終報告」 が出されたことを受けて，渋谷区管内の野宿労働者に対する具体的施策が「本 格的」に始動すると思われます．私たちは「報告」の根幹をなす，撤去や追い 出しを前提とした施策には反対です．貴委員会を構成する福祉は，前に述べた ように，野宿労働者にとって唯一の窓口であり，今後厳しい冬に向けて野宿労 働者の生活保障についての対応が迫られています．私たちは，福祉にかかりたく ても職員の横柄な態度やその後のフォローがなっていないなどの理由で福祉 に行きたくないという野宿労働者の声をよく耳にし，現に職員による罵詈雑言 を何回も目撃しています．数年前，ある福祉事務職員による秘密調査で，その 対応について渋谷福祉がワースト 1 だったという新聞報道がありましたが， その頃から一貫して変わっていません．相談員やケースワーカーなど野宿労働 者に窓口で直に接する職員の対応の改善を強く望むとともに，現在生活に困窮 している野宿労働者の生命と権利を，文字通り保護する福祉としての施策の実 行を求めます．
最後に，渋谷警察署による野宿労働者の身元調査について言及します．私たち が今回の撤去に際して野宿労働者に聞き込みをしたところ，数人から「4,5 人 の私服刑事に警察手帳を見せられ，『福祉が祝日に引出物を出すから身元を知り たい』と言われ，写真を撮られ，本籍や名前を聞かれた」という証言がありま した．これは警察当局による重大な人権侵害です．かつての「浮浪者」「労務者」 として野宿労働者を「犯罪予備軍」と称しての差別と偏見に満ちた治安対策が， 現在もなお引き継がれていることを如実に示しています．貴検討委員会として も，事実関係を調査し，渋谷警察署に対して厳重に抗議することを強く求めま す．
1996 年 9 月 30 日
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