「入管収容所の中で職員にリンチを受け,重傷を負った」---ひとりのイラン 人が国家賠償の訴えをおこしてから 3 年.ようやく司法の場に一方の当事者 たる入管の職員が登場する機会がやってきました.
事の発端は,1993 年 5 月,東京入管第2庁舎(北区十条)において,収容され ている外国人への職員の乱暴な対応に対して,外国人の間から不満の声が起こっ たことに始まります.正当な批判の声を入管側が強権で押さえ込もうとしたこ とから,2 日連続で「騒擾」が発生.多数の職員が動員されて,これを「制圧」 した際,モハマット・メフディ・アムジャディ・コラサニさん(イラン国籍)が 「首謀者」の一人として職員から殴る蹴るのリンチを受けました.「隔離室」 に連行されたアムジャディさんは第一腰椎圧迫骨折などの重傷を負ったにもか かわらず,半月もの間,後ろ手錠をされた状態で隔離収容されました.その間, まったく医療を受けさせてもらわなかったため,アムジャディさんは現在でも 後遺症に苦しんでいます.
アムジャディさんは 94 年 10 月,国家賠償を求めて提訴しましたが,その直 後に本国に強制送還され,現在,裁判は原告不在のまま進行しています.裁判 の中で国側は「騒擾を制圧した際に有形力を行使した」ことは認めたものの, アムジャディさんの怪我については,「93 年 8 月に自分でトイレで転んで負 傷した」というストーリーをでっち上げ,責任を認めようとはしていません.
提訴から 3 年経ったものの,これまでの審理では外国人であるアムジャディ さんの原告資格をめぐる議論(注)に時間が費やされ,実 質的な審理はまだ入り口に入ったばかりと言えます.そしてようやく次回の口 頭弁論において,事件当日,現場にいた入管職員の出廷が実現しました.
密室での人権侵害は果たして裁かれるのか.それはどれだけ多くの市民が権力 に対して監視の目を向けるかにかかってきます.是非,多くの皆さんにこの裁 判を傍聴していただき,外国人への差別・暴力を許さない姿勢を入管に,そし て裁判所に示していきたいと思います.ご協力をお願いいたします.
(注) 国家賠償法には,外国人が訴えを起こす場合に 「相互保証主義」(第 6 条)の規定 がある.つまりイラン人が日本国を訴える場合,同じようにイラン国の公務員 から日本人の個人が損害を被ったと仮定して,その場合,その人がイラン国に 国家賠償を求めることができるかどうかが問題になる.できるのならアムジャ ディさんの請求権も認められ,できない場合,アムジャディさんは原告資格を 失う.しかしこれは結局,「法整備の整っていない国の国民の人権は保障され ない」ということになり,基本的人権の普遍性を損なう,時代錯誤の規定であ る(国連人権規約にも違反).アムジャディさんの国賠裁判は,国側がこの問題 にこだわったために進行が遅れてしまったが,イランの法律の現状が不明確な ため,現時点では,この問題を棚上げしたうえで実質審理に入ることになった.
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